有価証券報告書-第121期(2022/04/01-2023/03/31)

【提出】
2023/06/28 15:11
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【項目】
161項目

対処すべき課題

当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(1)経営方針・企業理念・行動方針
当社グループを取り巻く事業環境は激変しており、短期的に将来を予測することが極めて難しい時代におかれています。そのような中、社会における自分たちの存在価値をもう一度問い直すことが必要とされています。また、当社グループが中長期的な成長を遂げていくためには、社会とともに経済的価値創造と社会的価値創造の両立を実現していくことが極めて重要となっています。
このような課題認識のもと、当社グループは、よりグローバルなサステナビリティ企業へと変革していくために、2024年4月から始まる次期中期経営計画を見据え、「ISUZU ID」として経営理念体系を再構築しました。
ISUZU IDの体系は以下の通りです。
◆PURPOSE(使命):地球の「運ぶ」を創造する
従来の企業理念(※)の枠を超え、お客様、そしてパートナーの皆様と地球上のすべてのモノ・ヒトの「運ぶ」を主体的に創造するとともに、カーボンニュートラルや、進化する物流への貢献など、新たな「運ぶ」の価値を提供し、社会を豊かにしていきたい、という決意を表しています。
◆VISION(将来像):「安心×斬新」で世界を進化させるイノベーションリーダー
あらゆる社会課題の解決に貢献していくために、従来大切にしてきた「安心」に「斬新」を掛け合わせ、「イノベーションリーダー」を目指します。
◆MISSION(任務):あなたと共に「運ぶ」の課題を解決する
すべての人々と共に社会を前進させるという意思を込め、4つの分野(お客様満足度・地球へのやさしさ・働きがい・社会への影響力)でのNo.1を目指し、日々努力します。
◆CORE VALUE(コア・バリュー):相互成長
イノベーションリーダーとして、一人ひとりが挑戦・変化・貢献する意欲を持ち、集団として相互に尊重・信頼・刺激し合うことで、成長していきます。
今後、当社グループは、この「ISUZU ID」を起点に、既存事業の強みに一層磨きをかけ、財務基盤の盤石化を図った上で、積極的なイノベーション投資を行い、社会課題解決への貢献を目指します。
(※)従来の企業理念:<「運ぶ」を支え、信頼されるパートナーとして、豊かな暮らし創りに貢献します。>(2)対処すべき課題
環境変化の加速、それに伴う事業の一層の複雑性増大等、当社グループは100年に1度の変革期ともいえる状況下におかれています。このような環境変化・課題への対応は当社グループの社会的使命及び責務であり、これらの変化への柔軟な適応は、持続可能な成長のためには必要不可欠であると認識しています。そのため、当社グループでは、「ISUZU ID」の最上位概念である「地球の『運ぶ』を創造する」の実現を通じて社会課題解決への貢献に向けた取組みを進めていきます。
そして、当社グループは、「ISUZU ID」の使命である「地球の『運ぶ』を創造する」ために、2030年までにカーボンニュートラルや物流DXなどの対応に総額1兆円規模の研究開発・設備投資・事業投資を行います。
次に挙げる課題は、「ISUZU ID」の実現のみならず、自動車業界・商用車業界におけるお客様のご期待や技術的変革に対応するため中長期的な観点から抽出したものです。
[既存事業の拡大・収益向上]
カーボンニュートラルや物流DXといった社会課題の解決には多額の研究開発費・投資が必要となります。当社グループでは「イノベーション投資」として2030年までに総額1兆円を投資することを計画しておりますが、財務健全性を維持しつつその原資を確保するためには既存事業の一層の拡大と収益向上が必要不可欠です。
当社グループでは、商用車市場を中心とした既存事業においてお客様に選ばれ続けるためには、多様化するニーズに対応した商品力、その魅力をお客様に届ける販売力、さらに、商品販売以降の機会においてもお客様に価値を提供するサービス力が必要不可欠であると考えています。これまでも、当社グループでは環境性や安全性・快適性といった機能について刷新を図ったピックアップトラック「D-MAX」や、その派生車である「MU-X」の新モデル投入による販売増を実現してきました。また、日本国内においては高度純正装備「PREISM」の全車標準搭載による稼働サポート事業の展開により、収益基盤を強固なものとしてきました。
2023年3月期業績は後述の取組みの確実な実施により売上高3兆1,955億円、営業利益2,535億円となり、「中期経営計画2024」で掲げた2024年3月期の定量目標(売上高2兆7,500億円、営業利益2,500億円)を前倒しで達成することができました。今後も、商品・サービスの一層の充実を通じて一層の既存事業の拡大・収益向上を目指しています。
(当連結会計年度の取組み)
2023年3月期には、主力商品である小型トラック「エルフ」と中型トラック「フォワード」をフルモデルチェンジしました。このモデルチェンジにより、新型「エルフ」「フォワード」は「デザイン」、「ホスピタリティ」、「エコノミー」、「セーフティ」、「コネクテッド」、「ラインナップ」の6つのポイントを中心に大きく進化しています。新型「エルフ」「フォワード」は当社のモジュラー開発「I-MACS」を採用した量産製品第一弾であり、今後も「I-MACS」の活用により国・地域のニーズや動力源に合わせた一層フレキシブルな商品開発に活用していきます。
また、ボルボ・グループより2021年4月に全株式を取得し連結子会社化したUDトラックスとの初の共同開発製品として新型トラクタヘッド「ギガ」と「クオン」を市場投入しました。「ギガ」「クオン」は当社・UD両社の技術を持ち寄った結果、高い積載効率の追求、運転操作性の向上、安全装備の拡充などの進化を遂げており、販売もいすゞ・UD双方のチャネルで行っています。
(今後の計画)
フルモデルチェンジを発表した新型「フォワード」は、内外装の全面刷新に加えて、各種快適装備・安全支援機能の大幅拡充を行い、2023年夏頃の発売開始を予定しています。これらの改良により、当社は物流業界の課題に対応し、社会やビジネスが直面する高度化・複雑化した課題を解決することを目指しています。
また、今後も、2023年3月期に上市した商品・サービスおよびその一層の充実を通じて、ドライバー不足や労働環境の改善といった社会課題の解決に貢献し、既存事業の拡大・収益向上、ひいては強固な財務基盤の構築を目指します。
[イノベーションの基軸]
当社グループは、「ISUZU ID」の使命である「地球の『運ぶ』を創造する」ために、2030年までにカーボンニュートラルや物流DXなどの対応に総額1兆円規模の研究開発・設備投資・事業投資を行います。「カーボンニュートラル」対応では、電動車ラインナップの拡充、お客様や地域社会の脱炭素化に貢献するサービスの拡充、事業所のCO2削減や資源循環の推進を図ります。「物流DX」では、お客様の「運ぶ」に関する課題を解決し、新たな価値を創造するため、ソフトウェアやデジタルへ経営資源を集中し、2030年に向けた当社グループの新たな成長ドライバーとするべく取組みを加速します。
これまでも、当社グループでは国内商用車メーカーとしては初となる大型LNGトラック「ギガLNG」発売や、業界に先駆けたコネクテッドサービス(運行管理・ドライバー支援サービス「MIMAMORI」、高度純正装備「PREISM」等)の展開により「カーボンニュートラル」「物流DX」への対応を進めてきました。
(当連結会計年度の取組み)
「カーボンニュートラル」対応では、カーボンニュートラル達成へ向けたひとつの重要な“解”として、初の量産BEV「ELF EV」を発売しました。同時に、商用BEVの導入に関する検討や課題解決のサポート、温室効果ガス排出削減効果の数値化を可能にするトータルソリューションプログラム「EVision」の提供を開始し、製品販売のみならず、お客様のEV導入・運用をトータルにサポートするサービスを提供しています。
また、リマニユニット(高稼働運行したリースアップ車からエンジンやトランスミッションを回収し新品同等に機能回復させたもの)を活用した大型トラックのメンテナンスリースの取り扱いを開始しました。リマニユニット車は再利用する部品が多く、資源を循環活用することが可能なため、CO2の排出量を削減し、カーボンニュートラル社会の実現に貢献することができます。加えて、2022年6月には、「いすゞ環境長期ビジョン2050」の取組みを着実に実現するための2030年までのロードマップを示した「2030環境ロードマップ」を策定しました。
「物流DX」では、株式会社トランストロンおよび富士通株式会社との共同で、商用車情報基盤「GATEX」の提供を開始しました。この情報基盤により、商用車の運行管理や稼働サポートサービスの提供に加え、多様なデータ連携による物流業界が抱えるさまざまな課題の解決に貢献する仕組みを提供することが可能となります。
(今後の計画)
「カーボンニュートラル」対応としては、今後、電動車の開発を一層加速し、2030年までに全ての商用車カテゴリでBEVやFCVといった電動車を市場投入する予定です。あわせて、車載電池、モータ・インバータやこれらの制御技術などに関する研究開発に取組み、電動車の付加価値の向上に取組みます。また、各地域のエネルギー事情に適した多様な選択肢を提供するために、カーボンニュートラル燃料に関する取組みや水素内燃機関の技術開発も継続します。また、これらの取組みを加速するため、内部リソースを集約し製品化と意思決定の迅速化を図るとともに、外部との連携も含めてリソース・ノウハウを集中管理するため、「カーボンニュートラル戦略部門」を設置しました。加えて、2022年に策定した「2030環境ロードマップ」に基づき国内外の事業所から排出されるCO2を2030年までに2013年比50%削減するための投資を本格化させます。
「物流DX」では、今後、商用車情報基盤「GATEX」の機能を強化し、業界を超えた情報プラットフォームとの連携による新しいソリューションの創出や、今後の電動商用車の普及を見据え、EMS(エネルギー・マネジメント・システム)(※)だけではなく、今後さまざまなデータベースとしての活用も視野に入れ、商用車情報基盤として、カーボンニュートラル社会の実現に貢献してまいります。また、同じく2023年3月期に運用開始した商用電動車導入に向けたトータルソリューションプログラム「EVision」を更に進化させ、より利便性の高いソリューションを目指します。加えて、自動運転領域では、将来的なレベル4相当の実用化を見据え、技術開発や実証試験に引き続き取組みます。
以上の取組みおよびそれに伴うイノベーション投資は、引き続きアライアンスパートナーやお客様と、協創したり、成果をシェアしたりすることで広く社会に還元することを企図しています。
(※)EMS(エネルギー・マネジメント・システム):エネルギー使用に関して、方針・目的・目標を設定し、計画を立て、手順を決めて管理する活動を体系的に実施できるようにした仕組みのこと。
[ESGを視点とした経営への進化]
100年に1度の変革期ともいえる状況下の中、さまざまな社会課題を解決し、業界をリードする存在になるためには、大変革期でも生き残れる企業へと体質転換を推進することが必要不可欠です。そのために、当社グループでは株主価値重視、ガバナンス強化と開示拡充、イノベーションを創出する集団への変革等への取組みを進めていきます。
(当連結会計年度の取組み)
株主価値重視の観点では、2023年3月期においては資本効率の一層の向上に努め、ROEは12.1%となりました。また、株主還元について過去最高額となる1株当たり79円の配当を実施し、配当性向は40.4%となりました。
ガバナンス強化と開示拡充の観点では、当社は2022年3月期より監査等委員会設置会社へ移行し、経営の監督機能の一層の強化を図っております。また、社外取締役を5名(取締役総数13名)とし、取締役のうち女性を2名とする体制とすることで取締役会における多様性の確保を図っております。
イノベーションを創出する集団への変革に向けては、2022年5月当社は横浜に本社を移転し、グループ企業を集約しました。新本社の最新オフィス設備・IT環境を活用し、海外拠点も含めた社内・グループ内コミュニケーションの活性化を取組んでいます。さらには様々な業種が拠点を構える横浜の強みを生かして、業界を超えたコミュニケーションの促進にも取組んでいます。
そして、これらのESGを視点とした経営に「いすゞらしさ」を加え、当社グループの使命・将来像・任務と、個人として集団として持つべき価値観を体系化した新たな経営理念体系「ISUZU ID」を作り上げました。
(今後の計画)
株主価値重視の観点では、今後も株主価値を重視した経営を一層推進し、資本効率の更なる向上により2026年3月期にROE15%を目指します。また、株主還元も引き続き強化し、配当性向は中期経営計画期間(2022年3月期から2024年3月期まで)平均で40%を目標とします。加えて、資金状況を踏まえつつ機動的な自社株買いも検討していきます。さらに、株主のみならず、従業員、取引先、顧客、債権者、地域社会をはじめとする多様なステークホルダーとの価値協創が重要となっていることを踏まえ2023年4月に策定した「マルチステークホルダー方針」を基に、従業員への還元や取引先への配慮等の取組みも進めていきます。
ガバナンス強化と開示拡充に向けては、財務報告の国際企業間の比較を容易にし、資金調達及び株主価値向上を図ることを目的に、将来的なIFRS適用に向けて準備を進めています。
イノベーションを創出する集団への変革の観点では、今後も社内外のコミュニケーションの一層の活性化に取組むことに加え、当社グループとボルボ・グループと共同で結成したダイバーシティ&インクルージョン推進を図るソーシャルネットワーク「VOIS」等の取組みを通して、社員のキャリアップに前向きな変化をもたらすことを目指します。
当社グループは、「地球の『運ぶ』を創造する」を通じて、社会課題の解決に貢献し、世界を進化させるイノベーションリーダーを目指してまいります。