有価証券報告書-第12期(平成26年4月1日-平成27年3月31日)

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2015/06/29 15:34
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64項目

事業内容

当社は愛媛大学発の医工連携ベンチャーとして、「熱」により腫瘍を治療する医療機器の研究開発を目的として、平成15年に設立されました。
これまで当社は、約60℃付近の領域の「熱」が難治性腫瘍の治療に有効であることを明らかにし、その治療原理を応用した医療機器を研究開発及び製造販売する事業を展開しております。
事業の系統図は以下のとおりであります。
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(1)新医療機器の開発事業について
一般的に新医療機器の開発に際しては、原理研究から始まり、基礎実験(基礎研究)、非臨床試験、臨床試験、厚生労働省への承認申請、医療機器としての承認取得を経て、はじめて患者様への提供が可能となります。
また、臨床試験(治験)は、医療機器探索的治験(医薬品の第Ⅰ相、第Ⅱ相臨床試験に相当)と、医療機器検証的治験(医薬品の第Ⅲ相臨床試験に相当)に分けられます。(下図参照)
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(2)熱によるがん治療の歴史
古来より、マラリアなどで高熱を発したがん患者が、自らの高熱によりがんが縮小したとする伝承はありましたが、近代的なハイパーサーミア(温熱療法)の概念の最初は1866年ドイツの医師W.ブッシュによる「高熱による腫瘍消失」の報告にあると考えられます。
その後、1900年頃にアメリカの医師W.B.コリーが細菌毒素による局部加温を試み、1960年代後半から欧米にて実験的研究が相次いで開始・発表され、癌に対する「熱」の効果や、有効な加温方法などが明らかにされてきました。
現在では、3大治療法(外科的切除、放射線、抗がん剤)では十分な治療効果が得られない場合の新たな治療法の選択肢として「熱」や免疫などが有力視されている一方で、特に「熱」については、未だ十分に研究されているとは言い難い状況です。
そこで当社は、新たな治療選択肢として「熱」の応用を研究し、それを実現する医療機器の研究開発を行なって参りました。
(3)当社が提案・提供する「高温ハイパーサーミア治療」について
腫瘍組織が健常組織に比べ「熱」に弱いことを利用するのが「温熱療法」と呼ばれる治療法ですが、従来は、癌細胞にダメージを与え、かつ健常細胞を極力傷つけないとされる温度の43℃を選択的に狙った治療(ハイパーサーミア治療)か、または100℃を超えるような高温で一気に周囲の健常細胞ごと焼灼する治療(アブレーション治療)が臨床応用されて来ました。
それぞれの治療法には一長一短がありますが、当社はそれらとは一線を画し、入熱治療後の組織再生、アポトーシス誘導、有害事象の有無、蛋白の不可逆的変性、細胞死のしくみ、腫瘍の再発などを多くの動物実験を行って検証し、またRNAの働き、免疫賦活の可能性、他の治療法との併用性、低侵襲性などを考慮した結果、約60℃付近の領域の熱を患部にゆっくり作用させる方法が最も適しているとの結論に達し、この温度領域を「高温ハイパーサーミア」と呼び、従来ほとんど臨床応用されてこなかったこの高温ハイパーサーミア領域の温度を腫瘍治療に応用するための最適なデバイス(医療機器)を研究開発し、それらを総合して「高温ハイパーサーミア治療」として提案・提供しております。
後述しますが、当該治療法のヒトでの臨床試験(治験)を推進する一方で伴侶動物(獣医療分野)向けには既に上市済みで、また学会発表等も多く行なっております。
(4)「高温ハイパーサーミア治療」の実際について
当社が保有し、「高温ハイパーサーミア治療」に用いる技術は、特許化した技術を含め、発熱技術、熱伝導技術、デバイス(医療機器)技術などですが、大きく分けて以下の2とおりがあります。
いずれの技術も体内に一切通電することがなく、また正確な温度制御や加熱範囲の制御が可能なことなどが他の医療機器に対する、比較優位性を有していると考えております。
① 交流磁場誘導発熱技術
② 微細電気抵抗発熱技術
当社は、上記技術を疾患に応じて使い分けることを試みています。
まず、①の技術を使っている例として、現在医療機器探索的治験を終えたヒト子宮頸部高度異形成用の機器があります(後述)。これは、磁性金属をインプラント型にして患部に穿刺し、外部アプリケータからの交流磁場により誘導加熱の原理(IHの原理)で遠隔発熱させ、患部を一定時間約60℃に保持して治療するものです。また、磁性材料をインプラント型ではなくナノ微粒子にして血管等を経由して患部にデリバリーさせ、磁場誘導で遠隔発熱させる研究も行なっております。
次に、②の技術は、病変部が目視または画像描出できる場合、自社開発した微細径の温度制御機能付き自己発熱針を患部に穿刺し、針内側を電気抵抗で発熱させ、患部を一定時間約60℃にして治療するものです。この技術を使っている例として、農林水産省から受理され上市中の動物用治療機器(商品名AMTC200)があります(後述)。外科的切除が適応にならない症例を中心に100以上の獣医療施設で用いられております。
また、当該微細発熱針をさらに超微細径化して健常細胞への侵襲を防ぎ、かつ薬剤や免疫細胞療法と併用が可能なヒト用のデバイスも開発中であり、再発進行がんを対象とした医師主導の臨床研究を実施しております。
(5)具体的な治療について
① ヒト子宮頸部高度異形成を対象とした臨床試験(治験)
有効な医薬品がなく、放射線も適用されないヒト子宮頸部高度異形成(前がん病変)は、従来の外科的切除術では子宮頸部の機能を損傷し妊娠出産や周産期に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。そこで子宮頸管を短縮せず、かつ病変を消失させる治療法として、当社の「高温ハイパーサーミア治療」による医療機器の臨床試験(治験)を愛媛大学付属病院で実施し、医療機器探索的治験が終了しました。
その結果、全症例とも対象病変(高度異形成)が消失し、かつ明らかな有害事象も認めない、との結果を得ましたので、引き続き医療機器検証的治験を目指しております。
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② 伴侶動物(獣医療分野)への展開(上市済み)
もはや家族の一員となったペットの罹患率は、ペットの寿命が伸びたことなどの理由から増加しており、その治療ニーズは高まっています。そこで当社は、自由診療が前提となっている動物病院の経営に配慮した低コストな動物用治療機器(商品名AMTC200)を農林水産省受理のもと上市済みです。当該機器の奏効率が約7割であるとの学会報告もなされております。多くは、進行症例で用いられますが、患部が退縮することで高いQOLが得られます。
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上の症例は犬の下顎に発生した悪性腫瘍です。いちど外科的切除で取り除きましたが再発したため、AMTC200による治療が選択されました。再発であることからステージは進行しており、その後も再発を繰り返しましたが、その都度当社の治療で腫瘍は退縮し、別の原因(心疾患)で死亡するまで高QOLを維持し続けました。外科的切除や放射線、抗がん剤などのいわゆる標準的な3大治療法は、いずれ限界がきてしまい適応から外れてしまうことが多いのですが、この症例のように、再発など進行したステージにおいても繰り返しの治療が可能である点も特長となっております。
③ 再発・進行がんへの展開(研究開発)
ヒト進行がんの場合、いわゆる3大治療法が適応外になることがあり、その場合「熱」や「免疫」による治療が選択されることがあります。「免疫細胞療法」は、近年急速に進化したiPS細胞療法などの再生医療に分類され非常に期待されていますが、免疫細胞療法単独では、腫瘍を退縮させる効果には限界があるとされています。そこで、当社の「高温ハイパーサーミア治療」と「免疫細胞療法」を併用することにより、進行がんの治療効果を高める研究開発を実施中であり、開発したデバイスを提供した臨床研究を行っております。
(6)当社の収益モデルについて
① 第Ⅰ種医療機器製造販売業による収益
現行の改正薬事法では、全ての医療機器においてその品質や安全性を確保するため、「医療機器製造販売業」を経由して(下図フロー)出荷検査することが義務付けられており、当社は「第Ⅰ種医療機器製造販売業」および「第Ⅰ種動物用医療機器製造販売業」の許可を取得済みです。また、当社は、医療機器の製造を「医療機器製造業」許可を有する企業に委託するいわゆる「ファブレス」に該当し、製造リスクは回避されるものの収益が設計開発や特許保有などのマージンに限られますが、当該法定フローに乗せて製品(医療機器)を流通させることで当社も対価を得ることができ、収益を最大化できるスキームとしています。
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② ディスポ(使い捨て品)による収益
医療機器本体の販売による利益とは別に、ヒト用の各機種では、感染などの衛生上の理由から厚生労働省ガイダンスに従い、患部に穿刺した加熱針を再使用することなくディスポーザブル(使い捨て)とします。
これにより、治療ごとに一定の収益が確保されます。
③ 自由診療や臨床研究による収益
我が国では保険適用以外で自由診療が認められる場合があります。治験を行い上市するまでには膨大な時間と労力、経費を要する一方、その間は患者様へのメリットはありません。そこで一定条件を満たせば認可前であっても自由診療や臨床研究が可能な場合があり、当社は医師や医療機関と協力しながら、患者様への提供と当社収益の確保を行ないます。
(用語解説)
用語意味・内容
臨床試験(治験)薬事承認の取得を目的として、未承認の医薬品候補や機器をヒトに投与または使用して臨床的データを収集し、安全性や効果(有効性)を検証する試験のことです。
アブレーション治療アブレーションとは取り除く、という意味ですが、高周波などの物理的手段により患部を焼き切る(焼灼する)ことを指す場合もあります。
アポトーシス誘導細胞が自分で消滅する現象(自然死)を誘導することです。
不可逆的変性一度変性すると決して元には戻らないことをいいます。
RNADNAとともに核酸で遺伝情報を担っていますが、DNAは生体内での働きが異なり、RNAは主にその情報の一時的な処理を担っています。
免疫賦活免疫を活発にする(活性化する)ことです。
低侵襲性身体に及ぼす物理的負担や影響が小さいことです。
化学的療法化学物質(抗がん剤等)を用いてがん治療を行なうことです。
磁性金属磁性を帯びた金属のことです。
インプラント例えば人工関節のように、体内に留置される器具のことです。
ナノ微粒子物質をナノメートルのオーダー(1-100ナノメートル)の微粒子にしたものです。
磁場誘導電流を流すとその周りに磁界が発生する現象ですが、逆に磁界をかけると導体に電流が発生し、その電気抵抗で導体が発熱します。
免疫細胞療法ヒトや動物が本来持っている免疫細胞の機能を様々な方法で高め、その活性化された免疫細胞にがん細胞を攻撃させる治療法です。
異形成(異型細胞)がん化した、とまではいえませんが、明らかに正常細胞ではない状態に変化した細胞または組織のことです。
扁平上皮系組織皮膚、食道、子宮頸部などの体面や、臓器を被っている組織のことです。
罹患率発生率ともいい、一定期間に発生する患者数(罹患者数)が全人口に占める割合のことです。
QOLQOL(Quality of Life)は、「生活の質」と訳され、人間らしく、満足して生活しているかを評価する概念のことです。
iPS細胞療法iPS細胞とは、どんな細胞にでも分化できる「万能細胞」のことで、それを使って行なう再生医療などを総称してiPS細胞療法と呼ばれています。