有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2019/11/13 15:00
【資料】
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【項目】
96項目

対処すべき課題

文中における将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営の基本方針
当社グループは、企業理念として、「健康で豊かな人生をすべての人に」を掲げております。医療分野において社会課題として取りざたされている「医療費の増大(2025年問題)」「医療の地域格差」「生活習慣病の増大」「労働力不足」といった問題にデータとICTの力で解決に取り組むことで、持続可能な国民医療制度の実現を目指してまいります。
(2)経営環境
上記のような社会問題がクローズアップされる中で、政府の最重要政策の1つに「全世代型社会保障への変革(※1)」が取り上げられております。その中でも当社のサービス提供先である健康保険組合を含めた保険者に対しては「病気予防や介護予防についての、保険者のインセンティブ強化」を通じて、予防による「健康寿命の延伸」や「個人のQOL(※2)の向上」を目指すことが掲げられており、これらはデータに基づくエビデンスにより活動評価を行うこととされております。このように、保険者には国家的課題である医療費の適正化に向けて大きな役割が期待されており、その達成のため予防を含めた医療全体に対するデータを活用したエビデンスに基づいた活動の重要性が高まっております。加えて、医療費の適正化に向けて医療ビッグデータの利活用をより促進させる観点から、2017年5月に「改正個人情報保護法」が、2018年5月に「次世代医療基盤法」がそれぞれ施行され、こうした活動を後押しする法的基盤の整備が進んでおります。
以上のような状況の中で、医療データ関連市場は、今後ますますの社会的課題の高まりと、安心してデータを利活用できる法的基盤の整備の動きに合わせ、市場規模が一層拡大していくものと考えております。
また、ビッグデータの活用手法としてのAI技術、クラウド技術の進展等を通じて、医療機関や調剤薬局におけるICTソリューションの提供の幅も拡大していくものと理解しております。
また、当社グループの事業及び事業環境には下記のような特徴があります。
① データビジネスのコスト構造は固定費中心
当社グループが行っている医療ビッグデータビジネスにおいては、データベース化及びその管理にかかるコストはほとんどが人件費、サーバー費等の固定費であり、損益分岐点を超えた後は利益率が逓増していく構造となっております。したがって、データの利活用の幅や顧客の幅を拡げ、売上を拡大していくことが収益成長にとって重要であると考えております。
② 医療ビッグデータを量・種類ともに多く保有しており、かつ、成長中
当社グループは、すでに二次利用許諾を得て利活用を行っているレセプトデータ及び健診データだけでなく、病院由来のデータ(DPCデータ、検査値データ)、PHR事業における活動量データ、遠隔医療事業における画像診断データ、調剤薬局支援事業における調剤薬局由来のデータ(レセプトデータ、薬歴データ)など、様々なデータへアクセスしております。データの量及び種類の拡大は、データの付加価値を向上させるのみならず、同様の価値を有するデータベース構築の難易度を上げることになり、当該市場への参入障壁となると考えております。したがって、今後もデータの量及び種類の拡大を目指すことが経営戦略上、重要な要素になると考えております。
③ データを利活用した新たな事業創出が可能
当社グループは、医療におけるデジタルサービスの提供がさらに強く求められていく中で、データとICTと医療現場へのサービス提供の3つの力を兼ねそろえた事業創出が可能であると考えております。現状の優位性を活かして積極的に新規事業領域に対して取り組んでまいります。
《用語説明》
※1 全世代型社会保障への変革
アベノミクスにおける「成長戦略実行計画」(2019年6月21日に閣議決定)での文言。
※2 QOL
Quality Of Lifeの略であり、生活の質ともいわれる。治療や療養生活を送る患者の肉体的、精神的、社会的、経済的、すべてを含めた生活の満足度を示す指標。
(3)中長期的な会社の経営戦略
上記の経営の基本方針及び経営環境を踏まえた中長期的な経営戦略は以下のとおりであります。
Ⅰ.「高付加価値化」を通じた取引額の向上
製薬企業や生損保企業に対して、データ利活用サービスの幅を拡げ、提供できる付加価値を上げていくことを目指しております。現在は、個別の要望事項に対して当該データベースから必要なデータを抽出・分析するサービス「アドホック販売」、汎用的なネットオンライン型のデータ検索・集計パッケージツール「JMDC Data Mart」、及び当社のデータベース自体の一部又は全部へのアクセス権の付与「フルデータベース販売」を行っていますが、今後は医療ビッグデータを顧客が効率的かつ情報管理しやすい形で活用しうる分析環境を提供し、さらに、データベースを前提としたコンサルティングやアプリケーション開発を提供することで、サービスの付加価値を増やし、顧客あたりの取引額を高めていく方針であります。
また、今後さらにデータの量及び種類を拡大していくことも目指しております。例えば、健康保険組合員向けの健康情報プラットフォーム「PepUp」の中で、すでに保有しているレセプトデータや健診データに加えて、活動量やゲノム(遺伝情報)等の情報を管理することにより、これらのインプットが健診データやレセプトデータが示すアウトカムにどのように影響するのかといった因果関係の解析が可能となります。 このようにデータは1つ1つ単体で存在するのに比べて、組み合わさることで相乗的な価値を出しうる特性を有しており、その特性を活用することで健康・医療に関する様々な因果をデータで解析し、学術、事業での更なる利活用の機会につなげていく方針であります。
Ⅱ.データ利活用による医療における価値創出
当社グループは、グループとして有するデータ、ICT及び医療現場でのサービス提供の力を医療の高度化及び効率化のために積極的に発揮し、医療費抑制に貢献してまいりたいと考えております。例えば、遠隔医療事業においては、遠隔読影マッチングサービスを通して、多くの画像診断データに日々アクセスしており、ディープラーニングを中心とするAIテクノロジーを用いた診断アシストエンジンを日々の読影の中で活用できるようにする診断アシストプラットフォーム「AI-RAD」の開発に取り組んでおります。さらには、読影ニーズが増加している中国に拠点を新設し、インバウンドでのセカンドオピニオンサービスの展開を推進しております。また、DPCデータや論文データを活用した名医紹介や病院経営改善、薬剤データを活用した遠隔服薬指導等の「スマートファーマシー」の構築といった取り組みも進化させてまいります。
Ⅲ.社会生活者に対する医療費の健全化につながるソリューションを提供
当社は、保険者支援サービスを提供する取引先の健康保険組合の加入者数が1,000万人を超えることを目指しております。その1,000万人に対して、当社の健康情報プラットフォーム「PepUp」を通してつながることで、医療の個別化やアウトカムベースでの医療を実現し医療業界全体の効率化を図り、医療費抑制に貢献することを目指しております。具体的には、健康保険組合や企業と協力し、従業員個々人の健康状態に応じて高いリスクを持つ対象者を抽出し、その対象者に対してデータを用いた積極的な介入策を立案し、介入後のデータによる効果測定を行うことで、重症化予防活動において投資対効果という考え方を導入してまいります。また介入方法としては、名医紹介サービス「clintal」・重症化予防・保健指導等の医療的介入から、生活習慣病の予防のための健康コンテンツの提供・行動変容を促すポイントプログラムによるインセンティブ付けのような予防的介入まで様々なアプローチを当社グループ外部の事業者とも連携しながら提供していく方針であります。この事業においては、各介入方法の投資対効果を明確化し、向上させ、国家、保険者、企業からの適切な投資を促す中で、現在43兆円(出所:厚生労働省HP、平成30年度)の国民医療費の抑制に貢献することによる収益化を目指してまいります。
(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標
当社では、経営方針・経営戦略等又は経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標として、EBITDAによる評価を行っております。EBITDAは営業利益+減価償却費及び償却費±その他の収益・費用で算出しております。EBITDAは当社グループ全体の評価の他、各報告セグメント利益に分解しております。
(5)事業上及び財務上の対処すべき課題
近年、業種を問わずビッグデータを分析・活用する動きが活発に行われており、優秀な人材を安定して確保し続けることが課題となっております。当社グループは、ICTに関連する最新の技術を常に取り入れたサービスを提供するための研修を充実させてまいります。また、当社グループは、医療情報という非常に繊細な領域のデータを扱い、かつ、人命に関わる医療の領域でのソリューションを提供しているため、当社グループ全体として個人情報保護への高い遵法感と倫理感を前提として事業活動を実施することを最重要視しており、コンプライアンス体制強化のための従業員研修やルール整備を進めてまいります。