有価証券報告書-第103期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

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2020/06/26 16:16
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対処すべき課題

ソニーのマネジメントが認識している経営課題とそれに対処するための取り組みは以下のとおりです。文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものです。
世界経済は米中貿易摩擦の激化や英国の欧州連合離脱(以下「ブレグジット」)などの地政学的な緊張感の高まりから、2019年度の上半期にかけて低迷が続いていました。下半期には、米中貿易交渉に関する好材料が断続的に見られたことや、合意なきブレグジットに対する懸念の低下などにより、世界経済の減速が底を打ちつつあるという期待感が高まりました。しかし、2020年の年明け以降、世界各地での新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大の影響により状況は一変し、世界経済は2019年度末にかけて急速に減速しました。足元では、依然として新型コロナウイルス感染拡大の収束を見通すことが困難であることや、米中貿易摩擦が再燃していることなどにより、今後の世界経済に関する不確実性が高まっています。
ソニーは、グローバルに多様な事業を展開しており、これらの世界経済の状況の変化に加えて、競合他社との価格競争にともなう価格低下圧力の高まり、一部の主要な製品やサービスにおける市場の縮小及び商品サイクルの短期化といった経営環境の変化は、ソニーの各分野の事業に影響を及ぼしています。(分野別の経営環境の詳細については、「第2 事業の状況 2事業等のリスク」及び「第2 事業の状況 3経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」をご参照ください。)
このような経営環境の下、ソニーは、長期視点の経営を重視し、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というソニーのPurpose(存在意義)と「人に近づく」という経営の方向性にもとづき、各事業の進化と成長に加え、One Sonyの動きを加速することにより、グループ全体の企業価値向上のための取り組みを続けてきました。(分野別の2019年度の実績については、「第2 事業の状況 3経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」もあわせてご参照ください。)
事業ポートフォリオ
ソニーの事業ポートフォリオは、「人」を軸に以下の事業により構成されています。
・ 「人の心を動かす」コンテンツ事業及びDirect-to-Consumer(以下「DTC」)事業
クリエイターと共に感動コンテンツを創り、それをユーザーに届けるコンテンツ事業及びDTC事業は、「人の心を動かす」ことを目的としています。
・ 「人と人を繋ぐ」ブランデッドハードウェア事業及びCMOSイメージセンサー事業
ブランデッドハードウェア事業は、クリエイターが感動コンテンツを制作するために必要な機器やユーザーが感動コンテンツを楽しむために欠かせない機器を提供しています。また、CMOSイメージセンサー事業は、世界中の人々が感動を共有するために利用しているスマートフォンのキーデバイスを提供しています。これらの事業は、「人と人を繋ぐ」ことを目的としています。
・ 「人を支える」車載センシング事業、メディカル事業及び金融事業
自動運転のためのイメージング・センシング技術を用いて、人の「安全」を支え、モビリティの未来に貢献する車載センシング事業、イメージングやメカトロニクスなどの技術を活用して人の「健康」に貢献するメディカル事業、及び生命保険、損害保険、銀行などの金融サービスを通じて人の生活と経済的な「安心」に貢献する金融事業は、「人を支える」ことを目的としています。ソニーはこれらの事業をソニーのテクノロジーを活用した長期視点の成長事業と位置づけています。
グループ経営と各事業の進化の方向性
<グループ経営の強化施策>ソニーは、各事業の進化をリードし、事業ポートフォリオの多様性をさらなる強みとしていくため、以下のとおり、経営機構改革を実施します。
・ グループ本社「ソニーグループ株式会社」の発足(2021年4月1日付)
・ 2021年4月1日付で、当社の商号を「ソニーグループ株式会社」(英文表記:Sony Group Corporation)に変更します。
・ 現在、グループ本社機能とエレクトロニクス事業の本社間接機能の両方を有している当社の機能を分離・再定義し、当社は「ソニーグループ株式会社」として、グループ本社機能に特化した会社となります。
・ 「ソニーグループ株式会社」の主なミッションは、長期視点でのグループ全体の企業価値向上の観点から、(1)事業ポートフォリオ管理とそれにもとづくキャピタルアロケーション、(2)グループシナジーと事業インキュベーションによる価値創出、(3)イノベーションの基盤である人材と技術への投資を行うこととし、2021年4月に向けて、詳細な機能・組織・人員の設計を行っていきます。
・ なお、当該商号の変更及びそれにともなう定款の一部変更は、2020年6月26日に開催された当社の定時株主総会において承認されました。
・ エレクトロニクス事業(EP&S分野)による商号「ソニー株式会社」の継承(2021年4月1日付)
・ 「ソニーグループ株式会社」の発足にともない、2021年4月1日付で「ソニー株式会社」の商号は、ソニーグループの祖業であるエレクトロニクス事業(EP&S分野)を行う「ソニーエレクトロニクス株式会社」が継承します。
・ エレクトロニクス事業(EP&S分野)については、2020年4月1日付で同事業を束ねる中間持株会社「ソニーエレクトロニクス株式会社」を設立しました。今後同社と傘下の事業会社・プラットフォーム組織のさらなる一体運営の推進、組織・人材・事業ポートフォリオの最適化と一層の競争力強化、及び新規事業の推進を行います。
・ 金融事業の完全子会社化
・ 金融事業のさらなる成長とガバナンス強化を通じて、グループ全体の企業価値向上を図ることを目的に、当社が約65%の株式を保有している金融事業の持株会社であるSFHの完全子会社化に向けて、同社株券等に対する公開買付けを実施することを決定し、かかる公開買付けを2020年5月20日に開始しています。(「第5 経理の状況」連結財務諸表注記『29 重要な後発事象』参照)
・ 金融事業は、ソニーの長期的な成長戦略の一翼を担うコア事業です。この事業は、成長に向けた資金調達の柔軟性などの観点から子会社上場を維持してきましたが、今般、上場子会社という一定の制約のもとに独自の資金調達手段を保持させるよりも、迅速かつ柔軟な経営判断を優先し、個々の事業に即した戦略の実行やさらなるグループシナジーの追求に取り組むべきと考え、完全子会社化に向けた公開買付けを実施することを決定しました。
・ 「イマーシブ(没入感)」と、「シームレス(いつでも、どこでも切れ目なく)」を進化のテーマとします。
・ 2020年の年末商戦期に発売予定のプレイステーション®5(以下「PS5™」)の導入により、コンソールでの「イマーシブ」なゲーム体験をさらに進化させます。具体的には、演算性能のさらなる向上と超高速広帯域の専用SSDとの組み合わせによる圧倒的な「スピード」、コントローラーの進化によりプレイヤーの五感に訴えかける「触感」、及び3Dオーディオによる多様かつ複雑な「音」の表現が一体となることで、これまでにない次世代機にふさわしい「イマーシブ」なゲーム体験を提供します。
・ クラウドストリーミングゲームサービスの「プレイステーション™ナウ」(以下「PS Now」)や「リモートプレイ」機能により、いつでもどこでも「シームレス」なゲーム体験を提供します。
・ コンピューティング、ストリーミング、クラウド、5Gなどの最新技術と、優れたコンテンツにより、「プレイステーション」のミッションである「The Best Place to Play」を追求していきます。
<音楽>・ 定額ストリーミング市場の伸びから得られる事業機会を最大化するため、音楽カタログの質と量を強化するとともに、アーティストの発掘や育成を通して、新たな音楽コンテンツを生み出していきます。
・ 2018年度に行ったEMIの完全子会社化による音楽出版事業の強化とストリーミング市場の伸長により、安定した成長を見込んでいます。
・ 海外の音楽事業では、2019年8月に音楽制作事業と音楽出版事業を合わせたSony Music Groupを発足しており、「Most Talent Friendly Music Company」のビジョンのもと、今後もアーティストを全方位からサポートしていきます。
・ 音楽、アニメ、キャラクタービジネスなど多様なIPの軸でヒットを創出する日本の音楽事業においても、アーティストマネジメントを強化していきます。
<映画>・ 独立系スタジオとしての強み、再活性化が可能な数多くのコンテンツIPライブラリ、及びソニーグループ内のIPシナジーによって、強い競争ポジションの獲得をめざします。
・ 足元では、DTCサービスが続々と立ち上がり、映像コンテンツの需要が以前にも増して高まる中、独自IPの展開とクリエイティビティの強化への投資を通じて、幅広いジャンルで優れた映像コンテンツの製作を継続していきます。
・ 新型コロナウイルス感染拡大の影響による映像コンテンツの消費行動の変化を注視し、映画作品の劇場公開の再開に向けて、クリエイティブコミュニティや劇場などのサプライチェーンパートナーと連携していきます。
<アニメ>・ アニメDTCサービスを通じて、日本のアニメを世界中に届けることにグループを挙げて貢献していきます。
・ 成長が見込まれる中国のデジタルエンタテインメント市場において、アニメ、ゲーム、音楽等の領域で現地企業との関係強化に努めていきます。
※アニメは、ソニーの業績報告におけるビジネスセグメントではなく、その業績はG&NS分野、音楽分野及び映画分野の各分野に含まれています。
・ EP&S分野に含まれる、テレビ、オーディオ・ビデオ、静止画・動画カメラ及びスマートフォンなどのソニーブランドを冠する商品群をブランデッドハードウェアと定義し、音、映像、通信の技術によって「リアリティ」と「リアルタイム」を極める商品及びサービスを展開するとともに、人と人、人とモノを遠隔でつなぐ「リモート」ソリューションへのニーズの高まりにも貢献していきます。
・ メディカル事業では、長年培ってきたイメージング、ディスプレイ、メカトロニクスの技術を活用し、長期視点で人々の健康に貢献する取り組みを一層強化します。
・ 新型コロナウイルス感染拡大による商品の需要やサプライチェーンへの影響に鑑み、環境変化に応じた経営体質の強化に取り組みます。
・ スマートフォンに搭載されるカメラの多眼化・大判化によって、中長期的なCMOSイメージセンサーの需要は引き続き拡大していくと想定しています。新型コロナウイルス感染拡大の影響などにともなう足元の不透明な市場環境を踏まえ、生産能力増強のための設備投資の実行は慎重に検討していくものの、イメージング用途での世界No.1を堅持し、センシング用途でも世界No.1をめざすという目標を維持します。
・ Time-of-Flightセンサーなどの「人と人を繋ぐ」モバイル機器でのセンシングの領域に加え、長期的な成長が期待される「人を支える」車載センシングの領域にも注力していきます。
・ CMOSイメージセンサーは、AI時代のキーデバイスになるとの考えのもと、世界最高水準にある積層技術を生かし、新たな付加価値をもたらすAIセンシング・ソリューションを幅広いアプリケーションに展開していきます。
<金融>・ SFHの新経営体制のもと、中核事業である生命保険事業のコアバリューともいえるライフプランナーのさらなる付加価値向上などの施策に取り組んでいきます。
・ ソニーのテクノロジーの活用など、さらなるグループ内シナジーの実現もめざします。
「人」、「社会」、「地球」への貢献
ソニーの社会的使命は「感動」を創り、それを人々に届け続けることです。人々が「感動」で繋がるためには、「人」、「社会」、「地球環境」が健全であることが前提となります。したがって、ソニーは、今後も事業活動や様々な社会支援を通じて、「人」、「社会」、「地球」へ貢献していきます。例えば、環境負荷の軽減にもつながるモビリティの進化への貢献をはじめ、様々な環境への取り組みを実施していきます。また、新型コロナウイルス感染拡大に対する支援として、1億USドルのグローバル支援基金を立ち上げるなど、様々な方法で、「医療」、「教育」、「クリエイティブコミュニティ」への支援を実施していきます。また、Sony Music Groupは、世界中の社会的正義と反人種差別主義の取り組みを支援するために1億USドルのグローバル基金を立ち上げました。
第三次中期経営計画 数値目標とその進捗
<数値目標>・ 当社は、2018年5月22日に2018年度から2020年度の3年間の中期経営計画(以下「第三次中期経営計画」)を発表しました。
・ 経営をより長期視点で行っていくため、経営指標には3年間累計の指標を用いることとし、第三次中期経営計画においては、営業活動によるキャッシュ・フローを最も重視する経営指標としました。2018年度から2020年度の3年間において、金融分野を除くソニー連結ベースで累計2兆2,000億円以上の営業活動によるキャッシュ・フローを創出するという数値目標を設定しました。
・ 営業活動によるキャッシュ・フローは、一時的な損益の影響を含まないことから、事業の持続的な稼ぐ力をより適切に表すとともに、マネジメントの観点で設備投資、戦略投資及び配当の計画との比較が容易であることから、ソニーが重視する長期視点の経営に適した経営指標であると考えています。
・ 創出されたキャッシュの配分(以下「キャピタルアロケーション」)については、CMOSイメージセンサーへの投資増額により、設備投資に1兆1,000億円~1兆2,000億円を支出することとしました。残る1兆円~1兆1,000億円については、さらなる企業価値の向上のために、戦略投資を優先しつつ、株主還元にも適切なバランスのもと配分することとしました。ただし、現在の不透明な市場環境に鑑み、設備投資計画は慎重に見極めていきます。配当については、長期、安定的な増額を進めていく方針としました。
・ また、連結株主資本利益率(以下「ROE」)は10%以上の水準を継続することをめざします。
<進捗>・ 2018年度から2019年度において、金融分野を除くソニー連結ベースで累計約1兆5,000億円の営業活動によるキャッシュ・フローを創出しました。また、事業や資産の売却によるキャッシュ・インフローは、約2,000億円となりました。これらのキャッシュをCMOSイメージセンサーの増産投資やEMIの買収など、成長投資に優先して充当してきました。2018年度から2019年度において、設備投資として累計約7,000億円を支出したほか、戦略投資として、約9,000億円を支出しました。戦略投資には主に、約3,900億円を支出した(有利子負債の承継を含む)EMIの完全子会社や、3,000億円の自己株式の取得が含まれます。
・ 自己株式の取得については、一株当たり利益の成長を重視する考えのもと、今後も長期的な株主価値向上に向けて、戦略的な投資機会や財務状況、株価水準等を勘案した上で、機動的にその実施を検討していく方針です。
・ 2018年度及び2019年度の連結ROEは、それぞれ27.3%及び14.8%となり、経営数値目標として掲げている10%以上の水準を維持しました。
・ なお、前述のキャピタルアロケーションとは別に、2020年度において、公開買付けを含む一連の手続きによるSFHの完全子会社化のために約4,000億円を支出する見込みであり、その資金は全額、金融・資本市場から調達する予定です。ただし、当社の資金の状況によっては、その一部を手許資金で充当する可能性があります。
新型コロナウイルス感染拡大への対応方針
新型コロナウイルス感染拡大に対しては、社員と社員の家族、そしてお客様をはじめとするステークホルダーの安全確保、感染拡大の防止を最優先に取り組んでいます。また、社会やお客様からの要請にできるだけ応えるとともに、事業への影響を最小限に抑えるべく、情報収集に努め、必要な対応を迅速に行っています。さらに、前述のとおり、新型コロナウイルス感染拡大により世界各地で影響を受けている人々に対する支援基金を立ち上げるなど、引き続きグローバルカンパニーとしての社会的責任を果たしていきます。(新型コロナウイルス感染拡大による分野別の影響の詳細については、「第2 事業の状況 3経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」をご参照ください。)
環境中期目標「Green Management(グリーンマネジメント) 2020」
2015年6月に当社は、2016年度~2020年度のグループ環境中期目標「Green Management(グリーンマネジメント)2020」を策定しました。この中期目標では、以下の3点を注力すべき重点項目とし、環境負荷を低減するための様々な施策を推進しています。
・ G&NS分野、EP&S分野及びI&SS分野においては、2020年度までに製品の年間消費電力量の平均30%削減(2013年度比)、音楽分野及び映画分野では、コンテンツの活用を通じて全世界で数億人以上に持続可能性の課題を伝えることをめざすなど、各事業領域で特色を活かした目標を策定し、施策を推進
・ 製造委託先や部品調達先に温室効果ガス排出量や水使用量などの削減を求めるなど、バリューチェーン全体における環境負荷低減の働きかけを強化
・ 再生可能エネルギーの導入を加速
ソニーグループは、2050年までに自社の事業活動及び製品のライフサイクルを通して「環境負荷ゼロ」を達成することを長期的ビジョンとして掲げています。「Green Management 2020」は、「環境負荷ゼロ」達成のために、2020年度までに成し遂げなければならないことを2050年から逆算して定めています。「Green Management 2020」の実行により、「環境負荷ゼロ」達成に向けて環境負荷低減活動をさらに加速していきます。この一環として、当社は国際NGO団体であるThe Climate GroupがCDPとのパートナーシップの下で運営するイニシアチブである「RE100」に加盟し、2040年までに自社の事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーにすることをめざします。
また、当社はWWF(世界自然保護基金)が実施する温室効果ガス排出削減プログラムであるクライメート・セイバーズ・プログラムに引き続き参加します。気候変動にかかる目標については、その難易度及び進捗状況について、WWF及び第三者認証機関による検証を受けています。
グループ環境中期目標「Green Management(グリーンマネジメント)2020」及び環境への取り組みの詳細は、ソニーのサステナビリティレポート(https://www.sony.co.jp/SonyInfo/csr_report/)をご参照ください。