有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2018/08/21 15:30
【資料】
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【項目】
100項目

対処すべき課題

本項における将来に関する事項は、別段の記載がない限り、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針・経営戦略等
当社グループは、保険業における社会的責任と公共的使命を深く認識し、正しい倫理的価値観を持ったうえで、多くのお客様に安心をお届けすることを目指し、グループ経営基本方針を次のとおり定めております。
(お客様の利便性の追求)
保険事業におけるイノベーターとして、顧客の便益を高める商品・サービスを提供する保険グループを目指します。
(グループ一体の成長戦略)
商品・チャネル・規制等の異なる保険各社間のシナジーを発揮し、グループ一体となった成長を目指します。
(効率化な経営と顧客への還元)
グループ全体で効率的な経営を実現し、その成果を顧客に還元することを目指します。
(2)経営環境及び対処すべき課題
今後の経済動向につきましては、海外経済の不確実性や金融資本市場の変動の影響等の不透明要素はあるものの、雇用・所得情勢の改善をはじめとして、国内景気は穏やかに回復していくものと思われます。
損害保険市場は、正味収入保険料ベースで平成18年度に7兆5,372億円に達した後、サブプライム住宅ローン問題に端を発する世界的金融危機の影響もあり平成22年度には6兆9,710億円まで減少しましたが、平成23年度以降は5年連続で増加するなどの回復をみせ、平成28年度時点で8兆2,439億円となるなど近年市場規模は徐々に拡大傾向にあります。このような拡大の背景としては、収入保険料の約5割を占める自動車保険や約2割を占める火災保険の保険料率改定等による増収とともに、新たな産業の創出に伴って、リスクが生まれ、賠償責任保険等の新種保険についての保険ニーズが高まっていることが考えられます。これらの要因によって、損害保険市場は、自動車保険や火災保険の保険料率の改定等の影響を受けるものの、新たな保険ニーズの創出により今後も緩やかな拡大が続くものと当社グループでは見込んでおります。また、少子高齢化に伴う運転者の減少や人口の都市中心部への集中が起こることで、自動車保険中心の市場構成が緩やかに多様化していくことが見込まれるものと当社グループでは考えております。
こうした市場環境の中、損害保険市場における最大種目である自動車保険分野においては、大手3メガ損保が87%を占め、SBI損害保険株式会社を含むダイレクト型損保勢が8%、その他が5%を占有する市場構造となっています。かつては急速なモータライゼーションの波に乗って市場が著しい伸長を遂げ、各損害保険会社は自動車ディーラー等を中心とした代理店ネットワークを駆使して商品を流通させてきました。しかしながら将来的に総人口が減少し、自動車台数が減少に転じ、中長期的には市場が緩やかに収縮していくと考えられることから、こうした今後の局面においてはリアルな代理店網を主たる販売チャネルとする高コスト構造のビジネスモデルは競争上の足枷となり、SBI損害保険株式会社を含むダイレクト損保にとってはシェア拡大の千載一遇の商機であると当社グループでは考えております。ダイレクト損保全体としては堅調な成長を続けており、今後もこのトレンドが継続するものと捉えております。
生命保険の市場規模(保険料等収入)は、近年35兆円前後で推移しております。伝統的な死亡保障関連の商品市場は今後緩やかに縮小していくものと考えられますが、医療保険やがん保険などいわゆる「第三分野」商品の保険ニーズが高まっており、生命保険市場は今後も一定規模を維持することが見込まれています(株式会社みずほ銀行産業調査部「特集:日本産業の中期見通し([Focus]生損保)」より)。
個人保険分野においては、国内総人口が減少、平成37年(2025年)には、「団塊の世代」層すべてが後期高齢者(75歳以上)となり、生命保険の加入中核層である30~40歳代の働き盛り世代の人口が減少することが予想されています。加えて、単身と核家族といった世帯数の増加、とりわけ、女性の単身世帯の増加が顕著になるなど、総人口の減少とともに少子高齢化・家族構成の変化が進み、生命保険に対するニーズが多様化しています。
また、家計の実収入が伸びない中で、高所得者層と低所得者層の二極化が進み、30~40歳代の働き盛り世代の非正規雇用者の増加など、家計における保険料の支出割合の低下が見込まれます。このような状況は、“保険のリストラ”が必要となる顧客の比率を高め、自分のリスクに見合った保険商品を能動的に選択する顧客が増加すると当社では予想しております。
他方、団体信用生命保険分野においては、住宅ローン市場全体の実行残高は、年によって伸び率に変動はあるものの、近年増加傾向にあります。今後についても、住宅ローン市場の拡大は見込みにくいものの、借り換え需要を背景に市場が大きく縮小するリスクは少ないと考えております。
少額短期保険業は、損害・生命保険業と比較して法令上の参入規制が緩やかであることから、異業種による参入が多く見受けられます。また、損害保険・生命保険に比べると、その市場規模は相対的に小規模ではあるものの、毎年順調な市場拡大を続けており、現在では年間の収入保険料が900億円を超える規模へと成長しています(一般社団法人日本少額短期保険協会「2017年度 少額短期保険業界の決算概況について」より)。
このようなわが国経済や業界の将来展望をも踏まえ、今後も継続的に保険事業を成長させ、より多くの顧客の便益を高めるために、保険事業子会社を統括する保険持株会社である当社がリーダーシップを発揮し、次の課題に取り組んで参ります。
① 業界内における差別化と顧客利便性の追求
以下の3点を重点分野に掲げ、業界内における差別化と更なる顧客利便性の追求を行って参ります。
・価格競争力
顧客中心主義の典型的な具現事例であります。インターネット等を駆使した効率的な顧客アプローチやコスト最適化により圧倒的な価格競争力を獲得し、そのメリットを顧客に還元するものです。
・シナジーネットワーク
SBIグループの顧客基盤は、主にインターネットを通じて築き上げて参りました。すなわちインターネットリテラシーの高い顧客層で構成されているSBIグループの顧客基盤を基礎に、当社グループの各種保険商品の提供を行うことで、より高い効率性をもって当社グループの顧客基盤の拡充を行って参ります。またSBIグループが有する事業ネットワークは多岐に渡り、こうしたネットワークを活用できる優位性を有しております。例えば全国の地域金融機関とのリレーションやSBIグループの投資先である先進技術を保有するベンチャー企業とのネットワークがあり、これらに即時にアクセスできる優位性を活用し新たな事業機会を獲得して参ります。
・テクノロジーの更なる活用
AI・ビッグデータなどの先進技術の導入により、さらに顧客の利便性に資する商品の開発を行うと同時に、事業費の削減を加速するなどの取り組みを行っております。
このように、当社グループの競争力の源泉は、価格競争力を中心とした商品競争力と、SBIグループのシナジーネットワークを活用した効率性を追求した販路にあります。今後について、価格競争力を一層高めるべく、先端技術の活用を積極的に行い、同業他社との更なる差別化を推進して参ります。具体的には、AI・ビッグデータを活用した、損害率の改善を目的とした不正検知モデルの構築や、マーケティングにおける効率的な顧客アプローチモデルの構築等を進めて参ります。また、先端技術の活用を通じて事業費の削減を図る目的で、RPA(Robotic Process Automation)(※)の導入を重点的に推進し、間接部門の生産性向上およびコスト削減に引続き取り組んで参ります。まずSBI損害保険株式会社において先行的に取り組みを開始し、平成29年よりロボットを用いた業務効率化の検討を開始し、平成30年5月より一部の事務業務の一部においてロボットの稼働を開始しております。こうしたノウハウを当社グループ各社間で共有し、当社グループ内での活用範囲を拡大し、一層の生産性向上およびコスト削減を実現して参りたいと考えております。
(※)RPA(Robotic Process Automation)とは、ロボットによる業務自動化の取り組みを表す言葉です。人が行う作業をコンピューター上で再現しようとするAIや、AIが反復によって学ぶ「機械学習」といった技術を用いて、主にバックオフィスにおけるホワイトカラー業務の代行を行う技術やシステムをいいます。
② 保険グループとしての経営基盤の強化と保険グループ形成によるグループシナジーを活かした営業力の強化
当社は、保険事業全体にかかるコンプライアンスやリスクに関する子会社各社の取り組みや課題を集約する司令塔となり、企業価値向上に向けたコーポレート・ガバナンスの強化を図っていくとともに、戦略的パートナーとの提携促進など、持株会社の利点を活かして保険グループ全体の経営基盤の強化を図って参ります。
また、当社を頂点とする保険グループを形成することによって、子会社各社の位置付け・役割を明確化し、保険商品の相互販売の強化・拡充等によってグループシナジーを最大限追求して営業力・収益力を高めて参ります。また、各社の重複業務を洗い出して集約・排除を進め、業務を効率化することで、収益力を強化して参ります。