有価証券報告書-第77期(平成30年4月1日-平成31年3月31日)

【提出】
2019/06/27 15:08
【資料】
PDFをみる
【項目】
93項目

研究開発活動

エプソンは、創業当時からの独自の強みである「省・小・精の技術」を源泉とする「マイクロピエゾ」「マイクロディスプレイ」「センシング」「ロボティクス」のコア技術を徹底的に極め、これらをあらゆるお客様に提供できるように共通化(プラットフォーム化)し、お客様の期待を超える価値ある製品・サービスを創り出すことを目指して研究開発活動を行っています。
この基本方針のもと、将来に向けたコア技術・デバイスの開発やものづくり基盤の強化に加え、新規事業創出や事業強化などのための技術基盤の構築のほか、各事業における製品の競争力向上などに本社開発部門および事業部開発部門が連携のうえ取り組んでいます。
当連結会計年度の研究開発費総額は582億円であり、各セグメントの内訳は、プリンティングソリューションズ事業が252億円、ビジュアルコミュニケーション事業が101億円、ウエアラブル・産業プロダクツ事業が59億円、その他および全社が169億円です。
各セグメントの主な開発成果は、次のとおりです。
(プリンティングソリューションズ事業セグメント)
プリンター事業においては、「エプソンのスマートチャージ」(※1)に、ビジネススペックを搭載したA4カラーインクジェット複合機/プリンターの新商品2モデルを投入しました。本製品は、従来機(PX-M840FX)と比較して、設置面積比が約64%という小型化を実現し、バックヤードやカウンターなどの狭小スペースにも設置が可能です。
また、本体に大容量インクタンク(エコタンク)を搭載したインクジェットプリンターの新製品として、前面給紙でコンパクトサイズのスタンダードモデルをはじめ、お客様の設置環境に応じて選択肢を広げるホワイトモデル、ビジネスにおけるモノクロプリント需要に応えた、レーザープリンターからの置き換えにも適したA4モノクロプリンターの計6機種7モデルを発売し、ビジネスからホームまでお客様のご要望に合わせてお選びいただけるようラインアップを強化しました。
プロフェッショナルプリンティング事業においては、デジタルラベル印刷機の新商品として、UV硬化インク搭載デジタルラベル印刷機を発売しました。本製品は、PrecisionCore(プレシジョンコア)ラインヘッド搭載による高速かつ高画質印刷を実現し、併せてオペレーション工数を削減するさまざまな機能を搭載することで、工業用ラベルをはじめ小から中ロットの多品種印刷に対応し、印刷プロセスの効率化に貢献します。
このほか、ソフトウェアの面では、商業・産業印刷における色再現性を高めるカラーマネジメント技術「Color Control Technology」を開発し、当該新技術を用いた、プリンターカラーマッチング、スポットカラーマッチング、メディアプロファイル作成等のサービス提供を開始しました。これは、商業・産業印刷における“色”に関する課題に対する最適なソリューションとして開発されたもので、顧客ニーズにマッチした高品質な印刷と、高い生産性の実現をサポートします。
※1 機器本体を購入することなく(搬入・設置希望の場合は別途課金)、本体・インク・保守サービスが毎月定額従量料金で利用できるプリントサービス。
(ビジュアルコミュニケーション事業セグメント)
レーザー光源のビジネスプロジェクター高輝度モデルの新商品として6機種7モデルを発表し、レーザー光源モデルのラインアップを拡充しました。このうち、会議室や講義室で利用するモデルは、レーザー光源による高輝度・高画質・信頼性をクラス最軽量(※2)のコンパクトな本体に盛り込みました。
空間演出やイベントに適したモデルでは、エプソンとして初めてネイティブ4Kパネルを搭載し、3LCD方式の高い色再現性と精細感により高画質映像を実現しました。
このほか、検査・測定機器やドローン操作等のモニター利用に適した両眼シースルーのスマートグラスの新製品を発売しました。さらにスマートグラスについては、一般財団法人日本消防設備安全センターが主催・運営する「G空間情報(※3)を利用した救助システム及び消防活動に関する検討会」に参画し、次世代の救助システムの消防救助用ウエアラブル機器として、エプソンのスマートグラスの技術を応用した「スマートマスク」ならびに「スマートゴーグル」のコンセプトモデルを共同開発しました。
※2 6,000lm以上の国内レーザー光源プロジェクターにおいて。2018年6月現在。エプソン調べ。
※3 「空間上の特定の地点又は区域の位置を示す情報」または位置情報および「位置情報に関連づけられた情報」からなる情報で「地理空間情報」と同義。「G」は「Geospatial(=地理空間の)」に由来。
(ウエアラブル・産業プロダクツ事業セグメント)
ウエアラブル機器事業においては、ORIENT STARから新ムーブメント「46系F7-50」を搭載したモデルを発売しました。新ムーブメントにより持続時間は従来の40時間から50時間に向上し、新たな組立構造(Front Loaded Assembly) (※4)を取り入れたことで、視覚的にケースを薄く見せ、広々としたダイヤルデザインと高級感あふれるケースデザインを実現しました。
ロボティクスソリューションズ事業においては、産業用小型6軸ロボット(垂直多関節型ロボット)と産業用スカラロボット(水平多関節ロボット)の新モデルを発売しました。前者は、可搬重量を6kg、アーム長を1000mmへとロングアーム化し、設置スペースを約75%削減(※5)することを可能としました。これにより、小型電子機器部品や自動車電装小型部品の組立搬送等で工場の省スペース化に貢献できます。後者は、本体とコントローラーを一体化させ設置の簡素化と使いやすさを追求し、モーターのバッテリーレス化により低ランニングコストを実現したロボットで、可搬重量6kgまで対応し、より重く大きな物品の搬送に対応できます。重いハンド搭載も可能となり、工場の生産性向上に貢献できます。
2018年9月には、ロボティクスソリューションズ事業の研究開発拠点である豊科事業所に新生産ラインを新たに設置し、国内外の生産拠点と密接に連携させ、高難度要素開発から設計・量産技術確立、製造までのサイクルを効率よく回し、新製品立ち上げ期間の短縮と組立効率化技術の強化を図っています。
マイクロデバイス事業においては、構造ヘルスモニタリング(※6)に最適な軸加速度センサーの新製品を開発しました。本製品は、今後の本格的な構造ヘルスモニタリング技術の普及に向けて、必要な低ノイズ性能と耐久性・生産性に優れ、これまで実現が困難であった高精度と耐久性を高い次元で両立させました。この高精度センシング技術により、地震観測、環境振動計測、産業機器・車両の振動・軌道計測、ビル・道路付帯構造物・橋・トンネル・鉄塔など多様な構造物への精度計測の適用が可能となり、社会インフラの老朽化、維持管理費用増大等の社会問題への対処手段として貢献できます。
※4 Front Loaded Assembly (FLA)とは、ケース上側からムーブメントを挿入する組み立て方法。通常のケース下側から組み立てる方法のように、文字板より大きな裏蓋を用意する必要が無いためケース側面から裏蓋にかけて絞り込んだ形状(テーパードバック)が可能になることで、ケース側面の高さ(厚み)を抑えることに成功。
※5 当社の使用想定に基づいた比較実験による。
※6 センサーを用いて構造物の健全性を診断する技術。