有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2022/11/11 15:00
【資料】
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【項目】
153項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当社グループは、「世界の食をもっと楽しく」をミッションに掲げ、生鮮食品の流通プラットフォームを構築し、食産業でインターネットサービスを中心とした新しいテクノロジーを活用したDXソリューションを提供することで、社会に貢献してまいります。
(2)経営環境
① 市場動向について
食産業の環境において、特に当社グループに関係がある市場は4つあると認識しております。
a 食品関連市場とそのEコマース化率
経済産業省の調査(注1)によると2014年における食品分野のEコマースの市場規模は1.2兆円、Eコマース化率は1.9%でしたが、2021年には同市場規模は2.5兆円、Eコマース化率は3.8%まで上昇し成長を続けております。一方で、他産業と比べると、例えば生活家電等のEコマース化率は2021年で38.1%と食品分野のEコマース化率と30%を超える大きな開きがあります。加えて、食品流通の合理化と生鮮食料品等の公正な取引環境の確保の促進(注2)を目的として、2020年に卸売市場法が16年ぶりに改定され、産地と市場内仲卸との直接的な取引が解禁されるなど、情報ネットワークが強みのEコマース事業者にとっては追い風の規制緩和が行われております。今後もEコマース化率の継続的な上昇を背景に、成長を続けるものと考えており、大きなポテンシャルがあると期待しております。
(注)1.経済産業省「平成 26 年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市
場調査)」及び同「令和3年度 電子商取引に関する市場調査」
2.農林水産省「卸売市場法及び食品流通構造改善促進法の一部を改正する法律の概要」
b 飲食関連市場
飲食関連産業においては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大とそれに伴う緊急事態宣言、外出自粛要請や飲食店への休業要請などの影響から、飲食関連業界の活動状況を把握するフード・ビジネス・インデックスの「飲食店、飲食サービス業」の指標は2021年に67.4(注3)を記録(基準値:2015年=100)し、2年連続低下となり、厳しい結果となりました。一方で、足元では新型コロナウイルス感染症の感染が落ち着く中で、社会活動も徐々に回復してきており、インバウンド需要が本格化すると一層活況になるものと期待しております。
(注)3.経済産業省経済解析室「2021年飲食関連産業の動向」
c 鮮魚小売店市場
経済産業省の「商業統計」によると1994年に34,935箇所存在した鮮魚小売店は、2014年には11,118箇所まで減少していることから、消費者は鮮魚小売店にて鮮魚を購入することが以前より難しくなっており鮮魚小売店当たりの商圏は拡大しております。こうした背景から、交通の利便性の高い立地において店舗展開をすることで、より多くの利用者を獲得できるものと考えております。
d 飲食物調理の職業市場
厚生労働省の「一般職業紹介状況」によると、2011年度の飲食物調理の職業の有効求人倍率は1.01倍だったものの、2022年9月には同有効求人倍率は2.87倍まで上がっております。特に新型コロナウイルス感染症からの社会活動の回復がなされる中で、労働集約的な食産業においては、2022年4月以降の有効求人倍率は急激に増加しており、人材の確保とテクノロジーを活用した業務をより効率的にする利便性の高いサービスが一層求められていると認識しております。
② 競争優位性について
当社グループは創業から生鮮流通のプラットフォームを構築してまいりました。当社の競争優位性は以下の通りであります。
a 川上から川下まで繋がったシームレスなプラットフォーム
当社グループは世界最大級の生鮮卸売市場である東京都中央卸売市場の商品調達力や物流機能と独自のEコマースシステムを接続しております。これによって鮮度の高い生鮮食品を多種に渡って商品提供することが可能となり、ユニークなポジショニングとなっております。
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また、現在の生鮮流通の仕組みはAIやインターネットが発明される以前に設計されており、最新のテクノロジーを駆使することで、利便性の高い流通システムの実現が可能であると考えております。当社グループは、従来分業化されていた物流、商品調達、製造加工・販売及び流通管理の流通機能を一気通貫で連携したシステムを構築し、生産性の向上に努めております。更に、労働者不足に悩まされる食産業において、フード人材バンクを通じて社内外の労働力供給をサポートすることで、産業のサステナビリティにも資する活動をしております。
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b 生鮮卸売市場へのアクセスと強力な産地ネットワーク
当社グループは、大田市場と豊洲市場にそれぞれ仲卸営業許可と買参権を有しており、各機能を活用しております。また、商品の調達先として全国70ヶ所以上の取引産地があり、その一部とは、より強固な関係を築くことや地方創生に取り組むことを目的として各種イベントを開催しております。大田市場内のフルフィルメントセンターは集荷、分荷、倉庫及び配送機能の重要拠点となっております。
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c 生鮮流通DXの高い参入障壁
当社グループは生鮮流通でDXを進める中で、大きく2つの参入障壁を乗り越え、強固な事業基盤を形成してきたと認識しております。まず生鮮卸売市場は卸売市場法や各自治体の法律や条例に規制されており、新規参入者にとっては高い参入障壁になっており、当社グループは東京都中央卸売市場において必要な許認可を取得しております。
次にアナログかつ複雑な流通構造の参入障壁です。生鮮食品をEコマースで取り扱うためには、生産者、市場業者、物流業者、メーカー等多岐にわたる関係者との取引構築と構造理解が不可欠で、加えて従来の物販Eコマースに比べて求められるソフトウェアの特性が大きく異なるため、それに対応するシステムが必要です。具体的には毎日変わる情報の迅速なデータ化、販売データと物流の接続、ユーザーの業務効率を上げるUX等が挙げられます。当社グループはそれらの特性に合わせたソフトウェアを開発し、商品データ、発注データや受注データ等が蓄積されるシステム化を構築しております。
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(3)中長期的な経営戦略
当社グループは、食産業に関わる方々に、生鮮流通のプラットフォームを提供することで、社会課題の解決を図ってまいります。そのための基本方針として、各サービスのユーザビリティを向上させることで創出した利益を生鮮流通プラットフォーム事業へ再投資し、持続的な成長モデルを実践してまいります。
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上記の成長モデルを実践するための具体的な経営戦略は以下のとおりであります。
① IT及び物流インフラストラクチャーへの投資
当社の競争力の源泉は従来型の流通慣習に適応し、自社のシステムエンジニアによってシステム開発を行い、受発注業務や物流業務等の自動化を進めてきたことにあります。今後、より一層規模を拡大していく中で、出荷を支えるフルフィルメントセンター拡張を行うことで中期的な出荷キャパシティーを確保し、自動化機器の導入及びシステム開発を続けることで、より生産性の高い業務体制を構築していき、そのための先行投資を行ってまいります。
② 商品基盤の拡充
BtoBコマースサービスはこれまで水産品を中心とした商品構成でユーザーを獲得してきましたが、今後は水産品以外の食品に関しても商品を拡充する体制を強化していきます。また、ユーザーが求める商品特性(調理の簡便な商品や、鮮度劣化が起きにくい商品等)に対応した商品も拡充してまいります。これらによって、ARPUの向上及び潜在的なユーザー基盤の拡大を目指してまいります。加えて、調達量が増えることで有利な価格条件での調達が可能になることから売上総利益率の向上にも貢献するものと考えています。
③ CRM(注1)強化
BtoBコマースサービスは、ユーザーニーズを正確に把握し、魚ポチのソフトウェア開発や商品開発に反映させることで継続的にサービスを改善してまいりました。今後もユーザー中心のサービス改善を続けていくためにインサイドセールスを主体としたCRM機能を強化し、素早くサービス改善を実践することで、アクティブユーザー数(注2)やARPUの向上を図ってまいります。
(注)1.CRM(Customer Relationship Management)は、ユーザーとの間に良好な関係を構築し、その維持及
び向上を目指すための一連の取り組みをいいます。
2.アクティブユーザー数とは、各月で1回以上注文をした顧客数を指します。上記は四半期平均のアク
ティブユーザー数になります。
④ sakana baccaの新規出店
BtoCコマースサービスはsakana baccaの店舗数を拡大することで経営指標を向上させてまいりました。近年駅のDX化が進む中で、駅の中のスペースの再開発や再構築が進んでおり、sakana baccaの出店余地が拡大しているため、今後も継続的に新規出店を行うことでサービスの成長を目指す方針です。
⑤ フード人材バンクの人材採用
HRサービスはフード人材バンクで求人企業の開拓及び人材紹介を担当する営業人員を拡充させることで経営指標を向上させてまいりました。今後も継続的に人材の採用や登用を行うことでサービスの成長を目指す方針です。
(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループが優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題は以下のとおりであります。
① サービス機能の拡充
インターネット業界においては常に技術革新が起こっており、サービスの質を担保することで競争優位性を維持していく必要があります。各サービスにおいて顧客視点に立ったデータの活用やユーザビリティの向上を目指し、AIや機械学習の活用やIoT(モノのインターネット)などの先端技術への投資を行い、サービスの拡充に取り組んでまいります。
② 優秀な人材の採用と組織体制の強化
当社グループは、今後の事業拡大のためには、優秀な人材の採用とそれらの人材がモチベーション高く働ける組織体制の整備が重要であると考えております。当社グループの理念に共感し、高い意欲を持った優秀な人材を採用していくために、積極的な採用活動を行なっていくとともに、従業員が中長期で働きやすい環境の整備や社員の能力向上を目的とした育成の仕組化の強化等の人事制度の構築を実施してまいります。
③ コーポレート・ガバナンス体制の強化
当社グループは成長段階にあり、業務運営の効率化やリスク管理のためのコーポレート・ガバナンスの強化が重要な課題であると考えております。このため、バックオフィス業務の整備を推進し、経営の公平性・透明性を確保するため、より強固な内部管理体制の構築に取り組んでまいります。
④ 利益及びキャッシュ・フローの定常的な創出
当社グループは、事業拡大を目指した人材獲得、物流拠点の確保、認知度向上施策などを積極的に進めており、2022年3月期の経営成績は営業損失、キャッシュ・フローの状況は営業活動によるキャッシュ・フローから投資活動によるキャッシュ・フローを差し引いて計算されるフリー・キャッシュ・フローはマイナスとなっております。
当社グループの売上高の過半を占めるBtoBコマースサービスは、当社グループが複数年にわたり継続して利用されることで収益が積み上がっていくストック型の構造にありますが、収益を積み上げていくために費用が先行して計上されるという特徴があります。先行投資として計上される採用人件費、広告宣伝費や販売促進費等は、顧客基盤の拡大に伴い売上高に占める比率を低減させていくことが可能になるため、売上高の増加によって収益性の向上に努め、利益及びキャッシュ・フローを定常的に創出できる体制を目指す方針です。
⑤ 健全な財務基盤の構築
当社グループは、これまで事業拡大のための資金として自己資金及び金融機関からの借入を行い充当してまいりました。今後も必要資金のリスクプロファイルに応じて、自己資金と借入を柔軟に選択し、充当していくことを基本方針としており、資金調達方法の多様化と機動力を保つために、引き続き金融機関と良好な関係を維持してまいります。
(5)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは持続的な成長に向けて、売上高、売上総利益及び営業利益を重視しており、毎期その向上に努めることで、中長期的に成長させていくことを目指します。また全社の売上高に対して比率の高いBtoBコマースサービスの売上高の成長が収益性の向上に繋がるため、BtoBコマースサービスのアクティブユーザー数及びARPUについては、中長期的に成長させていくことを重視しております。
なお、BtoBコマースサービスの過年度のアクティブユーザー数及びARPUの推移は以下のとおりであります。
四半期アクティブユーザー数
(ユーザー)
前年同四半期からの増減比
(%)
ARPU
(円)
前年同四半期からの増減比
(%)
2018年3月期第1四半期1,112-63,828-
第2四半期1,214-64,802-
第3四半期1,262-82,742-
第4四半期1,216-81,782-
2019年3月期第1四半期1,36222.580,97926.9
第2四半期1,54327.178,13720.6
第3四半期1,80342.987,2265.4
第4四半期1,87554.177,004-5.8
2020年3月期第1四半期1,99046.077,095-4.8
第2四半期2,11837.374,777-4.3
第3四半期2,33329.485,891-1.5
第4四半期2,33424.572,088-6.4
2021年3月期第1四半期1,929-3.048,915-36.6
第2四半期2,49117.663,600-14.9
第3四半期2,90024.375,176-12.5
第4四半期2,4123.455,413-23.1
2022年3月期第1四半期2,35622.160,82424.3
第2四半期2,261-9.265,2942.7
第3四半期3,19310.195,95927.6
第4四半期2,76214.573,39832.5
2023年3月期第1四半期3,28339.388,61045.7
第2四半期3,25844.187,71734.3

(注)1.上記の数字には社内取引等は含まれておりません。
2.2019年3月期第3四半期から2020年3月期第3四半期まではアクティブユーザー数の増加に伴い利用頻度
の少ないユーザーの割合が増えたことからARPUに影響が出ております。2020年3月期第4四半期から2022
年3月期第4四半期までは新型コロナウイルスの感染者数の増加に伴う、緊急事態宣言やまん延防止等重
点措置が実施されたことからアクティブユーザー数及びARPUに一部影響が出ております。