有価証券報告書-第44期(平成30年1月1日-平成30年12月31日)

【提出】
2019/03/29 15:07
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【項目】
113項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当社は、組込みソフトウエア技術をコアコンピタンスとしてグループを拡大・発展させるため、2011年11月に経営理念としての『eSOL Spirit』を制定しております。
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(2)当社グループの現状の認識について
当社グループの主たる事業の1つである組込みソフトウエア事業が対象とする組込み市場の規模は、公的機関による調査が近年行われておりませんが、政府が掲げる「日本再興戦略2016(2016年6月2日発表)」にも組込みソフトウエアの重要性が謳われており、またコネクテッドカーや自動運転などによる一層の自動車の電子化や、今後の産業革新の大きなテーマであるIoT技術の浸透に従って、その市場規模と重要性は益々増大していくと思われます。
他方のセンシングソリューション事業は、従来ハム・食肉や冷食メーカや卸、小売りなど事前発注を行わない商習慣市場に対して車載プリンタを、また倉庫業などに対して常温/耐環境ハンディターミナルを提供してまいりました。車載プリンタの実質的な競合他社は認識しておりません。しかしながら、顧客市場の成熟化や流通システムの再編成などにより、この市場は衰退期を迎えていると判断しております。今後は、耐環境技術など既存技術を活かしつつ、組込みソフトウエア事業とのシナジーを見込みながら、放牧や農業、水産業など、コンピュータ化の遅れている分野に各種センサによるIoTシステムを提案し、成長させる必要があると考えております。
(3)当面の事業上及び財務上の対処すべき課題の内容
当社グループが当面対処すべき課題の内容として、以下の点を認識しております。
① 組込みソフトウエア事業の拡大
② 組込みソフトウエアエンジニアの確保・育成と生産性の向上
③ センシングソリューション事業における既存市場からの出口戦略
④ センシングソリューション事業における新規市場の開拓
(4)対処方針
①組込みソフトウエア事業の拡大
組込みソフトウエア事業は当社グループを支える基幹事業で、主にソフトウエア製商品の開発ライセンス、ロイヤリティ、保守ライセンスの販売と、エンジニアリングサービスの2つのビジネスから構成されております。前者はエンジニア数に依存しない、利益率の高いビジネスのため、このビジネスを成長させることが当社グループの利益率向上のために重要であります。一方で収益性のあるソフトウエア製品を開発・維持するには、新製品のための研究開発投資とリビジョンアップとよばれる既存製品に対する投資が必要で、この投資額をできるだけ低く抑える必要があります。後者のエンジニアリングサービスは、当社グループにおける組込みソフトウエア事業の売上高の約8割を占めるビジネスであり、10年以上の取引の長い顧客層をもっていることから、経営の安定化をはかる上で非常に重要です。またソフトウエア製商品の販売は新規のエンジニアリングサービスに結びつくことが期待されます。この相互関係が当社グループを特徴づける部分でもあり、これらの成長が当社グループの事業規模拡大の上で非常に重要であります。
当社グループでは自動車関連の売上が近年では伸びてきております。最近の自動車の電子化は著しく、今後もIoTシステムの一環として拡大を続けていくと思われますので、当社では最重要な市場と考えております。また近年はAI技術が注目されておりますが、自動車関連市場でも、より安全で快適な自動車の実現には不可欠なものであります。ただ従来のようにクラウド側でAI技術を実現していては、緊急時の対応が間に合いません。自動車のような組込み機器では、エッジと呼ばれるデバイス=組込み機器、もしくはデバイスに近い部分でAI技術を実現する必要があります。当社もAIを活用した技術の研究を進めていく必要があります。
また近年は、コネクテッドをキーワードとしたMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス Mobility as a Service)と言う言葉も現れており今後の拡大が見込まれております。自動車もMaaSのプラットフォームの一つとして注目されており、当社グループは、MaaSのクラウド側とエッジ側双方で利用できる製品及びサービスの研究を進めてまいります。
一方で自動車関連市場への偏重の回避と、成長のさらなるスピードアップの上でも他のドメインの拡大も必要であります。当社グループの強みである、省電力と高速処理を同時に実現できるマルチコア/メニーコア/並列処理技術※に向いている、ロボットや医療などの画像処理関連の市場などへの応用と事業の拡大を推進してまいります。また縮小が避けられないと考えている国内市場に対し、海外売上高の拡大も注力すべきと考えております。
※マルチコア/メニーコア/並列処理技術については、「(5)具体的な取組状況 ①組込みソフトウエア事業の拡大」をご覧下さい。
②組込みソフトウエアエンジニアの確保・育成と生産性の向上
組込みソフトウエア製商品の売上が大きく伸びたとしても、組込みソフトウエア事業での最大のビジネスはエンジニアリングサービスとなります。このとき最大の懸念要因は、組込みソフトウエア開発エンジニアの数を伸ばせられるか、であります。ソフトウエア業界に限らず、様々な業界で人材採用難が語られておりますし、パートナーの開拓も厳しいのが実情であります。上場というのは人材採用にとって大きなプラス要因でありますが、同時に採用活動中の学生や従業員にとって、魅力的な待遇を整備していく事も重要と考えております。これについては単に給与面だけでなく多様化する労働形態に応じて柔軟に対応していく必要があると考えております。同時にパートナーの開拓も今以上に注力いたします。
古くから言われることではありますが、企業の力は結局人材の力であります。採用した人員の能力をできるだけ早期に向上させ、付加価値の高い人員に育て上げていく事が必要であります。
③センシングソリューション事業における既存市場からの出口戦略
1991年に開始した車載プリンタの販売は、加工食品市場、乳製品市場の成熟化、ロジスティクスのセンター納品化、EDI(Electric Data Interchange)の浸透、販売ルートの統廃合などにより、すでに衰退期を迎えていると考えております。しかしながら、旧来からの営業方法を変えることができない顧客が今後も存在すると考えております。ピーク時には年間1,000台以上の車載プリンタを販売しましたが、今後は200~300台前後の小規模の市場として今後もしばらくの間は継続すると予想しております。そのため新規投資は避けながら残存利益の回収に努めてまいります。
④センシングソリューション事業における新規市場の開拓
車載プリンタに替わる新たな市場を開拓いたします。自動販売機など、まだコンピュータによるスマート化が遅れている市場や、農業や水産業などICT(情報通信技術)が採用されていない市場に、各種のセンサと既存事業のなかで獲得した耐環境技術を応用し、IoTソリューションを提供いたします。このため耐環境技術を応用した新たなデバイスの開発も視野に入れております。
(5)具体的な取組状況
①組込みソフトウエア事業の拡大
当社グループでは、1984年より30年以上に渡って、多くの商用RTOS(リアルタイム・オペレーティング・システム)を販売してまいりました。RTOSは、CPUと呼ばれる半導体が新しくなれば変更する必要があるため、技術的に大きく進化した半導体が組込み機器に採用されるごとに、新たなRTOSを投入してきた次第であります。現在の高機能な組込み機器では、マルチコアと呼ばれる、複数のCPUが1つの半導体に搭載されたものを使用するのが主流になっております。これはCPUを駆動するための周波数を、高く設定することで処理速度を上げるという従来の方法が、技術的/物理的に限界に近付いた結果採用された方式で、省電力化と高速化を同時に実現する手法です。当社グループのeT-Kernel(イーティーカーネル)というRTOSは、このマルチコアまでをサポートしており、自動車や医療機器など、安全が重視される組込み機器の開発に必要となる「機能安全規格」を海外の認証機関から認証されている、現在の主力RTOSとなります。また将来の高機能組込み機器では、マルチコア以上にCPUの数を増やしたメニーコアと呼ばれる技術の利用が主流になっていくであろうと考えられています。マルチ/メニーコア技術は国際的にも将来技術として有望視されており、当社は国際標準化団体のワーキンググループでも、積極的に活動しております。当社グループの最新RTOS「eMCOS(エムコス)」は、シングルコアからメニーコアまでをサポートいたします。eMCOSは機能安全規格の認証も取得しており、国内だけでなく世界で戦える高性能/高機能を持った今後の主力製品であります。一方でこれらの半導体の性能を十分に活用するためには、マルチ/メニーコア上で動作するプログラムの作り方も従来とは違った手法が必要になります。このようなプログラムのことを「並列処理」と呼びますが、並列処理プログラムを人間が効率よく作るのは非常に困難です。従って、並列処理プログラムを作りやすくするための各種のツールも必要です。当社グループはこれらの開発支援ツールも用意しており、今後の組込みソフトウエア製品の販売に大きく貢献していくと考えております。
前述のとおり組込みソフトウエア製品の販売が大きく伸びたとしても、組込みソフトウエア事業の売上の過半はエンジニアリングサービスが占めると考えております。RTOSの販売がエンジニアリングサービスを掘り起こすための牽引役を担うという、当社グループの組込みソフトウエア事業拡大戦略のためであります。高性能な製品になればなるほど、組込み機器の開発にはカスタマイズ作業が必要になります。いくつかのパッケージソフトを買ってきて組み合わせるだけでは、他社と差別化できる組込み機器を作ることはできないためです。当社グループは、今後も当社グループにしかできない高品質なエンジニアリングサービスを提供するため、優秀な人材の採用と育成を進めてまいります。
当社グループは外部環境からのリスクヘッジのため、できるだけ市場や顧客企業を分散するように努めてまいりました。しかし近年は顧客や市場への寡占化が徐々に進んできており、特に自動車関連市場の占有率が増えてきております。当社では自動車関連市場を国際的にも成長市場/注目市場としてとらえており、最重要のテーマとして位置付け、自動車向けRTOSの開発やAI技術の応用研究を進めてまいりたいと考えております。
しかし、単一の市場に依存する状態は、継続企業としてのリスクとも認識しており、他市場への分散も検討したいと考えております。ただ自動車関連市場からの需要は大きく、また強く、なかなか手を広げられない状況であり、そういう意味でも優秀なエンジニアを拡大する必要性を感じております。将来的には、当社グループの強みである並列処理や機能安全が要求される、ロボットや医療などの画像処理分野を拡大できるよう戦略を固めていく所存であります。
②組込みソフトウエアエンジニアの確保・育成と生産性の向上
エンジニアリングサービスを拡大する上で、優秀な人材を獲得/育成することは非常に重要ですが、昨今の人材難で新卒/中途採用には非常に苦戦しているのが実情であります。またパートナーの採用に関しても組込みソフトウエアエンジニアがひっ迫しております。今後も着実に人材採用とパートナー探しを継続してまいりますが、一方で従業員の待遇改善を行って就職活動中の学生/エンジニアのイメージの改善も行っていく必要があると考えております。2016年より旧来の年功序列型の給与体系をやめ、年次に依存しない透明性をもった給与体系に変更いたしました。また勤務形態の多様化に対応して2012年より働き方改革も進めております。加えて人材育成の体系も再構築し、人材の育成・開発にも努めております。これらの結果、厚生労働省より「えるぼし」(※)1、「くるみん」(※)2の認定を受け、「グッドキャリア企業アワード2016イノベーション賞」を受賞いたしました。また一般財団法人日本次世代企業普及機構より「ホワイト企業アワード」を2016年より3年連続で受賞しております。
生産性向上については、新規のソフトウエア製商品の投入による、開発ライセンス/ロイヤリティ/保守ライセンスの増加や、エンジニアリングサービスにおけるパートナーの拡大、働き方改革による離職率の低下や人材育成によるエンジニアスキルの向上などにより、2018年12月期連結会計年度の一人当たり売上高(総売上高/期末従業員数)は20,888千円となりました。
※1.「えるぼし」とは、女性活躍推進法に基づく「女性の活躍推進に関する取組の実施状況等が優良な事業主」の認定マークとなります。
2.「くるみん」とは、次世代育成支援対策推進法に基づく「子育てサポート企業」の認定マークとなります。
③センシングソリューション事業における既存市場からの出口戦略
衰退期に入っている市場でありますので、新たな投資はせず人員も可能な限り削減いたしました。当社調べで4,600台程度稼働していると思われる当社製の車載プリンタの市場に対して、今後は保守/修理や車載プリンタリボンなどのサプライ品と、年間200台程度の車載プリンタのリプレース販売で黒字が確保できる体制を整えており、今後の投資計画もございません。また本事業はたな卸資産を保有しております。当社グループの2018年12月期の連結貸借対照表では、たな卸資産中、商品として122百万円を計上しておりますが、その大半は本事業のハンディターミナルや車載プリンタなどであります。適切な資産水準を維持するために、在庫情報は取締役会報告事項とし、内規に基づいて滞留たな卸資産の評価を実施しております。
④センシングソリューション事業における新規市場の開拓
車載プリンタで獲得した、耐低温、耐振動、耐防塵や防水などの耐環境技術と自社開発も視野に入れた各種センサによって、防災や水田の監視制御、放牧管理や水産関連などへいくつか提案してまいりましたが、現時点ではまだ本格的な事業には至っておらず、リサーチ段階の販売実績にとどまっております。しかしながら、いくつかの案件では事業化の可能性も十分あり、現在は国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構とジョイントして、農林水産省の「人工知能未来農業創造プロジェクト」を実行しております。