有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2020/11/13 15:00
【資料】
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【項目】
135項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 経営方針
当社は「企業価値の中に、未来を見つける。」というミッションのもと、「中小企業にテクノロジーを届けよう。」というビジョンを掲げております。現在、主力サービスである中小企業向け経営支援プラットフォーム「Big Advance」の普及と関連するサービスの提供により、中小企業の成長支援や新しい付加価値の創造、労働生産性の向上に貢献してまいります。
(2) 目標とする経営指標
「Big Advance」は金融機関より受領するサービス導入時の初期導入費用に加えて、毎月運用・保守費を受領しております。
運用・保守費はサブスクリプション型(継続課金型)であり、金融機関より月額固定形式で受領する収益、金融機関と会員企業との間の月額利用料に対するレベニューシェア方式を採用した収益により構成されていることから、導入金融機関数や会員企業数、会員企業の解約率(チャーンレート)を重要指標としております。
(3) 当社の強み
① 地域金融機関と協業したユニークで強固なビジネスモデル
「Big Advance」は、全国の地域金融機関とパートナーシップを結び展開する、日本で最も裾野の広い中小企業向け経営支援プラットフォームであると判断しております。中小企業の経営支援を実施する上で、金融機関や士業(税理士など)の果たすべき役割は大変重要であり、中小企業がリスクテイク行動(注1)をとるうえで相談する相手の1位が税理士・会計士で60.2%、2位が金融機関で44.0%となっています(注2)。「Big Advance」は、圧倒的な中小企業の顧客基盤を有する金融機関とパートナーシップを結び中小企業へサービスを提供することで、全国の中小企業に対して効率的にサービスを届けることを可能にしました。また、金融機関のサービスとして提供することで中小企業は安心して「Big Advance」の機能を活用することができ、かつ金融機関とのコミュニケーションも増加するため、融資等の金融サービスもスムーズに享受できる可能性が高まります。さらに、「Big Advance」はオンラインで士業に相談できる機能を搭載し、地域金融機関と連携しながら日本全国の士業とのパートナーシップを構築しております。2020年9月末時点で2,164名の士業が「Big Advance」のプラットフォームに参加しています。

(出典:中小企業庁委託「中小企業の成長と投資行動に関するアンケート調査」2015年12月、㈱帝国データバンク)
(注) 1. リスクテイク行動:「2015年度中小企業の成長と投資行動に関する調査報告書(2016年3月、株式会社帝国データバンク)」に記載の通り、ただ闇雲にリスクを取るのではなく、取るべきリスクを選択し収益拡大に資するような行動を指すこととする。
2. 中小企業庁委託「中小企業の成長と投資行動に関するアンケート調査(2015年12月、株式会社帝国データバンク)」
② 「テクノロジー」と「Face to Face」を融合し、様々な企業ニーズに対応
金融庁が2018年に実施した中小企業向けのアンケート「貴社の売上や収益、利益の改善に寄与した金融機関が提供した代表的なサービスは何ですか?」(注)という問いかけに対し、主な回答項目の10個のうち6つを「Big Advance」はカバーしております。また従来、企業と金融機関とのコンタクト方法は電話が中心でありコミュニケーションコストが非常に高かったところ、「Big Advance」のチャット機能を活用することにより、金融機関と気軽にコミュニケーションをとることができ、経営課題の早期発見・早期解決にも効果を発揮しております。
ビジネスマッチング機能では、これまで企業が金融機関にマッチングを依頼すると、その金融機関内で保有する情報をもとにマッチング候補先を紹介されるためマッチングの成約率に限界がありました。「Big Advance」では、「Big Advance」導入金融機関の全ての取引先のマッチングニーズを企業自ら検索することができるため、マッチング候補先を効率的かつ地域を越えて見つけることが可能となっており、またマッチングの面談依頼とセッティング自体は、金融機関が間に入ってコーディネートする仕組みになっているため、安心して面談を実施できる仕組みとなっております。また「Big Advance」の導入金融機関及び会員企業数が増加することによって更なるネットワーク効果が発揮されます。
(注)「貴社の売上や収益、利益の改善に寄与した金融機関が提供した代表的なサービスは何ですか?」のアンケートの回答は以下のとおり。下図の黒塗り箇所は「Big Advance」が対応しているサービス領域

③金融庁、財務局、第二地方銀行協会等からの認知
関東財務局東京財務事務所や第二地方銀行協会のセミナー等での講演活動や、「Big Advance」や地域金融機関との協業に関する講演活動を行うとともに、2019年8月に公表された金融庁「金融仲介機能の発揮に向けたプログレスレポート」に地域金融機関との提携例の1つとして、「金融機関広域連携プラットフォームを提供する企業と連携し、地域企業のビジネスマッチングを支援」するサービスとして、当社事例が掲載されており、官公庁や第二地方銀行協会等に対する当社サービスの認知度は向上しているものと考えております。
④ 高い安定性を誇るBtoB・SaaSモデル
当社は、主に中小企業向けサービスをSaaSモデルで提供しており、損益分岐点を超える会員企業数を獲得できた後は、安定的に収益を計上できることから、外部環境の変化に強く、安定的かつ継続的な収益構造にあります。また、継続率の長期化を目的とした機能改善の開発やカスタマーサクセス等に投資しております。「Big Advance」の会員企業の獲得は、導入金融機関の担当者が推進しており、会員企業は「Big Advance」登録後も活用方法などのサポートを金融機関の担当者から継続的に受けられます。
また活用のサポート活動を通して会員企業のニーズを収集し、すばやくサービスにフィードバックすることで、会員企業が急伸する中においても2019年10月~2020年9月の平均チャーンレート(注)は、1.64%で推移しております。

⑤ 企業文化
当社では「Commit myself(今、自分にできる最高の仕事をしよう)」「Big & Speedy(大胆な方針を立て、素早く実行しよう)」「Team is Great(一人ではできないことを成し遂げよう)」という3つの行動指針を共通の価値観として大切にしています。その結果、メンバーは高い自律性と専門性を発揮しながらも強いチームワークを持ち、AIを始めとする先進的なテクノロジーを追求しながら、利用企業が使いやすい温もりのあるサービスの開発・提供に取り組んでおります。
(4) 経営環境
国内経済環境としては、少子高齢化を背景とした労働力不足が問題視される一方で、政府主導により時間外労働時間の上限引き下げ等の労働法規の改正といった働き方改革が推進される中、労働生産性の向上に向けたソリューションへの期待が高まっているものと認識しております。そのような状況の中、当社が事業展開する「国内ソフトウェア市場」はこれまで大きな成長を果たしてきており、今後も引き続き成長が見込まれる市場として注目を集めております。2018年7月に公表されたIDC Japan株式会社「国内ソフトウェア市場予測2018年~2022年」によれば、2017年の実績は前期比5.8%増の2兆8,579億円に達しており、2017年から2022年の年間平均成長率は4.5%であり2022年には3兆5,694億円に達するものと見込まれます。また協業パートナー先である金融業界においても、国内のFinTechエコシステム関連IT支出は、2018年に419億円、2022年には1,681億円に拡大すると予想されています(注)。
一方で、現在わが国をはじめ世界中で感染が拡大している新型コロナウィルス感染症の影響で、各国で経済活動が強く制限されており、わが国の中小企業においても消費の急激な落ち込みの影響を甚大に受けているものと考えられます。このような状況の中、当社の経営支援プラットフォーム「Big Advance」は、インターネット上でビジネスマッチングなどの機能を利用できるなど非対面サービスであること、また地域や金融機関の枠を超えて全国の会員企業とビジネスを創出することができること等おいて優位性を発揮するとともに、中小企業の経営支援により効果を発揮するものと認識しております。
しかしながら、今後の状況によって、経済活動自体が減速することとなった場合には、当社の業績に影響を与える可能性があり、今後の経営環境の変化を注視していく必要があるものと考えております。
(注) IDC JAPAN「FinTechエコシステム関連IT支出額予測2017年~2022年」
(5) 中長期的な経営戦略
① ユーザー基盤の更なる拡大
当社のビジネスモデルの大きな特徴ですが、「Big Advance」の会員企業獲得は、導入金融機関の各支店の担当者が推進しており、会員企業数はサービスリリース以来順調に拡大しております。当社としては、これまで金融機関の各支店の担当者の会員獲得推進サポートとして、担当者向け研修や同行訪問等を実施しております。
2019年6月から半年に1回「BAカンファレンス」と称し、導入金融機関の「Big Advance」推進担当者が一堂に会し金融機関の枠を越えて情報交換をできる機会を設けております。また2019年10月には、カスタマーサクセス事業部を立ち上げ、「Big Advance」の管理画面の使い方の指導や成功事例の共有等を実施し、各金融機関の更なる顧客獲得の推進に努めております。
2018年4月に横浜信用金庫をパイロットユーザーとしてサービス開始以降、金融機関の担当者及びカスタマーサクセス事業部を通じて、金融機関及び会員企業のニーズを即時に収集し、開発現場への即時共有を徹底することで、顧客である金融機関及び会員企業のニーズにあったUI・UXの改善及び各種機能の拡充等を図ってまいりました。結果、隔週単位でバージョンアップを実施し、サービス開始以降は3,000箇所以上(2020年9月末)の機能改善の実施を実現しております。
今後もさらに導入金融機関との連携を深め金融機関あたりの会員企業数の拡大を図ると同時に、サービスの認知度向上、機能強化に努めて、新たな導入金融機関及び会員企業の開拓を図ってまいります。
② データ活用による高付加価値化と機能拡充
現在「Big Advance」には、「FAI」のビジネスマッチングのレコメンドモジュールが搭載されており、企業におすすめのマッチング情報を表示しています。当社は、これまで数多くの金融機関とPOC(注)を実施し、独自のAIアルゴリズム「FAI」を開発してきました。金融機関が保有する膨大な金融データやプラットフォーム上で蓄積されるビッグデータを活用し、企業の状況に最適化された分析結果をリアルタイムに算出します。
今後、金融機関に提供しているAI企業評価アルゴリズムの搭載や、金融機関の勘定系システムとAPI連携することにより、従来から提供している金融サービスのデジタルトランスフォーメーションDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現していくことで、会員企業のさらなる利便性向上を目指します。この連携を行うことにより、例えば企業が融資を申し込む際に、「Big Advance」上からオンラインで融資申込みができ、金融機関は「FAI」を活用することにより、審査期間の短縮を図ることが可能となります。また、金融機関が保有する企業の財務データや口座データ等を企業側の「Big Advance」上に表示することにより、企業の経営改善の重要指標として活用いただく等、収集したデータをAIモジュール「FAI」で分析し、より価値のあるアウトプットへ変換することも可能となります。

(注)POC:Proof of Conceptの略称。新しい概念や理論、原理、アイディアの実証を目的とした、試作開発の前段階における検証やデモンストレーションを指します。
③ 収益力向上とオープン戦略
今後、様々な新機能・オプション機能を「Big Advance」に追加することにより、収益力の向上を図ります。オプション機能としては、2020年10月に、従前は会員企業においてビジネスマッチングやホームページ自動作成などの全機能を利用できる権限を有するユーザーは1ユーザーであったものの、月額200円で1ユーザーを追加できる機能をリリースしております。
また「Big Advance」をAPI公開することにより、当社の他サービスに加え、他社サービスとの連携を進め、企業の様々なニーズにスピーディーに対応できる中小企業向け経営支援プラットフォームの構築を進めてまいります。

(6)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① 情報管理体制の強化
当社が提供するサービスは、ビジネスの根幹となるインフラ機能であり、また機密性の高い情報を多く扱っているため、セキュリティの確保や情報管理体制の継続的な強化をしていくことが重要であると考えております。現在個人情報保護方針及び情報セキュリティ基本方針に基づき、情報管理を徹底しておりますが、今後も継続して自社による監視体制のみならず、外部業者による脆弱性の確認等を継続的に実施し、情報管理体制の強化・整備を行ってまいります。
② 優秀な人材の確保と育成
当社の持続的な成長のためには、多岐にわたる経歴を持つ優秀な人材を多数採用し、組織体制等を強化していくことが重要であると捉えております。当社の経営理念や事業内容に共感し、高い意欲を持った優秀な人材を採用していくために、積極的な採用活動を進めるとともに、高い意欲を持って働ける環境や仕組みの構築、研修体制の充実等に取り組んでまいります。
③ システムの強化
当社はインターネット上でサービスを提供しており、システムの安定的な稼働が必要不可欠となっております。自然災害や事故等により、通信トラブルが生じた場合、当社の事業に重大な影響を及ぼす可能性があるため、当社では、システムの安定性確保のための人員確保、教育・研修の実施等を継続して努めてまいります。
④利益及びキャッシュ・フローの創出
当社の収益の中心は、サブスクリプション型のビジネスモデルであり、継続してサービスが利用されることで収益が積み上がるストック型の収益モデルになります。事業の拡大に伴い、ストック収益が順調に積み上がることで、先行投資として計上される開発費用やユーザーの獲得費用が売上高に占める割合は低下しており、今後も中長期的な利益及びキャッシュ・フローの最大化に努めて参ります。