有価証券報告書-第30期(平成28年4月1日-平成29年3月31日)

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2017/06/23 15:05
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業績等の概要

(1) 業績
当社は、平成17年4月25日、福知山線塚口駅~尼崎駅間において、106名のお客様の尊い命を奪い、500名を超えるお客様を負傷させるという、極めて重大な事故を惹き起こしました。福知山線列車事故で被害に遭われた方々へ、引き続き真摯に向き合い対応してまいります。
当社グループは、平成25年3月に、「JR西日本グループ中期経営計画2017」とその中核をなす「安全考動計画2017」を策定し、平成27年4月にそれまでの振り返りと経営環境の変化を踏まえ、「JR西日本グループ中期経営計画2017」をアップデートし、一部目標の上方修正及び目標達成に向けた取り組みの修正、追加を行いました。
本年度は同計画の4年目として、最終年度の目標達成に向け、安全、CS等の施策を着実に実施するとともに、戦略的な出資や地域との共生の取り組み等、中長期的に企業価値を向上させる取り組みを積極的に実施いたしました。
この結果、当連結会計年度は運輸業において年度後半にかけて収入が順調に回復したものの、工事業において前年度の大型件名受注の反動減があったこと等から、営業収益は前期比0.7%減の1兆4,414億円、営業利益は同2.8%減の1,763億円、経常利益は同0.9%減の1,607億円、法人税等を控除した親会社株主に帰属する当期純利益は同6.3%増の912億円となりました。
セグメント別の業績は、次のとおりであります。
① 運輸業
「安全性向上に向けた取り組み」は経営の最重要課題として取り組んでおり、平成25年に策定した「安全考動計画2017」のもと各種施策を着実に実施しております。
ホームの安全性向上については社会的な関心が高まる中、当社としてもホーム柵をはじめとしたハードの整備に加え、ソフト面での対策にも取り組んでおります。ホーム柵の整備については、これまでに在来線と新幹線合わせて11駅に整備しており、本年2月に京橋駅2番のりばに可動式ホーム柵を整備しました。今後も、国の方針を踏まえつつ「乗降10万人以上の駅」である14駅と「ホームからの転落事象や列車との接触事故の多い駅」に順次整備してまいります。また、内方線付き点状ブロックについて、整備計画を3年間前倒しし、平成29年度末までに乗降1万人以上の駅に整備することをめざして取り組んでまいります。さらに、ホーム上でお客様が転落の危険がある状態を自動的に検知し、駅社員が対応するために京橋駅、新今宮駅、三ノ宮駅に設置している遠隔セキュリティカメラを、西明石駅、天王寺駅、鶴橋駅にも導入を拡大いたしました。ソフト対策としては、全駅社員を対象に、「バリアフリーマニュアル」等を配付し社員教育を実施しておりますが、昨年度より駅社員を対象に、安全な介助技術等を身に付ける「サービス介助士」の資格取得についても積極的に進めております。また、大阪市交通局、近畿日本鉄道株式会社との共同の取り組みとして「ホーム転落防止キャンペーン」を本年3月から5月にかけて実施しております。今後ともハード、ソフトの両方の取り組みを進め、安全で安心してご利用いただける駅づくりを進めてまいります。
激甚化する自然災害への対処については、地震対策として、高架橋柱や駅舎の耐震補強工事を行ったほか、山陽新幹線で整備を進めている逸脱防止ガードについて、完了した新大阪・姫路間に引き続き、姫路・博多間において地震に対するリスクの検証を行い、計画を拡大し整備を進めております。また、雨、風、地震などの気象事象を一元管理し、情報伝達などの業務を支援する気象災害対応システムを導入いたしました。
また、重大事故の未然防止に向けて、「ヒューマンエラー」に関する情報を全社員がそれぞれの立場で報告、分析、活用する「全員参加型の安全管理」を実現していく取り組みを進めており、本年度より「ヒューマンエラー」に対する処分、マイナス評価の見直しを実施しております。加えて、リスクアセスメントを推進するため、指導者層の育成に引き続き取り組むとともに、本年度より有効性の高いリスクアセスメントの事例を全社で共有化する取り組み等を進めております。
さらに、昨年度より安全管理体制が有効に機能しているか確認し、必要により改善するために、社外の第三者機関による安全管理体制の評価をいただいております。本年度はこの評価結果を受け、安全マネジメントレビューの見直しや安全に関わる監査手法及び監査スケジュールの改善等を実施しております。引き続き、安全管理体制のレベルアップ及び安全管理体制監査の充実を図ってまいります。
営業施策等について、山陽新幹線では安全性を前提とした競争力の強化に向けて、本年3月のダイヤ改正より新ATCの使用を開始し、新大阪・博多間で「のぞみ」「みずほ」は平均約1分、「こだま」は平均約15分の所要時間の短縮を図りました。また、昨年4月に発生した熊本地震により減退した観光需要の復興に向けて、九州運輸局、九州観光推進機構等と連携した「九州観光復興キャンペーン」、鹿児島県と連携した「春。鹿児島キャンペーン」をはじめ、各地域の魅力を発信するキャンペーンを実施しました。
北陸新幹線については、開業2年目における効果の定着化に向けて、「開業1周年キャンペーン」や「出張応援キャンペーン」の開催、北陸エリアでテレビCMを実施するなど、ビジネス・観光双方での需要喚起に取り組むとともに、関西、北陸、信越エリアにおける行政、経済界、旅行業界の相互交流拡大に向け「関西・北陸交流会」を開催いたしました。
インターネットでのご利用促進に向けた取り組みについては、駅のみの取扱いとなっていた、往復タイプやフリータイプのお得なきっぷが「e5489」でも予約可能になったほか、お手持ちのクレジットカードでチケットレス特急券がご購入可能になるなど、サービスをリニューアルいたしました。
シニア需要の獲得については、50歳以上のお客様にお得な割引きっぷや旅行商品をご提案する「おとなび」の会員向け乗り放題きっぷ「おとなびパス」や「おとなびWEB早特」を再発売、延長発売するなど需要喚起の取り組みを推進し、ご好評をいただいております。
訪日観光客需要の獲得に向けた取り組みとしては、広域観光周遊ルート商品「大阪・東京『北陸アーチパス』」を昨年4月から設定しております。また、受入態勢整備の一環として、本年3月より、関西空港駅では、みどりの窓口に外国語にも対応できる窓口を増設するなど販売機能を強化し、大阪駅では、観光案内や旅行に関する各種相談対応、外貨両替、チケット販売等のサービスを一体的に提供する「トラベルサービスセンター大阪」を開設いたしました。
近畿エリアについては、お客様に繰り返しご利用いただけるよう鉄道の輸送品質向上を図るとともに、線区価値向上に取り組んでおります。加えて、お客様満足度の向上とイメージ刷新に向け、大阪環状線改造プロジェクトとして「安全で明るく、広く静かで快適」な車両をめざして開発を進めてきた新型車両「323系」の営業運転を昨年12月より開始し、さらに桃谷駅のリニューアルを実施するなど、駅改良、トイレ改良、高架下開発を進めております。京都梅小路エリアにおいては「地域と歩む鉄道文化拠点」をめざし、昨年4月に「京都鉄道博物館」を開業し、本年3月には開業から1年の目標入館者数130万人を2ヶ月早く突破するなど、多数のお客様にご好評をいただいております。
西日本各エリアの観光誘客や地域活性化等に向けた取り組みに向け「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」を本年6月17日から運行を開始し、地域とともに西日本エリアの観光素材や食材、工芸品を掘り起こすとともに、歴史や文化、自然、食といった沿線の魅力を発信してまいります。また、本年3月4日に、地域のまちづくりにつなげるために、可部線の可部・あき亀山間を電化延伸するとともに、新駅を開業いたしました。
バス事業、船舶事業(宮島航路)については、安全輸送を基本とし、お客様のご利用に応じた輸送改善等の実施により、利便性向上に努めました。
これらの取り組みを推進した結果、第1四半期には昨年4月の熊本地震の影響、北陸新幹線の開業効果の反動減の影響があったものの、運輸業セグメントの営業収益は前期並みの9,291億円となりました。営業利益については来年度を見据え安全やCS向上等に向けた施策の計画的な実施に努めたことによる費用増により、同2.7%減の1,217億円となりました。
なお、三江線の江津・三次間につきましては、沿線自治体の皆様と丁寧に議論を重ねた結果、廃止予定日を平成30年4月1日とし、第一種鉄道事業の廃止届出書を国土交通大臣に提出いたしました。鉄道廃止後の新たな地域交通の構築に向けて、地元の皆様とともに引き続き検討してまいります。
② 流通業
流通業においては、お客様の利便性向上と集客による鉄道のご利用増加を目的に、従来のキヨスクやコンビニエンスストアであるハートインを、セブン-イレブン・ジャパンとの提携店舗へ転換する取り組みを平成26年度より進めております。本年度においても計画通り142店舗の転換を実施し、累計335店舗の転換が完了しました。
また、飲食店の市中展開を目的に、連結子会社の株式会社ジェイアール西日本フードサービスネットが同社の100%子会社である「からふね屋珈琲株式会社」を昨年6月に吸収合併いたしました。
流通業セグメントにおいては、セブン-イレブン・ジャパンとの提携店舗の売上げが好調に推移したものの、百貨店において衣料品の低迷やインバウンド消費が減少したこと等により、営業収益は前期比0.8%増の2,339億円、営業利益は同1.3%減の52億円となりました。
③ 不動産業
不動産業については、当社グループの保有資産を活用しお客様の利便性向上や沿線価値向上につながる鉄道事業と親和性の高い事業と捉えて、商業施設の開発・運営や住宅分譲事業等を進めております。商業施設については新規開業とリニューアルを順次進めており、昨年4月に塚口駅前に「ビエラ塚口」、同6月に吹田市内に「吹田グリーンプレイス」、同8月に桃谷駅に「ビエラ桃谷」、同10月に大津駅に「ビエラ大津」が開業し、昨年8月と本年3月に「LUCUA osaka」、昨年10月に「ピオレ姫路本館」、本年3月には「プリコ垂水」のリニューアルを実施しております。
さらに、事業の拡大・強化をめざすために、首都圏をはじめとする有望な市場において良質な賃貸物件等を保有する菱重プロパティーズ株式会社の株式を本年2月に取得いたしました。今後は円滑な業務遂行を図りながら、投資効果の早期実現に向けた速やかな所有物件のバリューアップ等に努めてまいります。
不動産業セグメントにおいては、商業施設のリニューアル等の効果が堅調であった一方、前年のマンション分譲の反動減等により、営業収益は前期比0.6%増の1,095億円、営業利益は同1.5%減の322億円となりました。
④ その他
ホテル業については、お客様の幅広いご利用ニーズに対応したホテルを展開するため、よりコンパクトでラグジュアリーな新ブランドのホテルの展開に向け、株式会社ファーストキャビンとの合弁会社「株式会社JR西日本ファーストキャビン」を本年2月に設立するとともに、今後ハイクラス宿泊主体型ホテル「ホテルヴィスキオ」として、大阪駅周辺と京都駅八条口に新たなホテルを出店することといたしました。JR西日本グループのホテルは、「シティホテル」であるグランヴィア、「宿泊特化型ホテル」であるヴィアインに今回の新たな2つのブランドを加えた4ブランドの構成で展開してまいります。
旅行業については、訪日観光客需要の獲得に向けた営業展開の強化、販売の充実等を図るとともに、鉄道利用商品の販売拡大に取り組みました。
その他セグメントにおいては、旅行業において訪日観光客のご利用増加があった一方、工事業における大型件名の受注の反動減により、営業収益は前期比7.0%減の1,688億円、営業利益は同8.7%減の204億円となりました。
運輸業のうち、当社の鉄道事業の営業成績は以下のとおりであります。
ア.輸送実績
区分単位当事業年度
(自 平成28年4月1日
至 平成29年3月31日)
前事業年度比
営業日数365
新幹線キロ812.6812.6
キロ程在来線キロ( 28.0 )
4,196.1
( 28.0 )
4,194.5
キロ( 28.0 )
5,008.7
( 28.0 )
5,007.1
客車走行キロ新幹線千キロ552,234100.5%
在来線千キロ787,38999.8
千キロ1,339,623100.1
定期千人1,165,355100.3
輸送人員定期外千人725,031100.8
千人1,890,386100.5
輸送人キロ定期千人キロ815,741101.4
新幹線定期外千人キロ19,532,32799.4
千人キロ20,348,06899.5
在来線近畿圏定期千人キロ18,689,54399.9
定期外千人キロ10,903,234100.9
千人キロ29,592,777100.2
その他定期千人キロ4,033,75899.6
定期外千人キロ4,297,13399.5
千人キロ8,330,89299.5
定期千人キロ22,723,30299.8
定期外千人キロ15,200,367100.5
千人キロ37,923,669100.1
定期千人キロ23,539,04399.9
合計定期外千人キロ34,732,69499.9
千人キロ58,271,73899.9
新幹線%47.247.7
乗車効率在来線%38.538.6
%41.141.4

(注) 1. キロ程欄の上段括弧書は、外数で第三種鉄道事業のキロ程であり、それ以外は第一種鉄道事業及び第二種鉄道事業のキロ程であります。また、前事業年度比は、前事業年度末の数値を記載しております。
2. 客車走行キロ数には、試運転、営業回送を含めておりません。
3. 輸送人キロ欄の近畿圏は、近畿統括本部の地域について記載しております。
4. 乗車効率欄の前事業年度比は、前事業年度の数値を記載しております。
なお、乗車効率は次の方法により算出しております。
乗車効率=輸送人キロ
客車走行キロ×客車平均定員(標準定員)


イ.収入実績
区分単位当事業年度
(自 平成28年4月1日
至 平成29年3月31日)
前事業年度比
旅客運輸収入旅客収入新幹線定期百万円10,270101.4%
定期外百万円424,33499.3
百万円434,60599.4
在来線近畿圏定期百万円116,428100.7
定期外百万円188,592101.1
百万円305,021100.9
その他定期百万円25,12698.9
定期外百万円84,93099.8
百万円110,05699.6
定期百万円141,555100.4
定期外百万円273,522100.7
百万円415,078100.6
合計定期百万円151,825100.4
定期外百万円697,85799.9
百万円849,683100.0
荷物収入百万円687.4
合計百万円849,689100.0
鉄道線路使用料収入百万円4,633100.5
運輸雑収百万円74,543101.4
収入合計百万円928,866100.1

(注) 旅客収入欄の近畿圏は、近畿統括本部の地域について記載しております。
(2) キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ173億円少ない633億円となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
税金等調整前当期純利益が減少したことなどから、営業活動において得た資金は前連結会計年度に比べ257億円少ない2,341億円となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出が増加したことなどから、投資活動において支出した資金は前連結会計年度に比べ625億円多い2,958億円となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
社債の発行による収入が増加したことなどから、財務活動において得た資金は前連結会計年度に比べ756億円多い443億円となりました。