有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2021/02/18 15:00
【資料】
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【項目】
166項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(経営方針)
当社グループは、「Empower Data, Innovate the Business, Shape the Future.情報に価値を、企業に変革を、社会に未来を。」というビジョンを掲げており、社会に存在する様々なデータを活用することで、多くの企業にイノベーションをもたらし、その結果として、より良い社会を実現することを目指しております。現在、スマートフォンやIoTの普及により、日々生み出されるデータは加速度的に増加して、働き方改革等による業務の効率化のニーズも高まっております。当社グループは、この様々なデータ(ビッグデータ)を「新しい資源」として捉えており、この資源を活用して企業や社会に様々な価値をもたらすソフトウェア及びサービスの提供を行っております。
(当社グループの強みと経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等)
・独自のテクノロジー
当社グループは、創業以来、企業の情報活用に特化した独自の技術開発に取り組んできました。超高速集計、データの仮想統合、IoTデータのリアルタイム処理は代表的な特長的技術であり、当社グループの競争力の源泉となっています。それぞれ技術は高度で難解なものですが、「誰でも簡単」に利用することができ、素早く効果をあげられるようにシンプルで直観的に使用できるユーザーインターフェイス(UI)を備えたソフトウェア及びサービスとして提供しております。なお、研究開発活動及びソフトウェア開発のコア部分は、すべて自社グループ内で行っております。
・強力なビジネスチャネル
当社グループの販売モデルは、パートナーを介した間接販売が主となっております。大都市圏で大企業や官公庁の大型案件を得意とするSIerや地方を拠点とするSIer、特定領域に特化したコンサルティングファームやクラウドシステムの構築を専業とするクラウドSIer等多くのパートナー企業と契約しており、日本全国のシステム開発案件をカバーするソリューション/サービス提供体制を構築しております。これにより、継続的な案件創出と営業コストの抑制が可能となり、効率的な販売活動が可能となっております。
-契約パートナー数推移(注) (社)
旧ウイングアーク1st株式会社ウイングアーク1st株式会社
決算年月2015年2月2016年2月2017年2月2018年2月2019年2月2020年2月
契約パートナー数(累計)220279347439479507

(注)当社パートナー向けプログラム「WingArc1st Relationship Platform(WARP)」において、各区分(インテグレーション、プロダクト、WARP-Associate等)での期末時点における解約パートナーを除いた契約パートナー数の合計。
・厚いリカーリングレベニュー
当社グループが提供するソフトウェア及びサービスについては、ソフトウェアライセンスや導入時のサービス提供等継続的な契約を前提としない取引と、ソフトウェアの保守サポート契約、サブスクリプション契約やクラウドサービスの利用契約のような継続的な契約を前提とした取引により構成されています。継続的な契約を前提とした取引は、導入企業が増加するにつれて年々売上収益が積みあがるリカーリングビジネスと呼ばれる収益モデルであり、これらのビジネスから得られる収益(リカーリングレベニュー)は、当社グループの収益の安定化と継続的な拡大に大きく貢献しております。
-リカーリングレベニュー (単位:百万円)
決算年月2017年2月
(注)3
2018年2月2019年2月2020年2月2021年2月
第3四半期累計
ライセンス/サービス(注)16,2557,1627,6528,2245,136
リカーリング(注)27,0298,4039,63410,4538,331
売上収益合計13,28415,56617,28718,67713,468
リカーリング比率52.9%54.0%55.7%56.0%61.9%

(注)1.ソフトウェアライセンスや導入時のサービス提供等継続的な契約を前提としない取引に係る売上の合計。
2.保守、サブスクリプション(ソフトウェアの購入ではなく、利用期間に応じて料金を収受する契約形態)、クラウド等、継続契約を前提とした取引に係る売上の合計。
3.2017年2月期につきましては、当社の設立は2016年3月7日でありますが、2016年4月14日付で全株式を取得した旧ウイングアーク1st株式会社の事業年度開始の日は2016年3月1日であるため、旧ウイングアーク1st株式会社の2016年3月1日から同年4月13日までの期間の実績及び2016年4月14日から2017年2月28日までの期間の当社の実績を合算し、概算値を記載しております。なお、当該概算値は、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づく監査を受けておりません。
なお、2021年2月期第3四半期連結累計期間(自 2020年3月1日 至 2020年11月30日)における売上収益は、13,468百万円(前年同期比3.4%減)とコロナ禍の影響を受けた一方、ソフトウェア保守の継続的な積み上がりに加え、クラウドが前年同期比3割程度増加した結果、リカーリングは、8,331百万円(同7.6%増)と堅調に成長しております。
四半期毎のライセンス/サービスにつきましては、第1四半期が1,538百万円(前年同期比33.7%減)、第2四半期が1,766百万円(同18.6%減)、第3四半期が1,831百万円(同7.0%増)、リカーリングは第1四半期が2,700百万円(同7.7%増)、第2四半期が2,771百万円(同7.3%増)、第3四半期が2,860百万円(同7.9%増)となりました。
(単位:百万円)
収益モデル区分2021年2月期
第1四半期
2021年2月期
第2四半期
2021年2月期
第3四半期
2021年2月期
第3四半期累計
帳票・文書管理
ソリューション
ライセンス/
サービス
1,0331,1661,2243,425
リカーリング1,7001,7181,7585,177
小計2,7342,8852,9828,602
データエンパワーメントソリューションライセンス/
サービス
5055996061,711
リカーリング9991,0521,1023,154
小計1,5041,6521,7094,865
合計ライセンス/
サービス
1,5381,7661,8315,136
リカーリング2,7002,7712,8608,331
小計4,2384,5374,69213,468

(注)上記表に記載の各数値は金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づく四半期レビューを受けておりません。
(帳票・文書管理ソリューション)
ライセンス/サービスについては、コロナ禍での企業の新規IT投資の抑制や対面活動の制限、既存案件の遅延等により、第1四半期が1,033百万円(前年同期比29.4%減)、第2四半期が1,166百万円(同17.4%減)となりました。一方、第3四半期は、経済活動の正常化、企業のIT投資の再開、当社のオンライン営業体制の確立等によって、1,224百万円(同16.8%増)となりました。
リカーリングについては、保守の高い契約継続率及びリモートワークの拡大によるクラウド帳票需要が増加した結果、第1四半期が1,700百万円(前年同期比4.7%増)、第2四半期が1,718百万円(前年同期比3.0%増)、第3四半期が1,758百万円(前年同期比3.3%増)となりました。
(データエンパワーメントソリューション)
ライセンス/サービスについては、コロナ禍での企業の新規IT投資の抑制や対面活動の制限、既存案件の遅延等により、第1四半期が505百万円(前年同期比41.1%減)、第2四半期が599百万円(前年同期比20.9%減)、第3四半期は606百万円(前年同期比8.5%減)となりました。
リカーリングについては、保守の高い契約継続率及びDX投資をターゲットとする新たなクラウドビジネス展開の結果、第1四半期が999百万円(同13.2%増)、第2四半期が1,052百万円(同15.3%増)、第3四半期が1,102百万円(同16.1%増)となりました。
また、当社グループは契約継続率をリカーリングビジネスの最も重要なKPIの一つとしております。高い契約継続率を維持することによって、既存の契約は最大限維持しつつ、新規契約を積み上げ、持続的な成長を実現してまいります。
-契約継続率(注)1
決算年月2017年2月
(注)2
2018年2月2019年2月2020年2月2021年2月
第3四半期累計
契約継続率93.1%93.4%94.4%93.0%93.5%

(注)1.「SVF」「SPA」「Dr.Sum」「MotionBoard」の保守契約において、当該期間の更新対象契約の総数に対して実際に契約が更新された金額ベースでの割合。
2.2017年2月期につきましては、当社の設立は2016年3月7日でありますが、2016年4月14日付で全株式を取得した旧ウイングアーク1st株式会社の事業年度開始の日は2016年3月1日であるため、旧ウイングアーク1st株式会社の2016年3月1日から同年4月13日までの期間の実績及び2016年4月14日から2017年2月28日までの期間の当社の実績を合算し、概算値を記載しております。なお、当該概算値は、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づく監査を受けておりません。
当社グループは、日本国外に拠点を置く多くの外資系ソフトウェアベンダーと異なり、自社内に営業、開発、サポートすべての機能を有しております。これにより、営業部門やサポート部門が収集した様々な顧客ニーズを開発部門が素早く製品化するといったことが可能となり、当社グループの強みの一つとなっております。
(経営環境)
当社グループの主要な市場である国内ソフトウェア市場は、企業の働き方改革や競争力強化のためのDXへの投資が拡大しており(注1)、2019年度から年平均7.7%と堅調に増加し、2024年度には1兆9,936億円となることが見込まれております(注2)。また、企業においても所有から利用の動きが進んでおり、ソフトウェアを一括で購入するのではなく、ソフトウェアの機能をサービスとして利用し、その対価を月々支払うサブスクリプション型のビジネスが大きく拡大しております。特にサブスクリプションビジネスの代表例であるクラウドサービスにつきましては、2019年度から年平均13.2%成長し、2024年度には1兆1,178億円に達することが見込まれております(注3)。
(注)1.株式会社富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場2020年版(はじめに)」
2.株式会社富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場2020年版(ソフトウェア市場規模推移)」
3.株式会社富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場2020年版(提供形態別動向)」
(成長戦略)
日本の企業や官公庁のITシステムは構築してから長年が経過したものが多く、処理性能の向上や機能追加、新技術への対応等が必要とされており、新しいシステムへの更新需要が高まっています。また、AIやIoTなどの先進技術を用いたデータ活用基盤の導入によるDXに取り組む動きが加速しています。このような状況において、当社グループは電子帳票の管理、流通基盤の機能強化を図るとともに、これまで様々な顧客へソフトウェア及びサービスを提供することで培った知見を活かし、製造、小売、運輸、医療、公共、金融といった「業種・業界」や営業活動のような「業務」に最適化したソリューションの提供を進めております。今後は、顧客の多様化、高度化するニーズに応えながら、提携先とのシナジーを発揮して、主力製品・ソリューションのプラットフォーム型クラウドサービスにも一層注力していく方針です。
(対処すべき課題)
(1)業種・業務に特化したソリューションの推進
これまで当社グループの売上は、基幹システム開発における帳票ソフトウェアの提供を中心とした「帳票・文書管理ソリューション」が大半を占めておりました。しかし、現在では基幹システムへの投資が一巡し、IT投資の主体が、基幹システムを管理する比較的ニーズの画一的な情報システム部門から、業種や業務ごとに多種多様なニーズが存在する事業部門へ移りつつあります。この状況の変化に伴い、当社グループでは、ソフトウェアの提供だけではない、データの価値を最大化する最適なソリューション提案を目的とした「データエンパワーメントソリューション」に注力しております。2020年2月期における「データエンパワーメントソリューション」の売上全体に占める比率は37.1%であり、売上の拡大と共に当該比率の向上に努めてまいります。
①体制の強化
製造、金融、公共といった特定の業種や業務のノウハウ・知見を持った人材を積極的に採用しており、業種ごとにビジネスユニットとして組織しております。当該組織において、業種ごとのソリューション開発を行っており、現在は製造業向けのIoT工場可視化ソリューションや金融業向けの営業改革ソリューションを提供しております。今後は、他の業種につきましても随時ソリューション化を進めてまいります。
②アライアンスの推進
特定の業種での先進的な企業や多くの顧客を抱える企業、また特徴的な技術を持つ企業と共同でのソリューション開発や提供を推進してまいります。当社と共同で自社向けのソリューションを開発した企業が、当社のパートナーとして、当該ソリューションを同業他社向けに提供するといった従来と異なる例も出てきており、今後も積極的に進めてまいります。
(2)リカーリングビジネスの拡大
当社グループは、製品、サービスの一度限りの提供ではなく、継続的に顧客にサービス提供を行い、その対価をサービスの提供期間に応じて受け取る「リカーリングビジネス」を推進しております。「リカーリングビジネス」の利点は、業績の安定化、業績の予見性の向上、顧客とのリレーションシップの維持等ですが、一方で、顧客の維持管理コストの増加等のデメリットもあります。そのため、当社は「リカーリングビジネス」に特化した部署を組織し、上述したシステムによる効率的な顧客管理と専任チームによる離脱防止対策を行うとともに、顧客への追加商材の提案による売上の向上を目指しております。また、2020年2月期における「リカーリングビジネス」に係る売上である「リカーリングレベニュー」の売上全体に占める比率は56.0%であり、売上の拡大と共に当該比率の向上に努めてまいります。
①契約継続率の維持向上
「リカーリングビジネス」は一度契約して頂いた顧客に如何に継続的にご利用頂くかが最も重要となるため、当社グループでは、「契約継続率」をKPIとしております。専門部署にて顧客の利用状況や課題をヒアリングし、きめ細やかな対応を行うことにより、当該数値の維持向上に努めております。2020年2月期における「契約継続率」は93.0%となります。
②クラウドビジネスの拡大
現在のIT市場では、システムの開発やソフトウェアの購入を伴わない勤怠管理や経費精算といった特定業務でのクラウドサービスの利用が主流となっております。当社グループも様々なクラウドサービスを展開しておりますが、契約ユーザー数及び契約企業数の拡大に努めるとともに、今後もクラウドベースでの展開を前提としたソリューション開発を進めてまいります。
(3)グループ経営基盤の強化
当社グループは2013年9月の非上場化以来、経営基盤の強化に取り組み、グループの再編(子会社の統合、非コア事業の売却)、社内基幹システムの再構築、経営管理システムの高度化、各種顧客管理業務のシステム化等を推し進めてまいりましたが、今後、成長を加速させるべく、業種・業務に特化した複数の新規事業を立ち上げていく予定となっており、さらなる精緻な業績管理が求められます。また、業容拡大を目的としてM&Aで獲得した海外を含む子会社についても、当社グループの経営方針のもと、一体となった管理体制が求められます。これに対応すべく、グループ各社と密に連携し、タイムリーに経営状況を把握でき、適切な対策を早期に打てる体制の強化に取り組んでまいります。
(4)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応
2019年末頃より報告され始めた新型コロナウイルス感染症は、世界的に感染が拡大し、世界保健機関(WHO)は、2020年3月11日にパンデミックを宣言しました。この感染拡大により、各国の経済活動は大きな制限を受け、企業収益にも大きな影響を及ぼしています。当社グループでは、この危機に対応するため、以下のような対応を行っております。
①売上収益の維持拡大
-帳票・文書管理ソリューション
当ソリューションは、「SVF」を中心に企業の重要な業務を担う基幹システムでの採用が大部分を占めることから、ソフトウェアライセンスの受注や関連する保守契約が直ちに減少することはありませんが、企業の意思決定スピードが低下しており、受注や契約時期が遅延する可能性があるため、販売パートナーと連携し、適時適切な受注と契約継続に努めてまいります。また、多くの企業ではリモートワーク環境下での業務生産性の向上が喫緊の課題であるため、「SPA」を軸に帳票に関する業務効率化の提案を推進し、業績の拡大に努めてまいります。
-データエンパワーメントソリューション
当ソリューションは、基幹システム中心の帳票・文書管理ソリューションとは異なり、様々なデータを用いて付加価値を生み出すことを目的にしているため、明確な効果を得られていると感じていない企業ではコスト削減の対象となる可能性があります。そのため、当社グループではカスタマーサクセス専門の部署を設置し、利用状況を分析し、ステータスに応じた適切なサポートを実施しております。また、多くの企業ではリモートワーク環境下での業務生産性の向上が喫緊の課題であるため、導入や運用が容易でリモートワークと親和性の高いクラウドサービスへの投資を増加させております。当社グループもすでに多くのお客様にご利用頂いている「Dr.Sum」や「MotionBoard」のクラウドサービス提案をさらに推し進めるとともに、2020年4月にリリースした新サービスである「DEJIREN」を中心に企業のDXを促すソリューション展開を進めてまいります。
②迅速なリモートワーク対応
当社では、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、2020年2月26日に原則在宅勤務が指示され、2020年3月26日には全社員出社禁止となりました。この状況に対応するため、自社サービスを最大限活用しつつ、以下の取り組みを行っております。
-IT部門 一部の社員向けの在宅勤務のシステムを全社員向けに急遽拡大し、セキュリティを担保しつつ、オフィス勤務と変わらない、業務環境を構築しました。
-経理部門 業務上最大のネックである請求書等紙文書のやり取りを自社の電子帳票管理サービスである「SPA」を用いて、完全にペーパーレス化し、全社員がリモートで経費申請等可能な体制を実現しました。
-業務部門 顧客への請求書の発行等多くの業務に紙文書を使用していましたが、自社の請求書Web配信・郵送サービスである「SVF TransPrint」を利用し、従来と同等の業務をペーパーレスで実現しました。
③手元流動性の確保
当社グループは、継続的な取引である「リカーリングビジネス」が売上収益の過半を占めているため、キャッシュフローが安定していると認識しております。しかしながら、今後、新型コロナウイルス感染症の収束が見通せない状況であることから、手元流動性の積み増しを目的として、2020年5月に総額45億円の借り入れを実施しました。今後も事業環境の変化に合わせ、経営管理体制の強化とともに柔軟な財政政策を実施してまいります。