有価証券報告書-第105期(2023/04/01-2024/03/31)

【提出】
2024/06/19 13:32
【資料】
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【項目】
156項目
②戦略
当社グループは、「挑戦と創造」のDNAを継承し、常に時代の潮流を先取りしてさまざまな分野や国で新たな事業を創出してきました。当社グループの最大の資産は人材であり、「人」こそが持続的な価値創造の源泉です。社会課題の解決を通じ新たな価値創造を続けるために、変化に即応し未来の戦略をつくることができる人材を社員に求め、その人材像を以下に定義しています。
・自律的な成長:自身の実現したいことを明確にし、ゴールの実現に向けた具体的なロードマップを自ら描き、それを実現するために必要な経験やスキルを自律的に積み上げる人材
・強い「個」:グローバルで幅広く自分の担当する領域に精通し、他者と協働を通じて更なる高みを目指し、主体的にビジネスを創り、育て、展(ひろ)げ、世界中で新たな価値を生み出す人材
・インクルーシブ:自由に発想し、異なる考えを受け入れ、周囲の仲間と共に多様性を活かし、違いを受け入れ共創できる環境で新たなイノベーションを生み出す人材
これらの多様なバックグラウンドを持つ人材が、多様な現場でグローバルに活躍する姿を後押しすることが当社グループの人材戦略の根幹であり、中期経営計画2026*の重点施策の1つとして位置づけられています。自律的なキャリア形成(挑戦・経験・学び)を支援し、従業員一人ひとりの活躍を支える諸施策・環境整備のために更なる投資を推進します。上記の取組みを通じた、社員の成長とより付加価値の高い業務へのシフトが、事業ポートフォリオの変革を支えると考えています。
* 中期経営計画の詳細は、当社ウェブサイトに掲載している説明会資料をご参照ください。
0102010_023.png https://www.mitsui.com/jp/ja/ir/library/meeting/pdf/ja_233_4q_chukei.pdf
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経営戦略と人材戦略の着実な実行を進めるにあたっては、社員一人ひとりが各自の取り組んでいる業務と関連付けてその目的を理解し、持続的な企業価値の向上につなげていくサイクルが重要と考えています。このサイクルを適切に実行していくため、社員エンゲージメントを人材戦略の成果を測る重要な経営指標の一つと位置付け、定点観測を行い、組織の課題と向き合うツールとして、三井物産グループ全体を対象にMitsui Engagement Survey(MES)を毎年実施しています(関係会社の実施は任意)。
本サーベイは客観性・透明性を担保するため、社外の業務委託先へ対象者が匿名で直接回答する形式で年1回実施しています。MESの結果は各地域・組織単位での分析とアクションプランを通じて、社員が当事者となって現場での組織開発に活用しています。また同時に経営メンバーも、経営会議での結果の分析・討議を通じた人材戦略の策定や施策の見直しなどの重要な役割を担うことから、「社員エンゲージメント」及び「社員を活かす環境」の肯定的回答率の前期対比での増減は、取締役(除く社外取締役)を対象とした報酬制度の一要素としています。
取締役の報酬の詳細は、「第4 提出会社の状況 4. コーポレート・ガバナンスの状況等 (4) 役員の報酬等」をご参照ください。
当社(単体)及び海外現地法人の結果は以下のとおりです。また、サーベイ対象者数などの詳細については、④指標及び目標をご参照ください。

2022年3月期2023年3月期2024年3月期
社員エンゲージメント*171%72%73%
社員を活かす環境*269%69%69%
戦略・方向性の理解・共感*378%80%81%
スキル・能力の発揮機会*374%76%76%
リーダーシップに対する信頼*370%71%73%

*1 「会社に対して貢献意欲やロイヤルティがあり、自発的努力をしようという気持ち」についての複数の関連設問における肯定的回答率
*2 「自分のスキルや能力を活かす機会があり、働きやすい環境が整備されているか」についての複数の関連設問における肯定的回答率
*3 各項目における関連設問についての肯定的回答率
(a) 強い「個」の育成
当社グループの「世界中の未来をつくる」というMissionの達成に向けては、従業員一人ひとりが変革をリードし、自らの強みを活かして世界標準で成果を積み上げることが重要です。各現場でのOJT(On the job training:業務を通じて知識などを身に着ける教育方法)を軸としつつ、それを補完する体系的な人材育成プログラムや、従業員の志向を起点にしたグローバルなキャリア開発のための各種制度や基盤を提供し、強い「個」を育成します。
(i) グローバル・グループでの人材育成
当社グループは新入社員からリーダー層に至るまで、役割期待別研修、選択型研修、選抜型研修等、豊富な人材育成プログラムを実施しています。
当社では、若手社員を対象とした各地域のエキスパートを育成する海外修業生や専門性を高める部門研修員制度、中堅層社員対象のビジネススクールへの派遣制度を実施すると共に、国内グループ社員を対象とした節目研修や「物産アカデミー」等の選択研修の実施等を通じて、人材の育成・人的ネットワークの構築を支援しています。
海外採用社員に対しても、現地事情に合わせたリーダーシッププログラムやスキル系研修を実施しているほか、日本への派遣プログラムとして、短期でのJapan Trainee Programや、1~2年間の長期にわたるJapanese Language & Business Program及びJapan Business Integration Programを設けています。
その他、重要パートナー企業までに対象を広げ、社会課題を解決するビジネスを創出し、事業において困難な局面を乗り越えるためのリーダーシップを発揮するグローバルリーダーの育成を目的とするHarvard Business Schoolの協力を得て開発した当社独自のGlobal Management Academy Programを設けています。2023年は日本を含む計16カ国から合計43名が参加し、過去11回の開催で累計398名が参加しました。
(ii)自律的なキャリア形成
当社は、社員の意欲や志向を起点にしたキャリアプラン実現の基盤として、所定の任用・昇格要件や年齢に関わらず、適任者が上位ポジションでより大きな役割・職務にチャレンジできるキャリアチャレンジ制度を導入しています。挑戦意欲ある社員が、より早く、その能力と適性に応じてストレッチできる環境で経験を積むことを後押しし、事業経営人材を含む次世代リーダーの早期育成につなげることを狙いとしています。
当社グループは、管理職を対象に、360°多面観察であるMitsui Management Review(MMR)を毎年実施しています。部下や協働する同僚からのフィードバックを受け、自身のマネジメント力の振り返りとリーダーシップの強化のほか、組織の多様な個の力を活かす組織づくりにも活用し、時代に即したリーダーの育成につなげています。MMRの結果は上司にも提供し、職制を通じた人材育成や、ラインマネージャー任用の参考としても活用しています。また同時に所属組織のMESの結果とも連携させ、組織開発への課題取組みへの実行サイクルを強化する取組みも行っています。
当社グループは、DXケイパビリティ開発に向けてMitsui DX Academyを開講しています。全役職員対象の基礎編から高度DX人材養成のための応用編までを含む「DXスキル研修」、DXプロジェクトの実践を通じたOJTにてDXビジネス人材を育成する「ブートキャンプ」、最先端のDXスキルや知見の獲得と高度DX専門人材とのネットワーキング構築を目的に海外大学コースへ派遣する「Executive Education」など、目的やレベルに応じた研修体系を整備しています。また高度なDX技術を持つなど、一定の基準を満たす人材をDX人材として認定する制度を設けています。認定後は社内外の各フィールドでDXの専門家として活躍しています。
(b) インクルージョン
当社グループは、多様な個性を有する従業員が、自分らしく社会や組織に属し、最大限に力を活かすことができる会社を目指します。インクルージョンの推進を加速させる環境を整えると共に、無意識のうちに暗黙的な排他や区別を行うことがないよう、従業員一人ひとりの意識醸成を支援し、グローバル・グループでのインクルージョンを実現します。採用地や性別によらず、社員一人ひとりがお互いを認め合い、恒常的に異なる考えや新しい考え方が入ることで刺激を受け合いながら能力を最大限に発揮し、イノベーションを生み出すことでビジネスに新たな価値をもたらし、当社グループの価値向上に繋げます。
(i) 女性の活躍推進
当社グループではさまざまな場で女性社員が活躍しており、女性管理職比率は連結ベースで18.8%、現地法人及び海外事務所における海外採用社員ではグローバルスタンダードである約4割となっています。一方で当社の女性管理職比率は9.2%に留まるため改善に向けた取組みを強化しています。2025年3月末の女性管理職比率10%の目標については、2024年7月に10.6%となり達成することが見込まれることから、2031年3月期の20%を新たな目標値として設定しました。また、2020年3月期から管理職の女性を対象にしたWomen Leadership Initiativeプログラムを実施し、ライン長候補の育成を強化しています。加えて、2022年3月期からは経営会議メンバーがスポンサーとなり、シニアリーダー候補の女性社員に対しキャリアに関する助言や指導を行い、ストレッチアサインメント(一段目線の高いチャレンジとなる業務機会の提供)に繋げるSponsorship Programを実施しています。これら取組みを通じて女性管理職におけるラインマネージャーやシニアマネージャーへの登用を着実に進めています。
0102010_025.png0102010_026.png(ii) 海外採用社員の管理職登用
当社グループでは、各国や地域に根を深く張ったビジネスを展開するため、当社グループの海外拠点(現地法人・海外事務所)において人材の活躍推進に力を入れています。世界各国から選抜された社員を対象に、2019年3月期から変革を積極的に推し進める先導者を育成するChange Leader Programを実施しています。2024年3月期はこれまで開催した計4回の参加者の活躍状況や進捗確認の場として、日本での経営会議メンバーを交えた対面型セッションを開催しました。このプログラム参加者の中から、現地法人の役員や部長クラスのポジションに任用されるなど、更なる活躍推進に向けた取組みになっています。また、三井物産人材開発(株)では、当社グループの海外拠点だけではなく、グループ各社で働く世界中の社員を対象とした教育・研修の企画運営の提供も行っています。
(iii) 両立支援(ワークライフマネジメント)
当社グループでは、多様な価値観・バックグラウンドを持つ社員が働いており、一人ひとりの生活(ライフ)に対する考え方や果たすべき責任もさまざまです。それぞれに抱える事情は異なりますが、仕事(ワーク)ではプロフェッショナルとしての自律性と責任をもって最大限の力を発揮して活躍しながら、ライフとの両立を可能とする取組みを行っています。
自らの「ワーク」と「ライフ」のマネジャーとなって両立を可能とする「ワークライフマネジメント」の考え方をベースに、特に大きなライフイベントである育児・介護について、当社では法定基準を上回る各種制度・支援策を導入しています。また両立を支える働き方については、リモートワークやフレックスタイムの導入など、育児・介護などの特定の事情に限定せず、全社員が自律的に最適な形で組み合わせて仕事とプライベートの両立を可能とする各種施策を整備しています。
男性育児休業については、各自の自律的な選択に基づく働き方推進がベースとなり、休業を取得する男性社員の半数以上が4週間以上の休業を取得するなど、各自・各家庭の育児に関する考え方を尊重し、必要な期間しっかりと休業が取れる環境を整えています。
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0102010_028.png(iv) 採用
当社グループでは、「世界中の未来をつくる」というミッションを実現すべく、インクルーシブな風土を根底で支える高い志とフェアネスをもった人材の多様性を重視しています。そのため、国籍・性別・年齢・出身大学・宗教・人種等は問わず、多様な価値観・知見・能力を重視する人物本位の採用選考を行っており、公正な採用活動を基本方針としています。その一環として当社は国内でのキャリア採用をいち早く導入しました。2024年3月期に当社(単体)へ入社した総合職社員209名(新卒・キャリア採用合計)の内、キャリア採用は85名(41%)となります。
(単位:名)2022年3月期2023年3月期2024年3月期
新卒(内、女性)128(57)111(44)124(54)
キャリア(同上)63(20)92(31)85(36)*
新卒・キャリア合計(同上)191(77)203(75)209(90)
キャリア採用比率33%45%41%

*配偶者転勤による再雇用入社8名を含む
(c) 戦略的適材配置
当社グループは、16事業本部を中心としてグローバル展開をしており、国や地域毎に強みを発揮していくために、事業と地域を2軸としたグローバルマトリクス制を採用しています。事業戦略に連動した活躍の場を用意し、従業員は新しい仕事への挑戦を通じてスキルや専門性を身に付け、会社と共に成長します。このような戦略的適材配置と自律的なキャリア形成をグローバル規模で推進します。
(i)グローバルベースの後継者育成計画
社長とCHRO、人事総務部長、各事業本部長・コーポレートスタッフ部門各部長が参加し、毎年Human Resources Strategy Meeting(人材戦略会議)を開催しています。本会議では、当社グループの重要ポジションのサクセッションプラン(後継者育成計画)についての議論や、女性や海外採用社員等の活躍状況と育成方針の確認を行っています。多様な社内人材から形成される後継者人材プールの状況を継続的に把握し、戦略的な適材配置 による組織パフォーマンスの最大化を図る狙いです。 また、想定外の事態への備えとしてのBCP(事業継続計画)策定により組織マネジメントの連続性も担保しています。
(ii)グローバルタレントマネジメントの深化
採用地を問わず、社員一人ひとりの経験・能力・知識やキャリアの志向といった人材データを活用し、適所で適材が活躍するフィールドの醸成と、社員の自律的なキャリア形成を支えるグローバルデータプラットフォームとして、Bloomを2022年10月にアジア・大洋州本部、東アジアブロック、韓国物産で導入しました。2024年4月に米州本部、欧州ブロック、中東・アフリカブロック、CISブロックで導入し、2025年3月期までに全世界で導入される予定です。
(iii)グローバルベースでの転勤プロセスの標準化
事業を牽引する人材を戦略的に配置するため、海外採用社員の転勤プロセスを標準化すべくグローバルモビリティプログラムを2022年10月に策定し、2023年4月の転勤者から全世界で導入しました。導入以前は転勤時の諸条件が転勤者ごとに個別決定となっておりプロセスが煩雑且つ調整に時間を要していましたが、統一ルールを導入することで海外採用社員の国を超える異動の難易度を低減し、グローバルベースでの戦略的配置を実践します。
(iv)スキル・専門性を活用した適材配置
当社は、機動的で実効性の高い全社最適の適材適所と、社員の自律的キャリア選択の両方をマッチングさせる仕組みとして、社員のキャリア志向と適正を踏まえ、従来のラインマネージャーを前提とした職群に加えて、高度な専門性を蓄えた人材のための複線型キャリアパスであるExpertバンドを設定しています。
当社は、上司を経由せず、意欲ある社員が自らの意思で能力・スキル・専門性を最大限に発揮できる職務に挑戦できる人事ブリテンボード制度を導入しています。組織の壁を越えた「会社のニーズ」と「社員の意思」のマッチングのプラットフォームとして、より機動的で実効性の高い全社最適の適材適所と、社員の自律的なキャリア選択と挑戦を後押しします。
(d) ウェルビーイング・健康と安全
(i) 健康経営からウェルビーイング経営へ
当社は2017年に「健康宣言」を策定し、社員の健康管理を重要な経営課題と位置付け、健康経営に取り組んできました。近年、身体の健康だけではなく、精神的にも社会的にも満たされている状態がウェルビーイングとして大切にされるように世の中の価値観も変わってきました。当社では、このような変化を踏まえ“一人ひとりが活力にあふれ「挑戦と創造」を実践できる状態”をウェルビーイングと定義し、前述の「健康宣言」を2023年7月に「ウェルビーイング経営宣言」へ刷新しました。本宣言に基づき、治療と仕事の両立支援やメンタルヘルス予防施策、女性社員を対象としたアンケートに基づいた診療所への婦人科設置やその他施策など、社員が自分らしく互いの価値観を尊重しつつやりがいを持って活き活きと働けるような職場環境を整備する具体的施策をCHROを責任者とする推進体制のもとで、一層充実させていきます。
(ii) ウェルビーイング推進会議
ウェルビーイング経営の推進にあたっては、CHROを責任者とし、人事総務部長、産業医、保健師、三井物産健康保険組合をメンバーに、ウェルビーイング推進会議を審議機関として、生活習慣病予防やがん対策等、社員の健康維持・増進に向けた施策の企画・決定・実行に取り組んでいます。各議事録はイントラネットを通じて従業員に公開しています。
(iii) 労働災害のない安心・安全な職場づくり
当社は、その事業活動において、三井物産グループ役職員と事業に関わる仲間の健康と安全を常に最優先します。そのために全ての関係者とより高いレベルで価値創造ができるよう、各々の法令に基づく施策はもとより、さまざまな健康維持・増進に向けた取組みを進めていきます。また、私たちが事業を展開する各国・地域社会において労働災害のない、全従業員と、共働するさまざまな仲間が安全に働ける職場や作業環境づくりを推進するために、現地の法律・規制の遵守はもちろん、それぞれの業界特有のベストプラクティスを取り入れながら継続的な改善を図り、必要とされるリソースとトレーニングを提供していきます。
全てのビジネスにおいて安全衛生を高め、当社グループ及びコントラクターの従業員の労働災害を未然に防ぐことを目指し、CHROを責任者とする労働安全衛生推進体制のもとで、全社各ユニットの事業特性に合わせた施策を推進していきます。2023年11月にはコントラクター選定における取組指針となる三井物産グローバル・グループコントラクター選定方針を策定しました。
2024年3月期は、2回の取締役会にてウェルビーイング経営・労働安全衛生に関する報告、改善に向けた審議が行われました。