有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2022/09/06 15:00
【資料】
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【項目】
141項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において、当社グループが判断したものであります。
(1)経営の基本方針
①経営理念
当社グループは、企業として果たすべき使命、重視する価値観について、以下のとおりグループ共通の考え方を定めております。
この基本理念の下、新しいサービス・製品の差別化のために独自の先端SoCを開発しようとするお客様のパートナーとして、また、進化する半導体のエコシステムにおいてファウンドリ・OSATをはじめIP・EDAツール・ソフトウエアに至るまで最新の技術を提供するサプライヤーのパートナーとして、お客様、更にはその先にいる世界中の人々に新しい価値を提供し、豊かな社会の実現に貢献していきたいと考えています。
<当社グループのMission、Value>・Mission(企業としての使命)
Together with our global partners, we bring innovation to everyone everywhere.
・Value(重視する価値観)
「Change」
非連続な変化への適応。ビジネス・技術・マインド・オペレーションなど環境の変化に合わせ我々自身も変化していく。
「Technology」
最先端技術の追求により、世界のイノベーションを支える開発競争力を持つ会社を目指す。
「Growth」
我々の成長が株主・顧客・パートナー・社員等のあらゆるステークホルダーへの貢献に繋がる。
「Speed」
ダイナミックかつ急激に変化する市場・顧客への迅速な対応。
「Sustainability」
顧客・パートナー・社会との共生により持続可能な未来を創る。
② 経営方針
上記の経営理念実現のために、当社グループは、独自の先端SoCを開発しようとするお客様に向けて、最適な技術の組み合わせによりお客様が求める機能を実現するソリューションSoC事業を、独自のビジネスモデルにより展開しています。「オートモーティブ」、「ネットワーク/データセンター」及び「スマートデバイス」といった先端成長分野に加えて、「インダストリアル」や「IoT&レーダーセンシング」の分野で、グローバルな顧客から地域的なバランスをとりながら、より多くの商談の獲得を目指します。
事業活動を通して、お客様の信頼を得、世界の主要/成長企業のSoC部門となりお客様の成長を支えるとともに、当社の低消費電力技術等を活用して社会の課題解決に貢献し、また、お客様と協力した開発を通して、エンジニアの成長と会社の成長との好循環を実現し、会社の成長により企業価値の向上による株主への還元を図ります。
(2)経営環境及び対処すべき課題等
① 経営環境
近年、5Gネットワーク、クラウド、AI等様々な革新的技術の普及と融合により、自動運転、AR/VR等今までにない新たなサービス/製品が次々と出現しています。それらのサービス/製品を取扱う企業においては、自社のサービスや製品を差別化するために独自のSoCへのニーズが増加しており、カスタムSoCの需要は拡大しています。
他方、半導体産業のエコシステムの進展により、カスタムSoC開発のコア技術であるIP、EDAツール、ソフトウエアからプロセス、アセンブリ、テストに至るまでの最先端技術をエコシステムから入手することが可能になっている反面、差別化の要求を実現するための組み合わせが広がったことで、最適な組み合わせによる独自SoCの開発が複雑化しています。
こうした事業環境を背景に、独自のカスタムSoCを開発したい顧客と進化する半導体のエコシステムとを繋ぐパートナーによるソリューションSoCに対する需要が高まってきています。
2021年時点で、ソリューションSoCを含むカスタムSoCの市場規模は170億ドル(※1)であり、このうち自社製品にしかカスタムSoCを供給していない会社を除くと、市場規模は100億ドル(※1)で、当社グループは約8%、第2位のシェア(※1)を有しております。半導体市場全体の2021年から2025年までの年間平均成長率は6.2%(※2)であるのに対し、カスタムSoC市場は、同期間において年間平均成長率8.0%(※2)で成長していくと見込まれております。さらに、当社グループの注力分野(「オートモーティブ」、「ネットワーク/データセンター」及び「スマートデバイス」)は、2021年時点で44億ドルの市場規模(※1)で、上記期間において13.7%(※2)と更に高い年間平均成長率が見込まれております。
また、2020年からの新型コロナウイルス感染症拡大の影響とその反動等により、2020年度下期から幅広い分野で半導体需要が急速に増加しました。これにより、実際に半導体チップを生産するファウンドリやOSATの生産能力に余力がなくなり、世界的な半導体の供給不足が生じており、現在もその状況は続いています。
※1 Omdiaの“Competitive Landscaping Tool CLT, Annual-1Q 2022”及び当社内部データをもとに当社が推計したものです。当社は当該データにおけるLogic ASICをカスタムSoCと定義して推計を行っており、実際の当社の対象市場とは異なります。また、一定の前提及び外部資料にもとづき推計しているため、実際の市場規模と異なる可能性があります。なお、自社製品にしかカスタムSoCを供給していないApple社は除いており、また、台湾の従来型ASICベンダーは、当該データに含まれておりません。
2 Omdiaの“Application Market Forecast Tool-2Q 2022”をもとに当社が推計したものです。なお、当該データの“Data Center Servers”、“Solid State Drives”、“Enterprise Ethernet Switches & Routers”、“Carrier Ethernet Switches & Routers”、“Optical Equipment”、“Broadcast & Streaming Video”、“Data Center Network”、“Mobile Comm Infrastructure”、“Other Consumer Electronics”、“Connectivity & Telematics”、“Infotainment & Cluster”、“ADAS” and “Chassis & Safety”を当社の注力分野として推計しております。
② 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
2020年度下期からの半導体需要の急増により、前工程の委託先であるファウンドリや後工程の委託先であるOSATのフル稼働が継続しており、顧客の需要に対して十分な供給が確保できない事象が発生しております。当社グループが発注する先端の半導体については徐々に供給量が増加しておりますが、当社グループでは、顧客及び製造委託先と密に連携をとり、実需と供給状況を常時把握し、顧客の生産継続を最優先に対応を進めております。
当社グループでは、将来における持続的な成長を目指すべく、グローバル開発競争力強化のための開発体制の見直しや包括的な原価改善活動等、グローバル企業として更なる競争力や収益力強化のための活動を継続しています。また、その土台として、開発におけるプロジェクトマネジメント制度やエンジニア制度等の整備、グローバルでの開発人材強化等を並行して進めております。特に開発面では、グローバル商談で要求される3nm以下の先端プロセステクノロジやチップレット技術を使用したSoCの設計手法の確立や、車載品等に要求される信頼性・品質規格への対応等、将来のグローバル大型商談拡大に繋がる先行開発投資を推進するとともに、当社が注力する先端成長分野においては、そのアーキテクチャが共通化しつつあることからプラットフォーム化を進める等、カスタムSoCが複雑化し研究開発費用が増加していく中において、開発効率化に繋がる施策を積極的に進めています。
(3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
ソリューションSoC事業は、一般的に商談獲得から設計開発及び顧客による評価期間を経て製品を出荷し売上計上するまで2年以上を要するため、当社グループは、より早い段階から将来売上見通しを見える化し、必要な対策をタイムリーに実行していくために、将来の売上見通しのベースとなる「商談獲得金額」、「商談獲得残高」を会社の重要経営指標としております。日々の商談獲得活動によるこれら指標の積上げ、見直しによる、中期的な売上高成長率の向上、並びに製品売上拡大による売上総利益の増加及び開発効率化等を通じた営業利益率の改善を目指しております。
当社グループの商談獲得金額は2018年3月期及び2019年3月期は1,000億円の水準でしたが、2020年3月期から2022年3月期においては2,000億円の水準に増加しており、特に高成長が期待される注力分野において大型の商談を多数獲得しております。その結果、2022年6月30日時点の商談獲得残高は約8,800億円となっております。
当社グループは、商談獲得後、SoCの設計開発を行いますが、一般的に顧客から設計開発に要する費用の大半をNRE売上として段階的に受領します。その後、顧客の評価を経て製品の量産段階に入り、製品売上を計上します。2022年3月期において、当社グループの連結売上高に占めるNRE売上高の比率は24.0%でした。商談獲得から設計開発及び顧客の評価完了を経て製品売上が計上されるまでには、一般的に2年以上を要し、その間に案件の中止や仕様変更等に基づく製品単価の変化が発生しうるため、商品獲得金額が将来の売上を確実に保証するわけではありません。
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「商談獲得金額」は、ある会計期間に獲得された商談について、顧客との間で設計開発に係る契約を締結した時点(商談獲得時点)における、将来の設計開発及び量産に至る販売全期間における顧客需要を当社が予測した金額を、1ドル100円により示したものです。商談獲得金額は、顧客需要の予測であるため、製造キャパシティの制約は考慮しておらず、また、商談獲得後の案件の中止、実際に計上された売上といった事後的な事象に基づき更新することはしていません。なお、商談獲得時において、製品単価は合意されます(但し、設計開発を経て製品の仕様が変更される場合には製品単価も変更されることがあります。)が、販売数量は合意されません。
当社グループは、商談獲得後、SoCの設計開発を行いますが、顧客から設計開発に要する費用の大半をNRE売上として段階的に受領します。その後、顧客の評価を経て製品の量産段階に入り、製品売上を計上します。商談獲得から製品売上の計上までに通常2年以上の期間が掛かり、製品の量産化、更には量産を終了するまでには相当の期間にわたるビジネスとなります。このため、単価や数量の変動等個々の商談の状況変化を適時反映した「商談獲得残高」も重要な経営指標としております。
「商談獲得残高」は、その時点において存続している案件に関する商談獲得金額の累積値を当社が予測した金額で、同じく1ドル100円で計算しています。商談獲得残高は、商談獲得金額についての、商談を獲得した時点以降の案件の進捗又は変化を反映又は更新したものであるため、商談獲得残高の算定時点により大きく変動する可能性があります。これらの進捗又は変化には、①商談獲得後の案件の中止(2021年3月期及び2022年3月期における商談獲得金額のそれぞれ10%超及び20%超に相当する商談が事後的に中止となっております。)、②実際に計上された売上の控除及び③仕様変更等に基づく製品単価の変化や製品の販売数量の見込みの変化が含まれます。現時点(本書提出日現在)において、ビジネスモデルの変革以降2021年3月期までの商談獲得金額については、商談獲得後の案件中止による影響は、その他の商談の商談獲得後の単価、数量増等により相殺されています。
上記のほか、「商談獲得金額」及び「商談獲得残高」の留意事項については、下記「2 事業等のリスク (4)当社グループの経営指標について」もご参照ください。