有価証券報告書-第159期(2024/03/01-2025/02/28)
対処すべき課題
髙島屋グループ(以下、当社)の経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。
(1)経営方針
2024年度は、「グランドデザイン元年」として、当社グループが目指す将来の姿を社内外に発表しました。グループ内では全社を挙げて「車座ミーティング」を実施、一人ひとりがグループの価値観を共有し、将来の道筋を考え、自らの具体的行動に落とし込む取組を進めました。また、社外に向けては、新たな「中期経営計画(3カ年)」を公表、グランドデザイン実現に向け具体的施策の実行フェーズに入ったことを示しました。12月には「統合報告書」を初めて発行し、各ステークホルダーへの価値創造ストーリーを説明しています。
経営管理手法としては「ROIC」を導入し、各社・事業部・店別でROICツリーを作成、一人ひとりの行動が利益につながる意識を醸成しました。
2025年度の経営環境は、コロナ後の上向きな消費環境が一段落し、世界的な地政学リスクが日本の金融市場(金利・為替・株価)や経済(物価・消費・訪日外国人需要)にどのような影響を及ぼすか、引き続き注視が必要な状況です。このような中でも、グループとして確実に持続的成長の階段を駆け上がることと、2031年のグランドデザイン実現から逆算し、「すべてのステークホルダーの『こころ豊かな生活を実現する身近なプラットフォーム』」形成に向けて加速することの、両軸での取組実現が求められます。
複雑な経営環境での持続的成長の実現には、働く一人ひとりはもちろんのこと、グループ各事業がそれぞれの分野で市場競争力を高めていく「自立」が求められます。そうして独立した個人や組織が相互に連携し、「共創」のうねりを生み出すことで、成長を加速させることを企図し、2025年度の経営目標・経営課題を次のとおりに定めております。
[経営目標]
自立と共創のうねりによる成長加速
―グランドデザイン実現に向けた「グループのシームレス化」の始動―
[主要な経営課題]
① グループの総力で創りあげる「次世代型SC」
② 価値創造の源泉となる営業力強化
③ 個人の成長支援に向けた組織・土台づくり
④ 営業活動を軸としたESG経営の実践
⑤ 成長領域での更なる存在感の発揮
2025年度は、グランドデザインで掲げる「あるべきグループ像」の実現に向けて、重要な戦略要素である「グループのシームレス化」を始動します。当社グループは、「店舗の立地特性」「優良なグループ会社」、そして各拠点・各組織で培った「幅広い顧客基盤」という「3つの強み」を有しております。国内・海外の各拠点(百貨店・専門店)、EC、金融などグループで取り扱う商品、サービス、情報の総和は、当社グループならではの競争優位性であります。この強みを更に昇華させるべく、お客様視点でグループの各事業が等距離にある状態、すなわち「シームレス化」を実現し、お客様にストレスなく、かつ感動を与える購買体験を創出してまいります。そのために、グループ内で取り扱うすべての商品・サービス・情報から、お客様それぞれのご要望に合わせた最適な提案を行うなど、シームレスの具現化に向けた検討を進めてまいります。
(2)経営上の目標達成状況を判断するための客観的な指標等
2026年度(中期経営計画の最終年度)の連結経営目標は以下の通りです。
〇営業利益 600億円 ( 2024年度比 + 25 億円)
〇自己資本比率 40.0% ( 同 + 3.5% )
〇ROE 8.2% ( 同 △ 0.3% )
〇ROIC(投下資本利益率) 6.1% ( 同 △ 0.3% )
また2025年度の連結経営目標は以下の通りです。
〇総額営業収益 10,700億円 ( 2024年度比 + 373億円)
〇総額営業収益販売管理費比率 23.4% ( 同 △ 0.1% )
〇営業利益 580億円 ( 同 + 5億円)
〇自己資本比率 38.0% ( 同 + 1.5% )
〇ROE(当期純利益/自己資本) 8.2% ( 同 △ 0.3% )
〇EBITDA総資産比率 6.3% ( 同 + 0.1% )
〇純有利子負債EBITDA倍率 1.6倍 ( 同 + 0.2倍 )
〇ROIC(投下資本利益率) 6.2% ( 同 △ 0.2% )
(3)経営環境及び対処すべき課題
2025年度の経営課題を「グループの総力で創りあげる次世代型SC」「価値創造の源泉となる営業力強化」「個人の成長支援に向けた組織・土台づくり」「営業活動を軸としたESG経営の実践」「成長領域での更なる存在感の発揮」と定めております。
□グループの総力で創りあげる「次世代型SC」、価値創造の源泉となる営業力強化
グランドデザイン実現に向け、「次世代型SC」への転換は「まちづくり」における重要な取組であります。個人と組織の「自立」と相互の「共創」という考え方の下、グループ各事業のノウハウを結集し、それぞれの経営資源を相互に活用することで「館の魅力最大化」につなげてまいります。「次世代型SC」の特徴は3点あり、1点目は、「新たなコンテンツ導入による来店動機の創出」であります。SCがリアルな存在としてお客様に支持され続けるためにも、お買物やお食事だけではない「プラスαの体験価値」の提供により、広域かつ幅広い世代のお客様のご来店を促進し、賑わいを創出してまいります。
2点目は、「地域の社会インフラとしての機能具備」であります。「まちづくり」をグループ総合戦略として掲げる当社において、「地域社会」というステークホルダーへの貢献は必要不可欠であります。SCが有する「誰もが知っている」「便利な場所にある」「大きな施設」という資質をいかし、地域コミュニティー形成や循環型社会のターミナルとしての役割発揮、再生可能エネルギー導入・都市緑化の象徴的施設としてのメッセージ発信、さらに、防災拠点として避難場所・ライフラインの供給機能の拡充を進めてまいります。
3点目は、「百貨店の存在をより活用すること」であります。百貨店・専門店それぞれの強みをいかすだけではなく、百貨店が有するお客様情報の利活用やフロア構成の最適化などにおいて、より踏み込んで連携することにより、拠点全体としての魅力向上を実現してまいります。
「次世代型SC」においても中核となるのは百貨店であります。髙島屋ブランド価値を高めていくために、百貨店の魅力そのものを向上させるべく、「より心豊かな暮らし」や「新しいモノ・コト」への期待といったお客様の根源的・普遍的なニーズに応える力を商品政策や顧客政策、販売・サービス政策を通じて高めてまいります。
また、管理手法においても、2025年度から導入する「店別貸借対照表(バランスシート)」をベースに、百貨店・専門店を区切らず、SC全体としてのROICを算出・検証するサイクルを構築し、「拠点利益」を意識した経営を進めることでROIC経営を定着させてまいります。
□個人の成長支援に向けた組織・土台づくり
当社は、経営理念「いつも、人から。」が表すとおり、「人」で成り立つ企業集団であります。エンゲージメントと生産性向上の好循環を促し持続的成長につなげるべく、人的資本経営、すなわち多様な人材の活躍支援や積極登用に加え、グループ横断での人材育成にも取り組んでまいります。また、土台となる組織風土におきましては、DE&Iの考え方の下、従業員個々の能力を最大化させていくマネジメントを実践してまいります。さらには、昨年公表いたしました「カスタマーハラスメントに対する基本方針」で策定した方針の実効性を高めるべく、定期的なモニタリングを行うなど、お取引先従業員も含め安心して能力を発揮できる環境を継続して整備してまいります。
□営業活動を軸としたESG経営の実践
グループの持続的成長には、「地球環境」を含めたすべてのステークホルダーと利益を共に分かち合い、相互にエンゲージメントを高めていく仕組みの創造が必要であります。従業員一人ひとりがESG経営に取り組む姿勢を理解し、主体的に行動できる風土醸成を進めていくと共に、多くのお客様との接点がある当社ならではのメッセージを発信していくことで、その効果を最大限に発揮してまいります。
象徴的な取組である「TSUNAGU ACTION」におきましては、グループ各組織の事業特性・経営資源をいかし、取組を加速してまいります。持続可能な発展に不可欠な収益性の視点を強化し、社会課題解決と両立した「サステナブルな収益拡大」を目指してまいります。
なお、ESG経営のガバナンス・戦略・リスク管理とリスクに対する取組・指標と目標については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1)当社のESG経営」に記載しています。
□成長領域での更なる存在感の発揮
海外と金融を成長領域と位置付けている中、海外事業におきましては、「シンガポール髙島屋S.C.」で培ったノウハウやパートナーシップをいかし、成長市場であるベトナムでの開発を段階的に進めてまいります。また、金融事業におきましても、カード事業に加え、新たな領域にチャレンジし事業基盤を拡大してまいります。これら成長領域で利益増大を図っていくことで、創業200周年を迎える2031年には、グループ利益水準(連結営業利益+持分法投資利益+東神開発のベトナム関連会社からの配当益)を750億円から800億円と見込んでおります。さらに、海外事業の利益シェアは2023年度の28%から33%、百貨店事業以外の利益シェアは2023年度の38%から、約半分となる47%まで引き上げ、経営環境の変化に柔軟に対応できるバランスの良い事業ポートフォリオを同時に実現してまいります。
事業のセグメント別の取組は、次のとおりであります。
なお、当連結会計年度より、事業ポートフォリオの最適化、事業別の投資効率、収益性などを明確にするROIC経営を更に推進することに伴い、報告セグメントの区分を変更しております。詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(セグメント情報等)」に記載のとおりであります。
<国内百貨店業>営業力強化に向けて、商品政策では、当社の強みの一つである東西大型5店を軸に「魅力ある品揃え」の実現に向け、バイイングパワーを高めてまいります。継続的課題になっております商品利益率につきましては、今後も重点お取引先と連携し、正価品強化など商品利益率改善に向けた取組を進めてまいります。さらに、「アイテム平場」「自主編集売場」の再強化や、新たなモノ・コト開発を進めていくことで、実店舗の強みをいかしたワンストップでの体験価値を提供してまいります。
ECにおきましては、引き続きお客様のニーズに沿った展開ブランドの拡充やサイト・アプリの特徴化、利便性を高める取組を推進してまいります。また、実店舗を持つ強みをいかし店頭とECの相互送客により顧客接点を拡大することで、新たなお客様の獲得や収益力の向上につなげてまいります。
顧客政策では、4月から髙島屋の各種カードのポイントが「1ポイント単位で利用可能」となったことを契機に、カード戦略のリブランディングを始動、既存顧客の満足度向上と次世代顧客獲得の両立に取り組んでまいります。また、タカシマヤアプリにおきましても、特典付与機能の強化に加え、デジタルでのアプローチなど、重要な顧客接点ツールとしてアプリの魅力を高めてまいります。
さらに、シンガポールなど優良な海外店舗を有するという強みをいかした国内店舗との相互送客により、国境を越えた買い回りを促進し固定化を図ってまいります。
なお、2026年1月7日をもって営業を終了する堺店につきましては、これまでご利用いただいているお客様に、引き続き大阪店や泉北店を中心にご愛顧いただける体制を整えてまいります。
<海外百貨店業>シンガポール髙島屋におきましては、経営環境が不透明な中、ファッション関連商品や食料品など品揃えの再強化に加え、顧客政策を推進することで、国内顧客やツーリストの維持・拡大を図ってまいります。
上海高島屋におきましては、景気低迷による消費減速が長期化する状況下、お客様ニーズに基づいたテナントの導入など、収益基盤の安定化に継続して取り組んでまいります。
ホーチミン髙島屋におきましては、2024年12月にホーチミン市で初の都市鉄道が開通したことを受け、商品カテゴリー・ブランドの再編や催・イベントの強化により店舗の集客力を高め、売上を増大させてまいります。
サイアム髙島屋におきましては、化粧品売場のリニューアルに続き、今後も新規テナントの導入など、各フロアの改装オープンを予定しており、改装効果の最大化に向けた取組を推進してまいります。
<国内商業開発業>東神開発株式会社が段階的に改装を実施してきた「柏髙島屋ステーションモール」におきましては、2025年2月に千葉県柏市の施設である「柏駅前行政サービスセンター」など3つの施設が新たにオープンいたしました。これにより2023年9月から進めてきたリニューアルが完成いたしました。今後もさらに便利で利用しやすい場を目指してまいります。また、「玉川髙島屋S・C」におきましては、2025年4月に西館ストリートをリニューアルし、話題の4店舗を誘致したフードコート「P.」が開業いたしました。これにより、歩道と空間、地域をつなぐ、新たなお買物環境を提供してまいります。
<海外商業開発業>成長ドライバーと位置付けるベトナム開発におきましては、東神開発株式会社がハノイでの住宅・オフィス・商業の複合開発事業を始めとした投資を集中的に行い、シンガポールに次ぐ第2の収益の柱として成長性と収益性を追求してまいります。
<金融業>「髙島屋ネオバンク」を活用した積立サービス「スゴ積み」では、従来の12カ月積立コースに加え、新たに半年積立コースを導入いたしました。短期間での積み立てで、ボーナスをプラスした金額をお買物にご利用いただけます。これにより、新たなお客様の入会を促進し、顧客接点の拡大につなげてまいります。
また、髙島屋ファイナンシャル・パートナーズ株式会社におきましては、住信SBIネット銀行を所属銀行とする銀行代理業の許可を取得いたしました。日本橋店・横浜店・大阪店のタカシマヤファイナンシャルカウンター等で「銀行商品」のご案内を開始し、証券・保険・相続・信託を含めた総合的な金融相談やサービスの提供を進めてまいります。
さらに、子会社化したヴァスト・キュルチュール株式会社との相互送客を推進していくなど、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)市場での事業を拡大し、質の高いプライベートバンクサービスを提供することで、当社グループの顧客基盤を盤石化させると共に、金融業の利益増大を図ってまいります。
<建装業>髙島屋スペースクリエイツ株式会社におきましては、ベトナムに住宅内装事業を手掛ける新会社を設立いたします。生活水準の向上により今後高まっていくことが予想される、日本クオリティーの住宅内装需要を確実に捉えてまいります。
<その他の事業>飲食業の株式会社アール・ティー・コーポレーションにおきましては、昨年、セントラルキッチンの新拠点が始動いたしました。既存拠点と併せて活用することで製造加工・調達物流の効率化を図ると共に、独自性のある商品開発を更に推進してまいります。
株式会社センチュリーアンドカンパニーにおきましては、百貨店で培ったクオリティーの高い業務運営力をいかし、受注拡大を図ってまいります。
また、広告宣伝業の株式会社エー・ティ・エーにおきましては、デジタル領域の専門性強化を推進してまいります。
引き続き、各事業におきまして、業界競争力を高めていくことにより、安定的な収益基盤の構築につなげてまいります。
(4)資本政策の基本的な方針
<基本的な考え方>当社は、将来の事業リスクへの備えおよび持続的な成長投資に向けた資金調達のため、自己資本拡充と有利子負債の縮減により財務健全性を高めていきます。
主要な経営指標(KPI)として、ROIC、EBITDA、自己資本比率、DOE(株主資本配当率)、TSR(株主総利回り)を設定しております。特に資本コストを意識した経営の実現に向けた取組として、ROIC経営を推進しております。2024年度のROICは6.4%とWACC4.8%を上回りました。今後も、百貨店各店含む各事業体で特性を踏まえたROICツリーを活用、現場一人ひとりが意識し行動できる仕組みを構築してまいります。EBITDAについては、財務安定性の観点から、純有利子負債EBITDA倍率、現金創出力の観点から、総資産対EBITDA比率を設定しております。
各経営指標については、決算説明会資料(※)で開示しております。
※ https://www.takashimaya.co.jp/corp/ir/tanshin/
<キャッシュアロケーションの想定>当社では、営業キャッシュ・フローに占める、持続的成長に向けた設備投資への配分が約80%から90%想定されます。その内訳は、商業開発を中心にした国内外成長投資に約70%、店舗の安全安心投資、ESG・人的資本投資に約30%です。
また、財務健全性の観点については、数年以内に適用が予定されるリース会計基準を見越した有利子負債圧縮に向けた支出が営業CFの3%から5%想定されます。
株主還元へは、営業CFの7%から10%を想定します。
<株主還元>配当は、純資産増加をベースとした累進配当に加え、EBITDA又は営業CF比率を考慮します。業績が好調に推移するなど、フリーキャッシュ・フローが想定以上に改善した場合は、投資額の増加、さらなる有利子負債圧縮、追加の株主還元から総合的に判断します。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。
(1)経営方針
2024年度は、「グランドデザイン元年」として、当社グループが目指す将来の姿を社内外に発表しました。グループ内では全社を挙げて「車座ミーティング」を実施、一人ひとりがグループの価値観を共有し、将来の道筋を考え、自らの具体的行動に落とし込む取組を進めました。また、社外に向けては、新たな「中期経営計画(3カ年)」を公表、グランドデザイン実現に向け具体的施策の実行フェーズに入ったことを示しました。12月には「統合報告書」を初めて発行し、各ステークホルダーへの価値創造ストーリーを説明しています。
経営管理手法としては「ROIC」を導入し、各社・事業部・店別でROICツリーを作成、一人ひとりの行動が利益につながる意識を醸成しました。
2025年度の経営環境は、コロナ後の上向きな消費環境が一段落し、世界的な地政学リスクが日本の金融市場(金利・為替・株価)や経済(物価・消費・訪日外国人需要)にどのような影響を及ぼすか、引き続き注視が必要な状況です。このような中でも、グループとして確実に持続的成長の階段を駆け上がることと、2031年のグランドデザイン実現から逆算し、「すべてのステークホルダーの『こころ豊かな生活を実現する身近なプラットフォーム』」形成に向けて加速することの、両軸での取組実現が求められます。
複雑な経営環境での持続的成長の実現には、働く一人ひとりはもちろんのこと、グループ各事業がそれぞれの分野で市場競争力を高めていく「自立」が求められます。そうして独立した個人や組織が相互に連携し、「共創」のうねりを生み出すことで、成長を加速させることを企図し、2025年度の経営目標・経営課題を次のとおりに定めております。
[経営目標]
自立と共創のうねりによる成長加速
―グランドデザイン実現に向けた「グループのシームレス化」の始動―
[主要な経営課題]
① グループの総力で創りあげる「次世代型SC」
② 価値創造の源泉となる営業力強化
③ 個人の成長支援に向けた組織・土台づくり
④ 営業活動を軸としたESG経営の実践
⑤ 成長領域での更なる存在感の発揮
2025年度は、グランドデザインで掲げる「あるべきグループ像」の実現に向けて、重要な戦略要素である「グループのシームレス化」を始動します。当社グループは、「店舗の立地特性」「優良なグループ会社」、そして各拠点・各組織で培った「幅広い顧客基盤」という「3つの強み」を有しております。国内・海外の各拠点(百貨店・専門店)、EC、金融などグループで取り扱う商品、サービス、情報の総和は、当社グループならではの競争優位性であります。この強みを更に昇華させるべく、お客様視点でグループの各事業が等距離にある状態、すなわち「シームレス化」を実現し、お客様にストレスなく、かつ感動を与える購買体験を創出してまいります。そのために、グループ内で取り扱うすべての商品・サービス・情報から、お客様それぞれのご要望に合わせた最適な提案を行うなど、シームレスの具現化に向けた検討を進めてまいります。
(2)経営上の目標達成状況を判断するための客観的な指標等
2026年度(中期経営計画の最終年度)の連結経営目標は以下の通りです。
〇営業利益 600億円 ( 2024年度比 + 25 億円)
〇自己資本比率 40.0% ( 同 + 3.5% )
〇ROE 8.2% ( 同 △ 0.3% )
〇ROIC(投下資本利益率) 6.1% ( 同 △ 0.3% )
また2025年度の連結経営目標は以下の通りです。
〇総額営業収益 10,700億円 ( 2024年度比 + 373億円)
〇総額営業収益販売管理費比率 23.4% ( 同 △ 0.1% )
〇営業利益 580億円 ( 同 + 5億円)
〇自己資本比率 38.0% ( 同 + 1.5% )
〇ROE(当期純利益/自己資本) 8.2% ( 同 △ 0.3% )
〇EBITDA総資産比率 6.3% ( 同 + 0.1% )
〇純有利子負債EBITDA倍率 1.6倍 ( 同 + 0.2倍 )
〇ROIC(投下資本利益率) 6.2% ( 同 △ 0.2% )
(3)経営環境及び対処すべき課題
2025年度の経営課題を「グループの総力で創りあげる次世代型SC」「価値創造の源泉となる営業力強化」「個人の成長支援に向けた組織・土台づくり」「営業活動を軸としたESG経営の実践」「成長領域での更なる存在感の発揮」と定めております。
□グループの総力で創りあげる「次世代型SC」、価値創造の源泉となる営業力強化
グランドデザイン実現に向け、「次世代型SC」への転換は「まちづくり」における重要な取組であります。個人と組織の「自立」と相互の「共創」という考え方の下、グループ各事業のノウハウを結集し、それぞれの経営資源を相互に活用することで「館の魅力最大化」につなげてまいります。「次世代型SC」の特徴は3点あり、1点目は、「新たなコンテンツ導入による来店動機の創出」であります。SCがリアルな存在としてお客様に支持され続けるためにも、お買物やお食事だけではない「プラスαの体験価値」の提供により、広域かつ幅広い世代のお客様のご来店を促進し、賑わいを創出してまいります。
2点目は、「地域の社会インフラとしての機能具備」であります。「まちづくり」をグループ総合戦略として掲げる当社において、「地域社会」というステークホルダーへの貢献は必要不可欠であります。SCが有する「誰もが知っている」「便利な場所にある」「大きな施設」という資質をいかし、地域コミュニティー形成や循環型社会のターミナルとしての役割発揮、再生可能エネルギー導入・都市緑化の象徴的施設としてのメッセージ発信、さらに、防災拠点として避難場所・ライフラインの供給機能の拡充を進めてまいります。
3点目は、「百貨店の存在をより活用すること」であります。百貨店・専門店それぞれの強みをいかすだけではなく、百貨店が有するお客様情報の利活用やフロア構成の最適化などにおいて、より踏み込んで連携することにより、拠点全体としての魅力向上を実現してまいります。
「次世代型SC」においても中核となるのは百貨店であります。髙島屋ブランド価値を高めていくために、百貨店の魅力そのものを向上させるべく、「より心豊かな暮らし」や「新しいモノ・コト」への期待といったお客様の根源的・普遍的なニーズに応える力を商品政策や顧客政策、販売・サービス政策を通じて高めてまいります。
また、管理手法においても、2025年度から導入する「店別貸借対照表(バランスシート)」をベースに、百貨店・専門店を区切らず、SC全体としてのROICを算出・検証するサイクルを構築し、「拠点利益」を意識した経営を進めることでROIC経営を定着させてまいります。
□個人の成長支援に向けた組織・土台づくり
当社は、経営理念「いつも、人から。」が表すとおり、「人」で成り立つ企業集団であります。エンゲージメントと生産性向上の好循環を促し持続的成長につなげるべく、人的資本経営、すなわち多様な人材の活躍支援や積極登用に加え、グループ横断での人材育成にも取り組んでまいります。また、土台となる組織風土におきましては、DE&Iの考え方の下、従業員個々の能力を最大化させていくマネジメントを実践してまいります。さらには、昨年公表いたしました「カスタマーハラスメントに対する基本方針」で策定した方針の実効性を高めるべく、定期的なモニタリングを行うなど、お取引先従業員も含め安心して能力を発揮できる環境を継続して整備してまいります。
□営業活動を軸としたESG経営の実践
グループの持続的成長には、「地球環境」を含めたすべてのステークホルダーと利益を共に分かち合い、相互にエンゲージメントを高めていく仕組みの創造が必要であります。従業員一人ひとりがESG経営に取り組む姿勢を理解し、主体的に行動できる風土醸成を進めていくと共に、多くのお客様との接点がある当社ならではのメッセージを発信していくことで、その効果を最大限に発揮してまいります。
象徴的な取組である「TSUNAGU ACTION」におきましては、グループ各組織の事業特性・経営資源をいかし、取組を加速してまいります。持続可能な発展に不可欠な収益性の視点を強化し、社会課題解決と両立した「サステナブルな収益拡大」を目指してまいります。
なお、ESG経営のガバナンス・戦略・リスク管理とリスクに対する取組・指標と目標については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1)当社のESG経営」に記載しています。
□成長領域での更なる存在感の発揮
海外と金融を成長領域と位置付けている中、海外事業におきましては、「シンガポール髙島屋S.C.」で培ったノウハウやパートナーシップをいかし、成長市場であるベトナムでの開発を段階的に進めてまいります。また、金融事業におきましても、カード事業に加え、新たな領域にチャレンジし事業基盤を拡大してまいります。これら成長領域で利益増大を図っていくことで、創業200周年を迎える2031年には、グループ利益水準(連結営業利益+持分法投資利益+東神開発のベトナム関連会社からの配当益)を750億円から800億円と見込んでおります。さらに、海外事業の利益シェアは2023年度の28%から33%、百貨店事業以外の利益シェアは2023年度の38%から、約半分となる47%まで引き上げ、経営環境の変化に柔軟に対応できるバランスの良い事業ポートフォリオを同時に実現してまいります。
事業のセグメント別の取組は、次のとおりであります。
なお、当連結会計年度より、事業ポートフォリオの最適化、事業別の投資効率、収益性などを明確にするROIC経営を更に推進することに伴い、報告セグメントの区分を変更しております。詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(セグメント情報等)」に記載のとおりであります。
<国内百貨店業>営業力強化に向けて、商品政策では、当社の強みの一つである東西大型5店を軸に「魅力ある品揃え」の実現に向け、バイイングパワーを高めてまいります。継続的課題になっております商品利益率につきましては、今後も重点お取引先と連携し、正価品強化など商品利益率改善に向けた取組を進めてまいります。さらに、「アイテム平場」「自主編集売場」の再強化や、新たなモノ・コト開発を進めていくことで、実店舗の強みをいかしたワンストップでの体験価値を提供してまいります。
ECにおきましては、引き続きお客様のニーズに沿った展開ブランドの拡充やサイト・アプリの特徴化、利便性を高める取組を推進してまいります。また、実店舗を持つ強みをいかし店頭とECの相互送客により顧客接点を拡大することで、新たなお客様の獲得や収益力の向上につなげてまいります。
顧客政策では、4月から髙島屋の各種カードのポイントが「1ポイント単位で利用可能」となったことを契機に、カード戦略のリブランディングを始動、既存顧客の満足度向上と次世代顧客獲得の両立に取り組んでまいります。また、タカシマヤアプリにおきましても、特典付与機能の強化に加え、デジタルでのアプローチなど、重要な顧客接点ツールとしてアプリの魅力を高めてまいります。
さらに、シンガポールなど優良な海外店舗を有するという強みをいかした国内店舗との相互送客により、国境を越えた買い回りを促進し固定化を図ってまいります。
なお、2026年1月7日をもって営業を終了する堺店につきましては、これまでご利用いただいているお客様に、引き続き大阪店や泉北店を中心にご愛顧いただける体制を整えてまいります。
<海外百貨店業>シンガポール髙島屋におきましては、経営環境が不透明な中、ファッション関連商品や食料品など品揃えの再強化に加え、顧客政策を推進することで、国内顧客やツーリストの維持・拡大を図ってまいります。
上海高島屋におきましては、景気低迷による消費減速が長期化する状況下、お客様ニーズに基づいたテナントの導入など、収益基盤の安定化に継続して取り組んでまいります。
ホーチミン髙島屋におきましては、2024年12月にホーチミン市で初の都市鉄道が開通したことを受け、商品カテゴリー・ブランドの再編や催・イベントの強化により店舗の集客力を高め、売上を増大させてまいります。
サイアム髙島屋におきましては、化粧品売場のリニューアルに続き、今後も新規テナントの導入など、各フロアの改装オープンを予定しており、改装効果の最大化に向けた取組を推進してまいります。
<国内商業開発業>東神開発株式会社が段階的に改装を実施してきた「柏髙島屋ステーションモール」におきましては、2025年2月に千葉県柏市の施設である「柏駅前行政サービスセンター」など3つの施設が新たにオープンいたしました。これにより2023年9月から進めてきたリニューアルが完成いたしました。今後もさらに便利で利用しやすい場を目指してまいります。また、「玉川髙島屋S・C」におきましては、2025年4月に西館ストリートをリニューアルし、話題の4店舗を誘致したフードコート「P.」が開業いたしました。これにより、歩道と空間、地域をつなぐ、新たなお買物環境を提供してまいります。
<海外商業開発業>成長ドライバーと位置付けるベトナム開発におきましては、東神開発株式会社がハノイでの住宅・オフィス・商業の複合開発事業を始めとした投資を集中的に行い、シンガポールに次ぐ第2の収益の柱として成長性と収益性を追求してまいります。
<金融業>「髙島屋ネオバンク」を活用した積立サービス「スゴ積み」では、従来の12カ月積立コースに加え、新たに半年積立コースを導入いたしました。短期間での積み立てで、ボーナスをプラスした金額をお買物にご利用いただけます。これにより、新たなお客様の入会を促進し、顧客接点の拡大につなげてまいります。
また、髙島屋ファイナンシャル・パートナーズ株式会社におきましては、住信SBIネット銀行を所属銀行とする銀行代理業の許可を取得いたしました。日本橋店・横浜店・大阪店のタカシマヤファイナンシャルカウンター等で「銀行商品」のご案内を開始し、証券・保険・相続・信託を含めた総合的な金融相談やサービスの提供を進めてまいります。
さらに、子会社化したヴァスト・キュルチュール株式会社との相互送客を推進していくなど、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)市場での事業を拡大し、質の高いプライベートバンクサービスを提供することで、当社グループの顧客基盤を盤石化させると共に、金融業の利益増大を図ってまいります。
<建装業>髙島屋スペースクリエイツ株式会社におきましては、ベトナムに住宅内装事業を手掛ける新会社を設立いたします。生活水準の向上により今後高まっていくことが予想される、日本クオリティーの住宅内装需要を確実に捉えてまいります。
<その他の事業>飲食業の株式会社アール・ティー・コーポレーションにおきましては、昨年、セントラルキッチンの新拠点が始動いたしました。既存拠点と併せて活用することで製造加工・調達物流の効率化を図ると共に、独自性のある商品開発を更に推進してまいります。
株式会社センチュリーアンドカンパニーにおきましては、百貨店で培ったクオリティーの高い業務運営力をいかし、受注拡大を図ってまいります。
また、広告宣伝業の株式会社エー・ティ・エーにおきましては、デジタル領域の専門性強化を推進してまいります。
引き続き、各事業におきまして、業界競争力を高めていくことにより、安定的な収益基盤の構築につなげてまいります。
(4)資本政策の基本的な方針
<基本的な考え方>当社は、将来の事業リスクへの備えおよび持続的な成長投資に向けた資金調達のため、自己資本拡充と有利子負債の縮減により財務健全性を高めていきます。
主要な経営指標(KPI)として、ROIC、EBITDA、自己資本比率、DOE(株主資本配当率)、TSR(株主総利回り)を設定しております。特に資本コストを意識した経営の実現に向けた取組として、ROIC経営を推進しております。2024年度のROICは6.4%とWACC4.8%を上回りました。今後も、百貨店各店含む各事業体で特性を踏まえたROICツリーを活用、現場一人ひとりが意識し行動できる仕組みを構築してまいります。EBITDAについては、財務安定性の観点から、純有利子負債EBITDA倍率、現金創出力の観点から、総資産対EBITDA比率を設定しております。
各経営指標については、決算説明会資料(※)で開示しております。
※ https://www.takashimaya.co.jp/corp/ir/tanshin/
<キャッシュアロケーションの想定>当社では、営業キャッシュ・フローに占める、持続的成長に向けた設備投資への配分が約80%から90%想定されます。その内訳は、商業開発を中心にした国内外成長投資に約70%、店舗の安全安心投資、ESG・人的資本投資に約30%です。
また、財務健全性の観点については、数年以内に適用が予定されるリース会計基準を見越した有利子負債圧縮に向けた支出が営業CFの3%から5%想定されます。
株主還元へは、営業CFの7%から10%を想定します。
<株主還元>配当は、純資産増加をベースとした累進配当に加え、EBITDA又は営業CF比率を考慮します。業績が好調に推移するなど、フリーキャッシュ・フローが想定以上に改善した場合は、投資額の増加、さらなる有利子負債圧縮、追加の株主還元から総合的に判断します。