有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2019/09/20 15:00
【資料】
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【項目】
118項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。
(1) 経営戦略等
① BASE事業
<ビジネスモデル上の特徴>A) 個人及びSMB層のエンパワーメントを促すユニークなビジネスモデル
Eコマースプラットフォーム「BASE」は、個人及びSMB層をメインユーザーとしていることが大きな特徴となります。
従来のネットショップ作成サービスは、初期費用や月額費用を徴収し、これらの費用を負担することが可能な、既存の製品を大量に販売する売上規模の大きい事業者をサービスのメインユーザーとしておりました。
一方、「BASE」は、初期費用・月額費用を無料とし、売上が発生した場合にのみ決済手数料及びサービス利用料をお支払いいただく仕組みを構築することで、個人及びSMB層にとって、商品が売れず売上が発生しない時期からコストが発生するリスクを排除しております。また、ネットショップの開設や決済機能の導入をワンストップで行うことができること、豊富なネットショップのデザインテンプレートを提供すること、拡張機能を提供することで、個人及びSMB層が簡単にネットショップの開設・運営を行うことができます。
このように、少人数でも運営しやすいサービスを提供した結果、「BASE」において開設されたネットショップの98%は4名以下で運営されております。また、ショップオーナーのうち73%が個人、27%が法人であり、個人及びSMB層に数多くご利用いただいております。
「BASE」を利用するショップは、自ら開発したオリジナル商品をブランドとしてSNS等で宣伝することにより販売する傾向にあり、中でもアパレル商品を販売するショップに数多くご利用いただいております。
B) ストック性の高い積上型ビジネスモデル
BASE事業の主な収益は、BASEショップの売上に対して発生する、1決済あたり3.6%+40円の決済手数料及び3.0%のサービス利用料であります。そのため、「BASE」を利用するショップが、ネットショップを開設後、継続的に事業成長及び「BASE」を利用することで、「BASE」の流通総額が増大し、当社売上の継続的な成長に寄与いたします。
「BASE」におけるショップ開設年別の四半期流通総額は、以下のとおり着実に積上げられており、これらストック性の高い顧客基盤を背景として、今後も継続的な成長が可能であると考えております。

(注) 四半期流通総額は、「BASE」での四半期ごとの流通総額(注文ベース)を記載しております。
<成長戦略>上記の特徴から、今後も当社が高い成長率を維持していくためには、ネットショップを開設したいと考えている顧客が「BASE」を利用してネットショップを開設すること及びネットショップを開設後、退会せずに継続的に利用していただくこと並びに当社がショップをエンパワーメントすることが必要不可欠であると考えております。
そのため、以下の取り組みにより、当社の成長を目指してまいります。
A) サービスの認知度向上・新規ユーザーの獲得
当社が今後も高い成長率を持続していくためには、当社サービスの認知度を向上させ、新規ユーザーを獲得することが必要不可欠であると考えております。
従来から、TVCMを活用した広告宣伝活動、インターネットを活用したWebマーケティング等により認知度向上に向けた取り組みを行ってまいりましたが、今後もこれらの活動をより一層強化・推進してまいります。
B) プロダクトの強化
ネットショップを開設したいと考えている顧客に「BASE」を選んでもらえるよう、競争優位性の高いプロダクトの開発を行います。
また、売上規模の小さかったショップが成長した後にも使い続けてもらえるよう、売上規模の大きいショップにも使いやすいプロダクトにしてまいります。
C) データ活用の強化
当社は、「BASE」における各ショップの行動履歴、取引履歴等の膨大なデータを保有しております。これらのビッグデータを分析・活用する機械学習技術の開発を進め、自動で「BASE」を利用するショップに対しショップ運営における最適なアドバイスを行うことで、ショップの稼働率や売上の向上に寄与いたします。
D) 決済機能以外の付加価値向上
当社は、株式会社丸井グループと提携し、「BASE」の出店ショップに対しリアルの場で商品を販売する機会を提供する「SHIBUYA BASE」を提供しております。また、ヤマト運輸株式会社と提携し、簡単かつ手頃な価格で商品を配送することができる「かんたん配送App」を提供しております。
このように、現在においても決済以外のサービスを提供しておりますが、今後も決済以外のサービス・機能を強化することで、ショップへ提供する付加価値を増やし、手数料(テイクレート)を向上させます。
② PAY事業
A) 「PAY.JP」サービス
「PAY.JP」は、シンプルなAPIと豊富なライブラリで、Webサービスやネットショップに、スムーズにクレジットカード決済を組み込むことができるオンライン決済サービスであり、主にスタートアップ企業やベンチャー企業をターゲットにサービスを提供しております。
今後もこれらの企業をターゲットにマーケティング・営業活動を進めるとともにプロダクトを強化し、加盟店数を増加させてまいります。
B) 「PAY ID」サービス
「PAY ID」は、「BASE」のショップ及び「PAY.JP」の加盟店において利用可能な購入者向けのID決済サービスであり、「PAY ID」の登録者は、2019年8月末現在、250万人に達しております。今後、「BASE」における開設ショップの増加及び「PAY.JP」における加盟店の増加を通じて、「PAY ID」登録者の増加を図ってまいります。
また、「PAY ID」には、過去の取引履歴・評価情報といった付加価値の高いデータを有している点において、決済事業における他社と差別化された競争優位性を有していると考えております。
今後は、こうした付加価値の高いデータを活用し、新たな決済サービスを提供していきたいと考えております。
③ その他事業
当社グループは、2018年12月に資金調達サービス「YELL BANK」の提供を開始し、「BASE」を利用するショップオーナーに対してショップ運営上必要な事業資金を提供する資金調達サービスを提供しております。
なお、「YELL BANK」の主な特徴は、以下のとおりであります。
A) 必要な金額がすぐに調達できる
「YELL BANK」がBASEショップの将来債権を割引いて購入することで、ショップオーナーは必要な事業資金をすぐに調達することができます。調達金額は1万円から1,000万円、割引率(サービス利用料)は1%から15%となります。
B) 支払は商品が売れた時だけ
「YELL BANK」への支払は、資金調達後、商品が売れた時だけ、支払率(将来債権のうちBASE BANK株式会社に譲渡した債権の割合)に応じて行われます。「YELL BANK」が買い取った将来債権が万一発生しない場合や、債権が発生したにもかかわらず回収できない場合、そのリスクを「YELL BANK」が負担するため、ショップオーナーは当該リスク無く「YELL BANK」を利用できます。
C) ショップ運営データによる将来債権の予測
「YELL BANK」は、「BASE」のショップデータを活用して将来債権額を予測し、利用可能な条件を満たしたショップオーナーに対し本サービスを提供いたします。このため、既存の金融機関を利用できずにチャレンジに足踏みをしていたショップオーナーも、資金調達のチャンスを得ることが可能になります。
当社グループには、BASE事業及びPAY事業における取引情報が蓄積されております。
今後は、こうした情報をさらに蓄積するとともに解析精度をあげることで、多くのショップに対して資金提供を行ってまいりたいと考えております。
(2) 目標とする経営指標
当社グループでは、流通総額及び売上総利益(売上高から流通総額に応じて決済会社へ支払う決済手数料を控除した金額)の成長を重視した経営を行っております。
当社グループの主な収益は、BASE事業においては、BASEショップの流通総額に対して発生する決済手数料及びサービス手数料であり、PAY事業においては、PAY.JP加盟店の流通総額に対して発生する決済手数料であります。そのため収益の源泉である流通総額の最大化と、さらに提供するサービスの高付加価値化及び売上原価の低減により実現される売上総利益の最大化を目指しております。
当社グループの流通総額及び売上総利益について、2017年12月期実績(対前期比)で流通総額(決済ベース)成長率162.8%、売上総利益成長率169.7%、2018年12月期実績(対前期比)で流通総額(決済ベース)成長率72.8%、売上総利益成長率135.4%と高い成長を実現できております。事業規模の拡大に伴い成長率は逓減する可能性はあると考えられるものの、今後におきましても成長性の高いビジネスモデルが継続できるよう注力してまいります。
(注)1.2017年12月期実績(対前期比)の各成長率は、2016年12月期及び2017年12月期の当社単体実績から、2018年12月期実績(対前期比)の各成長率は、2017年12月期の当社単体実績及び2018年12月期の当社連結実績から算出しております。
2.2016年12月期は、決算期を11月30日から12月31日に変更したことにより、2015年12月1日から2016年12月31日までの13ヶ月間の変則決算であります。
(3) 経営環境
国内BtoC-EC市場は、ネット上での販売商品の多様化、市場参加者の増加、物流事業者による配達時間の大幅な短縮化、スマートフォンの普及、SNSによる情報流通量の増加等を背景に引き続き順調な市場拡大が見込まれております。経済産業省発表の「平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備に関する報告書」によると、国内BtoC-EC市場規模は、2018年時点で約17.9兆円であり、2022年には26.0兆円まで拡大すると予測されております。加えて、eMarketer発表の「By Country Retail Ecommerce Sales Penetration:% of Total Retail Sales」によると、日本のEC化率は8.5%と、他国と比較して低い水準にあるため(中国29.7%、韓国22.7%、イギリス20.7%)、国内BtoC-EC市場規模の成長余地は大きいと考えております。
また、昨今のSNSの普及により、購入者はネットショップで何らかの商品・サービスを購入する際に、その商品・サービスの販売者と直接交流をして商品・サービスの情報を取得したうえで、商品・サービスの「ユニークさ」や「ニッチさ」、ショップの世界観や販売者のパーソナリティに価値を見出して、購入するようになってきていると考えており、今後もSNSを活用した「個」の情報発信と「個」同士のダイレクトな交流による商品販売の流れがさらに強まるものと考えております。
当社の「BASE」におきましても、オリジナル商品を販売するネットショップやオリジナリティの高い世界観を有するネットショップに多数ご利用していただいており、今後想定されうる購入者の志向の変化にもタイムリーに対応可能であると考えております。
また、現在、2020年に向けた電子決済普及拡大への取り組みは官民で非常に活発化しており、電子決済やキャッシュレス市場にとっては追い風が吹いている状況とも考えております。
当社グループでは、現在の事業環境及び入手可能な情報に基づき最善の経営戦略を立案し、企業価値の最大化に努めております。
(4) 対処すべき課題
上記の経営環境の下、当社グループが「Payment to the People,Power to the People.」というミッションを実現するために、対処すべき課題として重点的に取り組んでいる事項は、以下のとおりです。
① 開発力・技術力の強化
当社グループの事業はインターネットと深く関わっており、競争力のあるプロダクトをEC市場へ提供していくためには、その情報技術やサービスをタイムリーに採用し、常に新しいプロダクトを創造し続けていくことが重要な課題であると考えております。
そのために、EC環境の変化や当社グループのサービス利用者の要望を効率よく吸収し、質の高いプロダクトを提供してまいります。また、当社グループは2019年8月末時点においてプロダクト人員が76名在籍しておりますが、さらなる優秀な技術者の確保、職場環境の向上に努めてまいりたいと考えております。
② 優秀な人材の確保と育成
当社グループが持続的に成長するためには、優秀な人材を適時に採用し、開発体制や内部管理体制を強化することが重要な課題であると考えております。
そのため、採用イベントの開催や社員紹介制度の導入等、採用方法の多様化を図り、当社グループの求める資質を兼ね備え、また当社グループの企業風土にあった人材の採用を進めるとともに、教育体制の整備を進め人材の定着と能力の底上げを行ってまいります。
③ 内部管理体制の強化
当社グループは現在、成長途上にあり、業務運営の効率化やリスク管理のための内部管理体制の強化が重要な課題であると考えております。
そのため、バックオフィス業務の整備を推進し、経営の公正性・透明性を確保するための内部管理体制強化に取り組んでまいります。具体的には、リスクマネジメント及びコンプライアンス委員会を設置の上、業務運営上のリスクを把握してリスク管理を適切に行い、定期的な内部監査の実施によるコンプライアンス体制の強化、監査役監査の実施によるコーポレート・ガバナンス機能の充実等を図っております。
④ 規律ある先行投資の実行
従来からTVCMやオンライン広告を活用した認知度向上及び顧客拡大のための広告宣伝や、当社サービスを拡大していくための開発人員等の採用など、積極的に先行投資を行ってまいりました。今後も高い成長率を持続していくためにこうした先行投資が必要であるため、継続的に先行投資を行っていく方針ですが、費用対効果を考慮するのみならず、営業損益の水準を鑑みたコストコントロールを行い、規律をもった先行投資を実行してまいります。
なお、現在の事業計画対象期間(2019年12月期~2021年12月期)における広告宣伝費及び人件費に関しては、大幅な費用拡大は想定しておらず、現在と同程度の適切な水準で投資を行ってまいりたいと考えております。
ただし、今後将来において市場環境や競合環境等が事業計画作成時点と大きく異なった場合には、投資額が変動する可能性もあります。