有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2021/03/17 15:00
【資料】
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【項目】
149項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 会社の経営の基本方針
当社グループは、「新しい可能性を、次々と。」をミッションとし、社会における様々な「課題」を、テクノロジーを活用したサービス創造を通じて解決する事業を複数擁するデジタル・トランスフォーメーション・カンパニーとして、社会に貢献してまいります。
(2) 経営戦略
今後の方向性としては、主力サービス『ビズリーチ』を含むHR Tech領域でのさらなる事業成長とともに、社会的課題を捉えた新規事業の継続的な創出、国内外の有望な企業への投資とノウハウ提供を通じて、当社グループの事業領域拡大と企業価値の向上を図ってまいります。
(3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、事業規模と収益性を測る指標として、売上高及び営業利益を重視しております。なお、営業利益の着実な拡大は維持しながらも、中長期的な企業価値の向上のため、新規事業への積極的な先行投資を継続することを企図しております。また、サービス別では主要サービスである『ビズリーチ』においては、人材採用プラットフォームのアクティビティが重要であると考えていることから、累計導入企業数及びスカウト可能会員数の拡大を重視しております。『HRMOS』においては、サブスクリプション(定期購入による継続課金)型のサービス提供をしているため、利用中企業数の拡大及びChurn rateを低く抑える事を重視しております。
(4) 当社グループの強み
① 市場での『ビズリーチ』の明確なポジショニングと更なる拡大余地
『ビズリーチ』の主なターゲットとなる、日本における従業員101名以上の企業数は、48,645社(「都道府県別一般事業主行動計画策定届の届出及び認定状況(2020年3月末時点)」(厚生労働省)を加工して算出)存在し、ビズリーチをご利用いただいたことのある累計導入企業数は、15,500社以上(2021年1月末時点)です。現在の市場においても、今後、未利用企業の新規開拓及び利用企業への深耕営業の更なる促進により、更なる成長可能性を有しております。
また、人材紹介業及びネット転職情報サービスの国内市場規模はそれぞれ年々拡大しており、両者の合算値ベースで、2015年度の3,028億円(人材紹介業2,100億円、ネット転職情報サービス928億円)から、2019年度には4,395億円(人材紹介業3,080億円、ネット転職情報サービス1,315億円、合算値につき2015-2019年度年平均成長率9.8%)まで成長しております(出所:矢野経済研究所「人材ビジネスの現状と展望2020年版」2020年9月)。雇用の流動化により、ホワイトカラーの転職活動が中長期的にさらに活発化していくポテンシャルが存在しております。
当社グループの主力サービスである『ビズリーチ』は、経営幹部等のプロフェッショナル人材の採用を支援するサービスであり、顧客企業が抱える経営課題を解決する性質を有しております。スカウト可能な123万名以上(2021年1月末時点)のプロフェッショナル人材のデータベースを擁し、顧客企業と経営上のパートナーとしての関係性を築いております。
② 各採用領域における充実したサービスラインナップ
当社グループは、新卒をターゲットとする『ビズリーチ・キャンパス』、最初の転職である20代の若手転職を支援する『キャリトレ』、企業活動の中核を担うプロフェッショナル人材の採用を支援する『ビズリーチ』とキャリア形成における各ステージのサービスを提供することに加えて、ハイスキルITエンジニア向け転職サイト『BINAR』、パートタイマー・アルバイト領域の求人検索エンジン『スタンバイ』を通じて、各領域特化型の採用サービスを提供しております。国内における人材獲得競争が激しさを増す中、当社グループは採用に関する総合的なプラットフォーマーとして、確かな地位を築くことを目指しております。
③ 収益構造の多様化
当社グループは、『ビズリーチ』に代表されるフロー型の収益構造に加え、『HRMOS』シリーズに代表されるサブスクリプション(定期購入による継続課金)のサービス提供を通して、収益構造の多様化を図り、安定的かつ継続的な収益構造を目指しております。
④ 幅広い領域における新規事業創出能力
当社グループは、採用領域における事業開発のみならず、HR SaaS領域における『HRMOS』シリーズ、M&A領域における『BizReach SUCCEED(ビズリーチ・サクシード)』、サイバーセキュリティ領域における『yamory(ヤモリー)』等、幅広い領域において新規サービスを生み出してまいりました。新規事業に特化した戦略子会社であるビジョナル・インキュベーション株式会社の設立等の取り組みを含め、当社グループは、継続的な新規事業創りに対する強いコミットメントを有しております。
また、当社グループは、新規事業を創出し、一定の規模に育てた上で、当該事業を高く評価するパートナー企業に持分を譲渡することを通じて、成長資金を獲得してきた実績もあります。具体的には、株式会社ビズリーチが2010年に開始したセレクト・アウトレット型EC事業『ルクサ』については、当該事業を株式会社ルクサとして分社させた後に、2015年にKDDI株式会社への株式売却を行いました。また、株式会社ビズリーチが2015年に開始した求人領域特化型検索エンジン事業『スタンバイ』については、2019年にZホールディングス株式会社と株式会社ビズリーチの合弁事業会社として事業開始した株式会社スタンバイに対して、事業の吸収分割を行いました。これらの取引より得られた資金は、グループのさらなる成長のため、新規事業開発等に再投資されております。
⑤ プラットフォーマーとしてのポジショニング
当社グループは、主力サービス『ビズリーチ』運営で培ったプラットフォーム運営ノウハウを活かし、他領域でも主要なプラットフォーマーとしての地位を確立しております。
物流業界のデジタル・トランスフォーメーションを推進する荷主・運送企業を結ぶオンラインプラットフォーム『トラボックス』、国家課題でもある事業承継をはじめとする資本の流動化を支援する事業承継M&Aプラットフォーム『BizReach SUCCEED(ビズリーチ・サクシード)』の運営を行っております。
『トラボックス』は、2020年の年間累計での荷物情報登録件数97万件となっており、荷主・運送企業を結ぶ国内最大級のプラットフォームとなっております。『BizReach SUCCEED(ビズリーチ・サクシード)』は、2021年1月時点で6,600社以上の買い手企業と460社以上のM&Aアドバイザリー事業者が参画するサービスに成長し、2020年10月からは中小企業庁との連携も行うなど、HR領域以外の領域においてもキープレイヤーとしての地位を確立しつつあります。
(5) 経営環境
人材ビジネス市場は、リーマンショック時の市場急降下から回復に向かっておりましたが、2020年初め頃より新型コロナウイルス感染症の拡大による経済活動の停滞等により、有効求人件数、有効求人倍率は減少に転じております。
しかしながら、新型コロナウイルスの影響によるリモート勤務や、企業寿命と労働寿命のミスマッチ、製造業からサービス業への基幹産業の移行、年功序列/終身雇用から成果主義/ジョブ型への働き方の変化等、社会構造の変化と技術の進化により、「働き方」や「転職への考え方」が根底から変化し、日本における「雇用の流動化」は益々加速していくと考えております。また、日本における採用市場の成長は続くとともに、米国市場と比べると、雇用の流動化による市場拡大余地が大いにあると考えております。
例えば、独立行政法人労働政策研究・研修機構が発表した労働力調査によると、2017年7月現在の勤続1年未満の雇用者の割合は、米国の22.3%に対し日本は7.9%(注1)と中途採用を選択する従業員の数は比較的少ないと考えております。また、2002年から2019年までの平均年間売上高に基づくと、日本の人材紹介市場は、米国の2.6兆円に対し、0.3兆円(注2)と小さく、雇用の流動化による市場拡大が起こると考えております。
(注)1.「データブック国際労働比較 2019」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)より
2.米国市場はAmerican Staffing Association「Annual sales of search and placement services in the United States from 2002 to 2019 (in billion U.S. dollars)」(2020年8月31日発刊)より、Statistaのサイトより2020年10月27日に取得使用しているデータは2019年におけるSearch (エグゼクティブサーチ) 及びPlacement(一般職業紹介)の市場規模の合計値を1ドル=109円(2019年末TTM)で換算。日本市場は矢野経済研究所「人材ビジネスの現状と展望2020年度版」より人材紹介業の2019年度市場規模の推計値「データブック国際労働比較 2019」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)より
(6) 事業上及び財務上の対処すべき課題
(2)記載の経営戦略を実行していくうえで、当社グループが優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題は以下のとおりです。
① 採用市場における「ダイレクトリクルーティング」の浸透
前項「経営環境」にて記載の通り、当社グループの中核をなすHR関連サービスにとって、「ダイレクトリクルーティング」の浸透が大きな成長ドライバーとなっております。そのため、当社グループは、東京・大阪・名古屋・福岡の各拠点における営業活動、TVコマーシャルなどの積極的な広告宣伝、各種メディアを活用した戦略的な広報等により、当社サービスの知名度の向上とともに「ダイレクトリクルーティング」の周知・啓蒙に努め、一定の成果をあげて参りました。これにより、「ダイレクトリクルーティング」の代表的なサービスとしての認知を得ることに成功しています。
一方で、国内すべての正社員転職件数を潜在的な市場とみなした場合、当社グループサービスを経由した転職件数が占める比率はまだ低い水準にあると考えております。当社グループサービスの認知度の高まりを、当社グループサービスを経由した転職件数の更なる増加に繋げることで、今後の収益増を実現してまいります。このために、「ダイレクトリクルーティング」の具体的な成功事例の積み上げと周知に努めるとともに、経営者・採用担当者による実践を助けるノウハウを手厚く提供してまいります。
② 収益源の多様化
当社グループは、事業規模の指標である売上については、殆どの事業において順調に成長している一方で、収益性の指標である営業利益については、ビズリーチ事業への依存度が高い状態にあります。中長期に亘って成長するグループであるために、ビズリーチ事業に続く収益の柱を確立することが重要であると考えております。
③ 優秀な人材の確保
当社グループは、今後も事業領域を広げつつ、各事業の成長を目指していく上で、多様なバックグラウンドを持つ優秀な人材を採用し続けることが不可欠であると考えております。これまでも、経営者、事業責任者、採用担当者などが自ら候補者を見つけ出してアプローチする「攻め」の採用手法と、求人メディアへの出稿や人材紹介会社の利用といった従来型の「待ち」の採用手法を組み合わせて、あらゆる選択肢の中から主体的に最善手を選びながら「ダイレクトリクルーティング」を実践する中で、従業員1,000名を超える組織を築いてまいりました。今後も、多様な採用手法を用いて優秀な人材の獲得に努め、「ダイレクトリクルーティング」のコンセプトを体現してまいります。
④ 情報管理体制の強化
当社グループが運営する事業においては、顧客情報、個人情報を多く取り扱っており、これらの情報管理については重要課題と認識しております。
個人情報保護方針及びインサイダー取引の未然防止を含む社内規程の整備並びに規程の運用の徹底、社内研修の実施を通じて、これらの情報については厳正に管理しておりますが、引き続き関連社内システムの一層のセキュリティ強化、社内研修の更なる整備等を図り、情報管理のための管理体制を拡充してまいります。
また、株式会社ビズリーチは、一般社団法人日本情報経済社会推進協会が運営するプライバシーマーク制度の認証を取得しております。
⑤ 内部管理体制の強化
当社グループは、急速に事業が成長しており、求められる機能も拡大しております。継続的に当社グループが成長を遂げていくためには、経営上のリスクを適切に把握し、当該リスクをコントロールするための内部管理体制の強化が重要な課題と考えております。このため、今後も事業運営上のリスク管理や定期的な内部監査の実施によるコンプライアンス体制の強化、監査等委員会による監査等を基軸とするコーポレート・ガバナンス機能の充実等を図ってまいります。また、当社グループの成長速度に見合った人材の確保及び育成のため、継続的な採用活動と研修活動を行ってまいります。