有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2020/11/18 15:00
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126項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 経営方針
当社は、「働く世代に豊かさを」というミッションを掲げ、働く世代の豊かな老後のために、「長期・積立・分散」の資産運用を全自動化したサービス、ロボアドバイザー「WealthNavi(ウェルスナビ)」を提供しております。従来お客様が自分自身で行っていた資産運用のプロセスである、目標設定からポートフォリオの構築、発注・積立・再投資、リバランス及び税金最適化まで、全てのプロセスを自動化しており、高度な知識や手間なしに国際分散投資を行うことができます。また、オンラインですべての人に提供しております。
今後も、ロボアドバイザー「WealthNavi(ウェルスナビ)」等の提供を通じ、「長期・積立・分散」の資産運用の普及に努め、働く世代の資産形成をサポートしていきたいと考えております。また、資産運用を自動化するという仕組みによって、日本の働く世代が経済的な豊かさだけでなく、自由に生きられるという精神的な豊かさを得ることにも貢献していきたいと考えております。
(2) 目標とする経営指標
当社の営業収益の中心である受入手数料は、お客様から頂く手数料であり、預かり資産に連動しております。そのため、預かり資産、Net AuM retention(注1)、解約率等を注視し運営をしております。なお、Net AuM retention、解約率は、預かり資産の継続的かつ累積的な増加を評価するための指標であるため、預かり資産を最も重要な指標として運営を行っております。
(注) 1.新規運用者の預かり資産が、年何%の速度で増加したかを表す指標(簿価基準で、時価の変動分は除く)。計算式:(当初の預かり資産額+1年間の積立額+1年間の積立以外の追加入金額-1年間の出金額)÷ 当初の預かり資産額。
(3) 当社が考える強み
① 手数料1%(注1)で高品質なサービスを提供
「長期・積立・分散」の資産運用を全自動化したサービス、ロボアドバイザー「WealthNavi(ウェルスナビ)」を、預かり資産の1%のみの費用というシンプルな手数料設計で、オンラインですべての人に提供しております。
お客様がサービスの利用を開始する際には、スマートフォンやパソコン等を通じて、5つの質問に回答するだけで、お客様のリスク許容度に応じた運用プランが提案され、また手軽に申し込むことができます。入金後は、その運用プランに従って、ポートフォリオの構築、発注・積立・再投資、リバランス及び税金最適化まで、すべて自動で行われます。投資対象は、6~7銘柄のETF(上場投資信託)で、それらのETFを通じて世界約50カ国、1万1,000銘柄以上に分散投資(注2)することになります。また、「AIによる資産運用アドバイス機能」や「ライフプラン機能」など多彩な機能で、お客様の「長期・積立・分散」の資産運用をサポートしております。
以上のように、預かり資産の1%の手数料で、投資の知識が足りなくても、投資の検討に十分な時間がとれなくても、世界の富裕層や機関投資家が実践している「長期・積立・分散」の運用が可能となります。
② プロダクト開発力を活かし、高い市場シェア
当社は、2016年7月にロボアドバイザー「WealthNavi(ウェルスナビ)」を正式リリースしております。また、2017年5月におつり資産運用アプリ「マメタス」をリリースし、少額から「WealthNavi(ウェルスナビ)」の資産運用が行えるようにしております。その他にもプロダクト開発力を活かし、自動税金最適化(DeTAX)機能、リバランス機能付き自動積立、ミリトレ(少額ETF取引機能)、AIによる資産運用アドバイス機能、ライフプラン機能など、新機能をリリースし続けており、お客様よりアプリに対する高い評価を得ております。また、新機能を開発・提供するだけではなく、コラム、ビデオメッセージ及びセミナー等を通じても、お客様が「長期・積立・分散」の資産運用を続けられるようサポートしております。
その結果、当社は、国内ロボアドバイザー市場において、預かり資産、運用者数ともに国内第1位(注3)を継続的に確保しております。また、2019年6月から2020年6月の1年間で、国内ロボアドバイザー市場全体の預かり資産は1,416億円増加しましたが、当社の増加分が962億円と全体の68%を占める(注4)など、高い成長シェアを保持しております。
③ 積み上げ型ビジネスとしての安定性と、コスト構造
当社の営業収益の中心である受入手数料は、お客様から頂く手数料であり、預かり資産に連動しております。預かり資産を伸ばすうえで、お客様に利用し続けて頂くことが重要ですが、当社では、機能改善や新機能追加に継続的に取り組んでおり、結果として月次平均で1%以下と低い解約率(注5)を実現しております。加えて、既存のお客様からの積立を含む追加入金が順調に進展しており、Net AuM retentionは120%超(注6)を実現しております。結果として、預かり資産は2016年7月の正式リリース以降、順調に成長しております。
また、預かり資産の順調な成長とともに営業収益が伸びる一方で、各種費用の営業収益に占める割合は着実に低減しております。
業績推移
・2016年12月期~2019年12月期(単位:千円)
会計期間2016年12月期2017年12月期2018年12月期2019年12月期
営業収益3,007207,048881,1711,552,903
レベニューシェア (注7)69,598238,915353,824
取引連動費 (注8)41,287113,620297,659378,719
人件費126,551367,518606,109834,874
不動産関係費等 (注9)137,505234,860408,751466,091
広告宣伝費50,579184,7971,051,2171,581,115
営業損益△352,917△763,348△1,721,482△2,061,722
・2020年12月期 第1四半期~第3四半期(単位:千円)
会計期間第1四半期第2四半期第3四半期
営業収益504,204571,018689,698
レベニューシェア (注7)109,799114,819122,597
取引連動費 (注8)125,354108,291118,746
人件費224,885209,943186,975
不動産関係費等 (注9)131,305118,127123,711
広告宣伝費312,067244,795280,059
営業損益△399,208△224,958△142,391

(注) 1.年率・消費税別。手数料はETF部分にのみかかり、現金部分にはかからない。3,000万円を超える部分は0.5%となる。また実質的には、手数料とは別にETF保有コストの負担が発生するが、ETFの中で差し引かれており、別途支払いの必要はない。(対面アドバイスと組み合わせたハイブリッド・サービス(2020年9月30日時点では、北國おまかせNavi及び岡三Naviハイブリッド)の手数料は1.5%(年率・税別)であり、3,000万円を超える部分の手数料は1.0% (年率・税別))。
2.2020年9月30日時点。
3.一般社団法人日本投資顧問業協会「契約資産状況(最新版)(2019年9月末現在)」より当社作成。
4.一般社団法人日本投資顧問業協会「契約資産状況」より当社作成。
5.預かり有価証券の残高がなくなった口座数の割合。月間で、2016年7月(「WealthNavi(ウェルスナビ)」正式リリース)から2020年9月の全月平均。
6.新規運用者の預かり資産が、年何%の速度で増加したかを表す指標(簿価基準で、時価の変動分は除く。2016年7月(「WealthNavi(ウェルスナビ)」正式リリース)から2020年9月の全平均)。計算式:(当初の預かり資産額+1年間の積立額+1年間の積立以外の追加入金額-1年間の出金額)÷ 当初の預かり資産額。
7.提携パートナー(第1 企業の概況 3 事業の内容 (2) ロボアドバイザー「WealthNavi(ウェルスナビ)」の概要)へのレベニューシェア。
8.入金・積立・出金手数料等の支払手数料(レベニューシェア以外)、勘定系システム利用料、口座開設関連費。
9.不動産関係費、サーバー費等(レベニューシェア、取引連動費、人件費、広告宣伝費以外)。
(4) 経営環境
終身雇用の終焉と人生100年時代の到来により、「働く世代の資産形成」という新たなニーズが生まれつつあります。かつては、退職金や年金で老後の生活が賄えたため、働く世代の資産運用のニーズは限定的でしたが、終身雇用、退職金制度及び年金制度等への不安から、昨今の日本の働く世代にとって、働きながらの資産運用が大切になってきております。一方で、資産運用に必要な知識、考える時間が足りない状況に置かれており、その解決策の一つである、資産運用のすべてのプロセスを自動化し「長期・積立・分散」投資ができるロボアドバイザー「WealthNavi(ウェルスナビ)」へのニーズが日々強くなっていると考えております。
また日本においては、欧米の先進国と異なり、個人の投資経験が浅く、金融リテラシーが低い状態に留まっていると考えております。当社が実施したアンケート調査(注1)においても、「資産運用の方法がわからず、相談相手もいない」ことから、資産運用のニーズはあっても実行できない人が多いという結果が出ております。そのような背景もあり、日本の個人金融資産1,883兆円の54.7%が預貯金(注2)に集中しております。
ロボアドバイザー「WealthNavi(ウェルスナビ)」のお客様の中心は20~50代の働く世代であり、その比率は9割(注3)を超えております。日本の個人金融資産1,883兆円のうち、当社のターゲットとするお客様層である20代~50代の働く世代が保有する金融資産が約650兆円(注4)あり、銀行や証券による対面チャネルのターゲットとするお客様層とも異なるため、成長余地は大きいと考えております。
さらには、日本政府も「貯蓄から資産形成へ」のスローガンのもと、関連する施策を次々と実行に移しているほか、金融庁も2016年9月の「平成27事務年度金融レポート」で「リターンの安定した投資を行うには、投資対象のグローバルな分散、投資時期の分散、長期的な保有の3つを組み合わせて活用することが有効である」と言及しており、政府方針も当社の中長期的な成長の後押しとなると考えております。
(注) 1.サービス提供開始前である2015年8月に実施したアンケート結果より。元本割れリスクを許容できる30-50代の準富裕層(金融資産1,000-3,000万円)が対象。
2.日本銀行「資金循環統計(速報)(2020年第2四半期)」2020年9月18日公表。
3.当社口座開設者の年代別割合。2020年9月30日時点。
4.日本銀行「資金循環統計(速報)(2020年第2四半期)」(2020年9月)、総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(2020年1月)、総務省「全国家計資産に関する結果(総資産)」(2016年3月)より当社作成。
(5) 中長期的な会社の経営戦略
① お客様への提供価値の最大化
当社のロボアドバイザー事業が今後も成長し続けるためには、ロボアドバイザー「WealthNavi(ウェルスナビ)」がお客様から支持され、選ばれ続ける必要があると考えております。現在の機能をより使いやすく継続的に改善することや、お客様のニーズに合致した新機能を追加し続けることが、お客様への提供価値を最大化するうえで、重要と考えております。
直近では、長期投資に挫折しそうなケースにおいてAIを活用してアドバイスを行う「AIによる資産運用アドバイス機能」、お客様一人ひとりにとっての必要な老後資金を試算し、退職時までに目標を達成するための投資計画を提案し、その進捗状況を管理する「ライフプラン機能」、スマートフォンのみで本人確認が完了し、最短で翌営業日から資産運用が始められる「クイック本人確認機能」等の新機能を追加しており、今後もお客様のニーズに合致する機能を継続的に開発していきたいと考えております。
また、お客様に「長期・積立・分散」の資産運用を継続して頂くためにも、適時適切なタイミングでコラムを発信することや、「AIによる資産運用アドバイス機能」を充実化させて行くことも、お客様が長期投資に挫折してしまうことを防ぐために重要と考えております。
② お客様基盤の更なる拡大
昨今の日本の働く世代は、終身雇用、退職金制度及び年金制度等に不安を抱える一方、資産運用に必要な知識、考える時間が足りない状況に置かれており、その解決策の一つである、資産運用のすべてのプロセスを自動化し「長期・積立・分散」投資ができるロボアドバイザー「WealthNavi(ウェルスナビ)」へのニーズが顕在化し、日々強くなっていると考えております。また、日本政府も「貯蓄から資産形成へ」のスローガンのもと、関連する施策を次々と実行に移しているほか、金融庁も2016年9月の「平成27事務年度金融レポート」で「リターンの安定した投資を行うには、投資対象のグローバルな分散、投資時期の分散、長期的な保有の3つを組み合わせて活用することが有効である」と言及しており、政府方針も当社の中長期的な成長の後押しとなると考えております。さらには、日本の個人金融資産1,883兆円の54.7%が預貯金(注1)と、欧米各国との比較(注2)においても個人の金融資産が預貯金に集中しており、良質な資産運用サービスに対する需要は拡大するものと認識しております。
そのようななか、お客様基盤の更なる拡大を目指し、ダイレクト事業については、テレビコマーシャルを含む広告宣伝活動のほか、コラム、ビデオメッセージ及びセミナー等の定期的な開催を通じた情報発信等、費用対効果を考慮しながら積極的に実施してまいります。提携パートナー事業については、提携パートナーを増やすため、金融機関等を中心に営業活動を行うことに加えて、既存の提携パートナーが持つ潜在的なお客様にご利用頂けるよう積極的に訴求してまいります。
③ 新規事業の展開
当社は、本書提出日時点において「ロボアドバイザー事業」の単一事業です。但し、今後は「ロボアドバイザー事業」の成長に向けた機能改善や新機能追加に留まらず、「ロボアドバイザー事業」のお客様基盤を生かした新規事業を積極的に検討及び展開し、PFM(Personal Financial Management。個人資産管理)、クレジットカード、株取引、保険、送金などを組み合わせた個人向け金融プラットフォームとなることを目指してまいります。
(注) 1.日本銀行「資金循環統計(速報)(2020年第2四半期)」2020年9月18日公表。
2.OECD「Household financial assets」の各国の2018年末のデータにおいて、個人の金融資産に占める預貯金の割合は、日本52.8%に対して、米国12.9%、イギリス25.1%、フランス29.0%、ドイツ40.5%。
(6) 対処すべき課題
当社の対処すべき主な課題は以下の通りであります。
① 人材確保と組織体制の整備
当社ロボアドバイザー事業の継続的な成長の実現に向けて、金融業界やテクノロジー業界をはじめとする多様なバックグラウンドをもった優秀な人材を採用し、強い組織体制を整備することが重要だと認識しております。積極的な採用活動を推進していく一方で、従業員が中長期にわたって活躍しやすい環境の整備、企業カルチャーの醸成及び人事制度の構築等を進め、組織力の強化に取り組んでまいります。
② 情報管理体制の継続的な強化
当社は、提供するサービスであるロボアドバイザー「WealthNavi(ウェルスナビ)」に関連してお客様の個人情報を扱っており、金融商品取引業者として重大な社会的責任を有することを認識したうえで、情報管理体制を継続的に強化していくことが重要だと考えております。現在も個人情報保護に係る施策には万全の注意を払っておりますが、今後も社内体制や管理方法の強化・整備を行ってまいります。
③ 利益及びキャッシュ・フローの定常的な創出
当社は、事業拡大を目指して、開発投資や広告宣伝活動を中心に積極的な先行投資を進めており、2019年12月期までの経営成績は営業損失を計上しております。
当社の営業収益の中心である受入手数料は、お客様から頂く手数料であり、預かり資産に連動しております。また預かり資産を伸ばすうえでは、お客様に利用し続けて頂くことが重要ですが、月次平均で1%以下と低い解約率(注1)を実現しており、積み上げ型の収益モデルになります。一方で、開発のための人件費、広告宣伝費が先行して計上される特徴があり、短期的には赤字が先行している状況です。
預かり資産が順調に増加するなか、収益が順調に積み上がっており、各種費用の営業収益に占める割合は着実に低減しております。そのようななか、今後も開発投資や広告宣伝活動等への先行投資を進めつつ、中長期的な利益及びキャッシュ・フローの最大化を目指してまいります。
④ 新型コロナウイルス感染症への対応
当社は、リモートワークの推進やオフィスにおける業務環境の見直し等の実施により、役職員の安全確保と新型コロナウイルス感染症の拡大防止に配慮しつつ業務を継続しております。金融インフラとして業務の継続体制を構築し、お客様に安定的にサービス提供を行ってまいります。
(注) 1.預かり有価証券の残高がなくなった口座数の割合。月間で、2016年7月(「WealthNavi(ウェルスナビ)」正式リリース)から2020年9月の全月平均。