有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2018/08/22 15:00
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【項目】
103項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。本項目を含む、本書における当社又は当社グループに関連する見通し、計画、目標などの将来に関する記述は、当社が現在入手している情報に基づき、本書提出日時点における予測等を基礎としてなされたものであり、実際の結果は記載内容と大きく異なる可能性があります。
(1)会社の経営の基本方針等
当社グループは、「創造全力、価値共有。つねに、その上をめざして。」をコーポレート・ステートメントとして設定しておりますが、これは、現在、そして未来にわたって自己変革し、進化し続けることによって、価値を創造し続ける強い意志を表しています。お客様へ価値を提供し続ける仕組みをつくり、それを実行することにより、お客様の共感をいただき、つねに新たな可能性に向けて自らを革新し続けていくことに挑戦しております。また、企業としての永続性を軸に、「社員の生活向上」と「生活文化への貢献と社会からの信頼」の共存を創業時からの変わらぬ理念としております。全ての発想の原点を「顧客満足」におき、顧客にとって常に最適なファッションを提案し続け、「事業価値」「財務価値」「企業価値」を同時に高めていく、「価値創造企業グループ」であり続けたいと考えております。
より具体的には、当社グループは、1992年、顧客価値と生産性の最大化を目的に、消費者を起点に小売から生産までを一気通貫させ、ロス・無駄を価値に変える「スパークス(SPARCS)」構想を発表し、多業種・多ブランド戦略を採用しております。「スパークス(SPARCS)」は、ファッション産業において、これまで分断されていたビジネスモデルをつなぎ、在庫ロスと機会ロスを最小化すると同時に、当社グループにおいてコアとなる生産系、開発系、マーチャンダイジング系、店舗運営系のそれぞれの業務において再現性のある仕組みをプラットフォーム化することで競争優位性を高め、変化する顧客のニーズにスピーディーに応えることを意味しております。当社グループは、「スパークス(SPARCS)」モデルを日々進化させ、これまで培ったプラットフォームを梃子に、生産から販売に至るすべての業務やリアルとネットのオペレーションを情報で同時につなぐべく、IT技術で事業基盤を絶え間なくアップデートし続けております。
そして、現在、アパレルを中心としたブランドの企画・生産・販売という「総合アパレル企業グループ」の枠を超えて、ファッションに関する多彩なサービスや投資を幅広く展開する「総合ファッションサービスグループ」となることを目指しております。
(2)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標
当社グループでは、本業の稼ぐ力を表す「コア営業利益」を最も重要視する経営指標としております。コア営業利益は、IFRSに基づく売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いて算出した、日本会計基準の営業利益に相当する数値であり、この持続的な向上を成長性の視点での重要指標に位置付けております。
この他、総資産に対するコア営業利益の割合であるROA(コア営業利益ベース)を収益性の指標として、また、自己資本に対する有利子負債の割合であるデット・エクイティ・レシオ(D/Eレシオ)を財務健全性の指標としてそれぞれ使用しており、さらに、上場後においては、株主資本に対するリターンの効率性を表すROEの維持・向上にも注力してまいります。
なお、現在の収益の柱であるブランド事業においては、商品(在庫)の収益性の指標として、交叉比率の分解能である「粗利益率」と「在庫回転率」の改善に取り組んでおります。また、成長性の指標としては、当社グループの持続的な成長をけん引するECチャネルでの売上高の連結売上高に対する比率も重視しております。
(3)中長期的な会社の経営戦略
当社グループのブランド事業においては、創業以来、経営環境の変化に応じ、卸売事業から、百貨店SPA(Speciality store retailer of Private label Apparelの略であり、製造小売業を指す。以下同じ。)事業、ショッピングセンターチャネルでのSPA業態へと事業形態を変化し、幅広い世代・テイストで、多様なチャネル及び価格帯でアパレルブランドを提供しております。また、「ブランド開発力」×「店舗開発力」でポートフォリオを拡充し、多様な事業のマネジメント能力を培ってまいりました。当社グループは、ブランドの寄せ集めにとどまることなく、ブランドの価値改善に必要な能力・資質を有するプラットフォームを構築するとともに、マルチチャネル・マルチブランドでの事業展開を通じて構築してきた空間・製造・販売・デジタルの各プラットフォームをさらに進化させ、高い機能専門性と規模の利益によるコスト削減を実現し、バリューアップ能力を磨いてまいりましたが、アパレル事業における競争優位性の強化をさらに追求してまいります。
他方、近時、衣料品市場が伸び悩む中で、国内のアパレル業界においては、百貨店、専門店、ECサイトなどのチャネルの垣根を越えた競争が激化し、成熟化した市場において、収益性の低い企業やブランドは単独では生き残りが困難な状況を迎えています。また、テクノロジーの進化に伴い、ファッション業界においても有力企業がシステム投資に踏み出す一方で、テクノロジーを武器にした新興企業による新規参入も見られるなど、デジタル軸での競争が不可避となりつつあります。
そこで、当社としては、これまでの多業態・多ブランドでの運営により培った多様性のマネジメント力、多様なファッション・ビジネスをフルカバーする外部のベンダーに依存しない先進的な自前のITシステム、ファッション・ビジネスの事業改善に貢献するフルラインナップのプラットフォームといった当社グループの強みを活かして、アパレル事業の改善にとどまらず、アパレル事業以外の事業(非アパレル事業)を拡大することを企図しております。例えば、ライフスタイルブランド拡充の一環として、2017年12月に家具や雑貨などの輸入・販売・卸を行う株式会社アスプルンドを買収し、また、これまで未開拓だった二次流通(中古品の買取り及び販売)への進出やデジタルプラットフォームの強化を目的として、2018年3月にサブスクリプション(定額利用)型レンタルアプリ「サスティナ」を営む株式会社オムニスへの出資、及び同年4月にユーズドセレクトショップを運営する株式会社ティンパンアレイの買収をそれぞれ行いました。これらはリユース、レンタルを通じたサステナブルなファッションの楽しみを提供する取組みであります。そして、当社グループの有する上記のような強みを活かし、『投資事業』において自社ブランドのバリューアップや外部資本との提携、他社ブランドへの投資などによる事業ポートフォリオ全体の最適化を目指すとともに、『デジタル事業』において、投資事業とも連携しつつ、ITやテクノロジーを駆使した他社向けのデジタルソリューションサービス(ソリューション事業(B2B))を拡大することで、多様なテクノロジー、ベンチャー企業との連携を通じた新たなビジネス・シーズを育成し、顧客の変化に適合した次世代型ファッション・サービスの開発(ネオエコノミー事業(B2C))を推進し、更なる付加価値の創造を進めていきたいと考えております。
これらの結果として、当社としては、連結コア営業利益の持続的な成長を図りつつ、当社グループ全体のコア営業利益に占める非アパレル事業のコア営業利益(注)の割合(2017年3月期:29%、2018年3月期:33%)を、中長期的には約50%まで向上させることを目指しております。
(注)「アパレル事業」/「非アパレル事業」の区分は、ブランド事業及びプラットフォーム事業をベースにして「アパレル事業」を把握するなど、当社が独自に定義したものであります。このため、一般にアパレルと称される事業領域が、当社グループのブランド事業及びプラットフォーム事業以外の事業セグメント(投資事業又はデジタル事業)に含まれる場合、当該領域は「非アパレル事業」に区分されることがあります。
具体的な定義及び算定方法は以下のとおりです。
「非アパレル事業」とは、当社グループの営む事業から「アパレル事業」を除いたものを指し、アパレル事業及び非アパレル事業のコア営業利益は以下のとおり算出されています(但し、いずれも未監査の数値です。)。
「アパレル事業」のコア営業利益 =[ブランド事業のコア営業利益-(海外のコア営業利益+国内ライフスタイルブランドのコア営業利益)]+アパレルプラットフォームのコア営業利益
「非アパレル事業」のコア営業利益=当社の連結コア営業利益-「アパレル事業」のコア営業利益
海外のコア営業利益は、World Korea Co., Ltd.、台湾和亜留土股份有限公司、世界連合時装(上海)有限公司及びWorld Saha Fashion Co., Ltd.各社のコア営業利益の単純合算です。
国内ライフスタイルブランドのコア営業利益は、株式会社ワールドライフスタイルクリエーション及びその傘下の子会社群のコア営業利益の単純合算(但し、株式会社ワールドライフスタイルクリエーションが当該子会社群から受領する配当額は控除)です。
アパレルプラットフォームのコア営業利益は株式会社ワールドストアパートナーズのコア営業利益並びに株式会社ワールドプロダクションパートナーズ及びその傘下の子会社群のコア営業利益(単純合算)の単純合算です。
なお、株式会社アスプルンド及び株式会社ティンパンアレイは、2020年3月期以降は連結財務諸表上でそれぞれブランド事業及びデジタル事業に含まれる予定ですが、アパレル事業・非アパレル事業のコア営業利益の算定上は、2018年3月期から継続して非アパレル事業に含まれるものとして算定する予定です。
その他、今後実施する可能性のある事業セグメント間の子会社・事業の異動やM&Aによる業績への影響は反映しておりません。
(4)経営環境及び対処すべき課題
当社グループを取り巻く経営環境は、人口減少や少子高齢化の進行にともなう数量減少に加えて、国内アパレル市場も成熟化して単価下落が進む一方、海外生産地での加工賃上昇や為替変動による仕入価格の上昇のほか、人手不足による人件費や物流費といった経費増加も生じるなど、引き続き厳しい状況が続くことが予想されます。また、デジタル化の進展を背景として消費者の購買行動は急速に変化しており、新たなビジネスチャンスが生まれているものの、新規参入企業の誘発などを通じて異業種や外資系も巻き込んだ競争激化が継続しております。こうした国内アパレル市場や消費者の大きな変化の中で、永続的に成長を遂げ、勝ち続ける企業組織であるためには、これらの環境変化の認識のもと、更なる変革が必要であると認識しております。そして、自己変革を具現化するためにも、以下の点を対処すべき課題と認識し、解決に向けて重点的に取り組んでまいります。
①事業収益力の向上
当社グループは、2017年4月の事業持株会社体制への移行にともない、新たに事業セグメントを4分類とし、事業セグメント間の密接な連携や相互の活用で一枚岩を図りつつ、それぞれのセグメントで異なる外部顧客に向けた営業活動等に取り組んでおります。
それぞれの事業セグメントの具体的な課題や取り組みについては、以下のとおりであります。
(ブランド事業)
ブランド事業においては、強化すべきブランドと店舗への更なる選択と集中に取り組んでまいります。成熟した市場では、過去のようなブランド開発や新規出店だけに頼った収益成長が見込めないと判断しており、既存のブランドや店舗で経営資源を集中すべきところへ傾斜配分するなど、グループ全体最適の視点でポートフォリオマネジメントを強力に推進してまいります。また、ITを駆使して収益性改善を進め、利益を伴わない売上は追わず、ブランドを磨き続けてまいります。
また、ブランドや店舗と同じく、商品面でも選択と集中を進めてまいります。強化品番である「Sランク商品」について、いかに精度高く開発し、必要な量を確保し、お客様にきちんとお伝えし、売上を確保していくか、というSランク「売り積み」業務が重要となりますが、これは開発、MD、生産、販促、店舗といったバリューチェーンの全ての業務がSランクの売り積みに向けて連鎖することで実現可能となります。
これらの取組みを通じて、2018年3月期において98%であった既存店売上前年比については、「利益を伴わない売上は追わない」という基本方針を維持しつつ、今後100%としていくことを目指してまいります。
さらに、近時急速に進むEC化を踏まえ、ワールドオンラインストア(WOS)等を通じたECでの取扱高を高めていきたいと考えております。
この他、主に地域密着が重要な近隣商圏型ショッピングセンター(NSC)を対象に、他人資本の活用で事業投資の効率性とスピードを可能にしたフランチャイズ事業も拡大してまいります。当社グループのアパレル企画開発力とストアの運営ノウハウを最大限に活用し、加盟店舗は2018年3月期末では30法人67店舗まで拡充しております。
(投資事業)
投資事業においては、当社が持株会社として担う事業ポートフォリオマネジメントや子会社群に対する経営管理・支援サービスの一環として、自律的な運営を行うには収益面で課題のある開発・改革ブランドのバリューアップ事業やプリンシパル投資とファンド投資のハイブリッド型に特長のあるM&A事業を手掛けております。当社グループの事業ポートフォリオを弾力的にマネジメントするため、外部の経営資源やノウハウを活用したインキュベーター(企業や事業を支援する者)の役割を果たしております。また、ポートフォリオ鮮度を維持するため、事業の新陳代謝を促す「事業入れ替えの空間(集中治療室)」にもなっております。
バリューアップ事業には、現在のところ、当社グループで未だ収益構造を確立できていないセレクトブランドや一部SCブランドが含まれております。開発・改革系ブランド群はマーケット視点で拡大余地が認められるものの、安定的な収益モデルで成立するに至らないものが多く、当社グループ内では投資対象として優先順位が高くない場合、株式会社ワールドインベストメントネットワーク又はその傘下の孫会社の下に移して管理支援を行いつつ、外部資本の活用等も視野に入れた事業開発・改革を進めて収益構造の確立を目指してまいります。例えば、2018年4月1日付で、ピンクラテ事業などを投資事業セグメントからブランド事業セグメントに移管する一方、バリューアップが必要なアダバット事業をブラント事業セグメントから投資事業セグメントに移管する等の事業セグメントのポートフォリオの変更を行っております。
一方、M&A事業においては、当社及び中間持株会社である株式会社ワールドインベストメントネットワークによるプリンシパル投資として、主には従来型のアパレル以外の領域で自己資金による買収を行い、当社グループの非アパレルブランドの拡充やバリューチェーンの補強を進めております。例えば、当社グループは、株式会社ワールドインベストメントネットワークを通じて、2017年12月に家具や雑貨などの輸入・販売・卸を行う株式会社アスプルンドを、2018年4月にユーズドセレクトショップを運営する株式会社ティンパンアレイを完全子会社化いたしました。こうして外部より連結加入してきた企業や事業のPMI(M&A後統合プロセス)は、当初の1年間で集中的に取り組んでおり、当社グループの一員としてプラットフォーム活用のシナジーなどが早期に発揮できるようバックアップしております。加えて、デジタルプラットフォームの強化や新規サービスの開発に必要な技術の獲得等を目的として、ファッションとテクノロジーが融合したファッションテックといった新たな分野には、マイノリティ出資も活用して、秀でた技術や特筆すべき特長を有するベンチャー系企業との協業による新たなビジネス・シーズ(ネオエコノミー事業)の開発・育成のための投資を推進しており、2018年3月には株式会社オムニスに、同年5月には株式会社キャンプファイヤーにそれぞれ出資いたしました。
また、M&A事業においては、投資ファンドの組成・運用機能も担っており、株式会社日本政策投資銀行(DBJ)との共同運営ファンドであるW&Dデザインファンドに代表される投資ビークルも活用した、アパレル領域での事業の再生や成長の支援、事業承継を目的にした投資案件を主に行っております。W&Dデザインファンドでは「当社グループが有する事業運営ノウハウや多様なプラットフォーム機能の提供」と「DBJが培ってきたファイナンスノウハウや産業調査能力を活かしたリスクマネーの供与」といった両社の特長を梃子に投資対象の価値を引き上げることを狙っており、当社グループの事業ポートフォリオの入れ替えにとどまらず、業界再編や合従連衡の一翼を担うことでファッション産業の発展に貢献することも目指しており、2017年12月には、W&Dデザインファンドを通じて、セレクトショップを運営する株式会社YOUR SANCTUARYに出資いたしました。
(デジタル事業)
デジタル事業では、B2Bのソリューション事業とB2Cのネオエコノミー事業という二つの空間に分け、当面はいずれも先行投資によって開発・育成を進めながら、中長期的にはソリューション事業で当社グループの内から外へサービスラインの展開を加速させ、ネオエコノミー事業では顧客の変化に適合した新たなファッション・サービスを開発し価値の創造に取り組みたいと考えております。
ソリューション事業においては、EC等における受注、梱包、発送、入金等の一連のプロセスを指すフルフィルメントを含んだEC受託を起点に、バリューチェーンをフルカバーする多様な機能群に至る、ファッションビジネスに必要な全ての業務領域を支えるデジタルプラットフォームの構築と提供を推進しております。EC受託では、当社のデジタル担当部門「D-GROWTH」が当社グループのブランド群が出店するワールドオンラインストア(WOS)を、株式会社ファッション・コ・ラボが他社ブランドが出店するECモールであるファッションウォーカー(FASHIONWALKER)をそれぞれ運営することで、顧客から見て役割分担をしていますが、それらを支えるIT基盤を統一することで事業の合理化・効率化を図っております。
このEC受託で特筆すべきは、ブランド事業との協業等も通じて、CRM(注)1.活動を強化していることです。当社グループは、登録会員数が870万人(直近1年間の稼動会員数で636万人)にのぼるワールドプレミアムクラブ(WPC)という会員組織を有しており、このWPCはオフライン(店舗)とオンライン(EC)が統合されたO2O(注)2.対応の優良な会員基盤を有しています。WPC会員の購買状況からは、店舗とECの両販路での併買客は年間購買金額が単独販路の購買客に比べて3倍以上と「顧客の囲い込み効果」がみられており、店舗購買客とEC購買客の相互送客によるO2Oの強化で顧客満足と顧客売上の両輪での向上を実現してまいります。
(注)1.CRM…カスタマー・リレーション・マネジメントの略。企業と顧客との関係において、顧客満足度と顧客ロイヤルティの向上を通して、売上の拡大と収益性の向上を目指す経営戦略・手法
2.O2O…ONLINE TO OFFLINEの略で、ネット上(オンライン)から、ネット外の店舗などの実地(オフライン)での行動や購買へ促す施策のこと
また、当社グループのリアルな事業経験に裏打ちされたシステムについては、「中小企業でも低廉なコストで利用できるサービス」をコンセプトに他社への魅力あるサービス提供も視野に入れて、全業務領域のシステム刷新に伴う開発投資やITコンサルティング会社の設立・始動に取り組んでおります。
一方、ネオエコノミー事業については、顧客の変化に合わせたビジネス・シーズを増やすべく、デジタル軸で新たなサービスの開発・展開に乗り出しております。このため、前記「(3) 中長期的な会社の経営戦略」にも記載のとおり、投資事業との連携も通じて、当社グループに足りない技術や資源、ノウハウを外部から獲得・補強いたします。「所有から利用へ」、「マスからパーソナルへ」、「一方通行から双方向へ」といったキーワードに代表されるように、消費の在り方そのものが大きく変化するなか、「次世代ファッションのビジネスモデル開発で欠かせないのが『つなぎ目にあるロス』を埋める協業である」という思想に基づき、従来の大量生産・大量販売から、もっと多彩なファッション・サービスの提案へと、過去における事業開発とは発想や仕様、手法を大転換していることが特徴です。例えば、現在投資事業に属している株式会社オムニスや株式会社キャンプファイヤーと連携することで、新たなテクノロジー・ITを通じた価値創造が可能になると考えております。
(プラットフォーム事業)
プラットフォーム事業においては、当社グループが長年に渡って培ってきた様々なノウハウと仕組みが凝縮された、多業態・多ブランドを支えてきたプラットフォームについて、これまでの当社グループ企業による利用に留まることなく、新たに外部企業にも開放する形で各種サービスの提供へ取り組んでおります。
アパレルプラットフォームにおいては、株式会社ワールドプロダクションパートナーズを中核とした生産系グループが、OEM受託として、国内から中国、アセアンにいたる幅広い生産基盤や商標資産、企画機能といった有形・無形のノウハウやアセットを外部企業に提供しているほか、販売系子会社である株式会社ワールドストアパートナーズも店舗開発や販売代行、在庫消化といった多様な販売支援メニューを提供しております。
また、ライフスタイルプラットフォームとして、当社グループが多様な販売チャネルへの直営店の展開を通じて培ってきたノウハウやアセットも活用します。例えば、株式会社ワールドスペースソリューションズが店舗設計や什器調達、VMD(注)3.機能等をファッション関連企業に空間創造支援サービスとして提供するほか、競争優位性のある海外什器調達力を背景にホテルや飲食店の内装等にも事業範囲を拡大しております。この他、シェアードサービスプラットフォームとして、株式会社ワールドビジネスサポートがファッションビジネスに関わる様々な事務処理・手続き等の各種事務サービスを一括で受託できる体制を整えています。
そして、こうした当社グループの各種プラットフォームを組み合わせてワンストップでサービスを提供することは、例えば、海外ブランド企業の日本進出支援に有効な手段となります。海外企業の日本初進出時には、店舗開発や店舗運営、経理等の本部機能やシステム構築、物流網の設置など、起業特有の多岐に渡る分野で幾つものハードルがあります。当社グループは、こうした一連の業務支援をパッケージとして、競争力ある価格でまとめて提供することが可能となっております。
(注)3.VMD…VMDとは、ヴィジュアル・マーチャンダイジングの略。ディスプレイ、インテリア、販売促進など商品MDを視覚面からサポートする専門機能
②財務体質の改善
当社グループは、保有資産の有効活用による価値極大化も目指しており、資産に対するリターンである資産効率の向上に取り組んでおります。ここ2年程度は、ブランド事業の中核的なアセットである棚卸資産の圧縮で在庫回転率の改善を進めたほか、不動産の入れ替えなどで固定資産の収益力も引き上げました。
こうした資産の効率性及び収益力の向上を図るとともに、その対となる資金調達面において、負債・資本バランスといった財務体質の改善を進めてきております。MBO時の資金源として銀行借入やメザニンを利用した経緯もあり、資本に対する借入金の割合が大きいといった課題を抱えていますが、過去2年間で借入金のリファイナンスによる安定化を図っており、次は優先株式の償還に専念できる財務基盤を構築してまいりました。
そして、当社は、2018年6月26日に7,011百万円の資本金の減少を行い、それにより増加したその他資本剰余金により分配可能額を創出して、2018年6月29日には優先株式の一部40,616,860株(合計価額10,000,086,614円)の自己株式取得及び消却を実施しております。また、2019年3月期第1四半期における事業活動により得た利益及びグローバル・オファリングにより増加したその他資本剰余金により分配可能額を創出したうえで、グローバル・オファリングによる調達資金を原資として、残りの優先株式のうち、3,206,000株(合計価額4,002百万円)を2018年9月28日付で取得し、また、その残数4,913,600株(合計価額6,208百万円)を2018年12月末までに全額取得することを企図しております。また当社は、2019年3月期において、今後の成長のための戦略投資及び事業投資として、株式会社ティンパンアレイの完全子会社化及び株式会社キャンプファイヤー等への出資を実施してきております。これらの出資のための資金を含めた短期借入金の返済については、財務体質を改善させることを目的に、2019年3月期に13,614百万円を充当する予定であります。上記の優先株式全ての取得及び消却後は、更なる有利子負債の約定弁済を進めていく所存です。
これらの施策により、2018年3月期末において3.9倍であった当社グループのD/Eレシオは、グローバル・オファリング及びそれによる優先株式の全額償還後は約1.0倍以下となる見込みであり、さらに中長期的には約0.5倍の水準を目指してまいります。このように財務レバレッジは大幅に低下するものの、優先配当の負担軽減が連結当期利益に相応に貢献することもあり、当期利益の成長と株主還元の拡充の両方を適切にコントロールすることで、中長期的にROE10%程度の達成及び維持を目指してまいります。
(注)国際会計基準(IFRS)上、優先株式は、資本ではなく有利子負債として計上されております。
③人材等のリソースの確保
当社としましては、これまでのブランド事業やプラットフォーム事業に加えて、新たな成長領域としてデジタル事業や投資事業を位置付けており、今後の事業の柱に不可欠な人材や資金といったリソースの確保も重要課題と認識しています。
特に、当社グループでは、グローバル・オファリングによる調達資金により、今後3か年で、成長資金としてシステム投資に10,083百万円、プリンシパルインベストメントとして当社が直接投資する戦略投資に10,000百万円、当社グループにおいて事業投資を行う株式会社W&Dインベストメントデザインの出資枠に10,000百万円を投資することを計画しておりますが、今後もこの投資事業とデジタル事業における成長投資のための資金の確保が引き続き重要と認識しております。また、当社グループの事業構造の非連続な変革に見合った優秀人材の確保も重要であるため、継続的に次世代リーダーを輩出していく仕組み作りに加え、投資事業やデジタル事業の素養を有する外部人材の獲得にも注力してまいります。
④コーポレート・ガバナンスの強化
当社はグループ企業価値を高めるため、事業持株会社としてグループ経営戦略を立案し、子会社間でのシナジー効果の追求や子会社に対する管理・監督機能を適正かつ有効に発揮すべく、今後もグループの業務や組織運営、事業ポートフォリオの最適化や保有資産の価値最大化に取り組んでまいります。
そして、企業の社会的責任(CSR)の高まりに継続的に応えていくため、今後も意思決定プロセスの透明性確保や企業経営の効率性向上に注力するとともに、コンプライアンス体制の強化と内部統制システムの充実を図ってまいります。
また、監督と執行の分離で迅速な意思決定を行うことにより、グループ企業価値の更なる向上を目指しております。同時に、社外取締役が過半数を占める取締役会の監督機能の強化なども図っており、コーポレート・ガバナンス体制の一層の強化に取り組んでおります。