有価証券報告書-第20期(令和2年10月1日-令和3年9月30日)
(1) 経営成績等の状況の概要
① 経営成績の状況
製薬業界におきましては、高齢化に伴う医療費の増大に対応してジェネリック医薬品による代替が進むとともに、薬価改定期間が短縮され、高額医薬品の薬価が著しく低下しております。また、臨床試験の大規模化等に起因する新薬開発のためのコスト増大により、国内外での製薬企業の合従連衡が進みM&Aによる企業規模が拡大するとともに、自社創薬開発において重点領域の絞込みが行われており、社外から開発品目を導入する動きも活発化しております。
一方、新薬開発については、対象患者が多く、将来安定した多額の収益が得られるいわゆるブロックバスター医薬品から、特定の患者群に効果的な治療が行える医薬品の開発に移行しており、経営資源が特定分野に集中し、短期に意思決定が行われる創薬ベンチャーがその中心的役割を担うと言われております。これに対応すべく、政府は、厚生労働省や経済産業省の中央省庁を中心に、日本発の創薬を積極的に支援するため、特に、創薬ベンチャー支援の取り組みとして、医療系ベンチャー・トータルサポート事業(MEDISO)の開始や「伊藤レポート2.0 バイオメディカル産業版」が作成されております。また、日本国内での創薬を促進するため、医薬品の条件付き早期承認制度や先駆的医薬品指定制度が法制化されました。
また、新型コロナウイルスの感染拡大により製薬業界への社会的注目が増しているものの、製薬業界の経営資源が新型コロナウイルスに対するワクチンや治療薬開発に集中することによりその他の医薬品開発が治験を含めて遅延する傾向がみられます。
このような事業環境下、当社は、組換えヒトHGFタンパク質の研究開発によって創薬イノベーションを起こすことが事業機会の創出・獲得につながると考え、組換えヒトHGFタンパク質プロジェクトに経営資源を集中して、以下の各事業活動を展開しました。
1.医薬開発活動について
(ア) 脊髄損傷(SCI)急性期
慶應義塾大学整形外科中村雅也教授を治験調整医師とする治験実施体制のもとで、脊髄損傷急性期患者を対象として第Ⅰ/Ⅱ相試験を実施し、安全性を確認するとともに有効性を示唆する結果を得ました。第Ⅰ/Ⅱ相試験で得られたPOC(プルーフ・オブ・コンセプト:研究開発中である新薬候補物質の有用性・効果が、ヒトに投与することによって認められること)を検証する目的で次の第Ⅲ相試験の計画を策定し、2020年6月9日付で医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)に治験計画届書を提出しました。
2020年7月より第Ⅲ相試験を総合せき損センター、北海道せき損センター及び村山医療センターの3施設で開始しました。2021年3月より神戸赤十字病院及び愛仁会リハビリテーション病院を加えた合計5施設を治験実施医療機関としており、計画から遅延することなく患者組入れを継続しております。
脊髄損傷急性期治療薬としての製造販売承認取得に向けて、組換えヒトHGFタンパク質の製造プロセスに関する各種試験を行っております。原薬製造につきましては、承認申請に必要とされる実製造と同様のプロセスで行う試験製造(プロセスバリデーション)を実施中であります。なお、新型コロナウイルス感染症拡大・長期化を原因とした世界的な工場稼働率の低下や新型コロナウイルスに対するワクチン製造への優先的な原材料供給等により、当社のHGF製造開発に必要となる原材料等の供給量の低下、供給の遅延などが発生し、当事業年度に完了を予定していた試験の一部は、来期での完了予定に変更となっております。また、iPS細胞由来神経前駆細胞の移植技術などを組み合わせて、脊髄損傷を対象に、組換えヒトHGFタンパク質製剤のより効果的な投与方法や投与のタイミングを検討するために、2021年2月より慶應義塾大学医学部と新たな共同研究を開始しております。
2021年6月には、アジア太平洋脊椎外科学会とアジア太平洋小児整形外科学会の第 13 回合同学会(APSS-APPOS 2021、2021年6月9日~12日、於神戸国際会議場)において、脊髄損傷急性期での第Ⅰ/Ⅱ相試験に関する発表が APSS CONGRESS Best Clinical Research Award(APSS会議最優秀臨床研究賞)を受賞しました。
(イ) 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
2016年5月より東北大学神経内科青木正志教授による医師主導治験として開始された第Ⅱ相試験について、東北大学病院及び大阪大学医学部附属病院において患者組入れを継続してきました。2020年11月には患者組入れを終了しております。当社は、治験薬提供者の立場から従来より治験薬の提供ならびに当該治験の運営・推進支援、治験薬の安定性試験等を継続して実施しており、当事業年度におきましても治験薬の安定性試験を実施しております。なお、2021年12月には最終症例の最終観察日が終了しております。
また、当事業年度においては、2021年3月をもって国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)からの補助金が終了したことに伴う当該治験の停滞を回避するため、当社より、医薬品開発業務受託機関(CRO)等に係る治験費用の負担を行いました。
2021年9月には、アジア―環太平洋ALSコンソーシアムにおいて、青木正志教授により組換えヒトHGFタンパク質によるALS治療薬の開発経緯に関して学会発表が行われました。
(ウ) 声帯瘢痕(VFS)
声帯粘膜が硬く変性(線維化)する疾患であるVFSを対象とした医師主導による第Ⅰ/Ⅱ相試験によって、KP-100製剤の声帯内投与の安全性が確認され、声帯の機能回復を示す症例も確認されました(J Tissue Eng Regen Med. 2017;1–8.)。当該事業年度においては、2019年7月に実施したPMDAとの事前面談を踏まえ、POCの取得を目的とする次相試験(プラセボ対照二重盲検比較試験)について、京都府立医科大学と協議を重ねており、2022年9月期より開始する計画を策定しております。
なお、治験の実施費用並びに治験薬の製造及び市販製剤の開発費用の調達を目的として、2021年11月に新株予約権の発行を行っており、さらに、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による「医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)」課題として採択され、公的資金の活用も進めております。
(エ)クラリス・バイオセラピューティクス社への原薬供給
当社は、2020年4月に米国のクラリス・バイオセラピューティクス社とLicense and Supply Agreementを締結し、同社が米国において眼科疾患を対象に臨床開発を進めるためのHGF原薬の供給を行っております。
当事業年度においては、同社に対し治験薬製造や各種試験等に必要となるHGF原薬を継続して供給しました。また、当社が提供した各種情報をもとに、同社は神経栄養性角膜炎を対象とする第Ⅰ/Ⅱ相試験を開始するためのIND 申請*を2021年5月に実施しており、同年8月には一例目の投与が開始されております。
*米国食品医薬品局(FDA)に対する新薬治験開始申請
2.事業開発活動について
当事業年度においては、脊髄損傷急性期での海外展開を見据えて、海外製薬企業等との事業提携協議を中心に、事業開発活動を行いました。
また、2021年9月には、当社パイプラインの主成分である組換えヒトHGFタンパク質(5 アミノ酸欠損・糖鎖付加型、開発コード:KP-100)の国際一般名称が、「Oremepermin Alfa」(オレメペルミン アルファ)に決定されました。
以上の結果、当事業年度の業績は以下のとおりとなりました。
当事業年度における売上高は289,756千円(前事業年度467,616千円、前事業年度比177,860千円:38.0%減少)となりました。これは、クラリス・バイオセラピューティクス社に対する原薬供給売上及び技術アクセスフィー収入によるものであります。
当事業年度における売上原価は71,598千円(前事業年度の売上原価はありません。)となりました。前事業年度までは、過年度において研究開発費として費用化された原薬を販売しておりましたが、当事業年度より原薬の原価計算を開始することにより、売上原価が発生しております。
当事業年度における販売費及び一般管理費は576,038千円(前事業年度639,219千円、前事業年度比63,181千円:9.9%減少)となりました。販売費及び一般管理費に含まれる研究開発費は398,518千円(前事業年度489,508千円、前事業年度比90,990千円:18.6%減少)となりました。研究開発費は、ALSパイプライン関連71,457千円(前事業年度32,704千円、前事業年度比38,753千円:118.5%増加)、脊髄損傷パイプライン関連153,448千円(前事業年度300,662千円、前事業年度比147,214千円:49.0%減少)、両パイプライン共通のGMP製造関連115,647千円(前事業年度109,856千円、前事業年度比5,790千円:5.3%増加)及びその他の研究開発費57,966千円(前事業年度46,286千円、前事業年度比11,679千円:25.2%減少)から構成されており、販売費及び一般管理費は、研究開発費とその他一般管理費177,520千円(前事業年度149,710千円、前事業年度比27,808千円:18.6%増加)の合計額となっております。
ALSに係る研究開発費が38,753千円、その他の研究開発費が11,679千円増加したにもかかわらず、脊髄損傷急性期に係る研究開発費が147,214千円減少したこと等により販売費及び一般管理費は63,181千円減少しております。ALSに係る研究開発費については、補助金が終了したことに伴う治験費用負担額の増加、その他研究開発費については、人員増加に伴う諸費用の増加等により、それぞれの費用が増加しており、脊髄損傷急性期に係る研究開発費については、前事業年度における第Ⅲ相試験の準備費用が当事業年度では発生しなかったこと等により費用が減少しております。
販売費及び一般管理費は減少したものの、前事業年度より売上高が減少したこと及び売上原価が発生したことにより、営業損失は357,880千円(前事業年度は営業損失171,603千円)となりました。
当事業年度の営業外収益は、前事業年度と比較して18,938千円増加の82,293千円となりました。これは、主に補助金収入の増加20,000千円によるものであります。また、営業外費用は、前事業年度と比較して15,996千円増加の24,090千円となりました。これは、主に上場関連費用の発生16,282千円によるものであります。
これらの結果により、当事業年度の経常損失は299,676千円(前事業年度の経常損失は116,341千円)、当期純損失は301,166千円(前事業年度の当期純損失は117,831千円)となりました。
なお、当社は医薬品開発事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載はしておりません。
② 財政状態の状況
(資産)
当事業年度末の流動資産の残高は前事業年度末と比較して285,382千円増加し、2,634,594千円となりました。これは、主として、原薬販売を目的とした商品及び製品が88,413千円発生したこと並びに今後の原薬製剤化の研究開発等を目的とした原材料及び貯蔵品が180,314千円増加したことによるものであります。
固定資産の残高は、前事業年度末と同額の1,031千円となりました。
この結果、資産合計は、2,635,625千円となり、前事業年度末と比較して285,382千円増加しました。
(負債)
当事業年度末の流動負債の残高は前事業年度末と比較して32,289千円減少し、127,196千円となりました。これは、主として、原薬製造が進んだこと等により未払金が26,085千円減少したことによるものであります。
固定負債の残高は、前事業年度末とほぼ同額の2,278千円となりました。
この結果、負債合計は、129,475千円となり、前事業年度末と比較して32,245千円減少しました。
(純資産)
当事業年度末の純資産の残高は、2,506,149千円となり、前事業年度末と比較して317,628千円増加しました。これは、主として、当期純損失が301,166千円計上された一方、当社株式の上場に伴う増資による資本金及び資本準備金がそれぞれ306,820千円増加し、新株予約権の行使により資本金及び資本準備金がそれぞれ2,600千円増加したことによるものです。なお、2021年7月に資本金及び資本準備金の額の減少により、資本金557,600千円、資本準備金207,881千円をそれぞれ減少し、同額をその他資本剰余金に振り替えるとともに、当該その他資本剰余金765,481千円を繰越利益剰余金の欠損填補に充当しております。
この結果、資本金51,820千円、資本剰余金2,755,541千円、利益剰余金△301,166千円となりました。
③ キャッシュ・フローの状況
当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前事業年度末に比べ34,981千円増加し2,137,520千円となりました。
当事業年度におけるキャッシュ・フローの状況は、下記のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において営業活動に使用した資金は560,922千円(前事業年度は146,461千円の支出)となりました。これは主に、補助金の受取額87,000千円があるものの、税引前当期純損失299,676千円及び棚卸資産の増加額268,727千円によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において投資活動によるキャッシュ・フローは発生しておりません(前事業年度も発生しておりません。)。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において財務活動により増加した資金は595,904千円(前事業年度は2,082,523千円の収入)となりました。これは主に、株式の発行による収入612,232千円及び上場関連費用の支出16,282千円によるものであります。
④ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当社は医薬品開発事業の単一セグメントであるため、セグメントごとの情報は記載しておりません。当事業年度の生産は以下のとおりです。
(注)1. 金額は、製造原価によっております。
2.上記の金額には、消費税等は含まれておりません。
3,前事業年度での生産実績はありません。
b.受注実績
当社は受注生産を行っていませんので、受注実績の記載はしておりません。
c.販売実績
当社は医薬品開発事業の単一セグメントであるため、セグメントごとの情報は記載しておりません。当事業年度の販売実績は以下のとおりです。
(注) 主な相手先別の販売実績および当該販売実績の総販売実績に対する割合は以下のとおりです。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、提出日現在において判断したものであります。
① 重要な会計方針及び見積り
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。また、財務諸表の作成に当たっては、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を与える可能性のある見積りや予測を行っており、見積りの不確実性による実績との差異が生じる場合があります。
当社の財務諸表の作成に係る重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 財務諸表等(1)財務諸表 注記事項 重要な会計方針」に記載のとおりであります。
② 経営成績の分析
当事業年度におきましては、「(1) 経営成績等の状況の概要」に記載のとおり、売上高289,756千円(前事業年度467,616千円、前事業年度比177,860千円:38.0%減少)、売上原価は71,598千円(前事業年度の売上原価はありません。)、販売費及び一般管理費576,038千円(前事業年度639,219千円、前事業年度比63,181千円:9.9%減少)、営業外収益82,293千円(前事業年度63,355千円、前事業年度比18,938千円:29.9%増加)、営業外費用24,090千円(前事業年度8,093千円、前事業年度比15,996千円:197.6%増加)となりました。
この結果、当事業年度の営業損失は357,880千円(前事業年度は営業損失171,603千円)、経常損失は299,676千円(前事業年度は経常損失116,341千円)、当期純損失は301,166千円(前事業年度は当期純損失117,831千円)となりました。
(売上高)
当事業年度の売上高は、クラリス・バイオセラピューティクス社とのLicense and Supply Agreementに基づく原薬供給及び技術アクセスフィー収入による売上であります。
(売上原価)
当事業年度の売上原価は、クラリス・バイオセラピューティクス社への原薬供給によるものであります。
(販売費及び一般管理費)
当事業年度の販売費及び一般管理費は、ALSパイプライン関連研究開発費が38,753千円、その他の研究開発費が11,679千円増加したにもかかわらず、脊髄損傷パイプライン関連研究開発費が147,214千円減少したこと等により63,181千円減少しております。ALSパイプライン関連研究開発費については、補助金が終了したことに伴う治験費用負担額の増加、その他研究開発費については、人員増加に伴う諸費用の増加等により、それぞれの費用が増加し、脊髄損傷パイプライン関連研究開発費については、前事業年度における第Ⅲ相試験の準備費用が当事業年度では発生しなかったこと等により費用が減少しております。
(営業外収益)
当事業年度の営業外収益は、主に補助金収入が20,000千円増加したことにより18,938千円増加しております。
(営業外費用)
当事業年度の営業外費用は、主に上場関連費用が16,282千円発生したことにより15,996千円増加しております。
③ 財政状態の分析
当事業年度におきましては、当社は、「(1) 経営成績等の状況の概要」に記載のとおり、資産合計は、2,635,625千円となり、前事業年度末と比較して285,382千円増加し、負債合計は、129,475千円となり、前事業年度末と比較して32,245千円増加するとともに、純資産の残高は、2,506,149千円となり、前事業年度末と比較して317,628千円増加しました。
④ キャッシュ・フローの状況の分析
当事業年度におきましては、当社は、「(1) 経営成績等の状況の概要」に記載のとおり、営業活動によるキャッシュ・フローは560,922千円の支出となり、財務活動によるキャッシュ・フローは595,904千円の収入となっております。なお、投資活動によるキャッシュ・フローは発生しておりません。
⑤ 経営成績に重要な影響を与える要因について
経営成績に重要な影響を与える要因については「第2 事業の状況 2.事業等のリスク」をご参照ください。
⑥ 資本の財源及び資金の流動性についての分析
当社は、複数のパイプラインの開発を行っておりますが、POCが確認されている脊髄損傷急性期の開発に優先的に資金を充当しております。当事業年度において、脊髄損傷パイプライン関連の研究開発費は、その製品化に必要な製造関連研究開発費を含めて、269,094千円を計上しております。また、医師主導治験であるALSについても、計画に遅延が生じないように支援を継続しており、71,457千円を計上しております。
当社は、事業上必要な資金については、手元資金で賄う方針としており、売上高や営業外収益による収入が現時点では限定的であるため、第三者割当増資により調達を行っております。手元資金については、資金需要に迅速かつ確実に対応するため、流動性の高い銀行預金により確保しております。
今後は、事業提携や補助金等による収入が生じることによる一定の財源は確保できる予定ですが、研究開発費の全額を賄うことは困難であるため、主要なパイプラインである神経疾患を中心に資金配分を行い、事業の黒字化を早急に達成するよう開発を進捗させる計画であります。
① 経営成績の状況
製薬業界におきましては、高齢化に伴う医療費の増大に対応してジェネリック医薬品による代替が進むとともに、薬価改定期間が短縮され、高額医薬品の薬価が著しく低下しております。また、臨床試験の大規模化等に起因する新薬開発のためのコスト増大により、国内外での製薬企業の合従連衡が進みM&Aによる企業規模が拡大するとともに、自社創薬開発において重点領域の絞込みが行われており、社外から開発品目を導入する動きも活発化しております。
一方、新薬開発については、対象患者が多く、将来安定した多額の収益が得られるいわゆるブロックバスター医薬品から、特定の患者群に効果的な治療が行える医薬品の開発に移行しており、経営資源が特定分野に集中し、短期に意思決定が行われる創薬ベンチャーがその中心的役割を担うと言われております。これに対応すべく、政府は、厚生労働省や経済産業省の中央省庁を中心に、日本発の創薬を積極的に支援するため、特に、創薬ベンチャー支援の取り組みとして、医療系ベンチャー・トータルサポート事業(MEDISO)の開始や「伊藤レポート2.0 バイオメディカル産業版」が作成されております。また、日本国内での創薬を促進するため、医薬品の条件付き早期承認制度や先駆的医薬品指定制度が法制化されました。
また、新型コロナウイルスの感染拡大により製薬業界への社会的注目が増しているものの、製薬業界の経営資源が新型コロナウイルスに対するワクチンや治療薬開発に集中することによりその他の医薬品開発が治験を含めて遅延する傾向がみられます。
このような事業環境下、当社は、組換えヒトHGFタンパク質の研究開発によって創薬イノベーションを起こすことが事業機会の創出・獲得につながると考え、組換えヒトHGFタンパク質プロジェクトに経営資源を集中して、以下の各事業活動を展開しました。
1.医薬開発活動について
(ア) 脊髄損傷(SCI)急性期
慶應義塾大学整形外科中村雅也教授を治験調整医師とする治験実施体制のもとで、脊髄損傷急性期患者を対象として第Ⅰ/Ⅱ相試験を実施し、安全性を確認するとともに有効性を示唆する結果を得ました。第Ⅰ/Ⅱ相試験で得られたPOC(プルーフ・オブ・コンセプト:研究開発中である新薬候補物質の有用性・効果が、ヒトに投与することによって認められること)を検証する目的で次の第Ⅲ相試験の計画を策定し、2020年6月9日付で医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)に治験計画届書を提出しました。
2020年7月より第Ⅲ相試験を総合せき損センター、北海道せき損センター及び村山医療センターの3施設で開始しました。2021年3月より神戸赤十字病院及び愛仁会リハビリテーション病院を加えた合計5施設を治験実施医療機関としており、計画から遅延することなく患者組入れを継続しております。
脊髄損傷急性期治療薬としての製造販売承認取得に向けて、組換えヒトHGFタンパク質の製造プロセスに関する各種試験を行っております。原薬製造につきましては、承認申請に必要とされる実製造と同様のプロセスで行う試験製造(プロセスバリデーション)を実施中であります。なお、新型コロナウイルス感染症拡大・長期化を原因とした世界的な工場稼働率の低下や新型コロナウイルスに対するワクチン製造への優先的な原材料供給等により、当社のHGF製造開発に必要となる原材料等の供給量の低下、供給の遅延などが発生し、当事業年度に完了を予定していた試験の一部は、来期での完了予定に変更となっております。また、iPS細胞由来神経前駆細胞の移植技術などを組み合わせて、脊髄損傷を対象に、組換えヒトHGFタンパク質製剤のより効果的な投与方法や投与のタイミングを検討するために、2021年2月より慶應義塾大学医学部と新たな共同研究を開始しております。
2021年6月には、アジア太平洋脊椎外科学会とアジア太平洋小児整形外科学会の第 13 回合同学会(APSS-APPOS 2021、2021年6月9日~12日、於神戸国際会議場)において、脊髄損傷急性期での第Ⅰ/Ⅱ相試験に関する発表が APSS CONGRESS Best Clinical Research Award(APSS会議最優秀臨床研究賞)を受賞しました。
(イ) 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
2016年5月より東北大学神経内科青木正志教授による医師主導治験として開始された第Ⅱ相試験について、東北大学病院及び大阪大学医学部附属病院において患者組入れを継続してきました。2020年11月には患者組入れを終了しております。当社は、治験薬提供者の立場から従来より治験薬の提供ならびに当該治験の運営・推進支援、治験薬の安定性試験等を継続して実施しており、当事業年度におきましても治験薬の安定性試験を実施しております。なお、2021年12月には最終症例の最終観察日が終了しております。
また、当事業年度においては、2021年3月をもって国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)からの補助金が終了したことに伴う当該治験の停滞を回避するため、当社より、医薬品開発業務受託機関(CRO)等に係る治験費用の負担を行いました。
2021年9月には、アジア―環太平洋ALSコンソーシアムにおいて、青木正志教授により組換えヒトHGFタンパク質によるALS治療薬の開発経緯に関して学会発表が行われました。
(ウ) 声帯瘢痕(VFS)
声帯粘膜が硬く変性(線維化)する疾患であるVFSを対象とした医師主導による第Ⅰ/Ⅱ相試験によって、KP-100製剤の声帯内投与の安全性が確認され、声帯の機能回復を示す症例も確認されました(J Tissue Eng Regen Med. 2017;1–8.)。当該事業年度においては、2019年7月に実施したPMDAとの事前面談を踏まえ、POCの取得を目的とする次相試験(プラセボ対照二重盲検比較試験)について、京都府立医科大学と協議を重ねており、2022年9月期より開始する計画を策定しております。
なお、治験の実施費用並びに治験薬の製造及び市販製剤の開発費用の調達を目的として、2021年11月に新株予約権の発行を行っており、さらに、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による「医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)」課題として採択され、公的資金の活用も進めております。
(エ)クラリス・バイオセラピューティクス社への原薬供給
当社は、2020年4月に米国のクラリス・バイオセラピューティクス社とLicense and Supply Agreementを締結し、同社が米国において眼科疾患を対象に臨床開発を進めるためのHGF原薬の供給を行っております。
当事業年度においては、同社に対し治験薬製造や各種試験等に必要となるHGF原薬を継続して供給しました。また、当社が提供した各種情報をもとに、同社は神経栄養性角膜炎を対象とする第Ⅰ/Ⅱ相試験を開始するためのIND 申請*を2021年5月に実施しており、同年8月には一例目の投与が開始されております。
*米国食品医薬品局(FDA)に対する新薬治験開始申請
2.事業開発活動について
当事業年度においては、脊髄損傷急性期での海外展開を見据えて、海外製薬企業等との事業提携協議を中心に、事業開発活動を行いました。
また、2021年9月には、当社パイプラインの主成分である組換えヒトHGFタンパク質(5 アミノ酸欠損・糖鎖付加型、開発コード:KP-100)の国際一般名称が、「Oremepermin Alfa」(オレメペルミン アルファ)に決定されました。
以上の結果、当事業年度の業績は以下のとおりとなりました。
当事業年度における売上高は289,756千円(前事業年度467,616千円、前事業年度比177,860千円:38.0%減少)となりました。これは、クラリス・バイオセラピューティクス社に対する原薬供給売上及び技術アクセスフィー収入によるものであります。
当事業年度における売上原価は71,598千円(前事業年度の売上原価はありません。)となりました。前事業年度までは、過年度において研究開発費として費用化された原薬を販売しておりましたが、当事業年度より原薬の原価計算を開始することにより、売上原価が発生しております。
当事業年度における販売費及び一般管理費は576,038千円(前事業年度639,219千円、前事業年度比63,181千円:9.9%減少)となりました。販売費及び一般管理費に含まれる研究開発費は398,518千円(前事業年度489,508千円、前事業年度比90,990千円:18.6%減少)となりました。研究開発費は、ALSパイプライン関連71,457千円(前事業年度32,704千円、前事業年度比38,753千円:118.5%増加)、脊髄損傷パイプライン関連153,448千円(前事業年度300,662千円、前事業年度比147,214千円:49.0%減少)、両パイプライン共通のGMP製造関連115,647千円(前事業年度109,856千円、前事業年度比5,790千円:5.3%増加)及びその他の研究開発費57,966千円(前事業年度46,286千円、前事業年度比11,679千円:25.2%減少)から構成されており、販売費及び一般管理費は、研究開発費とその他一般管理費177,520千円(前事業年度149,710千円、前事業年度比27,808千円:18.6%増加)の合計額となっております。
ALSに係る研究開発費が38,753千円、その他の研究開発費が11,679千円増加したにもかかわらず、脊髄損傷急性期に係る研究開発費が147,214千円減少したこと等により販売費及び一般管理費は63,181千円減少しております。ALSに係る研究開発費については、補助金が終了したことに伴う治験費用負担額の増加、その他研究開発費については、人員増加に伴う諸費用の増加等により、それぞれの費用が増加しており、脊髄損傷急性期に係る研究開発費については、前事業年度における第Ⅲ相試験の準備費用が当事業年度では発生しなかったこと等により費用が減少しております。
販売費及び一般管理費は減少したものの、前事業年度より売上高が減少したこと及び売上原価が発生したことにより、営業損失は357,880千円(前事業年度は営業損失171,603千円)となりました。
当事業年度の営業外収益は、前事業年度と比較して18,938千円増加の82,293千円となりました。これは、主に補助金収入の増加20,000千円によるものであります。また、営業外費用は、前事業年度と比較して15,996千円増加の24,090千円となりました。これは、主に上場関連費用の発生16,282千円によるものであります。
これらの結果により、当事業年度の経常損失は299,676千円(前事業年度の経常損失は116,341千円)、当期純損失は301,166千円(前事業年度の当期純損失は117,831千円)となりました。
なお、当社は医薬品開発事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載はしておりません。
② 財政状態の状況
(資産)
当事業年度末の流動資産の残高は前事業年度末と比較して285,382千円増加し、2,634,594千円となりました。これは、主として、原薬販売を目的とした商品及び製品が88,413千円発生したこと並びに今後の原薬製剤化の研究開発等を目的とした原材料及び貯蔵品が180,314千円増加したことによるものであります。
固定資産の残高は、前事業年度末と同額の1,031千円となりました。
この結果、資産合計は、2,635,625千円となり、前事業年度末と比較して285,382千円増加しました。
(負債)
当事業年度末の流動負債の残高は前事業年度末と比較して32,289千円減少し、127,196千円となりました。これは、主として、原薬製造が進んだこと等により未払金が26,085千円減少したことによるものであります。
固定負債の残高は、前事業年度末とほぼ同額の2,278千円となりました。
この結果、負債合計は、129,475千円となり、前事業年度末と比較して32,245千円減少しました。
(純資産)
当事業年度末の純資産の残高は、2,506,149千円となり、前事業年度末と比較して317,628千円増加しました。これは、主として、当期純損失が301,166千円計上された一方、当社株式の上場に伴う増資による資本金及び資本準備金がそれぞれ306,820千円増加し、新株予約権の行使により資本金及び資本準備金がそれぞれ2,600千円増加したことによるものです。なお、2021年7月に資本金及び資本準備金の額の減少により、資本金557,600千円、資本準備金207,881千円をそれぞれ減少し、同額をその他資本剰余金に振り替えるとともに、当該その他資本剰余金765,481千円を繰越利益剰余金の欠損填補に充当しております。
この結果、資本金51,820千円、資本剰余金2,755,541千円、利益剰余金△301,166千円となりました。
③ キャッシュ・フローの状況
当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前事業年度末に比べ34,981千円増加し2,137,520千円となりました。
当事業年度におけるキャッシュ・フローの状況は、下記のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において営業活動に使用した資金は560,922千円(前事業年度は146,461千円の支出)となりました。これは主に、補助金の受取額87,000千円があるものの、税引前当期純損失299,676千円及び棚卸資産の増加額268,727千円によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において投資活動によるキャッシュ・フローは発生しておりません(前事業年度も発生しておりません。)。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において財務活動により増加した資金は595,904千円(前事業年度は2,082,523千円の収入)となりました。これは主に、株式の発行による収入612,232千円及び上場関連費用の支出16,282千円によるものであります。
④ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当社は医薬品開発事業の単一セグメントであるため、セグメントごとの情報は記載しておりません。当事業年度の生産は以下のとおりです。
| セグメントの名称 | 当事業年度 (自 2020年10月1日 至 2021年9月30日) | 前年度比(%) |
| 医薬品開発事業(千円) | 160,011 | ― |
| 合計(千円) | 160,011 | ― |
(注)1. 金額は、製造原価によっております。
2.上記の金額には、消費税等は含まれておりません。
3,前事業年度での生産実績はありません。
b.受注実績
当社は受注生産を行っていませんので、受注実績の記載はしておりません。
c.販売実績
当社は医薬品開発事業の単一セグメントであるため、セグメントごとの情報は記載しておりません。当事業年度の販売実績は以下のとおりです。
| セグメントの名称 | 当事業年度 (自 2020年10月1日 至 2021年9月30日) | 前年度比(%) |
| 医薬品開発事業(千円) | 289,756 | △38.0 |
| 合計(千円) | 289,756 | △38.0 |
(注) 主な相手先別の販売実績および当該販売実績の総販売実績に対する割合は以下のとおりです。
| 相手先 | 前事業年度 (自 2019年10月1日 至 2020年9月30日) | 当事業年度 (自 2020年10月1日 至 2021年9月30日) | ||
| 金額(千円) | 割合(%) | 金額(千円) | 割合(%) | |
| クラリス・バイオセラピューティクス社 | 167,616 | 35.8 | 289,756 | 100.0 |
| 丸石製薬株式会社 | 300,000 | 64.2 | ― | ― |
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、提出日現在において判断したものであります。
① 重要な会計方針及び見積り
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。また、財務諸表の作成に当たっては、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を与える可能性のある見積りや予測を行っており、見積りの不確実性による実績との差異が生じる場合があります。
当社の財務諸表の作成に係る重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 財務諸表等(1)財務諸表 注記事項 重要な会計方針」に記載のとおりであります。
② 経営成績の分析
当事業年度におきましては、「(1) 経営成績等の状況の概要」に記載のとおり、売上高289,756千円(前事業年度467,616千円、前事業年度比177,860千円:38.0%減少)、売上原価は71,598千円(前事業年度の売上原価はありません。)、販売費及び一般管理費576,038千円(前事業年度639,219千円、前事業年度比63,181千円:9.9%減少)、営業外収益82,293千円(前事業年度63,355千円、前事業年度比18,938千円:29.9%増加)、営業外費用24,090千円(前事業年度8,093千円、前事業年度比15,996千円:197.6%増加)となりました。
この結果、当事業年度の営業損失は357,880千円(前事業年度は営業損失171,603千円)、経常損失は299,676千円(前事業年度は経常損失116,341千円)、当期純損失は301,166千円(前事業年度は当期純損失117,831千円)となりました。
(売上高)
当事業年度の売上高は、クラリス・バイオセラピューティクス社とのLicense and Supply Agreementに基づく原薬供給及び技術アクセスフィー収入による売上であります。
(売上原価)
当事業年度の売上原価は、クラリス・バイオセラピューティクス社への原薬供給によるものであります。
(販売費及び一般管理費)
当事業年度の販売費及び一般管理費は、ALSパイプライン関連研究開発費が38,753千円、その他の研究開発費が11,679千円増加したにもかかわらず、脊髄損傷パイプライン関連研究開発費が147,214千円減少したこと等により63,181千円減少しております。ALSパイプライン関連研究開発費については、補助金が終了したことに伴う治験費用負担額の増加、その他研究開発費については、人員増加に伴う諸費用の増加等により、それぞれの費用が増加し、脊髄損傷パイプライン関連研究開発費については、前事業年度における第Ⅲ相試験の準備費用が当事業年度では発生しなかったこと等により費用が減少しております。
(営業外収益)
当事業年度の営業外収益は、主に補助金収入が20,000千円増加したことにより18,938千円増加しております。
(営業外費用)
当事業年度の営業外費用は、主に上場関連費用が16,282千円発生したことにより15,996千円増加しております。
③ 財政状態の分析
当事業年度におきましては、当社は、「(1) 経営成績等の状況の概要」に記載のとおり、資産合計は、2,635,625千円となり、前事業年度末と比較して285,382千円増加し、負債合計は、129,475千円となり、前事業年度末と比較して32,245千円増加するとともに、純資産の残高は、2,506,149千円となり、前事業年度末と比較して317,628千円増加しました。
④ キャッシュ・フローの状況の分析
当事業年度におきましては、当社は、「(1) 経営成績等の状況の概要」に記載のとおり、営業活動によるキャッシュ・フローは560,922千円の支出となり、財務活動によるキャッシュ・フローは595,904千円の収入となっております。なお、投資活動によるキャッシュ・フローは発生しておりません。
⑤ 経営成績に重要な影響を与える要因について
経営成績に重要な影響を与える要因については「第2 事業の状況 2.事業等のリスク」をご参照ください。
⑥ 資本の財源及び資金の流動性についての分析
当社は、複数のパイプラインの開発を行っておりますが、POCが確認されている脊髄損傷急性期の開発に優先的に資金を充当しております。当事業年度において、脊髄損傷パイプライン関連の研究開発費は、その製品化に必要な製造関連研究開発費を含めて、269,094千円を計上しております。また、医師主導治験であるALSについても、計画に遅延が生じないように支援を継続しており、71,457千円を計上しております。
当社は、事業上必要な資金については、手元資金で賄う方針としており、売上高や営業外収益による収入が現時点では限定的であるため、第三者割当増資により調達を行っております。手元資金については、資金需要に迅速かつ確実に対応するため、流動性の高い銀行預金により確保しております。
今後は、事業提携や補助金等による収入が生じることによる一定の財源は確保できる予定ですが、研究開発費の全額を賄うことは困難であるため、主要なパイプラインである神経疾患を中心に資金配分を行い、事業の黒字化を早急に達成するよう開発を進捗させる計画であります。