有価証券報告書-第9期(2022/04/01-2023/03/31)

【提出】
2023/06/29 13:25
【資料】
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【項目】
136項目

対処すべき課題

当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営の基本方針
①基本理念
当社グループは、企業として果たすべき使命、重視する価値観について、以下のとおりグループ共通の考え方を定めております。
この基本理念の下、新しいサービス・製品の差別化のために独自の先端SoCを必要とするお客様のパートナーとして、また、進化する半導体のエコシステムにおいてファウンドリ・OSATをはじめIP・EDAツール・ソフトウエアに至るまで最新の技術を提供するサプライヤーのパートナーとして、お客様、さらにはその先にいる世界中の人々に新しい価値を提供し、豊かな社会の実現に貢献していきたいと考えています。
・Mission(企業としての使命)
Together with our global partners, we bring innovation to everyone everywhere.
・Value(重視する価値観)
「Change」
非連続な変化への適応。ビジネス・技術・マインド・オペレーションなど環境の変化に合わせ我々自身も変化していく。
「Technology」
最先端技術の追求により、世界のイノベーションを支える開発競争力を持つ会社を目指す。
「Growth」
我々の成長が株主・お客様・パートナー・社員等のあらゆるステークホルダーへの貢献に繋がる。
「Speed」
ダイナミックかつ急激に変化する市場・お客様への迅速な対応。
「Sustainability」
お客様・パートナー・社会との共生により持続可能な未来を創る。
・行動指針
・各人が自身の仕事にオーナーシップを持ち、環境の変化に合わせ、お客様視点・マーケットインの視点から自立的に考え行動を起こす。
・成長市場・成長企業にアクセスし続けるために、最新の技術・知識に裏付けられた、お客様にとって価値のある課題解決に向けた提案を行う。
・各人が意欲的にあるべき姿に向かってチャレンジしプロフェッショナルを目指すことが、個人の成長・会社の成長につながる。
・個人単位・組織単位での迅速な判断と意思決定を行い、常に先を見て、お客様にとっての価値を生み出す。
・グローバル社会の構成員として、企業としての社会的責任を果たし、持続可能で豊かな社会の実現に向け貢献する。
・CSR基本方針
・法令・社会規範の遵守
私たちは法令・社会規範の遵守を徹底し、社会の信頼に応えます。
・人権の尊重
私たちは一人一人の人権を尊重し、差別などの人権侵害行為を許しません。
・社員の労働環境整備
私たちは社員の幸せを目指し、個性を尊重し、公平な処遇を実現するとともに、健康で働きやすい環境をつくります。
・環境への配慮
私たちは地球環境に配慮した企業活動を進めていきます。
・公正な商取引の推進
私たちは常に公正な商取引に則り、お客様・お取引先との信頼関係を築きます。
・情報管理の徹底
私たちは自社情報、お客様やお取引先などの第三者情報や個人情報などの管理を徹底し、機密を保持します。
・知的財産の尊重
私たちは企業価値の源である知的財産を守り、尊重します。
②経営方針
上記の基本理念実現のために、当社グループは、独自の先端SoCを必要とするお客様に向けて、最適な技術の組み合わせにより、お客様が求める機能を実現するSoCを開発・提供する事業を、ソリューションSoCという独自のビジネスモデルにより展開しています。「オートモーティブ」、「データセンター/ネットワーク」及び「スマートデバイス」といった先端成長分野に加えて、「インダストリアル」や「IoT&レーダーセンシング」の分野で、グローバルなお客様から地域的なバランスをとりながら、より多くの商談の獲得を目指します。
事業活動を通して、お客様の信頼を獲得し、世界の主要/成長企業のSoC部門となりお客様の成長を支えるとともに、当社の低消費電力技術などを活用して社会の課題解決に貢献します。また、お客様と協力した開発を通して、エンジニアの成長と会社の成長との好循環を実現し、会社の成長による企業価値の向上により株主への還元を図ります。
(2)経営環境及び対処すべき課題等
①経営環境
近年、ネットワーク、クラウド、AI等様々な革新的技術の普及と融合により、自動運転、AR/VR等今までにない新たなサービス/製品が次々と出現しています。それらのサービス/製品を取扱う企業においては、自社のサービスや製品を差別化するために独自のSoCへのニーズが増加しており、カスタムSoCの需要は拡大しています。
他方、半導体産業のエコシステムの進展により、カスタムSoC開発のコア技術であるIP、EDAツール、ソフトウエアからプロセス、アセンブリ、テストに至るまでの最先端技術をエコシステムから入手することが可能になっている反面、差別化の要求を実現するための組み合わせが広がったことで、最適な組み合わせによる独自SoCの開発が複雑化しています。
こうした事業環境を背景に、独自のカスタムSoCを開発したい顧客と進化する半導体のエコシステムとを繋ぐパートナーによるソリューションSoCビジネスモデルに対する需要が高まってきています。
2022年時点で、ソリューションSoCビジネスモデルで開発するSoCを含むカスタムSoCの市場規模は240億ドル(※2)であり、このうち自社製品にしかカスタムSoCを供給していない会社を除くと、市場規模は120億ドル(※2)で、当社グループは約10%、第2位のシェア(※1)を有しております。半導体市場全体の2021年から2025年までの年間平均成長率は2.6%(※2)であるのに対し、カスタムSoC市場は、同期間において年間平均成長率9.8%(※2)で成長していくと見込まれております。さらに、当社グループの注力分野(「オートモーティブ」、「データセンター/ネットワーク」及び「スマートデバイス」)は、2022年時点で56億ドルの市場規模(※2)で、上記期間において15.3%(※2)と更に高い年間平均成長率が見込まれております。
2021年3月期後半から続いていた世界的半導体需要の増加による半導体製造企業(ファウンドリやOSAT)の生産能力のひっ迫状況は、本書提出日時点では先端テクノロジを中心に緩和されていると認識しています。
※1 Omdiaの“Competitive Landscaping Tool CLT, Annual-4Q 2022”及び当社内部データをもとに当社が推計したものです。当社は当該データにおけるLogic ASICをカスタムSoCと定義して推計を行っており、実際の当社の対象市場とは異なります。また、一定の前提及び外部資料にもとづき推計しているため、実際の市場規模と異なる可能性があります。なお、自社製品にしかカスタムSoCを供給していないApple社は除いており、また、台湾の従来型ASICベンダーは、当該データに含まれておりません。
2 Omdiaの“Application Market Forecast Tool-1Q 2023”をもとに当社が推計したものです。なお、当該データの“Data Center Servers”、“Solid State Drives”、“Enterprise Ethernet Switches & Routers”、“Carrier Ethernet Switches & Routers”、“Optical Equipment”、“Broadcast & Streaming Video”、“Data Center Network Switches”、“Mobile Comm Infrastructure”、“Other Consumer Electronics”、“Connectivity & Telematics”、“Infotainment & Cluster”、“ADAS”、“Chassis & Safety”and “Security & Video Surveillance”を当社の注力分野として推計しております。
②優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
カスタムSoCは、商談を獲得してから量産を開始・終了するまでの期間が長いという特徴があります。このため、当社では各年度に新規に獲得した商談の需要見通しの総和である「商談獲得金額」と、商談獲得金額について、そこから売上実績や案件の中止、販売数量の見通しの変動等を反映した「商談獲得残高」を重要な経営指標としております。
これらの経営指標に基づき、当社は現時点において、すでに2025年3月期までの売上の推移をある程度見通しております。そこで、その先の2026年3月期以降に目を向け、当期と同レベルの年間2,500億円(1ドル=100円で換算)程度の商談獲得金額を継続して達成していくことが、当社グループの持続的成長のために必要であると認識しております(「商談獲得金額」及び「商談獲得残高」については、下記「(3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」をご参照ください。)。
これを実現するため、企業文化の変革、開発競争力の向上、SCM体制の強化を経営の重要課題と位置づけ、取り組みを進めてまいります。
まず、グローバル企業として大型商談につながる海外顧客のニーズを理解し、顧客の求める製品やサービスを高い競争力で提供できる開発体制を整備してまいります。
次に、開発競争力の向上では、標準開発プロセスの確立やメソドロジー、ツールなど設計環境への先行開発投資等を積極的に実行してまいります。また、IPベンダーやツールベンダー、ファウンドリ、OSATなどの半導体エコシステムを構成するグローバルなパートナーとの関係をより強化するとともに、国際標準化機関への活動にも引き続き参画してまいります。
さらに、SCM体制の強化では、製造委託先の生産能力がひっ迫した状況となった場合でもタイムリーに対応できるよう、生産・調達・供給の各機能におけるビジネスプロセスを改善し、グループ全体での最適なSCM体制の構築を引き続き推進してまいります。
また、これらの活動に加えて、環境や人的資本などのサステナビリティに関する課題の解決にも積極的に取り組んでまいります。
当社グループは、営業から開発、生産・調達、コーポレートまでが一体となって、グローバル企業としてソリューションSoCという独自のビジネスモデルで新しい価値を創造し、社会に貢献してまいります。
(3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
カスタムSoCは、一般的に商談獲得から設計開発及び顧客による評価期間を経て製品を出荷し売上計上するまで2年以上を要するため、当社グループは、より早い段階から将来売上見通しを見える化し、必要な対策をタイムリーに実行していくために、将来の売上見通しのベースとなる「商談獲得金額」、「商談獲得残高」を会社の重要経営指標としております。日々の商談獲得活動によるこれら指標の積上げ、見直しによる、中期的な売上高成長率の向上、並びに製品売上拡大による売上総利益の増加及び開発効率化等を通じた営業利益率の改善を目指しております。
当社グループの商談獲得金額は2018年3月期及び2019年3月期は1,000億円の水準でしたが、2023年3月期においては2,500億円の水準に増加しており、特に高成長が期待される注力分野において大型の商談を多数獲得しております。その結果、商談獲得残高は2022年6月末時点の約8,800億円から2023年3月末時点で約1兆円と増加しております。
当社グループは、商談獲得後、SoCの設計開発を行いますが、一般的に顧客から設計開発に要する費用の大半をNRE売上として段階的に受領します。その後、顧客の評価を経て製品の量産段階に入り、製品売上を計上します。2023年3月期において、当社グループの連結売上高に占めるNRE売上高の比率は18%でした。商談獲得から設計開発及び顧客の評価完了を経て製品売上が計上されるまでには、一般的に2年以上を要し、その間に案件の中止や仕様変更等に基づく製品単価の変化が発生しうるため、商品獲得金額が将来の売上を確実に保証するわけではありません。
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「商談獲得金額」は、ある会計期間に獲得された商談について、顧客との間で設計開発に係る契約を締結した時点(商談獲得時点)における、将来の設計開発及び量産に至る販売全期間における顧客需要として当社が予測した金額を、1ドル100円により示したものです。商談獲得金額は、顧客需要の予測であるため、製造キャパシティの制約は考慮しておらず、また、商談獲得後の案件の中止、実際に計上された売上といった事後的な事象に基づき更新することはしていません。なお、商談獲得時において、製品単価は合意されます(但し、設計開発を経て製品の仕様が変更される場合には製品単価も変更されることがあります。)が、販売数量は合意されません。
当社グループは、商談獲得後、SoCの設計開発を行いますが、顧客から設計開発に要する費用の大半をNRE売上として段階的に受領します。その後、顧客の評価を経て製品の量産段階に入り、製品売上を計上します。商談獲得から製品売上の計上までに通常2年以上の期間が掛かり、製品の量産化、さらには量産を終了するまでには相当の期間にわたるビジネスとなります。このため、単価や数量の変動等個々の商談の状況変化を適時反映した「商談獲得残高」も重要な経営指標としております。
「商談獲得残高」は、その時点において存続している案件に関する商談獲得金額の累積値を当社が予測した金額で、同じく1ドル100円で計算しています。商談獲得残高は、商談獲得金額についての、商談を獲得した時点以降の案件の進捗又は変化を反映又は更新したものであるため、商談獲得残高の算定時点により大きく変動する可能性があります。これらの進捗又は変化には、①商談獲得後の案件の中止(2021年3月期及び2022年3月期における商談獲得金額のそれぞれ15%超及び20%超に相当する商談が事後的に中止となっており、現時点(本書提出日時点)以降も商談が中止となる可能性があります。また、2023年3月期に獲得した商談については、事後的に中止となっているものは現時点では存在しません。)、②実際に計上された売上の控除及び③仕様変更等に基づく製品単価の変化や製品の販売数量の見込みの変化が含まれます。現時点において、ビジネスモデルの変革以降2023年3月期までの商談獲得金額に対する商談獲得後の案件中止による影響は、その他の商談の商談獲得後の単価、数量増等により相殺されています。なお、2023年3月期には中国の一部顧客において短期的に当初の想定以上の特需が発生しており、また、当該特需の一部に係る売上は2024年3月期上期にも生じると予想しておりますが、当該特需に係る商談獲得金額は商談獲得残高には反映しておりません。
上記のほか、「商談獲得金額」及び「商談獲得残高」の留意事項については、下記「3 事業等のリスク (4)当社グループの経営指標について」もご参照ください。