有価証券報告書-第33期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/23 15:51
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【項目】
182項目

対処すべき課題

(1) 経営の基本方針(グループ理念)
私たちは「究極の安全」を第一に行動し、グループ一体でお客さまの信頼に応えます。
技術と情報を中心にネットワークの力を高め、すべての人の心豊かな生活を実現します。
(2) 今後の経営環境の変化
わが国においては、中長期的により一層の人口減少や高齢化、東京圏への人口集中が見込まれるとともに、自動運転等の技術革新やグローバル化の変容など、経営環境が大きく変化していくことが想定されます。
また、当社グループにおいても、会社発足から30年以上が経過し、社員の世代交代の進展や鉄道ネットワークの拡充など、様々な変革課題に直面しております。
加えて、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、当面の間は移動需要の大幅な減少など、当社グループにとってかつてない厳しい環境となるものと考えております。
(3) 中期的な会社の経営戦略
当社グループは、2018年7月に策定したグループ経営ビジョン「変革 2027」のもと、これまでの「『鉄道インフラ』を起点としたサービス提供」から「『ヒト(すべての人)』を起点とした社会への新たな価値の提供」へと「価値創造ストーリー」を転換していきます。鉄道を中心とした輸送サービスを質的に変革し、進化・成長させるとともに、生活サービスおよびIT・Suicaサービスに経営資源を重点的に振り向け、新たな「成長エンジン」としていきます。これにより、連結営業収益を伸ばすとともに、2027年度までに収益全体に占める生活サービスおよびIT・Suicaサービスの比率を4割にまで高めることをめざします。「究極の安全」の追求、サービス品質の改革、ESG経営の実践により、お客さまと地域の皆さまからの「信頼」を高め、輸送、生活、IT・Suicaの3つのサービスを融合し、オープンイノベーションにより、“信頼”と“豊かさ”という価値を創造していきます。
また、今後10年間を見据えた「変革」に挑戦するため、営業キャッシュ・フローを積極的に設備投資に振り向けるとともに、資産を効率的に活用し、利益のさらなる拡大をめざします。
新型コロナウイルス感染症の拡大によりさらに厳しい経営環境が見込まれますが、私たちはグループ経営ビジョン「変革 2027」のもと、これからもお客さまのご期待に応えるとともに、急速な経営環境の変化を先取りして、さらなるチャレンジと経営体質の強化に努め、地域社会の発展に貢献する企業グループとして持続的な成長を実現していきます。
(4) 目標とする経営数値
「変革 2027」の数値目標については、「変革 2027」で見据える期間の中間点となる第36期(2022年度)をターゲットに以下のとおり設定しており、その2年目となる第33期(2019年度)は台風第19号、新型コロナウイルス感染症の影響により計画には到達しませんでしたが、計画したプロジェクト等は概ね予定どおり進めました。
第36期
(2022年度)目標
第33期
(2019年度)4月計画
第33期
(2019年度)実績
第33期
(2019年度)計画対比
連結営業収益3兆2,950億円3兆700億円2兆9,466億円96.0%
セグメント別運輸事業2兆1,000億円2兆800億円1兆9,945億円95.9%
流通・サービス事業6,600億円5,240億円5,020億円95.8%
不動産・ホテル事業4,400億円3,620億円3,485億円96.3%
その他950億円1,040億円1,015億円97.6%
連結営業利益5,200億円4,880億円3,808億円78.0%
セグメント別運輸事業3,300億円3,420億円2,505億円73.3%
流通・サービス事業560億円400億円343億円86.0%
不動産・ホテル事業1,090億円830億円746億円89.9%
その他260億円250億円238億円95.5%
連結営業キャッシュ・フロー(5年間総額※)
3兆7,200億円
5,486億円(進捗率)
32.6%
連結ROA6.0%4.5%

※第32期(2018年度)から第36期(2022年度)までの総額。
(5) 対処すべき課題
グループ経営ビジョン「変革 2027」の実現に向けて、「『信頼』を高める」、「『心豊かな生活』を実現」および「『社員・家族の幸福』を実現」の3つの観点から、以下の課題に重点的に取り組んでまいります。
◇ 「信頼」を高める
○ 「究極の安全」の追求
「グループ安全計画2023」のもと、一人ひとりの「安全行動」と「安全マネジメント」の進化・変革に取り組むとともに、新たな技術を活用した安全設備の整備や、昨今の自然災害の激甚化も踏まえた、災害リスクの減少に取り組みます。これにより、重大事故に至るリスクを極小化し、「お客さまの死傷事故ゼロ、社員の死亡事故ゼロ」の実現をめざします。
○ サービス品質の改革
「サービス品質改革中期ビジョン2020」のもと、グループ全社員の力を結集し、輸送障害の発生防止や快適なご利用環境の実現など5つの柱に取り組み、引き続き「鉄道業界 顧客満足度No.1」の実現をめざします。
○ 「ESG経営」の実践
環境、社会、企業統治の3つを経営の重要な視点と位置づけ、事業を通じて社会的な課題の解決とSDGsの達成に取り組み、地域社会の発展に貢献する「ESG経営」を実践します。これによりお客さまや地域の皆さまからの「信頼」を高め、当社グループの持続的な成長の実現につなげていきます。
環境については、新たな環境長期目標「ゼロカーボン・チャレンジ2050」を策定し、2050年度の鉄道事業におけるCO2排出量「実質ゼロ」に挑戦しており、「脱炭素社会」への貢献とともに、鉄道の環境優位性のさらなる向上と、サスティナブルな社会の実現をめざします。
◇ 「心豊かな生活」を実現
○ 輸送サービスの質的変革
「旅の目的」創りやインバウンド戦略を進め、交流人口のさらなる拡大をめざします。また、ドライバレス運転・次世代新幹線の開発、羽田空港アクセス線(仮称)の準備等を加速し、輸送サービスを質的に変革していきます。
○ くらしづくり・まちづくり
「グローバルゲートウェイ品川」をはじめとしたまちづくりやターミナル駅開発、ホテル拡充を推進し、収益力の向上を図ります。シェアオフィスのさらなる展開やスタートアップ企業との連携など、従来にない発想でビジネスの幅を拡げます。
○ Suicaの共通基盤化・MaaS推進
Suicaについては、交通分野でのサービス拡充や電子マネーの利便性向上に加え、外部との連携を拡大し、あらゆるシーンでSuicaを利用可能にします。
「MaaS」については、プラットフォーム構築と都市型・観光型などさまざまなサービスを提供し、日本における「MaaS」の普及を牽引します。
「JRE POINT」については、会員拡大とサービス拡充を図るとともに、データを活用したマーケティングに取り組み、グループ全体での顧客戦略を展開します。
○ 東京2020オリンピック・パラリンピックへの対応
東京2020オリンピック・パラリンピックについては、開催が延期となりましたが、オフィシャルパートナー(旅客鉄道輸送サービス)として、一層の準備を行い、全ての事業分野で質の高いサービスを提供し、大会の成功に貢献します。
その上で、得られた経験とグループ社員一人ひとりの成長を、大会終了後の「レガシー(遺産)」として引き継ぎます。
○ 国際事業のビジネスモデル構築
グループの技術・ノウハウを結集し事業展開を進め、アジアを中心に、国際事業のビジネスモデル構築をめざします。また、海外での活躍の場や様々な研修を通じて、グローバル人材の育成を強化します。
◇ 「社員・家族の幸福」を実現
○ 3つの改革の推進
成長戦略を着実に実行するとともに、「業務改革」、「働き方改革」、「職場改革」を推し進め、社員が活躍できるフィールドを拡大します。
社員一人ひとりが自らの「変革ストーリー」を描き、その実現に向けて挑戦する「参画と成長のサイクル」を加速させ、社員の成長とグループの発展を同時に実現します。
○ 経営体質の強化
収益力の向上や「業務改革」、「働き方改革」、「職場改革」の実現に向けて、戦略的でメリハリのある投資を行うとともに、生産性の一層の向上やデジタルトランスフォーメーションの推進、オープンイノベーションによる部外との連携の強化に取り組みます。
(6) 新型コロナウイルス感染症に対する取組みについて
新型コロナウイルス感染症の流行が本格化して以降、鉄道をご利用になるお客さま、駅構内店舗や駅ビル、ホテルなどをご利用になるお客さまが大幅に減少しております(当期の連結の業績に与える新型コロナウイルス感染症の影響額は約940億円の減収です)。
今後も、当面の間はご利用の減少が継続し、厳しい状況が続くものと考えております。当社グループとしては、感染拡大の防止に向けた政府や自治体の取組みに協力し、ご利用になるお客さまや社員等への感染対策を徹底するとともに、必要な輸送の確保やサービスの提供に全力を挙げてまいります。また、当社の直営の病院(東京・仙台)では感染疑いのある方の診察・入院等の対応にあたるとともに、軽症者の受入れに関する自治体からの要請に対して、当社グループのホテルを提供しております。さらに、自治体からの外出自粛の要請等を踏まえ、駅ビル等の休業や営業時間の短縮を実施しております。一方で、収入が急激に減少していることから、経費全般にわたるコストダウンに努めていくとともに、必要な資金については適切に調達してまいります。
また、感染収束後に備え、東日本エリアの活性化と移動需要の回復に向けたキャンペーンの準備を行い、収益力の回復を図ってまいります。しかしながら、テレワークの浸透やEコマースの拡大などの社会的な構造変化は不可逆的であり、感染拡大以前とは経営環境が大きく異なることが想定されます。その変化に的確に対応するため、お客さまの行動変容や価値観の変化に合わせた成長戦略を再構築することや、固定費割合が大きい鉄道事業を中心として経営体質を抜本的に強化することを軸として、将来に向けた取組みのレベルとスピードを上げ、「変革 2027」の実現をめざします。