有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2022/09/06 15:00
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事業内容

当社グループは、ロジック半導体市場の中で、「ソリューションSoC」という新しくかつ独自のビジネスモデルのもとで顧客にカスタムSoCを開発・提供しているファブレスの半導体ベンダーです。SoCは、System on chipの略語で、装置やシステムの動作に必要な機能を1つのチップ(半導体)に実装したものです。当社グループは、このSoCのうち、特定の顧客固有に設計されるカスタムSoCを中心に事業を行っています。新しいサービス・製品の差別化のために独自の先端SoCを開発しようとする顧客のパートナーとして、また、IP(※1)、EDA(※2)ツール、ソフトウエアからプロセス、アセンブリ、テストに至るまでの最新の技術を提供するサプライヤーと協働して、顧客更にはその先にいる世界中の人々に新しい価値を提供し、豊かな社会を実現することを目指しています。
当社グループは、従来、顧客から受領したSoCの仕様に基づき物理設計のみを担う従来型のASIC(※3)や、分野・アプリケーションを限定して機能・目的を特化させた汎用的なASSP(※4)を中心に事業を展開しておりましたが、2019年3月期以降、従来型のASIC及びASSPに加え、自社製品における差別化を求める顧客に対して、顧客とともに仕様の策定や論理設計を行い、先端テクノロジを組み合わせて顧客にとって最適なSoCを提供するビジネスモデルへのシフトを進め、この「ソリューションSoC」を中心に事業を展開しております。
カスタムSoCには主として3つのビジネスモデルが存在します。まず従来型ASICでは、アーキテクチャ設計、企画・仕様設計及び論理設計等SoC設計における上流設計を顧客自身が行い、それ以降の工程を外部のカスタムSoCベンダーが担当します。そのため、従来型ASICは上流設計を自ら行う能力を有する顧客に利用が限定されます。他方、当社グループのソリューションSoCでは、当社グループが顧客とともにこれらの上流設計を行うため、上流設計を行う能力を保有していない顧客にも製品を提供することができます。また、ASSPをベースにカスタマイズされたASICを提供するモデルでは、ベンダー自身のASSPをベースとしてカスタマイズするため、カスタマイズの幅が限定されるとともに、顧客からはベンダーロックイン(※5)への警戒感が生じることとなります。これに対し、ソリューションSoCでは、外部ベンダーが提供する最先端の技術も活用し、顧客に最適なSoCを提供しつつ、ベンダーロックインを回避することができます。
0201010_001.png近年、半導体製造技術の進展やこれを使った5Gネットワーク、クラウド、AI等様々な革新的技術の普及と融合により、自動運転、AR/VR等今までにない新たなサービスや製品が次々と出現しています。それらのサービス/製品を開発する企業は、自社のサービス/製品の差別化のために先端テクノロジを活用した高性能かつ拡張性の高い独自のSoCを必要としています。
一方で、半導体産業においては、プロセス技術(※6)、パッケージ技術(※7)、テスト技術のほか、IP、EDAツール、ソフトウエアまでも含めてそれぞれを専業にする企業が出現し、常に最先端のイノベーティブな技術が生み出され、誰もがその最先端の技術を市場から入手することが可能なエコシステムへと進化を遂げています。その一方で、それらの様々な技術を選択し、組み合わせて顧客にとって最適なSoCを設計開発する難易度は上昇しています。
そのため、独自のSoCを必要とする多くの企業は、SoCのアーキテクチャに対する知識はもとより、SoCが搭載される最終製品やサービスに関する理解が深く、差別化のために、先端のハードウエアからソフトウエアに至るまでの技術を組み合わせて最適なソリューションを提案できるパートナーを求めています。
こうした市場の変化の中、当社グループは、ソフトウエアまでも含めた設計開発能力を有し、適切な選択で顧客と共同して技術的課題を解決できるエンジニアリソース群を抱えていることに加えて、量産・品質保証・SCMまでトータルにサポートできる総合力を有しているといった強みを持っております。これにより、従来型のASIC、ASSP及びASSPをベースにカスタマイズされたASICでは満足できない顧客に対して、顧客とともにSoCの仕様を決めていく共同開発プロセスを通じて、顧客にとってより最適なカスタムSoCを提供することができるビジネスモデルとして「ソリューションSoC」を確立しました。また、こうした新たな最先端の市場で経験を積み重ね、ノウハウを蓄積すると同時に、競争力をさらに強化するため、差別化のための先端技術や種々の技術の組み合わせとその実証にも積極的に投資するとともに、事業部ごとの壁を取り除き、開発機能ごとに集約し、その中から各プロジェクトに必要なリソースを割り当てていくフラットな研究開発体制へと移行しました。これらの結果、7nm以下の先端プロセスノード(半導体の製造技術(半導体プロセス)の世代を表す指標。1nmは100万分の1mmであり、nm数が小さくなるほど先端のテクノロジを表す。)を活用する案件がNRE売上(※8)に占める割合は、2018年3月期の1%から2022年3月期には43%へと拡大しました。
また、ビジネスモデルのシフトに加え、注力する事業領域に関しても、それまでのテレビ等のコンシューマ向け中心の分野から、「オートモーティブ」「ネットワーク/データセンター」「スマートデバイス」といった先端成長分野へと大幅な転換を果たしました。その結果、これらの先端分野がNRE売上に占める割合は、2018年3月期の50%から2022年3月期には86%へと拡大しました。
現在、当社グループは、「オートモーティブ」におけるAD(自動運転)/ADAS(先進運転支援システム)や車載センシング、「ネットワーク/データセンター」における5G携帯基地局やAIアクセラレータ、「スマートデバイス」におけるAR/VR等の先端成長分野で商談を獲得し、開発実績を積み上げ、一部の製品においては既に量産化を開始しています。また、当社グループは、これらの3分野に加え、現在安定的な収益を計上しているFA(Factory Automation)、テスター等の「インダストリアル」分野や、特異な技術で今後の成長が期待できる電波式測距センサー等の「IoT&レーダーセンシング」分野でも事業を展開しています。
半導体製品が顧客に採用され量産に至るまでには一般的に長期間掛かります。特にソリューションSoCについては、その複雑さやカスタム製品であるがゆえに、商談獲得後の設計開発及び顧客の評価完了までに通常2年以上の期間が掛かり、製品を量産化し、更には量産を終了するまでには相当の期間を要するビジネスであります。このため、顧客の基幹部品を長期間にわたって開発、供給する責任を有する企業として、強固な財務基盤(2022年3月期末における自己資本比率75.7%、現預金462億円)のもと事業を行っております。
当社グループは、設計開発段階において、顧客から設計開発に要する費用の大半をNRE売上として段階的に受領し、量産段階において、当社グループの売上全体の大半を占める製品売上を受領しております。また、当社グループは、水平分業が進む半導体業界のメリットを最大限活かすべく、工場を持たないファブレスの事業形態を採っております。製品の製造についてはTAIWAN SEMICONDUCTOR MANUFACTURING COMPANY LIMITED(以下「TSMC」という。)を始めとするファウンドリやOSAT(※9)等の専業メーカに委託しております。
顧客の最先端の製品やサービスには、常に新たなSoCが求められ、そのような先端SoCを求める顧客や市場も変化し続けます。当社グループもこの変化をいち早く捉えるべく、先行開発投資や開発力の強化を進め、今後も常に持続的な成長を目指します。
※1 IPとは、Intellectual Propertyの略語であり、半導体を構成するための部分的な機能単位でまとめられている回路情報です。外部から購入する調達IPと自社で開発を行う自社IPとに分けられます。
2 EDAとは、Electronic Design Automationの略語であり、半導体の設計作業を自動化して行うソフトウエアやツールです。
3 ASICとは、Application Specific Integrated Circuitの略語であり、特定の顧客向けに複数機能の回路を1つにまとめた集積回路の総称です。
4 ASSPとは、Application Specific Standard Productの略語であり、分野/アプリケーションを限定して、機能/目的を特化させた大規模集積回路のことです。ASSPは、特定の顧客用にカスタマイズされておらず、顧客を限定しないため、複数の顧客に提供する汎用部品です。
5 ベンダーロックインとは、特定ベンダーが提供する製品やサービスを一旦採用してしまうと、将来他のベンダーが提供するよりよい製品やサービスへの乗り換えが困難となり、顧客側の選択肢が限定されることをいいます。
6 プロセス技術とは、半導体の製造工程のうち前工程と呼ばれるシリコンウエハに回路を形成するまでの工程における技術のことです。
7 パッケージ技術とは、半導体の製造工程のうち後工程と呼ばれる半導体チップを外部から守るパーツで保護し、かつ電気的に接続するための工程における技術のことです。
8 NRE売上とは、Non-Recurring Engineering 売上の略語であり、製品の量産化前の開発段階において顧客から受け取る売上のことを指します。NRE売上は、人件費、IP、設計ツール、レチクル(半導体製造の露光工程で使用され、設計した回路をシリコンウエハに転写するためのフォトマスク)、試作品製造等といった、開発段階で発生する設計開発コストに対応し、通常、開発のマイルストーン進捗に応じて複数回にわたって計上されます。
9 OSATとは、半導体製造の後工程における請負製造サービス(Out-sourced Semiconductor Assembly and Test)の略語です。
事業の系統図は以下のとおりです。
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