有価証券報告書-第22期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/26 14:00
【資料】
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【項目】
92項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当期末現在において当企業グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当企業グループは、Strategic Business Innovator(戦略的事業の革新者)として、創業時から常に時流を捉え、革新的な事業を創造することを目指しています。同時に、企業は社会に帰属しているからこそ存続できるという考えのもと、事業を通じて、社会の維持・発展に貢献することを志しています。
また、当企業グループには、持続的に成長する企業グループであり続けるため、今後も継承すべきと考える企業文化のDNAが4つあります。それは、常にチャレンジし続けるために「起業家精神を持ち続けること」、「スピード重視」の意思決定と行動、過去の成功体験に捉われず「イノベーションを促進すること」、環境の変化を敏感に察知して「自己進化し続けること」です。
そして、全ての役職員が共有する規範として、当企業グループでは5つの経営理念を掲げています。
SBIグループの5つの経営理念
正しい倫理的価値観を持つ
「法律に触れないか」、「儲かるか」ではなく、それをすることが社会正義に照らして正しいかどうかを判断基準として事業を行う。
金融イノベーターたれ
従来の金融のあり方に変革を与え、インターネットの持つ爆発的な価格破壊力を利用し、より顧客便益性を高める金融サービスを提供する。
新産業クリエーターを目指す
21世紀の中核的産業の創造および育成を担うリーディング・カンパニーとなる。
セルフエボリューションの継続
経済環境の変化に柔軟に適応する組織を形成し、「創意工夫」と「自己変革」が組織のDNAとして組み込まれた自己進化していく企業であり続ける。
社会的責任を全うする
SBIグループ各社は、社会の一構成要素としての社会性を認識し、さまざまなステークホルダー(利害関係者)の要請に応えつつ、社会の維持・発展に貢献していく。
当企業グループでは、企業価値は顧客価値の創出を土台に、株主価値および人材価値を加えた3つの価値が相互に連関する好循環を生むことによって増大していくと認識しています。創業以来、掲げてきた価値観である「顧客中心主義」を徹底的に実践することで、お客様のために、投資家のために、より革新的なサービス、ビジネスの創出に努め、顧客価値、株主価値、人材価値の総和たる企業価値の極大化を追求します。
(2)経営環境及び対処すべき課題等
当企業グループの組織構築の基本観
当企業グループの組織構築は常に3つの基本観、即ち(1)「顧客中心主義」の徹底、(2)「仕組みの差別化」の構築、(3)「企業生態系」の形成に基づき行われています。「顧客中心主義」の徹底とは、より安い手数料・より良い金利でのサービス、金融商品の一覧比較、魅力ある投資機会、安全性と信頼性の高いサービス、豊富かつ良質な金融コンテンツの提供といった、真に顧客の立場に立ったサービスを徹底的に追求するものです。「仕組みの差別化」の構築とは、インターネット時代における競争概念の劇的な変化に対応すべく、単純な個別商品・サービスの価格や品質で差別化するのではなく、顧客の複合的なニーズに応える独自の「仕組み」を構築し、そのネットワーク全体から価値を提供することを意味します。また、「企業生態系」の形成とは、構成企業相互のポジティブな相乗効果を促進し、それぞれのマーケットとの相互進化のプロセスを生み飛躍的な企業成長を実現させるものでありますが、当企業グループにおいては、グループ企業間及び国内外の他の企業グループとの相互作用を通じてネットワーク価値を創出する「企業生態系」の形成を重視した経営を展開していきます。
これらの基本観の実践を通じ、当企業グループは事業領域や事業規模を加速度的に拡大してきました。例えば、証券・銀行・保険事業を中心とする金融サービス事業では、競合他社を圧倒的に凌駕する口座数や預り資産などの顧客基盤のほか、マーケットシェアを獲得しています。現在、当企業グループ全体の顧客基盤は2,700万を超えるなど順調に拡大しているほか、外部の各種顧客満足度調査においても高い評価をいただいています。
目標とする経営指標
当企業グループでは、資本効率を考慮しながら、「金融イノベーター」や「新産業クリエーター」として、事業の「選択と集中」で回収した資金を成長分野や革新的な事業展開を可能とする分野へ再投資することで、グループ全体としての持続的な成長を目指しています。このように、経営資源を国内外の注力分野に投下することで、さらなる利益成長につなげ、自己資本利益率(ROE)を10%以上の水準で維持することを目標に掲げています。
また、当企業グループは、株主への利益還元を充実させることを、株主価値を高めることにつながる重要な経営施策の1つとして捉え株主還元を決定しています。当社では、株主還元の基本方針として、配当金総額と自己株式取得額の合計により算出される総還元性向に関して、当面の間は原則として親会社の所有者に帰属する当期利益の40%を下限として株主還元を実施することを謳っています。
このほか、当企業グループが創業以来掲げる「顧客中心主義」の考え方に基づき、常に顧客の目線に立った商品ラインナップ拡充や、便益性の高い多様なサービスの提供を図ることで、業界最高水準のサービス提供を目指しています。そのため、当企業グループの金融サービス事業各社では、第三者評価機関が実施する顧客満足度調査において、継続して高評価を得ることを志向しています。
中長期的な経営戦略
当企業グループは、1999年の創業以来、日本国内においてインターネットをメインチャネルとし、証券・銀行・保険をコア事業とする金融サービス事業において企業生態系の構築を進めてきました。この企業生態系は2016年に完成し、世界的に見ても極めてユニークな総合金融グループが誕生しました。また、創業以来、国内外において次世代の成長産業への注力投資やアジア地域を中心とした成長著しい国々への投資を積極的に行い、ベンチャー企業等の育成にも取り組んできました。
近年、金融業界だけでなく様々な業界において、AIやブロックチェーン・分散台帳技術(DLT)を中心にそれらと親和性の高いビッグデータ、IoT、ロボティクス等の先進技術の導入が急速に進んでいます。そうした中、今後も引き続きこれらの先進技術における有望な企業への投資や提携を積極的に進めると共に、当社グループの各金融サービスでこれらの先進技術を活用した新サービスの開発や新たな金融ビジネスの創造に向けた取り組みを強化し、競争力を高めて他社との差別化を図っていきます。
当企業グループでは、これまでに築き上げてきた事業基盤のさらなる拡充に向け、様々なアライアンス戦略を積極的に推進しています。
最近では、2020年4月28日にメガバンクグループであるSMBCグループと、スマートフォン向け金融サービスなどのデジタル分野に加え、対面証券ビジネス分野や投資分野、地方創生分野等の幅広い事業領域における協業を目指す、戦略的資本・業務提携に関する基本合意を締結しました。SMBCグループとは、既に株式会社三井住友銀行によるマネータップ株式会社への資本参加のほか、SBI R3 Japan株式会社への資本参加を通じた貿易金融分野での分散台帳技術プラットフォームの早急な活用・普及に関する提携を行っています。今後は、デジタルおよび対面ビジネス分野など様々な事業分野で各社の強みを活かし、両グループの顧客にとっての一層の利便性向上を目指します。
また、当企業グループは社会的使命の一つとして地方創生に寄与するべく、マイナス金利政策や高齢化社会の到来等により、厳しい経営環境下に置かれる地域金融機関の課題解決をサポートすると共に、地方産業の活性化に直接的に貢献する様々な取り組みも進めています。その実現に向けては、地域金融機関との一層の関係強化を通じた価値共創を図っているほか、地方創生を推進するための戦略指針の提示や企画立案を行う統括会社(地方創生パートナーズ株式会社)を数社のパートナー企業と共に設立することを計画しています。この統括会社の傘下に、地域金融機関への勘定系システムを含む共通システムの提供や、収益力強化に向けた施策の提供、多様なテクノロジー・ノウハウの活用のほか新たな発想で地方経済の活性化を推進する機能提供などを行う会社(SBI地方創生サービシーズ株式会社)と、地方創生に資するベンチャー企業等の投融資などを行う会社(SBI地方創生投融資株式会社)を設立し、様々な業界から新たな出資パートナーを受け入れる予定です。
さらに、フィンテックの進展などから異業種の参入が加速し、銀行機能のアンバンドリング化が進む中、当企業グループでは住信SBIネット銀行が新規株式公開に向け、アンバンドリング化した同社の銀行機能をパートナー企業に提供するネオバンク構想を強力に推進しています。
このほか、当企業グループは次世代の証券事業の形を見据え、オンライン取引での売買手数料や現在投資家が負担している一部費用の無料化を図るネオ証券化を進め、より一層の顧客便益性の向上を図っています。現在、利益への影響が小さい施策から段階的に実施し、株式会社SBI証券の営業収益に占める委託手数料の構成比を5%以下にすることを前提に、オンラインでの現物・信用取引の手数料無料化の実現を目指しています。今後は、FXや暗号資産関連、M&A仲介、資産運用等の事業領域における国内外でのM&Aを積極的に検討し、証券事業における委託手数料への依存度をさらに下げていく方針です。
現在も世界的に感染拡大が続く新型コロナウイルスの影響を受け、株式・為替市場が急変するなど金融リスクが高まる一方で、様々な社会変化が加速度的に進んでいると言えます。当企業グループは、そのような社会変化を捉えた取り組みを強化することで、新型コロナウイルスの収束時期が定かでない中でも持続的な成長を続けられるよう努めています。
例えば、マネータップ株式会社では、不要な接触や衛生面でのリスク低減から注目が集まるキャッシュレス化の潮流を捉え、事業拡大を目指しています。また、社会的分断を受けて、より一層幅広い業種における導入が予想されるブロックチェーンを活用した取り組みを進め、従来の金融サービスにない利便性や公益性を追求した事業の創出等を計画しています。このほか、デジタルトランスフォメーションの進展に伴うサイバーセキュリティ対策ニーズに対応するサービス等を提供し、社会問題の解決にも貢献します。さらに、急速な社会変化に対応する技術等を有するベンチャー企業への積極的な投資を引き続き行うと共に、感染症への対策として関心が高まるバイオ・ヘルスケア分野のベンチャー企業への投資拡大を検討しています。
最後に、当企業グループ全体を通じた課題としましては、急速に拡大した事業を支える優秀な人材の確保と社員の能力開発を通じて人的資源の継続的な向上を図ることがますます重要となっています。そのため、当社グループの経営理念に共感する優秀な人材の採用活動のさらなる強化と共に、独自の企業文化を育み継承する人的資源の確保として新卒採用を継続して実施しています。2006年4月から採用を進めてきました新卒採用者は、急速に拡大する当社グループの未来を担う幹部候補生として、既に各々重要なポジションで活躍をしています。今後もより優秀かつグローバルな人材の確保と、社員のキャリア開発を促進し、当社グループの持続的な成長と発展を図っていきます。