有価証券報告書-第16期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/25 12:02
【資料】
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【項目】
124項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。
(1) 当社の経営の基本方針
当社は、2004年4月1日、新東京国際空港公団の一切の権利及び義務を承継し、早期の株式上場・完全民営化を目指す全額政府出資の特殊会社として設立されました。
会社設立にあたって、以下の経営理念と経営ビジョンを策定し、世界トップレベルの空港を目指すとともに、企業価値の最大化を図り、当社のステークホルダーに利益還元することを基本方針としております。
(経営理念)
NAAは、国際拠点空港としての役割を果たし、グローバルな航空ネットワークの発展に貢献する、世界トップレベルの空港を目指します。
(経営ビジョン)
1.安全を徹底して追求し、信頼される空港を目指します
2.お客様の満足を追求し、期待を超えるサービスの提供を目指します
3.環境に配慮し、地域と共生する空港を目指します
4.効率的で透明性のある企業活動を通じ、健全経営と更なる成長を目指します
5.鋭敏な感性を持ち、柔軟かつ迅速な行動で、社会の期待に応えます
(2) 目標とする経営指標
当社グループは持続的な健全経営を図るため、一貫してキャッシュ・フロー重視の経営を追求しております。中期経営計画(2019~2021年度)においては、2021年度末時点における財務目標を定めており、その具体的な内容は、「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の「3 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 (5) 経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等の達成・進捗状況」に記載しております。
(3) 経営環境ならびに対処すべき課題
世界の航空需要は、新型コロナウイルス感染症の影響により大きく低迷しており、航空需要の完全な回復までには相当程度の期間を要すると見込まれることから、当社は空港管理者として、成田国際空港における一層の感染拡大防止を図りつつ、安全かつ効率的に空港機能を確保・維持する観点から、運用体制の見直しの一環として、2020年4月12日からB滑走路を一時閉鎖し、2020年4月20日からは旅客ターミナル施設についても一部閉鎖する等の対応を取っております。また、航空会社やテナント等の事業者に対し、2020年3月に着陸料及び停留料の支払い猶予や事務室賃料、構内営業料等の減免による過去最大規模の緊急措置を講じたところですが、影響の長期化を見据え、事業者への更なる負担軽減策として、2020年5月からは、支払い猶予における対象料金や猶予期間の拡大及び事務室賃料、構内営業料等の更なる減免により、緊急措置を超える規模で追加措置を講じております。
他方、世界経済が新型コロナウイルス感染症による影響を克服し、再び成長軌道に戻すため、今後、各国政府やACI、ICAO、IATA等航空業界における国際機関等において、各国の収束動向を踏まえた渡航制限の緩和のあり方に関する議論が加速していくものと考えております。当社グループは、国際拠点空港としての役割を果たすためにも、空港の本格的な運用再開に向けて、政府による緊急事態宣言や国内移動の自粛要請、我が国を含む各国の渡航制限等の動向や前述の国際機関の指針等を視野に入れながら、今後も必要な感染症防止策を積極的に取り入れ、お客様が安全にかつ安心に空港をご利用頂くための取り組みを着実に実行し、政府、国際機関、航空会社等と共に航空業界で一丸となって、グローバルな航空ネットワークの正常化に積極的に取り組んでまいります。
航空業界は過去に何度も低迷期を克服してきたことから、新型コロナウイルス感染症に対しても、中長期的にはその影響を克服し、世界の航空需要は今後も成長していくものと考えております。特に、中国を始めとしたアジア地域を中心に大きく成長し、訪日外国人についても更に拡大するものと考えております。
これらの伸び行く航空需要を取り込むため、アジアの主要空港においては取扱能力向上に向けたプロジェクトが進行しており、新型コロナウイルス感染症の終息後は再び空港間の路線獲得競争が加速していく一方で、これらの空港との間の旅客流動を取り込むチャンスも広がるものと考えております。
また、2020年夏ダイヤからの羽田国際線三次増枠により、成田国際空港の航空取扱量は、一時的に前回の二次増枠時以上の影響を受けると予測しているものの、成田国際空港における中国路線の権益拡大に伴い今後中国便が増加するものと想定しており、中国を始めとした旺盛なアジアの航空需要を確実に取り込み、中長期的にはアジアの経済成長を背景に増大するアジア・北米間の航空需要を取り込むことでネットワークの拡充を図ってまいります。
他方、少子高齢化に伴う日本全体での人材不足は一層深刻化しており、また、世界的規模で地球環境への意識も高まる等、成田国際空港が持続的に成長していくためには、これら全業種共通の課題への対応も求められるものと考えております。
こうした外部環境を受け、当社グループは、2019年3月に策定した「NAAグループ中長期経営構想」において掲げた空港像の実現に向け、引き続き安全最優先という大前提のもと、下記6つの戦略方針に基づく取り組みを進めてまいります。
<世界最高水準の安全性と安定かつ高効率運用の徹底追求>新たに策定した「成田国際空港BCP」等に基づく大規模自然災害、突発的に急拡大する感染症、多様化するテロ(CBRNEテロ、サイバーテロ、ドローン対策)等への対策と発生時の対応を強化する等お客様に安全にかつ安心して空港をご利用頂くための取り組みを進めます。
新型コロナウイルス感染症対応については、引き続き感染拡大防止のために必要な措置を講じつつ、公共インフラとして安全かつ効率的に空港機能を確保・維持するという使命を果たしてまいります。
また、旅客動態管理システム(PFM)による混雑状況の計測、ファストトラベル施策、関係者間で運航情報を共有し協調して空港運用能力の強化を図る空港CDM等を推進し、空港全体の運用の最適化を図ることで、既存施設の最大活用に向けた高効率運用を具体化してまいります。
<空港機能の強化と地域との共生・共栄>2020年1月に国から航空法に基づく変更許可を頂いた施設整備について、成田国際空港の競争力強化のみならず、我が国及び首都圏の国際競争力強化、観光先進国の実現、地域の発展のためにも、1日も早くこれを実現できるよう、関係者のご協力を頂きながら努力してまいります。
また、地域に根ざした共生策を引き続き推進することはもちろん、空港と地域が共に発展する共栄策についてもより一層充実させ、地域との共生・共栄を図るとともに、「エコ・エアポートビジョン2030」に基づく環境負荷の低減を図ってまいります。
<空港競争力の源泉である航空ネットワークの徹底強化>新型コロナウイルス感染症収束までの間においては、お客様に安全にかつ安心して空港をご利用頂くために必要な感染症防止策を講じるとともに、航空会社やテナント事業者といったビジネスパートナーに可能な限りの支援を行うことによって、空港運用の正常化に努めます。
新型コロナウイルス感染症が収束段階を迎えたエリアについては、遅滞なく営業活動を実施し、その後は順次、営業活動を行うエリアを拡大の上、航空需要の早期回復を図ります。
さらに、新型コロナウイルス感染症の世界的な収束後においては、全社的なマーケティング機能を強化し、日中間の更なる権益拡大も踏まえ、依然として拡大余地のあるアジア方面及び国内路線のネットワーク拡大を強力に推進するとともに、2020年1月から導入した国際線長距離ボーナス等を活用し、欧米路線を中心とした路線の維持・拡大に努めてまいります。また、併せて乗継機能の強化に向けた取り組みも進めてまいります。
上記の取り組みを通じ、航空会社の拠点化、航空物流拠点化を促進し、特定の国や地域にネットワークが偏ることのない、バランスの取れた豊富な航空ネットワークの維持・拡大に努めてまいります。
<徹底したお客様第一主義に根ざした世界最高水準の旅客体験価値の創造>成田国際空港の豊富な発着枠を活かし、より多くの都市と繋がることで、お客様に対して路線、料金、サービス面で多様な選択肢をご提供するとともに、ファストトラベルの推進を通じたお客様とスタッフの接触機会の最小化による感染症防止策の推進及び旅客動線の円滑化、空港アクセスの利便性向上に努めてまいります。
また、2021年度への開催延期が決定した東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、
「東京2020大会」という。)については、日本の表玄関として、多くの選手・関係者・観客の安全かつ円滑な受入れに向けた準備を粛々と進め、同大会の成功に貢献するとともに、これらの取り組みをレガシーとして、空港価値の向上を目指します。
<旅客ニーズの変化に迅速に対応した魅力ある商環境の創出>旅客ターミナルビルの商業施設の更なる拡充や、旅客の嗜好や売れ筋をいち早くとらえた人気店・有名店の誘致等により魅力ある商環境を創出する他、ターゲットごとにきめ細やかなプロモーション活動を実施してまいります。
<持続的成長に向けた空港競争力の強化>「企業グループとしての健全経営の維持と成長への基盤強化」の一環として、SDGsへの貢献及びESG経営の実践に取り組み、近年、世界的に関心の高まりつつある気候変動や多様性・包摂性等の社会的課題への対応を図るとともに、ESG経営の観点から情報開示の拡充を図ることで、グローバルな航空ネットワークの発展を下支えしてまいります。
また、コスト削減と投資案件の厳密な精査等により新型コロナウイルス感染症の経営への影響を最小限に留めるとともに、国からの支援を最大限活用し資金管理及び予算管理を行うことで、引き続きキャッシュフロー経営を重視しつつ更なる機能強化等の成長投資も行ってまいります。
その他、コンプライアンスの徹底、ワークライフバランスの推進、空港建設・運営ノウハウを活かした海外空港案件の推進にも積極的に取り組んでまいります。
「魅力ある職場づくりによる人材の確保」として、グランドハンドリング事業者や航空保安検査事業者等において顕在化している人材不足に対し、空港管理者として関係機関と連携しながら積極的に関与してまいります。また、併せて休憩室・食事環境・通勤アクセス等の就労環境の改善等による職場としての魅力向上を図ってまいります。
「イノベーションの推進による生産性革命」として、AI・ロボット等最先端技術による省力化・省人化を図るとともに、空港運用における生産性の向上を図るスマートオペレーションや、お客様の利便性・快適性の向上を図るスマートエアポートに取り組んでまいります。
株式上場につきましては、引き続き、国における検討を見守りつつ、上場に向けた準備を着実に進めてまいります。