有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2019/09/03 15:01
【資料】
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【項目】
96項目

対処すべき課題

文中における将来に関する事項は、本書提出日時点において、当社グループが判断したものであります。
(1) 会社の経営の基本方針
社名のアンビスは、AmbitiousとVision(大志ある未来像)の造語であります。そして、当社グループは「志とビジョンある医療・介護で社会を元気に幸せに」を企業理念(ミッション)に掲げています。
わが国では、これまで永らく病院に医療資源を集中させる構造をとってまいりました。従来の急性期患者を対象とした「病院完結型」から、高齢者や慢性疾患患者の機能維持・向上を対象とした「地域完結型」の社会保障体制(地域包括ケアシステム)への移行改革が行われようとする今、その構造による体制硬直が改革の障壁となっております。この現状を打破するべく推進される在宅医療は、医療を人々のくらしに還し、病院と地域を親和させるといった医療のパラダイムシフトをもたらすことを期待するものであります。
2013年の創業以来、当社グループは、住み慣れた地域で在宅療養を得られずに困っている高齢者ほかのニーズに応えるべく、医心館事業を提案し、実直に取り組むことを続けてまいりました。結果、医心館はこの展開地域で在宅療養を含めた地域包括ケアシステムや「地域医療」のプラットフォームとして受け入れられているものと認識しております。今後、医心館事業を拡大展開していくにあたり、当社グループとその事業に期待される役割はますます重要かつ大きなものになっていくと見通しております。
当社グループは、時流に即して行動することのみならず、時流を先読み、さらには自ら時流を生み、新市場を拓くことで成長する会社でありたいと考えております。これからも、既成概念にとらわれず、社会が直面する課題を解決していくことを通じて、企業理念(ミッション)「志とビジョンある医療・介護で社会を元気に幸せに」を実現してまいります。
(2) 目標とする経営指標
当社グループでは、主な経営指標として、企業の事業活動の成果を示す営業利益やその推移のほか、収益性の判断指標では安定稼動した場合の施設ごとの粗利益率や営業利益率の推移を、財務の安定性判断の指標では自己資本比率を用い、これら指標の向上に意識をおき、バランスよく、かつ持続的に企業価値を拡大していくことを目指しております。また、企業価値を測る指標として、売上、経常利益及び親会社株主に帰属する当期純利益の前年比増による経営成長性を重視しています。
(3) 中長期的な会社の経営戦略
当社グループの中長期ビジョンは以下の3点であります。
a. 医療施設型ホスピス事業(医心館事業)を長期安定的な収益基盤とする
当社グループは、医療過疎地をはじめとした「地域」の医療を強化再生するプラットフォーマー(プラットフォームホルダー)として、またパイオニアとして、好循環を維持強化するための各種戦略を選択できる競争優位と先駆者の優位性をもっていると考えており、安定的かつ持続的な成長、そして長期的利益へと繋げてまいります。このために、既存の医心館事業を一層深耕し、業務効率を改善させ、人材の採用や教育に注力していくなど、積極的な事業展開を図ります。
b. 医療・看護介護のリーディングカンパニーになり、医療・福祉分野で新たな潮流を創生
さらに当社グループは、設立時の事業テーマ「新たな医療・介護の仕組みによる地域医療の活性化」を「新しい医療・看護介護のリーディングカンパニーになり、医療・福祉の分野で新たな潮流を背負う」に昇華させ、このテーマ、換言すれば目標を達成するために、医心館事業のみならず、必要とする周辺事業や新規事業を展開してまいります。
c. 医療財源の最適化を図り「地域医療の強化・再生」を推進し、未来医療の恩恵をひとりでも多くの人々に届ける
これらビジョンをふまえて、当社グループが設定した中長期戦略は以下の4点であります。
① 医心館事業規模(出店数)の拡大
② 医心館事業の利用対象者層の拡大(一気通貫化)
③ 地域医療再生事業への取組
④ 潜在ナース活用事業への取組
① 医心館事業規模の拡大
当社グループは、今後も医心館事業を積極的に展開します。
展開地域では、より厚い信頼(質)とより高いシェア(量)の両方を獲得し維持することを目指します。
具体的な行動方針はつぎのとおりであります。
a.入居者獲得方針
入居者は医療保険対象者、特にがん末期状態にある方、神経変性疾患など難治性の病の方、人工呼吸器を装着・気管切開されている方ほかを主とし、入居者獲得において他の介護事業者よりも競争優位な立場(競争回避の状態)を保持する方針です。
b.開発方針
主には、大都市部でのドミナント戦略と閉鎖的地方都市での高シェア戦略を並行して進めます。
・各戦略については、本書の「第1 企業の概況 2 沿革」において、「表3 展開状況(その2)」
の注記をご参照ください。
・2つの戦略を並行展開することによる効果
閉鎖的地方都市で確保した看護人材を、人材確保の競争環境にある大都市部へ補給することが可能となります。
また、当社グループでは、事業開始当初より、在宅療養において看護師をはじめ看護職員が果たす役割の重要性に着目してまいりました。国も訪問看護事業者を在宅医療における重要なプレーヤーとして位置づけ、訪問看護事業者に対して、規模の拡大による事業効率の向上と医療対応力の強化を求めています。現在、アンビスでは、訪問看護サービスの提供先が「医心館」内に留まっていますが、中長期的には自社の優れた医療対応力を「医心館」外や周辺事業で活かし、地域医療の強化再生にますます貢献できる企業となることを目指しております。
② 医心館事業の利用対象者層の拡大
これまで、医心館では、医療依存度が高い方、例えばがん末期状態にある方、神経変性疾患等を患っている方、人工呼吸器を装着されている方ほかを積極的に受け入れ、特化して慢性期や終末期における看護ケアを提供してまいりました。結果として利用対象者層の中心は「要介護度の高い後期高齢者」となっております。医心館で実際に受け入れてきた対象者は概ね高齢者(一部で重度障害者)でありますが、受け入れることができる(受け入れるべき)対象者は高齢者に限らず、より低年齢の重症心身障害児や医療的ケア児※をも含むものと考えております。2019年7月、「医心館 東戸塚」内において、重症心身障害児(者)支援事業を開始しましたが、今後、当社グループでは、利用年齢層の拡大により一気通貫化を図ってまいります(図5)。
医療技術の進歩などにより、従来では難しかった小児の救命がかない、退院後も引き続いて人工呼吸器の装着、痰の吸引や経管栄養等の医療的ケアや医療機器を必要とする、重症心身障害児及び医療的ケア児が年々増加しております。例えば、厚生労働省(保険局医療課調べ)では、小児の訪問看護の利用者数のうち、難病や医療的ケアに該当する者の割合は2011年(20.7%)に比べて2017年(56.3%)は約2.7倍であったとしています(出所:中央社会保険医療協議会総会(第370回)資料、2017年11月15日)。そこで当社グループでは、医療依存度が高い高齢者のみならず、重症心身障害児や医療的ケア児とその家族もまた退院後の行き先に不安や心配を覚える状況にあると判断しております。
※重症心身障害児と医療的ケア児について
<重症心身障害児>重度の知的障害と重度の肢体不自由が重複している子どもたちのことであります。
国は重症心身障害児の在宅での療育支援を推進しておりますが、これを行うための社会的資源が十分に
整備されておらず、家族の負担が大きいといった社会課題があります。この社会課題に対応するため、児童発達支援や放課後等デイサービス等の供給における量的拡大と質的向上が必要であると当社グルー
プは考えております。
<医療的ケア児>医学の進歩を背景として、NICU(新生児集中治療管理室)等に長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃
ろう等を使用し、たんの吸引等の医療的ケアが日常的に必要な子どものことであります。
厚生労働省(同省ホームページ「医療的ケア児等とその家族に対する支援施策」)によれば、その数は
18,000人を超えているとされております。
図5 利用者年齢層の拡大による一気通貫化

③ 地域医療再生事業への取組
前述のとおり、医療過疎地では、病院の多くが経営赤字と医師の慢性的な不足という課題を抱え、病床の休廃止や廃院の危機に瀕しております。そこには、それらの病院に勤務する医師らは、病棟管理から救命対応までのすべてを少ない人員で行わざるを得ない結果としての過密な労働環境があります。医心館事業の本質は、病院の機能を大胆に切り分け、医師を外部化し、質の高い看護体制を施設に整え、慢性期・終末期を対象としたケアに特化して運営することにあります。これは医師の労働環境を、及び地域における病院(病床)の存在を危機から救う方策であります。当社グループの創業者である代表取締役の柴原慶一は、研究者から事業家へと転身した際には、この「本質」を地域医療再生へのアプローチのひとつとして構想し、当初はこれをそのまま事業目的化することになりました。地域の医療機関や医療従事者の専門性や役割を活かした連携によって地域医療を支える仕組みであり、それぞれが役割に特化することで一層の機能強化を促し、地域では医療資源が効果的かつ効率的に利用される姿を期待するものであります。
中長期的には、「医心館 名張」で病院(病床)の再活用を果たしたように、地域の病院(病床)の強化再生に係る事業へ積極的に参入していくことを視野に入れております。地域医療の需要と供給に係る体制や質量の急激な変化を緩衝し、地域医療が安定的かつ持続的に運営存続できるよう当社グループが一丸となって対応していく目論見であります。
④ 潜在ナース活用事業への取組
当社グループでは、事業開始当初より、在宅療養のメーンプレイヤーは看護職員であり、医心館事業での最期まで責任あるケアは主には看護職員によって提供されるものであるとしており、これに関わる人材の育成とプールの重要性を意識して事業を展開しております。
潜在ナース(看護師)に係る課題とは、子育てや家族の介護をはじめ諸般の事情で離職し、そのブランクが長くなった結果、再就職する際に強い不安を覚えたり、再就職先を選択する幅が狭まったりすることを言います。医療政策を執る行政ほか、看護職員(看護師、准看護師、保健師及び助産師)を是が否にも確保したい病院やこれらへ人材を斡旋や派遣する就転職支援事業者では、当該人材の背景や不安、技術力に関する情報を把握し、臨床現場へスムーズに適応していけるよう手厚いサポート体制を敷く等の対応がなされていますが、なお、厚生労働省による推計では、全国に約71万人の潜在看護職員がいる(厚生労働省「看護職員の現状と推移」第1回看護職員需給見通しに関する検討会資料、2014年12月1日)とされております。
医心館は、病院でもなく、介護施設でもない、看護職員の再就職先として新たな提案「第3の存在」であると自負しております。このことは、医心館で潜在ナースを多く抱え、人材をプール・育成し、自らの事業に有利な環境を整えることと同時に、医心館が潜在ナースに係る社会的課題を解決するための一助となり得ることを意味しております。当社グループでは、潜在ナースを活用することのほか、活用するための基盤整備(看護人材のネットワーク構築や教育研修に資するICT/IoT環境強化など)にも取り組んでまいります。
(4) 会社の対処すべき課題
医療や介護など健康福祉に関する業界は、もともと慢性的な人材不足の不安が存在しておりますが、2025年問題(団塊世代のすべてが後期高齢者となり、医療や介護の過剰な需要を生じ、社会保障費の急増が懸念されている問題)に向かって人材不足の不安がより深刻な状況となります。さらに在宅療養に携わる看護人材を確保することの難しさを説明するには及びません。当社グループが医心館とその先にある事業に取り組み、持続的な成長と発展を遂げるためには人材確保と育成が課題となります。また、今後は人材を確保するにあたり必要となる採用フィーが高騰する恐れがあり、この低減に努める必要があると考えております。当社グループでは、このような課題を認識しておりますが、既に前項(潜在ナース活用事業への取組)の対応をはじめており、今後の状況次第では同業他社に対する競争優位性を築くチャンスになり得るものと考えております。これらのことについては、次項「事業等のリスク」に付記します。