有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2022/11/17 15:00
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【項目】
129項目

対処すべき課題

以下の文中における将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものです。
(1) 経営方針
当社は「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする。」をミッションに掲げ、クリエイターがテキストやマンガ、写真、音声等のコンテンツを自由に投稿・販売することができ、ユーザーはそのコンテンツを楽しんで応援・購読できるメディアプラットフォーム「note」を中心とした事業を展開し、あらゆる分野のクリエイターの、いちばん基本的な活動の場所となることを目指しております。
インターネットの発展により、だれでも創作できる時代がやってきました。
かつては限られた人だけが、メディアを通じて創作物を発表することができました。インターネットの登場以降は、だれでも自由に表現する場所を得て、発信することができるようになっています。
しかし、創作を続けていくことは、まだまだハードルが高いのも事実です。膨大な情報の海のなかで、伝えたい相手に伝えたいことをきちんと届けるのは難しいことですし、自分の作品を大勢の人に知ってもらうのはもっと大変です。
そして、継続していくためには創作活動を一定の収益につなげることも重要ですが、既存のメディア産業がもたらしてくれたような、わかりやすいビジネスモデルはネット上にはまだありません。
当社はそれらの問題を解決するための会社です。「note」というウェブサービスを通じ、あらゆる人、あらゆる組織の、クリエイティブ活動を続けていくための手助けをして、だれもが自分らしく暮らしていける創作の街をつくっていきます。
(2) 経営環境
当社を取り巻く経営環境については、スマートフォンアプリ等を通じての個人間取引やサブスクリプション型ビジネス、インターネット上でサービスを提供するSaaSのトレンドが引き続き拡大しているなか、特に新型コロナウイルス感染症の流行拡大以降に見られる社会的な変化が後押しとなり、あらゆる人がオンラインでコンテンツや商品を発表・販売する動きが広まり、クリエイターエコノミーが拡大している状況であると認識しています。
こうした環境において、当社はメディアプラットフォーム事業として、あらゆる人がインターネット上で文章等のコンテンツを投稿・販売できるプラットフォーム「note」と、企業の情報発信をDX(デジタルトランスフォーメーション)する「note pro」を提供しており、個人・法人問わず創作活動・情報発信の場として、需要は引き続き拡大しているものと考えております。
当社の「note」が対象とする市場は、文章やマンガ、写真、音声、動画等のコンテンツに関する市場です。総務省情報通信政策研究所「メディア・ソフトの制作及び流通の実態に関する調査(2022年6月)」によれば、オンライン化されたコンテンツについては、2020年のテキストコンテンツの市場規模は1.5兆円、音声や映像も含めると4.8兆円とされており、2016年~2020年の年間平均成長率(CAGR: Compound Annual Growth Rate)は9.8%と堅調に成長しています。また、オンライン化されていないコンテンツも含めたデジタルコンテンツとしては、2020年の市場規模は8.5兆円、2016年~2020年の年間平均成長率(CAGR: Compound Annual Growth Rate)は2.8%となっており、オンライン化されたコンテンツに牽引されながら、成長を続けています。
当社は「note」のTAM、SAM及びSOMを次のように推計しており、今後コンテンツのオンライン化・デジタル化が浸透していくことに伴い、デジタルコンテンツ市場はさらに拡大していくものと考えております。

※1 出典:総務省情報通信政策研究所「メディア・ソフトの制作及び流通の実態に関する調査(2022年6月)」 市場規模は2020年のもの。
※2 出典:経済産業省商務情報政策局コンテンツ産業課「コンテンツの世界市場・日本市場の概観」 市場規模は2018年のもの。
※3 SOM:現在アプローチしている市場規模、SAM:獲得を目指す市場規模、TAM:獲得しうる最大の市場規模
※4 2021年度の数値。
当社の「note pro」が対象とする市場は、Webサイト構築に関する市場です。「note pro」は独立したWebサイトをノーコードで開発できる特徴から、「note」のプラットフォームを基盤に企業の情報発信をDX(デジタルトランスフォーメーション)することにより、国内法人向けWebサイト構築市場の獲得を目指します。そして、さらに機能強化を進めることにより、あらゆる企業のインターネットにおけるビジネス活動の拠点となるべく、すべての国内法人をターゲットとする市場にアプローチしていくため、「note pro」のTAM及びSAMを次のように推計しております。

※1 Total number of Websites - Internet Live Stats; 国内は、世界のウェブサイトの数にWordpressの日本語のサイトシェア5.6%を乗じて推計したもの(https://wordpress.org/about/stats/)。数値は2021年4月1日に抽出。
※2 中小企業358万社(中小企業庁「2020年版中小企業白書」)と、フリーランス462万人(内閣官房「フリーランス実態調査」(2020年))を合算した数値。
※3 note proのARR=¥50,000/月 x 12ヶ月=¥600,000として計算。
※4 Webサイト構築サイトの市場シェアデータ"Historical yearly trends in the usage statistics of content management systems” (https://w3techs.com/technologies/history_overview/content_management/all/y)を参照し、None及び商品性が異なるWordpressとECサイト構築のShopifyを除外した上位サービス(Joomla、Squarespace、Wix、Drupal)のシェア合計から、7%を獲得可能と設定。
(3) 経営戦略
当社の「note」は、CtoC(個人から個人へ)の情報発信メディアであり、かつ有料記事による課金ができる「CtoC × 課金」のモデルで、電子書籍・電子新聞やWebメディア、ブログ等の他のメディアと比べてもユニークなポジションを形成しています。加えて、クリエイティブ・デザイン・テクノロジーの3つが一体となった当社の強みを活かしたプロダクト開発力を活かし、クリエイターや読者からの要望やフィードバックを適時に吸い上げ、速やかに機能改善・拡充等に反映することでつくり上げてきたUI/UXが評価されており、クリエイターの裾野は拡大してきています。
また、株式会社日本経済新聞社、株式会社文藝春秋などのメディアや、EコマースのBASE株式会社等さまざまな企業との提携によって、「note」に投稿された作品がマルチチャネルでさらに拡がり、クリエイターサクセスが促進されることで、オンライン・オフラインを問わずクリエイターの創作活動を後押し、既存メディアにとっては新しいクリエイターを発見する場となっております。
「note」はこうした取り組みにより、クリエイターにとって創作活動がしやすく、また創作活動の継続に必要な経済的対価を還元できる仕組みを構築することで、クリエイターが増え、コンテンツが増えると読者が集まり、コンテンツが売れてさらにクリエイターが集まるという、クリエイター・読者・コンテンツの相互作用によるネットワーク効果がはたらき自律的に拡大するグロースモデルによって、競争優位性を獲得してきました。今後も以下のグロースモデルに沿って、クリエイターの創作活動を支援し、最適なコンテンツを最適な読者に届けることで、プラットフォームとしての魅力を高め、競争優位性を高めていきます。

このグロースモデルに沿った成長の結果、各年度の販売管理費に占める広告宣伝費は1%未満となっております。これは、多くの読者をnoteに惹きつける無料記事が広告宣伝のような役割を果たしており、サービス運営上重要な位置付けとなっていることによるものと考えております。なお、売上原価と販管費の内訳の推移は以下となります。

また、読者の課金状況については、2021年11月期の購入総額について月額課金額別でみた構成比率をみると、以下のように少額課金から高額課金までバランスが取れた内訳となっています。今後、レコメンド機能のさらなる向上により、課金額の引き上げを図ってまいります。

(注) 「購入総額 月額課金額別構成比率」は、購入総額を月額課金額ベースで集計した比率。
「note pro」については、独自ドメインを持つオリジナルWebサイトを、HTML等に関する知識がない人でもノーコードで開発でき、さらに「note」からの集客ができるという独自性を持つメディアSaaSとして、人材採用・ブランディング・プロモーション等幅広い場面で活用されてきました。
今後はまずはマーケティングやCtoCの「note」からの集客機能を強化していくことにより利用企業数を増やし、その後さらに機能拡充を進めることにより、「note pro」でつくられた企業のWebサイトが、ビジネスを行うための機能と集客力を備えた、インターネットにおけるビジネスの本拠地となることを目指しており、以下のようなターゲットの拡大を想定しております。

(注) 1.総務省・経済産業省「2021年情報通信業基本調査(2020年度実績)」の情報通信企業のうち、電気通信業/ソフトウェア業/情報処理・提供サービス業を除いた企業数の合算。
2.中小企業358万社(中小企業庁「2020年版中小企業白書」)と、フリーランス462万人(内閣官房「フリーランス実態調査」(2020年))を合算した数値。
3.Total number of Websaite-internet Live Status;世界のウェブサイトの数にWordpressの日本語のサイトシェア5.6%を乗じて推計したもの(https://wordpress.org/about/stats/)。数値は2021年4月1日に抽出。
当社は「note」というプラットフォームをインターネット上の「街」と捉えており、個人・法人に関わらずあらゆる人が集まり、インターネットにおける創作・ビジネスをはじめとしたあらゆる活動の本拠地となることを目指します。その中において、機能強化により「note」の価値が高まれば高まるほど「note pro」がもつ集客力の価値も高まり、企業向けにおいてもネットワーク効果が働くと考えています。したがって、まずはCtoC「note」のプラットフォームをさらに拡大することで「note」の「街」にさらに多くのクリエイターや読者を呼び込み、その上でBtoBの「note pro」において決済機能、業務発注・受注機能、CRM機能(注1)、人材採用機能等の機能拡充や各種サービス連携の強化をおこなっていくことで顧客ターゲットを拡大し、「note」と「note pro」によるハイブリッドなグロース戦略によるさらなる成長を目指します。
そのため当社は、強みであるクリエイティブ・デザイン・テクノロジーの3つを循環させ、ミッションを果たすべく、2022年度を初年度とする3ヵ年の中期経営計画をスタートしております。
今後1~2年の具体的な成長戦略としては、「note」は、新サブスク機能「メンバーシップ」によるユーザー層の拡大やさらなる会員登録数の拡大により、購読者数の増加に取り組むほか、エディタ(注2)開発や各種カイゼンによる良質なコンテンツの創作支援や、コンテンツのレコメンド機能強化やアプリの機能強化によるユーザーエンゲージメントの向上等により、ARPPUの向上を図っていきます。特に、新サブスク「メンバーシップ」の導入により、より幅広いクリエイターがサブスクを運営しやすくなるため、ユーザー層の拡大につなげるべくサービスの認知・活用拡大に取り組む予定です。また、「note」の投稿コンテンツはWebブラウザ版とアプリ版のどちらでも閲覧可能ですが、アプリのみ利用数は16.8%(WebブラウザのみもしくはWebブラウザとアプリ併用者は83.2%)(注3)と少ないため、アプリ開発にも取り組む予定です。検索やSNSからの流入も多く非ログインユーザーによる利用が中心のWebブラウザ版に対し、アプリ版ではログインユーザーによる利用が中心で、ログインユーザー一人当たりのPV数はWebブラウザ版の約2.5倍(注3)と高いため、アプリ版の機能をさらに強化することで、会員登録者数・閲覧記事数の増加を図ります。
「note pro」は、機能拡充やそれに伴うサービスラインナップの拡充、認知拡大のためのセールス&マーケティング強化や、カスタマーサクセスによる活用サポート等を進め、契約数の増加・平均単価の長期的な引き上げを図る予定です。
(注) 1.顧客の情報を収集・分析して、最適で効率的なアプローチを行い、自社の商品やサービスの競争力を高めることを指しております。
2.「note」上で記事を投稿・編集する際に使用する編集画面のことを指しております。
3.2021年12月から2022年9月までの平均値を記載しております。
(4) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社では、財務指標のうち成長投資の源泉となる売上総利益を最重視し、最大化を目指しています。
事業上の重要指標として、「note」については流通総額(GMV)を、「note pro」についてはARRを設定し、各事業の売上高の継続的かつ累積的な増加を目指しています。
そのほか、プラットフォームの更なる拡大のため、累計ユニーククリエイター数、累計会員数、公開コンテンツ数といったメディアプラットフォームに関する各種指標についても推移を注視しています。
(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
コンテンツ配信業界を取り巻く環境は、底堅く推移しております。こうした中、この業界で課題とされるコンテンツの充実や読者へのレコメンド機能をはじめとしたサイトの最適化等システムへの対策が急務となっております。
当社はこうした課題に対して、2022年度を初年度とする3ヵ年の中期経営計画において、「note」の事業活動を強化し、新サービス「メンバーシップ」を始めとしたサブスクリプション型のサービスの提供の増加やクリエイターのビジネス上の継続基盤を強化するとともに、「note pro」の事業活動を強化し、導入企業の増加を図るなど、今後も事業の強化を図ってまいります。
以上の取り組みにおいては、それぞれ次のような課題があると認識しております。
① 「note事業」「note pro事業」のさらなる拡大
「note」のユーザー数及び流通総額は堅調に伸びていますが、引き続き累計ユニーククリエイター数、累計会員数、公開コンテンツ数といったメディアプラットフォームとしての各種指標を継続的に伸ばすほか、多くのユーザーを抱える影響力の大きなプラットフォームとしての健全性を重要な課題として認識しております。
また、クリエイターの継続的な創作活動を後押しするため、「note」上で継続的に購読されるコンテンツの割合を増加させるために、クリエイターと読者のコミュニケーションの充実と、クリエイターの創作意欲を喚起することが必要と考えており、エディタの機能刷新やコンテストおよびコンテストライトを実施しております。その結果、クリエイター利用開始年度別四半期流通総額(注1)は以下の通り着実に積み上げられている状況です。

(注) 1.クリエイター記事投稿開始年度は、有料・無料関係なく「note」上で初めて記事を作成・公開した日付をベースに集計しています。一部記事の公開日が特定できないものについては、除外してグラフを作成しています。
また、「note pro」については、開発や人員体制を増強することで、有料契約数を飛躍的に増加させることが重要と考えております。 具体的には、「note pro」担当の営業、事業開発、エンジニア等を増強し、組織体制を充実させ、また、ブランドカラーやサポートエリアのカスタマイズ機能、Twitter投稿時の固定ハッシュタグ機能、お知らせ枠の設置機能など「note pro」の機能を充実させるとともに、「note pro勉強会」などのマーケティング目的のイベントや、「note pro」のサクセス事例を増やすことで、有料契約数を増加させることが重要と考えております。
② 優秀な人材の確保と育成、それに合わせた組織体制の構築
コンテンツ配信業界においてインターネットに関する技術革新のスピードや顧客ニーズの変化が速く、それらに対応した新商品及びサービスが常に生み出されております。これらの最新ニーズ及び新商品並びにサービスを的確に察知し、迅速な意思決定を行える体制を整え、常に市場をリードしていくことが当社の成長につながります。これを実現するために、国内のニーズを的確に察知できる人材の確保が可能な体制を構築してまいります。
当社の経営理念に共感し、意欲、業務推進能力を兼ね備えた人材の中途採用を実施することはもちろんのこと、事業拡大及びサービス品質の向上等により知名度を上げることで採用力を強化し、当社が必要とする優秀な人材を継続的に確保・育成するべく取り組むと同時に、拡大する人員に合わせ、効率的な組織体制の構築に取り組んでまいります。
③ 内部管理体制の強化
当社は成長段階にあり、業務運営の効率化やリスク管理のための内部管理体制の強化が重要な課題であると考えております。当社が効率的に拡大できる体制の確立に向けて、コンプライアンスの徹底及び内部統制の強化を重要な課題として認識しております。これまでも体制整備を進めてまいりましたが、今後も事業規模の拡大に伴って人的補充を行い、定期的な内部監査の実施によるコンプライアンス体制の強化、監査等委員監査の実施によるコーポレート・ガバナンスの充実などを行っていく方針です。
④ 情報管理体制の強化
当社は、事業推進上、利用動向等の個人情報や機密情報を保持しております。このような情報が流出した場合や不適切な取り扱いがなされた場合、当社の信頼性や企業イメージが低下し、契約獲得や今後の事業展開への影響が生じるおそれがあります。
そのため、個人情報等の機密情報を取り扱う際の業務フロー、社内規程の整備、定期的な社内教育の実施、セキュリティの整備等により、今後も引き続き、情報管理体制の強化を行ってまいります。
⑤ 業務の効率化による生産性向上
需要拡大に備えた増員は、一方で人件費等のコストアップに繋がり当社の利益圧迫要因となります。当社では全業務のプロセスの見直しを行い、無駄を削減し業務の効率化を図ってまいります。また、基幹システムを中心にシステム投資を強化し、インフラ面を改善するとともに業務の省力化による生産性向上を図ってまいります。
⑥ 業務基幹システムの維持・強化
当社の業務は、お客様を個別にかつ的確に管理し、必要な時に迅速に情報把握をできることが業務遂行上重要であり、その管理の根幹をなす当社の基幹システムを安定的に稼働させることが経営戦略上非常に重要な課題です。昨今の事業拡大、事業の継続的発展に伴い当該システムに対する負荷は、比例的に増大いたしますので、機能の拡充を継続的に実施していく方針です。
⑦ 財務上の課題について
当社は、現状先行投資が必要なフェーズであると捉えており、開発人員を中心とした優秀な人材の採用等への継続的な投資を行ってきたため、当事業年度まで営業赤字かつ営業活動によるキャッシュ・フローのマイナスが継続しております。
これまで採用・育成した人材を中心にサービスの機能を継続的にアップデートするとともに、知名度と信頼度の向上のための広報・PR活動等を進め、一定期間において費用が先行する可能性がありますが、プラットフォームの流通総額向上に伴うストック売上高の継続的な向上により、早期黒字化を目指してまいります。