有価証券報告書-第137期(平成29年4月1日-平成30年3月31日)

【提出】
2018/06/21 15:32
【資料】
PDFをみる
【項目】
57項目

研究開発活動

当社グループ(当社および連結子会社)は、事業拡大と収益向上に寄与すべく、独自の優位性ある技術の確立を基本方針とし、各社が独自に研究開発活動を行っているほか、当社グループ全体としての効率性を念頭に置きながら、互いの研究開発部門が密接に連携して共同研究や研究開発業務の受委託等を積極的に推進しております。
当連結会計年度においては、2016年度から2018年度までの中期経営計画に従い、引き続き環境・エネルギー、ICT(情報・通信技術)、ライフサイエンスの3分野に研究資源を重点投入するとともに、異分野技術融合による新規事業の芽の発掘とその育成に取り組んできました。
これに基づき、当連結会計年度の研究開発費は、前連結会計年度に比べ73億円増加し、1,653億円となりました。
セグメントごとの研究開発活動を示すと次のとおりであります。
石油化学分野では、事業のグローバル競争力強化のために、プロピレンオキサイド、カプロラクタム、メタアクリルモノマーを中心とする既存バルク製品の触媒・プロセス改良、合成樹脂の製造プロセスの改良、既存素材の高性能化や新規高付加価値製品の開発に積極的に取り組んでおります。当連結会計年度において、プロピレンオキサイドでは、旺盛なライセンスオファーへより的確に応えるべく、プロセスの最適化検討を並行して行い、よりコスト競争力の高い製造技術を目指した改良研究を実施しました。ポリエチレン、ポリプロピレンでは近年需要の高まっているエネルギー関係部材に最適なポリマー材料構造の設計、製造技術の検討に進捗がみられました。また温室効果ガスの削減の取り組みに呼応し、自動車の軽量化への寄与を念頭に樹脂加工技術を応用した樹脂外板材用ポリオレフィン材料の開発や、環境負荷低減包装への要求に応じ高性能なパウチ包装用ポリオレフィン材料の開発に進展が見られました。新製品開発では蓄熱性能を有する樹脂材料の実用化に向け、衣・住の快適性に寄与し得る用途開発が進展しました。
なお、石油化学部門における当連結会計年度の研究開発費は66億円であります。
エネルギー・機能材料分野では、リチウムイオン二次電池用部材、スーパーエンジニアリングプラスチックス、低燃費タイヤ用の高性能ゴムなどの環境・エネルギー関連事業拡大のため、無機材料、合成ゴム材料、機能性樹脂材料などの幅広い分野で、新規製品創出や既存製品の競争力強化に向けた研究開発に取り組んでおります。
当連結会計年度において、リチウムイオン二次電池用部材に関しては、自動車向けを中心に性能向上や需要拡大の要請に応えるため、開発を鋭意進めました。耐熱セパレータについては、性能向上・コスト削減を目指した新規膜の技術開発が進捗しており、正極材については独自技術を用いた高容量タイプの開発品につき顧客評価を進めております。負極やセパレータ塗工に用いるアルミナについては、生産性向上について検討を進め、20-30%の効率向上を達成しました。
機能樹脂分野においては、電気・電子分野向け、また自動車部材向けにスーパーエンジニアリングプラスチックスの需要が増大しており、性能向上を図ることで顧客要望に対応するべく開発を進めております。ポリエーテルサルホン(PES)に関しては千葉工場にて第2プラントが完成し2018年度初めから稼働予定であり、航空機用途のみならず、自動車部材や高機能膜向けの開発・拡販を積極的に進めております。液晶ポリマー(LCP)に関しては、電気・電子分野向けにコネクター用途への開発・拡販を進めるとともに、新たに高速通信対応のフィルムグレードの展開と開発を進めており、顧客採用が進んでおります。
なお、エネルギー・機能材料部門における当連結会計年度の研究開発費は75億円であります。
情報電子化学分野では、日本国内に留まらず情報電子化学部門内のグローバルな技術・研究開発能力を結集し、IT関連の先端技術に対応する新規材料・部材・デバイスに関する新製品の開発に引き続き積極的に取り組んでおります。当連結会計年度におきましては、先ず機能性光学フィルム分野において、OLEDの一部用途先に当社独自の材料技術からなる液晶塗布型位相差フィルムを新たに量産・上市し、顧客から高い評価を得ております。さらなる展開のため、モバイル用OLEDパネル向け製品への展開も手掛け、市場投入の目途を得ております。今後も成長が続くモバイル機器・車載機器分野に対し、当社独自の優れた要素技術を生かし、新しい商品開発を推し進めてまいります。電子材料分野におきましては、ディスプレイ用高輝度・高色再現性カラーレジストや半導体前工程向け液浸ArFレジスト、半導体後工程向け厚膜i線レジスト等に対し、これまで培ってきた優れた分子設計機能や有機合成技術を生かした製品を市場投入し、国内外の大手需要家から高い評価を得ております。更に最先端微細加工であるEUVや伸長著しい3D-NANDプロセス用レジストへの参入を目指し開発を進めております。化合物半導体分野では、光/電子デバイス分野やパワーデバイス分野で期待されるGaN系材料の早期開発・工業化に向けた技術開発に力を入れるとともに、モーション/イメージセンサー等に用途が拡大しているVCSELの事業拡大に向けた開発を推進しております。表示デバイス分野におきましては、韓国を中心にフィルムベースタッチセンサーの量産技術を基盤とした様々な複合型センサーの開発を進めております。また、次世代ディスプレイとして期待されているフレキシブルディスプレイに用いられる様々な新規部材の開発をグループ横断的に取り組んでおります。そのなかでも、ウィンドウフィルム、液晶塗布型偏光子については量産化の目途を得ており、さらにタッチセンサー等も含めた複数の機能を複合化した機能統合部材の開発を推し進めております。
なお、情報電子化学部門における当連結会計年度の研究開発費は173億円であります。
健康・農業関連事業分野では、急速に進展しているIoT技術を活用しながら、新製品やアプリケーション、競争力のある製造プロセスの開発に取り組むことで、コア事業の強化と周辺事業への展開および川下化を推進しております。当連結会計年度において、国内農業関連事業については、3年後の上市を目指して新規殺菌剤成分(一般名:インピルフルキサム)を含む農薬の登録申請を昨秋実施したほか、農薬・肥料製品ラインナップの更なる拡充に向けた新規化合物の探索・製品開発を推進しております。また、コメ事業についても事業の本格化に備えた良食味や多収等の特徴を有する新品種の開発を継続しております。さらに、種子・種苗、潅水資材等を取り扱う住化農業資材株式会社や農業用フィルムを取り扱うサンテーラ株式会社などのグループ会社と連携しながら、農業生産者への総合的なソリューションの提供を進めております。海外農業関連事業においてもインピルフルキサムの開発を進めており、2017年にブラジル、アルゼンチン、米国、カナダにおいて農薬登録申請を実施しました。また、米国の中西部農業研究センターが完成し、主要穀物(トウモロコシ、ダイズ、小麦等)をターゲットとした農薬の圃場での性能評価体制を強化しております。他社との協業を通じた事業拡大を目指し、2017年6月に、当社の発明した新規殺菌剤成分をグローバルな協力関係の下で開発することにビーエーエスエフ社と合意しました。また同月、バイエル社との間で、ブラジルのダイズを対象としたインピルフルキサムを含む混合剤の開発に合意しました。デュポン社(現 ダウ・デュポン社)とは、主要作物を対象とした種子処理技術の開発、登録、商業化に関して、グローバルに協力する事に合意しました。さらに、米国の種子・バイオ大手であるモンサント社と2016年に合意した雑草防除体系の創出プロジェクト(当社が新規除草剤、モンサント社が耐性作物の開発を担当)にも引き続き取り組んでおります。また、資本提携している豪州農薬会社ニューファーム社とは業務提携に関する契約を延長し、幅広い分野(販売・開発・製造)で様々な取り組みを引き続き進めております。生活環境事業については、各重点分野における新製品開発と川下化を推進しております。家庭用殺虫剤分野では、新規ピレスロイド剤ならびに屋外用蚊忌避製品の国内薬機法承認を取得し、販売を開始しました。業務用殺虫剤分野では、難防除害虫であるトコジラミに優れた効果を示す新製品を上市しました。またエアプロテクション分野では、拡散性の優れたデバイス型芳香消臭剤の研究に注力して新製品を上市しました。熱帯感染症分野では、ピレスロイド抵抗性媒介蚊に有効なマラリア対策用防虫蚊帳の普及をWHOの推奨を受けて推進するとともに、新たな室内残留散布剤及び幼虫防除剤のWHO認証を取得し、総合防除のための製品ラインナップ拡充を進めております。アニマルニュートリション事業については、近年問題となっている家畜排泄物由来の温室効果ガスの低減を目的として、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構や国内大学などとの共同研究プロジェクトに参画し、メチオニンを含むアミノ酸バランス改善飼料の技術普及を推進しております。また、製品ラインナップ拡充のため、新規商材の探索研究にも取り組んでおります。医薬化学品事業については、当社のプロセス開発力を駆使したジェネリック原薬の製法開発に注力し、原薬・中間体の受託製造品目の拡充に取り組んでおります。また、将来の成長が見込まれる核酸医薬原薬の製造においては、GMP(Good Manufacturing Practice)体制のより一層の整備を進めるとともに、ボナック社との共同研究をより一層進めるなど、競争力のある各要素技術を獲得するための開発研究を推進しております。
なお、健康・農業関連事業部門における当連結会計年度の研究開発費は293億円であります。
医薬品分野では、精神神経領域、がん領域および再生・細胞医薬分野を研究重点領域とし、大日本住友製薬株式会社および日本メジフィジックス株式会社が有する自社技術を活かした研究開発に加え、技術ライセンス、ベンチャー企業やアカデミアとの共同研究などによる最先端の外部技術の導入にも取り組み、優れた医薬品の継続的な創製を目指しております。
当連結会計年度においては、精神神経領域で次の進展がありました。①魅力的な開発パイプラインのより効率的な創出を実現するため、2017年10月、大日本住友製薬株式会社の研究体制を改め、研究本部をリサーチディビジョンに改称するとともに、研究プロジェクト(創薬テーマ)を強力に推進するために「プロジェクト制」を採用し、プロジェクトリーダーおよびプロジェクトディレクターを配置しました。②dasotraline(開発コード:SEP-225289)について、2017年8月、米国において成人および小児の注意欠如・多動症(ADHD)を対象とした承認申請を行いました。③「トレリーフ」(一般名:ゾニサミド)について、2017年8月、日本においてレビー小体型認知症(DLB)に伴うパーキンソニズムの効能・効果を追加する一部変更承認申請を行いました。④アポモルヒネ塩酸塩水和物(開発コード:APL-130277)について、2018年3月、米国においてパーキンソン病に伴うオフ症状を対象とした承認申請を行いました。⑤非定型抗精神病薬「ロナセン」(一般名:ブロナンセリン)について、日東電工株式会社と共同開発中のテープ製剤の日本でのフェーズ3試験において主要評価項目を達成するとともに、良好な忍容性を示す解析結果速報を2018年2月に得ました。
がん領域では、ナパブカシンについて結腸直腸がんおよび膵がんを対象とした併用での国際共同フェーズ3試験を引き続き推進しました。一方、胃または食道胃接合部腺がんを対象とした同剤の国際共同フェーズ3試験については、中間解析が実施され、独立データモニタリング委員会による、主要評価項目を達成できる見込みが低いとの判断に基づく勧告を受け入れ、2017年6月、盲検の解除を決定し、事実上、同試験を中止しました。
再生・細胞医薬分野では、2018年3月、他家iPS細胞由来の再生・細胞医薬品専用の商業用製造施設としては世界初となる再生・細胞医薬製造プラントを竣工しました。引き続き、産学の連携先と、加齢黄斑変性、パーキンソン病、網膜色素変性、脊髄損傷などを対象に、他家iPS細胞を用いた再生・細胞医薬事業を推進します。
その他領域では、「ロンハラ マグネア」(一般名:グリコピロニウム臭化物)について、2017年12月、米国において慢性閉塞性肺疾患(COPD)の長期維持療法を適応とした承認を取得しました。また、2017年10月、フランスのポクセル社から、2型糖尿病治療剤として開発中のimeglimin(開発コード:PXL008)の日本、中国、韓国、台湾および東南アジア9カ国における開発・販売権を獲得しました。2017年12月には、同剤について、同社と共同で2型糖尿病を対象とした日本におけるフェーズ3試験を開始しました。
放射性医薬品については次の進展がありました。①2017年9月、効能又は効果を「アルツハイマー型認知症が疑われる認知機能障害を有する患者の脳内アミロイドベータプラークの可視化」とした「ビザミル®静注」の製造販売承認を取得しました。②2017年6月、PET検査用心筋血流イメージング剤と診断補助剤(血管拡張薬)の日本における独占的開発・製造・販売権を獲得し、診断補助剤については2018年2月よりフェーズ1試験を開始しました。
初期段階の研究については、高性能コンピューターを駆使したインシリコ創薬技術、iPS細胞などの最先端のサイエンスを取り入れた創薬に取り組んでおります。また、国内外の大学を含む研究機関等との提携も積極的に進めており、当連結会計年度においては、大日本住友製薬株式会社が学校法人北里研究所と共同で進める薬剤耐性菌感染症治療薬の創製、並びに、日本メジフィジックス株式会社が中心となって推進するセラノスティックス(治療と診断の融合)薬剤開発が日本医療研究開発機構(AMED)による「医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)」の研究開発課題として採択されました。
なお、医薬品部門における当連結会計年度の研究開発費は893億円であります。
全社共通およびその他の研究分野においては、上記5事業分野の事業領域を外縁部へ積極拡大するための研究およびマテリアルズ・インフォマティクス等の計算機科学をはじめとする共通基盤技術開発とともに、既存事業の枠に属さない新規事業分野への展開を図るべく、環境・エネルギー、ICT、ライフサイエンスの各分野において研究開発に取り組んでおります。当連結会計年度においては、次の進展がありました。ICT分野では、ディスプレイ用途において、高分子有機EL材料の性能向上のための開発を継続した結果、パネルで発現される性能が実用的なレベルに達しました。環境・エネルギー分野では、高分子有機EL照明において、フレキシブル基板ベースの一般照明パネルの開発、生産プロセスの検討を継続して実施しました。ライフサイエンス分野においては、培養細胞を用いた、生体を使わない化学品安全性評価システムの構築に取り組んでおります。さらに上記3分野のうち、複数の分野の技術を融合させた研究開発も進めております。例えば、3分野にまたがった研究開発としては、プリンテッド・エレクトロニクス技術の開発に引き続き注力し、開発を加速しております。
また、ライフサイエンス分野の新規事業創出を加速させるため、2018年1月1日の組織改正により、当社子会社の大日本住友製薬株式会社ゲノム科学研究所を廃止し、その機構を当社へ移管するとともに、生物環境科学研究所、先端材料開発研究所が持つ一部の研究機能を集約・統合し、バイオサイエンス研究所を新設しました。
なお、全社共通部門における当連結会計年度の研究開発費は153億円であります。
このように、事業拡大および競争力強化を図るべく、新製品・新技術の研究開発および既存製品の高機能化・既存技術の一層の向上に取り組み、各事業分野におきまして着実に成果を挙げつつあります。