有価証券報告書-第24期(令和3年4月1日-令和4年3月31日)

【提出】
2022/07/27 11:30
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【項目】
132項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当期末現在において当企業グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当企業グループは、Strategic Business Innovator(戦略的事業の革新者)として、創業時から常に時流を捉え、革新的な事業を創造することを目指しています。同時に、企業は社会に帰属しているからこそ存続できるという考えのもと、事業を通じて、社会の維持・発展に貢献することを志しています。
また、当企業グループには、持続的に成長する企業グループであり続けるため、今後も継承すべきと考える企業文化のDNAが4つあります。それは、常にチャレンジし続けるために「起業家精神を持ち続けること」、「スピード重視」の意思決定と行動、過去の成功体験に捉われず「イノベーションを促進すること」、環境の変化を敏感に察知して「自己進化し続けること」です。
そして、全ての役職員が共有する規範として、当企業グループでは5つの経営理念を掲げています。
当企業グループの5つの経営理念
正しい倫理的価値観を持つ
「法律に触れないか」、「儲かるか」ではなく、それをすることが社会正義に照らして正しいかどうかを判断基準として事業を行う。
金融イノベーターたれ
従来の金融のあり方に変革を与え、インターネットの持つ爆発的な価格破壊力を利用し、より顧客便益性を高める金融サービスを提供する。
新産業クリエーターを目指す
21世紀の中核的産業の創造及び育成を担うリーディング・カンパニーとなる。
セルフエボリューションの継続
経済環境の変化に柔軟に適応する組織を形成し、「創意工夫」と「自己変革」が組織のDNAとして組み込まれた自己進化していく企業であり続ける。
社会的責任を全うする
当企業グループ各社は、社会の一構成要素としての社会性を認識し、さまざまなステークホルダー(利害関係者)の要請に応えつつ、社会の維持・発展に貢献していく。
当企業グループでは、企業価値は顧客価値の創出を土台に、株主価値及び人材価値を加えた3つの価値が相互に連関する好循環を生むことによって増大していくと認識しています。創業以来、掲げてきた価値観である「顧客中心主義」を徹底的に実践することで、お客様のために、投資家のために、より革新的なサービス、ビジネスの創出に努め、顧客価値、株主価値、人材価値の総和たる企業価値の極大化を追求します。
(2)経営環境及び対処すべき課題等
当企業グループの組織構築の基本観
当企業グループの組織構築は常に3つの基本観、即ち(1)「顧客中心主義」の徹底、(2)「仕組みの差別化」の構築、(3)「企業生態系」の形成に基づき行われています。「顧客中心主義」の徹底とは、より安い手数料・より良い金利でのサービス、金融商品の一覧比較、魅力ある投資機会、安全性と信頼性の高いサービス、豊富かつ良質な金融コンテンツの提供といった、真に顧客の立場に立ったサービスを徹底的に追求するものです。「仕組みの差別化」の構築とは、インターネット時代における競争概念の劇的な変化に対応すべく、単純な個別商品・サービスの価格や品質で差別化するのではなく、顧客の複合的なニーズに応える独自の「仕組み」を構築し、そのネットワーク全体から価値を提供することを意味します。また、「企業生態系」の形成とは、構成企業相互のポジティブな相乗効果を促進し、それぞれのマーケットとの相互進化のプロセスを生み飛躍的な企業成長を実現させるものでありますが、当企業グループにおいては、グループ企業間及び国内外の他の企業グループとの相互作用を通じてネットワーク価値を創出する「企業生態系」の形成を重視した経営を展開していきます。
これらの基本観の実践を通じ、当企業グループは事業領域や事業規模を加速度的に拡大してきました。例えば、証券・銀行・保険を中心とする金融サービス事業では、競合他社を大きく上回る口座数や預り資産などの顧客基盤のほか、マーケットシェアを獲得しています。現在、当企業グループ全体の顧客基盤は4,200万を超えるなど順調に拡大しているほか、外部の各種顧客満足度調査においても高い評価をいただいています。
目標とする経営指標
当企業グループでは、資本効率を考慮しながら、「金融イノベーター」や「新産業クリエーター」として、事業の「選択と集中」で回収した資金を成長分野や革新的な事業展開を可能とする分野へ再投資することで、グループ全体としての持続的な成長を目指しています。このように、経営資源を国内外の注力分野に投下することで、さらなる利益成長につなげ、親会社所有者帰属持分当期利益率(ROE)を10%以上の水準で恒常的に維持することを目標に掲げています。
また、当企業グループは、株主への利益還元を充実させることを、株主価値を高めることにつながる重要な経営施策の1つとして捉え株主還元を決定しています。当社では、2022年3月期までの株主還元の基本方針として、配当金総額と自己株式取得額の合計により算出される総還元性向に関して、原則として親会社の所有者に帰属する当期利益の40%を下限として株主還元を実施することを謳っていますが、キャッシュ・フローを伴わない営業投資有価証券の公正価値評価損益の総額が連結税引前利益に占める水準によっては、連結税引前利益より公正価値評価損益の総額を控除する等の調整を実施した上で還元額を決定することとしていました。2023年3月期には、後述の通り管理会計上の事業セグメント区分の変更を予定しています。そのため、2023年3月期以降の総還元額の水準については、当面の間は事業セグメント区分変更後の金融サービス事業において定常的に生じる税引前利益の30%程度を目安として総還元額を決定することとします。
このほか、当企業グループが創業以来掲げる「顧客中心主義」の考え方に基づき、常に顧客の目線に立った商品ラインナップ拡充や、便益性の高い多様なサービスの提供を図ることで、業界最高水準のサービス提供を目指しています。そのため、当企業グループの金融サービス事業各社では、第三者評価機関が実施する顧客満足度調査において、継続して高評価を得ることを志向しています。
中長期的な経営戦略
当企業グループは、1999年の創業以来、日本国内においてインターネットをメインチャネルとし、証券・銀行・保険を中心とする金融サービス事業において企業生態系の構築を進めてきました。この企業生態系は2016年に完成し、世界的に見ても極めてユニークな総合金融グループが誕生しました。また、創業以来、国内外において次世代の成長産業への注力投資やアジア地域を中心とした成長著しい国々への投資を積極的に行い、ベンチャー企業等の育成にも取り組んできました。
近年、金融業界だけでなく様々な業界において、AIやブロックチェーン・分散台帳技術(DLT)を中心にそれらと親和性の高いビッグデータ、IoT、ロボティクス等の先進技術の導入が急速に進んでいます。そうした中、今後も引き続きこれらの先進技術における有望な企業への投資や提携を積極的に進めると共に、当企業グループの各金融サービスでこれらの先進技術を活用した新サービスの開発や新たな金融ビジネスの創造に向けた取り組みを強化し、競争力を高めて他社との差別化を図っていきます。
当企業グループでは、中期的にその実現を目指すものとして当企業グループのビジョンを定めています。2021年4月には、2022年3月期を起点とし3~5年での達成を目指す中期ビジョンを策定しました。
この中期ビジョンにおいて、第一に、既存事業・新規事業(※1)ともにグループ内企業やアライアンスパートナーとのシナジーを徹底追求することで、本期間中に連結税引前利益3,000億円超の達成を目指しており、このとき、新規事業の税引前利益の総額が連結税引前利益に占める割合が20%程度となるよう、新規事業の育成を図ることとしています。第二に、グループ各事業においてオーガニック・グロースだけでなく、M&A等も活用した成長を図ることで、ROEは10%以上の水準を恒常的に維持することを目指すとしています。
(※1)新規事業とは、暗号資産関連やブロックチェーン等の革新的技術を活用した事業や2018年4月以降にM&Aによりグループ入りした事業を指す。
当企業グループでは、中期ビジョンの実現に向けた今後の2~3年を見据え、金融・非金融それぞれの分野において必達であるものを「Must」、規制や制度改革を見据えつつグループとして達成を目指すものを「Want」という2つの視点でカテゴライズした新たな重点戦略を立て、その達成に向けて様々な施策を実行します。
「Must」とする重点戦略(金融)
(1) 資本業務提携先の地域金融機関10行の達成と本格的な質的転換を目指した取り組みの完遂
(2) SBIグループ全体の運用資産残高を10兆円超の水準とする目標の達成
「Want」とする重点戦略(金融)
(3) ネオ証券化の実現による顧客基盤の飛躍的拡大を背景に、証券業界の再編を主導し、業界地位の向上及び証券市場や商品・サービスの高度化に貢献する
(4) 個人金融資産の「現金・預金」比率の50%から30%への引き下げに寄与するべく「貯蓄から資産形成へ」を推進する施策を強化
(5) 保険事業において国内外での買収等を通じた事業規模の大幅な拡大を目指す
(6) 資本効率の高いノンバンク事業を集約し、将来的に「SBIノンバンクホールディングス」を設立
(7) SBIグループは一丸となり、大阪の戦略特区を後押しし、国際金融センター構想を支援
「Must」とする重点戦略(非金融)
(8) デジタルスペース時代の先駆者としての知名度獲得に向けたブランディングの展開
「Want」とする重点戦略(非金融)
(9) SBIグループは先端技術やリソースを保有する投資先・提携先企業と協同で、日本の国家戦略に合致する環境・エネルギー等の様々な事業を展開
(10) プラットフォーム事業、とりわけメタバースを含むWeb3.0における制度やインフラ構築に貢献
金融分野の「Must」(1)については、当企業グループではこれまで、地域社会・経済の要である地域金融機関との共創を通じて、国家プロジェクトでもある地方創生の具現化を目指してきました。2022年6月末時点、9行の地域金融機関と戦略的資本・業務提携を行っており、当企業グループの経営資源の状況に鑑み最大10行までの拡大を想定しています。今後は「リージョナルからネーションワイドへ」を実現する事業展開を支援し、地域金融機関のみならず、その顧客である地域企業の活性化にも資する施策を加速していきます。
金融分野の「Must」(2)については、プライベートエクイティを含む当企業グループの運用資産残高は、株式会社新生銀行の連結子会社化もあり、2022年3月末時点で6兆円を突破しています。2022年5月には岡三証券グループ傘下の岡三アセットマネジメント株式会社の合弁会社化に向けて基本合意書を締結しており、今後もM&A等も積極的に活用し運用資産残高のさらなる拡大を図ります。
金融分野の「Want」としては、(3)(5)(6)といった金融サービス事業を安定的に成長させるための施策とともに、(4)(7)といった国家目標に合致した戦略の推進にも取り組んでいきます。
非金融分野については、当企業グループでは、今後の注力領域であるデジタルスペース分野において、圧倒的な先進性を有するデジタルスペース生態系の確立を目指していることから、(8)を「Must」の重点戦略として掲げています。デジタル世代へのアプローチを強化することで、将来の顧客創出へと繋げていきます。
非金融分野の「Want」(9)については、「道の駅」を通じた地域活性化、自治体へのリサイクル燃料製造システムの普及、地域通貨事業の全国への拡大などにより、国家戦略である地方創生に資する取り組みを推進していきます。
また(10)においては、自主規制団体・業界組織の設立に携わるほか、セキュリティートークンの発行・流通市場の整備や、NFTマーケットプレイス事業への本格進出、ブロックチェーン・分散台帳技術(DLT)を活用したトレーサビリティ・サービスの提供などに取り組んでいきます。
なお、当企業グループは3つの事業セグメントを設けていましたが、株式市場などのマーケット環境が各事業セグメント内の特定事業に大きな影響をもたらしていたことや、今後Web3.0関連等の非金融分野の事業が拡大すると想定される中でその所属が不明瞭になるなどの問題が顕在化したことから、2023年3月期より事業セグメントの変更を管理会計上実施する予定です。金融分野・非金融分野に大別した上で、5つの事業セグメント区分へと再編します。
〈変更前〉
・金融サービス事業
・アセットマネジメント事業
・バイオ・ヘルスケア&メディカルインフォマティクス事業
〈変更後〉
「金融分野」
・金融サービス事業
・資産運用事業
・投資事業
・暗号資産事業
「非金融分野」
・非金融事業
変更後は、マーケット環境の影響を受けやすいセグメントと受けにくいセグメントが明確になり、より機動的な経営判断を行うことが可能となるほか、金融サービス事業が安定的なキャッシュ・フローを生み出すセグメントとして明確になることで、配当等の株主還元施策を見通し易くなります。またWeb3.0や海外の新市場での事業展開等といった、当企業グループの先進的な取り組み状況の明確化も期待されます。
最後に、当企業グループ全体を通じた課題としましては、急速に拡大した事業を支える優秀な人材の確保と社員の能力開発を通じて人的資源の継続的な向上を図ることがますます重要となっています。そのため、性別、国籍、人種等に関わらず当企業グループの経営理念に共感し即戦力となる優秀な人材の採用活動のさらなる強化と共に、独自の企業文化を育み継承する人的資源の確保として新卒採用を継続して実施しています。2006年4月から採用を進めてきました新卒採用者は、急速に拡大する当企業グループの未来を担う幹部候補生として、既に各々重要なポジションで活躍しています。今後もより優秀かつグローバルな人材の確保と、社員のキャリア開発を促進し、当企業グループの持続的な成長と発展を図っていきます。なお、2022年4月からは新卒初任給及び入社3年目までの給与テーブルの大幅な引き上げを実施し、6月には役職員全員にグループ連結業績を反映させた報酬制度を導入しています。また、SBI大学院大学の活用による人材教育の拡充やM&A等を通じた優秀な即戦力人材の獲得も併せて促進していきます。これらの取り組みを通じて人材価値の向上を図り、当企業グループの持続的な成長と発展に繋げていきます。