有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2021/02/10 15:00
【資料】
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【項目】
120項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において、当社が判断したものであります。
(1)経営方針
当社は、「一人ひとりが「自分のストーリー」を生きていく世の中をつくる」という経営ビジョンのもと、個人の知識・スキル・経験を可視化し、必要とする全ての人に結びつけ、個人をエンパワーメントするプラットフォームを提供することをミッションとして、個人の知識・スキル・経験を売買するスキルのマーケットプレイス「ココナラ」を中心とした事業を展開しております。
モノの市場は2000年以降のIT勃興期の中でEコマースによるオンライン取引が進んだ結果、複数の大手企業の寡占状態であり、現在ビッグデータ等の活用により、効率性、収益性を追求する環境になっております。一方で、今後サービス市場においてもEC化が進展すると試算されております。(情報通信総合研究所「スキルシェア市場規模に関する調査報告書(2019年)」)また、当社が属するスキルシェア市場では、近年になってオンライン取引ができる市場が活用され始めております。スキルシェア市場はサービス市場に属することから、スキルシェア市場においてもEC化が進んでいくと考えております。その中で、当社は2011年に創業し、スキルシェア市場において、いち早くサービスのオンライン取引市場であるサービスECを提供しており、今後のサービスECの拡大の中で、スキルシェア市場のパイオニアとしてサービスEC市場を牽引するとともに先行者利益を享受することを目指しております。
(2)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社はあらゆる人が自分の経験や強みの価値に気づき、それを求める人に提供できるようになることで、より自分らしい人生を歩むことができる社会を目指しております。そして、あらゆる分野において誰かの力を借りたいような困りごと、依頼したいこと等が発生した際に「困ったらココナラ」と想起され、利用されるよう、経営戦略を策定しております。当社サービスは、あらゆる人の多様な課題を対象としているため、各ユーザーによって数多くのカテゴリでサービス購入されることを重要な事業戦略の一つとして考えております。そのため、全体の流通高を重要な経営指標として設定し、企業規模の拡大、企業価値の向上を目指しております。
(3)経営環境及び経営戦略等
スキルシェアの潜在市場規模は、スキルシェア(非対面・対面)の2030年予測で9,743億円、社会的な認知度向上や利用への不安解消などの課題が解決し個人の利用促進が進んだアップサイドの市場規模は2030年予測で1.9兆円との試算も出ております。(シェアリングエコノミー協会 情報通信総合研究所「シェアリングエコノミー関連調査結果(2019年)」)
かかる状況において、総務省が公表した「スマートフォン経済の現在と将来に関する調査研究の請負の報告書(2017年)」によると、日本におけるスキル×シェアの利用率は3.7%であり、米国29.6%と比較して低い状況であり、仮に、副業解禁など米国と同等の条件が揃う場合、日本のスキル×シェア市場は拡大余地が大きいと考えております。日本政府においては、厚生労働省がモデル就業規則を改訂して副業を許容する内容に変更され、経済産業省主導の「電子商取引規則に関する準則」にて、シェアリングエコノミーを活用した副業を容認する等、政府を挙げて副業解禁の流れが出来ており、日本の大企業においても副業を容認する動きが広がっております。
したがって、当社としては、知識・スキル・経験を持つ出品者による副業解禁に伴う出品の増加が見込まれる状況と考えております。また、一方で働き方改革による労働基準法改正で長時間労働を是正する動きになっているため、残業削減による収入減に対して副業で収入を増加したいという出品者側のニーズ、また、外部のスキルを活用することによる残業削減という購入者側のスキルシェアの活用ニーズが創出される流れができております。さらに、Withコロナにおけるニューノーマルの生活様式となり、個人では働き方の変化や在宅余暇の活用、法人では非対面取引や外部委託の活用増加の流れが出来ていると当社は考えております。その結果、スキルシェア市場の成長が大きく見込まれると考えております。
かかる環境を踏まえ、市場全体の拡大とともに、当社はテイクレートを維持しつつ有料購入ユーザー数及びARPPUを拡大することで流通高を拡大し、また、中長期的には営業利益率の上昇も目指してまいります。具体的な経営戦略は以下のとおりであります。
当社はあらゆる知識・スキル・経験が集約されるプラットフォームを目指して、社会に対するあらゆる接点を創出することでココナラ経済圏を構築して今後も成長を実現してまいります。具体的にはサービス提供手法(オンライン、オフライン)の拡張、カテゴリ(汎用型、特化型)の拡張、マッチング手法(1対1、1対多)の拡張及び課金手法(都度、継続)の拡張の4つの軸を拡大します。当該4つの軸を拡大することで、結果として、個人だけでなく、中小企業、大企業を含めたユーザー属性の拡張を目指してまいります。大企業約1万社、中規模企業約56万社に対して、小規模事業者は約325万社(経済産業省 2014年度版 経済センサス)と非常に大きな機会があります。大企業、中規模企業が必要とするような大規模なプロジェクト管理については既存の大手クラウドソーシング企業が存在するものの、小規模事業者が必要とするようなロゴ作成、HP作成等の小規模で多様なニーズに応えるサービスECは競合する大手がまだいない状況であると考えており、多種多様な出品者を揃える当社の開拓余地が大きいと考えております。既存のクラウドソーシング企業は、大規模プロジェクトの管理や営業等で労働集約型のビジネスモデルになっておりますが、当社がターゲットとする中小企業のニーズは、プラットフォーム上で完結するニッチなサービスであるため、固定費に占める人件費率が相対的に低く抑えられる収益性の高い有望な市場と考えております。具体的な施策は、下記の通りであります。
① 法人向けの高品質のサービスを提供できる高いレベルのスキルを有する出品者が出品しやすいように、段階的に出品可能な価格帯を変更しております。
② 2018年2月に開始した「PRO認定制度」により、一般的に知識・スキル・経験のレベルが高い、いわゆるプロの出品者を検索可能にしており、ビジネス目的でも対応可能なサービスが増加しております。さらに、購入者である法人の利便性向上のため、請求書払い等が利用可能な法人アカウント機能を2019年4月に開始しております。
③ 法人顧客が購入しやすいマッチング方法を確保する施策として、2018年5月に「見積り・カスタマイズ相談」機能を開始しております。これにより特定のサービス紹介ページを閲覧した購入者が出品者に対して提供サービスを個別カスタマイズした提案依頼を非公開で行うことができるようになりました。さらに、2018年11月に「出品者検索」機能と出品者の「プロフィールページ」をリニューアルし、当サイトにおいて出品者が自身の経歴、保有資格、受賞歴や、作品ポートフォリオなどを紹介できるようになり、それを閲覧した購入者が見積り・仕事の相談機能を通して、気に入った出品者に提案依頼を非公開で行うことができるようになりました。これらによって、主にビジネス利用目的の購入が増えております。
従来「ココナラ」を利用していたのは、個人の購入者が中心でしたが、今後はビジネス目的でも「ココナラ」を利用し易くなるよう、上記各種機能のリニューアルなどの施策を継続して導入する方針であります。ビジネスで「ココナラ」を利用する場合は、個人で利用する場合と比較し、サービス単価が高額となる傾向があるため、ビジネス目的での利用を取り込んでいくことで、ARPPUが上昇すると考えております。
(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① 出品サービス数の増加に対する検索及び購入の容易さの継続的向上
「ココナラ」は多様なニーズに対応する出品を揃えることで、仕事や相談の窓口となる存在を目指しております。2020年11月末現在、出品サービス数は約40万件と、多様なニーズに対応するサービス数となっていますが、購入者が欲しいサービスをスムーズに発見できるようにし、また、サービスを検索後に購入完了まで容易にたどりつく必要があると認識しております。
かかる課題に対処するため、当社では出品サービスが適切なカテゴリで出品されることを担保するために、適宜カテゴリを見直し、追加、修正を行っております。この際、ユーザーの利便性や利用頻度向上などの観点から、特定のカテゴリを異なるサービスとして独立して運営することも候補に検討を行っております。また、サービス選択後、購入者が普段から利用する決済手段がないことで、購入完了までたどりつけないことが無いように、当社では多様な決済手段を導入しており、クレジットカード決済、キャリア決済及び銀行振込等が利用可能となっております。
② 新規ユーザー獲得のための認知度の向上
政府が「1億総活躍社会の実現」を達成するための対策の一つとして、副業・兼業の促進を図っております。「ココナラ」が副業・兼業の受け皿となるように、幅広い利用者が利用できる多種多様なサービスを取り扱うマーケットプレイスとして認知されるためには、購入者、出品者ともに登録数の増加が必要と認識しております。
従来は、口コミに代表される有料広告を用いない方法によって利用者登録が増加してきましたが、2016年8月期より本格的にオンライン広告を開始し、2017年7月、2019年6月から8月並びに2020年7月から8月にはテレビCMを放映するなど、現在では様々な広告により登録数の拡大を行っております。現在のオンライン広告(テスト広告を除く)は顧客のターゲティング化がより進んだ結果、広告費用を1年程度で回収できる状況になっております。当面の方針としては、オンライン広告を中心とした手法により新規ユーザーを獲得してまいりますが、今後は、集客方法の選択肢としてテレビCMも継続して実施してまいります。テレビCMについては、初めて実施した2017年7月のテレビCMについては、当社分析によると、テレビCM期間中の効果、及び過去の成長トレンドを考慮したテレビCM期間後の間接的な効果を考慮すると約3年で回収できており、また、当社サービスの認知度も着実に増加していることを株式会社電通マクロミルインサイト及び株式会社クロスマーケティングの調査で確認しております。今後も過去に行ったテレビCMの効果分析を考慮して、より効果の大きい放送局、時間帯等をターゲットとして、利益の確保を意識しながら慎重に実施の可否及びタイミングを決定してまいります。
③ 提供手段の拡充
2020年7月より対面して役務提供を行う「ココナラミーツ」を「ココナラ」とは別のサイトとしてリリースしました。これにより、従来オンライン上ではサービスが提供できなかったようなサービスの出品も可能となり、サービスの多様さの拡大に寄与するものと考えております。
今後も提供手段を増やしていくことで、多様なマッチングの機会の創出を図ってまいります。
④ カテゴリの拡充
現在の当社サービスは「ココナラ」を中心として、「ココナラ法律相談」及び「ココナラミーツ」となっております。当社の方針としては、「ココナラ」を「ココナラ」に行けば解決するという相談のゲートウェイ(相談の窓口)と位置づけており、「ココナラ法律相談」や「ココナラミーツ」のような、独自のUIの方が利用者の利便性が高いサービスや、「ココナラ」とは別のビジネスモデルが必要なサービスについては、「ココナラ」内ではなく、姉妹サービスとして、専門カテゴリを随時立ち上げていくことで、取扱いカテゴリの数を増加させていく予定であります。その際には当社のプラットフォームの特性を活かして、専門家を抱える企業等との事業提携も検討してまいります。
また、「ココナラ」内においても、2018年8月及び2019年6月にカテゴリの見直しを行っており、カテゴリの新規追加、名称変更、統合・移動を実施いたしました。カテゴリの見直しは、購入者にとってはサービスをより探しやすくなり、出品者にとってはサービスをより出品しやすくするために行っております。また、幅広いカテゴリを扱っていることで不況期においてもいずれかのカテゴリの需要増加が見込まれることにより、安定的に成長する基盤となると当社は考えております。例えば、足元のコロナ禍において、自粛期間中にWEBを活用した法人需要の増加でWEB関連のカテゴリが拡大し、自粛後においては法人のネット活用の推進、個人の副業意欲の増加からデザインや動画・写真のカテゴリが拡大しております。今後も需要の高まりを反映した新設カテゴリを適宜設置していくほか、カテゴリの名称変更、統合・移動を実施し、購入者、出品者の双方にとって利便性が高くなり、取引の活性化に寄与する施策を検討してまいります。
⑤ 安心・安全なサービス体制の強化
当社の営む「ココナラ」は、取引が出品者及び購入者であるユーザー間で行われるため、サービスを提供する出品者の信頼性の確認が容易ではなく、トラブル対応等に不安があることを理由に、「ココナラ」の利用を控えるといったことが起こりうると考えております。
当社では、「ココナラ」が安心・安全に取引を行える場所であり続けることを非常に重要な課題として認識しており、カスタマーサクセスのスタッフが中心となり、安心・安全なサービス購入体験を担保するため、利用規約、ご利用ガイドの見直し、サービスやメッセージの監視や出品者の本人確認などを行っております。また、出品サービスの健全性を保つために、専任のスタッフを配置しております。専任スタッフは週次で定例ミーティングを実施し、出品サービスの理解を深めるとともに、新たな論点などを議論しております。このような取組に関して、2017年11月には一般社団法人シェアリングエコノミー協会が定めるシェアリングエコノミー認証制度を取得いたしました。当該認証制度は、シェアリングエコノミーに基づくサービスが、内閣官房IT総合戦略室がモデルガイドラインとして策定した「遵守すべき事項」に基づいており、シェアリングエコノミー協会が認定した自主ルールに適合していることを証明する制度です。今後も利用者が安心・安全に「ココナラ」を利用できるように継続的な取り組みを行ってまいります。
⑥ 情報管理体制の強化
当社が運営する「ココナラ」では、利用者の個人情報を取り扱っており、強固な情報管理体制の確保が重要であると認識しております。
情報セキュリティ管理規程及び情報セキュリティ管理マニュアルを制定し、また、情報システムにおける管理体制強化を目的として情報システム開発・運用管理規程及び情報システム開発・運用管理マニュアルを制定し、運用をしておりますが、今後も情報管理体制について重要な課題として認識し、情報管理体制を強化するべくサイバーセキュリティに関する各種施策を推進してまいります。
⑦ システムの安定稼動
当社が運営する「ココナラ」は、インターネットを通じたサービスであり、システムの安定稼動が不可欠であります。
かかる課題に対処するために、登録者数の増加によるデータ量の増加に対応するためのシステム投資をはじめ、リアルタイムでの各種KPIモニタリングと対応ガイドラインによるサイトアクセスやデータ量増加への初動の強化など運用監視体制の強化を引き続き行ってまいります。