有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2022/11/22 15:00
【資料】
PDFをみる
【項目】
142項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 経営方針
当社グループは「自分だけの要素を知ることで、より自分らしい生き方を選択できる世界に」をビジョンに掲げ、現在は「個人認証」と「個人最適化」の2つのソリューションにて事業を展開しております。
個人認証ソリューションで「あなたは誰か」を証明し、個人最適化ソリューションで衣食住における「あなただけの服」「あなただけの店舗」「あなただけの居場所」を実現し、その結果、「金融犯罪」「未着廃棄」「食品ロス」「エネルギーロス」といった、社会課題の解決に繋がる取り組みを続けてまいります。

(2) 経営環境
当社グループを取り巻く経営環境は、法律改正や新型コロナウイルス感染症の影響により、日々変化しております。
個人認証ソリューションでは、2018年の犯罪収益移転防止法の改正にて、本人確認をオンラインで完結する方法が認められたことや、2020年以降の新型コロナウイルス感染症の影響にて非対面サービスの重要性が高まり、従来の対面型サービスから非対面サービスへの移行が急激に進んだことにより、「LIQUID eKYC」の導入が拡大しました。また、金融機関や通信会社など、犯収法により本人確認業務が求められている業種に留まらず、CtoCのシェアリングサービスやマッチングサービス等、日常生活に欠かせない幅広い業種において、成りすましによる不正を防止しユーザーからの信頼性を高めるニーズが高まっており、導入が進んでおります。
eKYCの市場規模は2024年には63億円に達すると見込まれております ※1。さらには、eKYCに留まらない認証分野の潜在的な市場規模としては、日本で2,501億円(2030年)※2、アジア太平洋地域(APAC)で14,092億円(2030年)※2であるとの予測が出ております(1ドル=140円で計算)。当社グループは「LIQUID eKYC」をはじめとする個人認証ソリューションのサービス開発及びグローバル展開を行い、当該市場を開拓していく考えであります。

※1 株式会社矢野経済研究所「eKYC市場に関する調査(2021年)」(2021年7月27日発表)
※2 SDKI Inc.「Global Identity Verification Market, 2020–2030」(16, September, 2021)
個人最適化ソリューションでは、新型コロナウイルス感染症の影響に伴うオフィスへの出社制限や店舗への入場制限、営業時間短縮などにより、導入事業者においてIT投資が一時的に停滞しておりましたが、当社グループでは、withコロナの前提でのサービス設計を進めて参りました。2022年度後期に入り、経済活動は感染症拡大前に戻りつつあり、事業者からの問い合わせも増えてきております。経済活動の回復に合わせてIT投資が再開されると、従来リアル店舗で提供されていたサービスをリアルとオンラインで複合的に提供できる当社グループのサービスにとって、中長期的には追い風になることが予想されます。
(3) 経営戦略
当社グループは、経営方針に基づき様々な事業に取り組んできた結果、現在は「個人認証ソリューション」と「個人最適化ソリューション」から構成されております。今後も、社会課題の解決とともに、企業価値をさらに高めていくことを目指してまいります。
個人認証ソリューションのサービスである「LIQUID eKYC」は、現在多くの事業者に導入頂き、グループの成長を牽引しております。また、個人認証ソリューションのその他サービスや個人最適化ソリューションのサービス群は、これまでの研究・開発を活かして、現在は商用化フェーズに移行し、次なる事業の柱となるよう取り組んでおります。各サービスとも当初は研究・開発期の費用負担から赤字となりますが、商用化や事業成長に伴い売上高が増加して損益分岐点を上回ると、営業利益が拡大する収益モデルとなっています。
当社グループ全体の利益構造としては、現在、個人認証ソリューションが成長フェーズ、個人最適化ソリューションが研究・開発または商用化フェーズにあることから、今後は、先行して成長フェーズに入った個人認証ソリューションの継続拡大に加えて、個人最適化ソリューションの商用化や成長、さらには個人認証ソリューションと個人最適化ソリューションの連携を通じ、グループ全体の利益が拡大していくものと考えております。

当社グループは今後の成長戦略として、「個人認証ソリューションの拡充」「個人最適化ソリューションの成長」「個人認証ソリューションと個人最適化ソリューションの連携」の3点を考えております。
① 個人認証ソリューションの拡充
個人認証ソリューションにおいては、「LIQUID eKYC」の市場拡大を目指します。現在は、金融業や通信業が主力市場でありますが、CtoCのシェアリングサービスやマッチングサービスへの導入も進んでおります。さらには医療や教育など、認証を必要とするシーンは日常生活において多岐にわたり、今後はそれらの市場への導入を目指します。また、提供開始済みのオンライン当人認証サービス「LIQUID Auth」に加え、事業者横断で不正利用を検知するサービスなど個人認証ソリューションの拡充による利用シーンの拡大も目指します。加えて、適切な時期において海外市場への積極的な展開を考えております。人口増加に伴い、eKYCが必要とされる各種オンライン取引の規模拡大が期待されるアジア太平洋地域(APAC)での展開を目指します。
② 個人最適化ソリューションの成長
個人最適化ソリューションにおいては、「第1 企業の概況 3 事業の内容 (3) 個人最適化ソリューション」に記載の通り、衣食住の各分野で事業を展開しております。現在はそれぞれ、研究・開発または商用化のフェーズであるため、各業界の課題や事業者及びユーザーのニーズを理解し、パートナー事業者と協業しながら、事業の成長を目指します。
③ 個人認証ソリューションと個人最適化ソリューションの連携
個人認証ソリューションのサービス利用にてユーザーから取得した個人を識別するデータに、個人最適化ソリューションのサービス利用にてユーザーから取得した各種データを連携し、ヒトが直接ネットワークに繋がって様々なサービスを享受できる、利便性とセキュリティが両立した、シームレスな世界を目指します。
(4) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、財務指標として、個人認証ソリューション売上高及び連結売上総利益を重視しております。個人認証ソリューション売上高は当社グループの主力事業の成長を示す重要な指標として考えております。連結売上総利益は事業の成長も考慮した上で、グループ全体としての収益性を示す重要な指標として考えております。財務指標の推移については以下の通りであります。
第7期連結会計年度
(自 2019年12月1日
至 2020年11月30日)
第8期連結会計年度
(自 2020年12月1日
至 2021年11月30日)
第9期第3四半期
連結累計期間
(自 2021年12月1日
至 2022年8月31日)
個人認証ソリューション
売上高 (千円)
381,562855,226921,014
連結売上総利益 (千円)572,378816,243801,410

非財務指標として、個人認証ソリューションでは、導入事業者における認証回数が、事業活動の状況・将来見通しを把握するために最も重視すべき指標と考えております。個人最適化ソリューションは研究・開発または商用化フェーズであるため、現時点では重視すべき指標を定めておりませんが、事業の進捗に伴い設定する考えでおります。非財務指標の推移については以下の通りであります。
第7期連結会計年度
(自 2019年12月1日
至 2020年11月30日)
第8期連結会計年度
(自 2020年12月1日
至 2021年11月30日)
第9期第3四半期
連結累計期間
(自 2021年12月1日
至 2022年8月31日)
単年度認証回数 (千回)1,2116,4779,450
累計認証回数(千回)1,2737,75017,200


(5) 対処すべき課題
当社グループは、以下の課題に取り組んでまいります。
① サービス設計と品質の維持
当社グループが提供するAIクラウド基盤(IoP Cloud)は、サービス提供の過程で日々取得する「ヒト」に関するデータを継続的に機械学習することで、サービス品質の維持・向上に繋げております。当社グループのサービスは、各導入事業者が展開するサービスに組み込まれる形で、各導入事業者からユーザーに提供されます。ユーザーは、これらのサービスを利用するにあたり、当社グループの管理するデータベースにユーザー自らがデータをアップロードします。ユーザーから取得したデータを当社グループが保管するため、様々な面から機械学習を行い、既存サービスの品質向上のみならず新規サービスの開発に繋げられるのが、当社グループの特徴です。しかしながら、各事業者または産業固有のオペレーション・フローに対応したサービス設計を行うためには、それぞれの事業者または産業の特徴を理解する必要があります。価値が高いサービスを提供するには、大量のデータを日々取得できる、効率的な機械学習環境を整備することが有効であると当社グループは考えており、日常生活の自然な導線上でユーザーにお使い頂けるよう、ユーザビリティの高い自社サービスの設計と品質の維持を心がけております。
② 海外展開
当社グループが提供するAIクラウド基盤(IoP Cloud)は、個人が日常生活から発するデータを分析対象としているため、対象市場は国内に留まりません。データ収集の対象数が多い市場で事業を行うことは自然な流れであり、人口増加と経済成長が著しい、アジア太平洋地域(APAC)市場は最重要マーケットと認識しております。当社グループは、インドネシア共和国にて同国の華僑系財閥である「Salim Group」と現地合弁会社「PT. Indoliquid Technology Sukses」を設立し、当社グループが国内で展開するサービスの単純な海外移管に限定しない、現地の文化や市場ニーズにマッチしたサービスの展開を目指して活動を行っております。
③ システムの安定性確保
当社グループが提供するAIクラウド基盤(IoP Cloud)は、インターネット上にてサービス提供を行っております。当社グループの事業を支えるサーバーは、主に外部クラウドサービスであるAmazon Web Services, Inc.が提供するAmazon Web Services (AWS)で管理されており、利用者数の増加及びそれに伴うアクセス数の飛躍的な増加への対応並びにユーザビリティ向上のため、複数のサーバーによる負荷の分散・システムの冗長化・定期的なバックアップの実施・各種不正アクセス対策等によるシステムセキュリティの強化・システム稼働状況の監視等を図り、システム障害を未然に防ぐべく取り組みを行っております。
④ 情報管理体制の強化
当社グループはサービスの提供において、ヒトに関するデータ(ユーザーの個人情報)を取り扱っており、情報管理を強化していくことが重要であると考えております。現在、連結子会社の株式会社Liquidにおいては、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の国際標準規格である「ISO/IEC 27001」及び国内規格である「JIS Q 27001」の認証を取得しております。機密情報や個人情報について、以前より社内規程の厳格な運用、定期的な社内教育の実施、セキュリティシステムの整備を行っておりますが、今後も引き続き情報管理の徹底及び体制の強化を図ってまいります。
⑤ 知的財産権の確保
当社グループは、日々の開発業務から生じた新規性のある独自技術の保護のために、単独または他社と共同で、それらに関する特許権等の知的財産権の取得を図っております。画像解析及び機械学習領域においては、国内外大手IT企業等が知的財産権の取得に積極的に取り組んでいるため、当社グループも特許権等の取得により活動領域を確保することが課題であると認識しております。今後、様々な業界に対してシステムを開発・提供することによって有用な知見が得られることが期待されるため、外部専門家とも協力しながら、独自の技術領域については、他社に先立って戦略的に特許権を取得していきます。
⑥ 人材の確保及び教育の強化
当社グループはこれまで、少人数で効率的な組織運営を行ってまいりました。一方で、今後の業容拡大に向け、当社グループの成長速度に見合った人材の確保及び従業員の実務的なスキル強化も重要な課題と認識しております。そのため、今後も優秀な人材の獲得及び教育に取り組んでまいります。
⑦ 内部管理体制の強化
当社グループは、各分野において今後もより一層の事業拡大を見込んでおります。そのため、今後も当社グループの事業拡大に応じた内部管理体制の強化を図り、より一層のコーポレート・ガバナンスの充実に取り組んでまいります。
⑧ 財務体質の強化
当社グループは営業赤字が継続しております。今後、計画している十分な売上高が獲得できない場合には営業赤字、営業活動によるキャッシュ・フローの赤字が継続する可能性があります。当社グループは経営の健全性を保つために、キャッシュ・フローを重視した経営に努めておりますが、今後の事業強化や拡大を図るためには資金が必要となります。そのような場合に備え、常に一定水準の手元流動性を確保し、信用獲得に努めてまいります。手元流動性確保のため、資金調達や内部留保の確保を継続的に行い、財務基盤の更なる強化を図ってまいります。