有価証券報告書-第101期(令和3年4月1日-令和4年3月31日)

【提出】
2022/06/29 13:50
【資料】
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【項目】
169項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当報告書提出日現在において当社グループが判断したものです。
(1) 経営の基本方針
当社は、グループ経営の方向性を明確にするために、当社グループが事業を通じて果たすべき役割・責任や社会に存在する意義を示した「グループ経営理念」を掲げ、この理念を実現しグループ価値の最大化を図ることを経営の基本方針としています。
「グループ経営理念」の内容は以下のとおりです。
<グループ経営理念>
1 経営理念
小田急グループは、お客さまの「かけがえのない時間(とき)」と「ゆたかなくらし」の実現に貢献します。
2 行動指針
私たちは、経営理念の実現のため、3つの精神を忘れることなく、お客さまに「上質と感動」を提供します。
(真摯)
私たちは、安全・安心を基本にすべての事業を誠実に推進します。
(進取)
私たちは、前例や慣習にとらわれず、よりよいサービスの追求に挑戦します。
(融和)
私たちは、グループ内に留まらない外部との連携、社会・環境との共生に取り組みます。

当社では、事業環境の変化に対応し、グループ経営理念の実現とさらなる事業成長を遂げるため、2026年度までに取り組むべき方向性を示した経営ビジョン「UPDATE 小田急~地域価値創造型企業にむけて~」を策定しました。
経営ビジョン「UPDATE 小田急~地域価値創造型企業にむけて~」
① 全体方針
「地域価値創造型企業にむけて」
私たちは、小田急沿線や事業を展開する地域とともに成長するために、既成概念に捉われず常に挑戦を続けることで、お客さまの体験や環境負荷の低減など
地域に新しい価値を創造していく企業に進化します。

「社会・地域」「経済」「環境」の3つの軸を経営判断に取り入れ事業を峻別し、次の100年に向け地域価値創造型企業へと事業モデルの更新を進めます。
② 変革の取り組み
全体方針を踏まえ、2026年度までの前半3ヵ年を体質変革期、後半3ヵ年を飛躍期と定めます。体質変革期では、飛躍期に向けて3つの経営課題と3つの発想を通じた事業の変革に取り組み、経営状況の回復を図るとともに、既存のビジネスモデルを見直します。飛躍期では、地域価値創造型企業として新たな価値を生み出します。
体質変革期(2021年度~2023年度)

■ 変革に向けた3つの経営課題
飛躍期に向けて、「利益水準の回復」と「有利子負債のコントロール」を進めて財務の健全化※を図るとともに、「事業ポートフォリオの再構築」を行い、既存事業の選択と集中により収益力を強化し、投資余力を確保のうえ、新たな収益機会の創出を推進します。
※ 財務健全性の回復の目安として、2023年度における有利子負債残高7,000億円、有利子負債/EBITDA倍率7倍台を目指します。
■ 3つの発想を通じた事業の変革
すべての事業で「DX」「共創」「ローカライズ」の3つの発想を徹底し、業務やサービスに対する考え方の変革を進めるとともに、既存事業の成長や新規事業の創出を図ります。
飛躍期(2024年度~2026年度)

未来の小田急の持続的な成長につながる事業創造や拡大を進め、地域価値創造型企業として次の100年を歩むため新たな価値を生み出します。
(2) 経営環境及び優先的に対処すべき課題
① 経営ビジョン「UPDATE 小田急~地域価値創造型企業にむけて~」の実現
当社グループでは、新型コロナウイルス感染症の拡大により、当社鉄道事業における輸送人員の減少等、業績への影響が生じています。
また、新型コロナウイルス感染症の拡大が収束した後も、その影響により生じた顧客の行動変容の一部は不可逆的なものになり得ると捉えており、中長期的に当社グループの事業に影響を与えると予見しています。このほか、当社沿線人口の減少やテクノロジーの進展等により、今後の事業環境の不確実性はより一層大きくなっていくものと捉えています。
当社グループでは、事業環境の変化に対応し、グループ経営理念の実現とさらなる事業成長を遂げるため、2026年度までに取り組むべき方向性を示した経営ビジョン「UPDATE 小田急~地域価値創造型企業にむけて~」を策定しました。中期経営計画では、収益性と財務健全性の回復を優先しつつ、リアルビジネスをデジタルで変革するなど、未来の小田急の持続的な成長につながる取り組みとの両立を追求しています。事業ポートフォリオの再構築等、具体化が進む都度、計画を段階的にブラッシュアップし、経営ビジョンの実現を目指します。
また、当社グループが「お客さまや社会にどのような価値を生み出していきたいのか」、「そのために自らがどのような組織でありたいか」を示した5つの「未来フィールド」を設定しています。各未来フィールドが目指すありたい姿とその実現に向けた各施策の概要は、以下のとおりです。
モビリティ × 安心・快適 ~新しい“モビリティ・ライフ”をまちに~

鉄道事業において、「鉄道駅バリアフリー料金制度」を活用し、ホームドアの設置を引き続き推進するほか、集中豪雨等の自然災害への対応力を強化することで、安全性の維持・向上に努めます。また、「EMot」および「EMotオンラインチケット」において、デジタルチケットの拡充や同業他社・沿線パートナー企業との連携拡大を図るほか、鉄道やバス、タクシー等の交通データやデジタルチケットの予約・決済機能を有するオープンな共通データ基盤「MaaS Japan」において、他社アプリケーション・web等への機能提供を強化するなど、デジタルを起点とした顧客接点を拡充します。さらに、鉄道資産・コンテンツの有効活用策を推進することで、新たな収益の獲得を図ります。
まちづくり × 愛着 ~まちの“新しい物語”を紡ぎ出す~

新宿駅西口地区開発計画において、新たな体験を提供する商業機能や、ハイグレードなオフィス機能に加え、交流・連携・挑戦を生み出すビジネス創発機能の整備に向けた検討を進めます。また、同計画と並行し、新宿中央公園でのイベント等、行政や企業、大学等との連携施策を継続的に実施することで、新宿西口エリアの賑わい創出・活性化を目指します。さらに、昼間の人口流入を担う中心的駅のうち、町田駅において、取得済みの物件の開発や中小商業ビルの運営受託等、駅周辺の再整備に向けた検討を行うなど、沿線まちづくりへの投資を強化します。このほか、投資用不動産の開発事業の推進やオーストラリア等の海外市場への投資により、沿線外の収益源拡大にも努めます。
くらし × 楽しさ ~何気ない日々に“心が動く瞬間”を~

小田急百貨店新宿店において、新宿西口ハルクを改装し、食品、化粧品、インターナショナルブティックを中心とした売場への再編成を実施するほか、ストア業において、駅構内等の狭小区画に対応した新ブランドの立上げを検討するなど、新しい生活様式に合わせたコンテンツの提供に努めます。また、暮らしに役立つ多様なサービスを1つのIDで手軽に利用できるプラットフォーム「ОNE(オーネ)」において、当社線利用により小田急ポイントが獲得できる「小田急おでかけポイント」の訴求や、商業施設・生活サービス等との連動、データマーケティングの実施により、グループ全体の収益・会員数の増加を図ります。
観光 × 経験 ~ここでしか得られない“特別な想い出”を~

旅行商品の販売システムの新規構築等、観光領域におけるデジタル投資の強化を図るほか、藤沢市立鵠沼海浜公園改修事業(Park-PFI)を通じた取り組みを引き続き推進するなど、自治体や地域事業者等との連携を通じた独自のコンテンツや魅力の共創に努めます。これらの取り組みに加えて、江の島エリアにおいて、シャトルバス等の二次交通やデジタルチケットを整備・拡充することで、沿線観光地の観光客数の増加を目指します。また、「ホテルはつはな」において、全客室に温泉露天風呂を完備し、プライベート感を高めたホテルへのリニューアルを推進するなど、新たな観光体験の創出に努めます。
わくわく × イノベーション ~いつの時代もお客さまに“わくわく”を~

研修の実施等により、キャリア自律を推進するとともに、デジタル人材等のキャリア採用やDX推進に関する各領域の人材育成に努めます。加えて、社員の働き方・意識変革による生産性向上に取り組むことで、新たな価値を生み出す組織への変革を目指します。
② サステナビリティに関する取り組み
経営ビジョン「UPDATE 小田急」では「地域とともに成長」することや「環境負荷の低減」等を掲げ、サステナビリティに取り組むことを明確化しています。経営ビジョン達成に向けて、各事業を推進することで持続的成長を果たしていきます。各施策の概要は、以下のとおりです。
■ 安全・安心の追求
運輸業においては、安全を第一に快適で良質な輸送サービスを提供することが最も重要な使命であると捉え、各社で制定している「安全管理規程」に基づき、安全の重要性を強く認識し日々の業務にあたるとともに、事故防止対策を含めた安全管理体制の継続的な確認や見直し・改善を実施するほか、施設面についても安全の質を高める諸施策に積極的に取り組みます。今後は、ホームドアについて、1日の利用者数10万人以上の駅へ優先して設置することを予定しており、更なる安全性の向上を図ります。また、昨年8月に発生した当社線における車内傷害事件を踏まえ、お客さまや乗務員の身を守る防護具等の車内への配備や駅構内・車内の巡回・監視強化等、対応済の施策に加え、車内防犯カメラの設置等の各種施策を実施・検討することで、車内の安全対策の強化に努めます。
■ ESG(環境・社会・ガバナンス)に関する取り組み
環境への取り組みについて、昨年9月、2050年に当社グループのCO2排出量実質「0」を達成すべく、行動指針「小田急グループ カーボンニュートラル2050」を策定しました。同指針に基づき、当社グループ事業のうち使用エネルギー量の多い鉄道事業において、通勤車両の更新等の省エネ施策を進めるとともに、エネルギーの調達段階における再生可能エネルギーの比率を高めるほか、太陽光等で発電した電力の活用も行います。さらに、資源・廃棄物の収集運搬の効率化に向けたコンサルティングサービス等を提供する事業「WOOMS(ウームス)」を全国の自治体や事業者に展開し、持続可能な資源循環社会の実現を目指すとともに、沿線に存在する自然環境を地域の貴重な資源として守り続ける保全活動にも鋭意取り組みます。また、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言への賛同を表明し、提言に基づく情報およびカーボンニュートラル実現に向けたロードマップを当社ホームページにて開示しました。今後も情報開示を進めるとともに、気候変動の問題等の環境対応にも積極的に取り組みます。
社会への取り組みについて、社会課題の一つである少子高齢化に対し、子育て応援ポリシーのもと、小児IC運賃の低廉化等を端緒とした鉄道会社ならではのアプローチを行い、暮らしの楽しさを提供することや、子育てしやすい地域の実現に貢献することを目指します。このほか、健康経営とワークライフバランスを土台に、従業員一人ひとりの価値創造やイノベーションの創出に繋げる「ダイバーシティ&インクルージョン」に関する取り組みを推進します。このうち、女性活躍の推進に向けては、女性従業員比率や女性管理職比率に関して設定した数値目標の実現を目指し、仕事と家庭の両立に資する制度・環境づくりに引き続き取り組みます。
ガバナンスへの取り組みについて、過半数が独立社外取締役で構成される指名・報酬諮問委員会や、取締役会実効性評価の仕組み等を活用しつつ、取締役会の監督機能を高めることなどを通じて、コーポレート・ガバナンスの強化に努めます。
これらの諸課題を着実に遂行することで、お客さまの「かけがえのない時間(とき)」と「ゆたかなくらし」の実現を目指します。