有価証券報告書-第138期(平成30年4月1日-平成31年3月31日)

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2019/06/21 15:35
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研究開発活動

当社グループ(当社および連結子会社)は、事業拡大と収益向上に寄与すべく、独自の優位性ある技術の確立を基本方針とし、各社が独自に研究開発活動を行っているほか、当社グループ全体としての効率性を念頭に置きながら、互いの研究開発部門が密接に連携して共同研究や研究開発業務の受委託等を積極的に推進しております。
当連結会計年度においては、2016年度から2018年度までの中期経営計画に従い、引き続き、環境・エネルギー、ICT(情報・通信技術)、ライフサイエンスの3分野に研究資源を重点投入するとともに、異分野技術融合による新規事業の芽の発掘とその育成に取り組んできました。
これに基づき、当連結会計年度の研究開発費は、前連結会計年度に比べ19億円減少し、1,635億円となりました。
セグメントごとの研究開発活動を示すと次のとおりであります。
石油化学分野では、事業のグローバル競争力強化のために、プロピレンオキサイド、カプロラクタム、メタアクリルモノマーを中心とする既存バルク製品の触媒・プロセス改良、合成樹脂の製造プロセスの改良、既存素材の高性能化や新規高付加価値製品の開発に積極的に取り組んでおります。当連結会計年度において、プロピレンオキサイドでは、引き続き旺盛なライセンスオファーもあり、よりコスト競争力の高い製造技術を目指した改良研究を継続実施しました。ポリエチレン、ポリプロピレンでは各種用途に応じた最適なポリマー材料構造の設計と製造技術の検討、温室効果ガスの削減の取り組みに呼応した自動車の軽量化に寄与する樹脂加工技術および材料の開発、環境負荷低減包装への要求に応じた高性能なパウチ包装用ポリオレフィン材料の開発等を進め、一定の進展が見られました。新製品開発では蓄熱性能を有する樹脂材料の商業化検討に大きな進展が見られました。
なお、石油化学部門における当連結会計年度の研究開発費は71億円であります。
エネルギー・機能材料分野では、リチウムイオン二次電池用部材、スーパーエンジニアリングプラスチックス、高性能ゴムなどの環境・エネルギー関連事業拡大のため、無機材料、合成ゴム材料、機能性樹脂材料などの幅広い分野で、新規製品創出や既存製品の競争力強化に向けた研究開発に取り組んでおります。 当連結会計年度において、リチウムイオン二次電池用部材に関しては、自動車向けを中心に性能向上や需要拡大の要請に応えるため、開発を鋭意進めました。耐熱セパレータについては、コスト削減を目指した技術開発と、より性能を高める耐熱層の検討が進捗し、正極材については独自技術を用いた高容量タイプの開発品の顧客評価が進んでおります。負極塗工やセパレータ塗工に用いるアルミナについては、当連結会計年度に設備増強が完成し生産量が増加しております。また、更なる需要増加に応えるべく次期設備増強も決定しました。 機能樹脂分野においては、電気・電子部品分野向け、また自動車部材向けにスーパーエンジニアリングプラスチックスの需要が増大しており、性能向上を図り顧客要望に対応すべく開発を進めております。ポリエーテルサルホン(PES)に関しては、千葉工場に第2プラントが完成し当連結会計年度に稼働しました。航空機用途のみならず、自動車部材や高機能膜向けの開発・拡販を積極的に進めております。液晶ポリマー(LCP)では、パソコンやスマートフォン、機械部品などに使う射出成形材料に加えて、高周波特性に優れたグレードやフィルム用途グレードの開発を進めており、次世代移動通信(5G)用途や振動板用途で顧客採用が進んでおります。
機能性材料である合成ゴムの分野では、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)の耐寒性、耐熱性、耐油性など、顧客が求める特性を向上させた開発グレードの評価がそれぞれ進展し、採用が進んでいます。更に、微細発泡グレード、金属接着グレードを開発し、新たな機能を提案しています。ゴム用薬品の分野では、タイヤ用ゴムの耐摩耗性を大きく改善させる新規添加剤を開発し、顧客評価を進めています。耐摩耗性は電気自動車用タイヤなど高負荷用途に特に求められる性能であり、将来性が期待されます。
なお、エネルギー・機能材料部門における当連結会計年度の研究開発費は85億円であります。
情報電子化学分野では、日本国内に留まらずグローバルな技術・研究開発能力を結集し、IT関連の先端技術進化を支える新規材料・部材・デバイスに関する新製品の開発に、引き続き積極的に取り組んでおります。
まず、ディスプレイ材料分野においては、次世代ディスプレイとして本格化しつつあるOLEDパネルに対し、当社独自のキーコンポーネントである「液晶塗布型位相差フィルム」を用いたOLED用偏光フィルムが、採用済みの大型テレビ用途から、中小型モバイル用途へ適用範囲が拡大いたしました。また、次世代端末として注目されているフォルダブルスマートフォンに対し、カバーガラスの代わりとなる高機能フィルムの開発・市場投入を進めております。
半導体材料分野においては、半導体集積度向上という命題に対し、微細加工分野において現在主流の液浸ArFレジストのラインナップ拡充に加え、次世代製品であるEUVレジストや多層配線用厚膜レジストの開発・市場投入を進めています。化合物半導体材料分野においては、大容量・超高速データ受け渡しを可能とする5G通信に対し、高周波デバイス用各種エピウェハの設計開発を行っております。
IoTの主要構成ツールとして拡大が見込まれるセンシングデバイス分野においても、既に事業確立しているディスプレイ用タッチセンサーのさらなる高機能化や複合化を進めるとともに、薄膜形成を中心とした要素技術を活用し、新規センサーの開発に取り組んでおります。
なお、情報電子化学部門における当連結会計年度の研究開発費は173億円であります。
健康・農業関連事業分野では、世界の食糧増産、健康・衛生や環境の改善といった課題解決に貢献するため、技術イノベーションが急速に進むIoTやバイオテクノロジー技術を活用し、新製品やアプリケーション、競争力のある製造プロセスの開発に取り組むことで、コア事業の強化と周辺事業への展開および川下化を推進しております。当連結会計年度において、2018年6月、化学農薬の発明や開発を加速するため、健康・農業関連事業研究所内に合成研究棟「ケミストリーリサーチセンター」を新設し、稼働を開始しました。また、バイオラショナル製品の開発に強みを持つベーラント バイオサイエンス LLC(当社100%子会社)は、2018年7月、米国イリノイ州の同本社近接地に建設した新施設「バイオラショナルリサーチセンター」の稼働を開始しました。国内農業関連事業については、2年後の上市を目指して新規殺菌剤メチルテトラプロールを含む農薬の登録申請を昨秋実施したほか、今後農業場面での普及が見込まれるドローン散布に対応した剤型(FG剤)の水稲用除草剤の登録申請を昨夏実施するなど、農薬・肥料製品ラインナップの更なる拡充を推進しております。また、コメ事業についても事業の本格化に向けた良食味や多収等の特徴を有する新品種の開発を加速しております。さらに、種子・種苗、潅水資材等を取り扱う住化農業資材株式会社や青果流通事業を行う住化アグロソリューションズ株式会社などのグループ会社と連携しながら、農業生産者への総合的なソリューションの研究開発を進めております。海外農業関連事業においても、新規殺菌剤であるインピルフルキサムやメチルテトラプロールの早期事業化に向けてグローバル開発を進めており、本年度は両殺菌剤の欧州での農薬登録申請を実施しました。事業拡大を目指した他社との協業については、ニューファーム社との間でドイツ、イギリスおよびポーランドでの新規殺菌剤メチルテトラプロールに関する業務提携(販売・開発・製造)に合意しました。さらに、バイエル社(旧モンサント社)と2016年に合意した雑草防除体系の創出プロジェクト(当社が新規除草剤、バイエル社が耐性作物の開発を担当)、コルテバ・アグリサイエンス社(旧ダウ・デュポン社)と2017年に合意した種子処理技術の開発、登録、商業化プロジェクトにも引き続き取り組んでおります。生活環境事業については、重点強化領域の市場セグメントにおける新製品開発と川下化を推進しております。天然物由来製品への強い市場ニーズに応えるため、グループ会社であるMGK社やボタニカル・リソーシズ・オーストラリア社と共同で、天然由来の有効成分からなるボタニカル殺虫剤の開発も推進しました。業務用殺虫剤分野では、作用性の異なる複数の有効成分を配合することで即効性や抵抗性害虫への効果、残効性等の優れた機能を持たせた新製品を上市しました。熱帯感染症分野では、ピレスロイド抵抗性媒介蚊に有効なマラリア対策用室内残留散布剤を上市するとともに幼虫防除用新製品の開発・登録を進め、総合防除のための製品ラインナップ拡充を進めております。アニマルニュートリション事業については、競争力強化のためメチオニンの新しい製法の開発やプロセス改善に加え、製品ラインナップ拡充のため、飼料添加物分野における新規商材の開発に取り組んでおります。また、近年問題となっている家畜排泄物由来の温室効果ガスの低減を目的として、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構や国内大学などとの共同研究プロジェクトに参画し、引き続きメチオニンを含むアミノ酸バランス改善飼料の技術普及を推進しております。医薬化学品事業については、当社の有機合成プロセスの技術力を駆使したジェネリック原薬の製法開発、および新薬の受託製造品目の拡充に取り組んでおります。また、将来の成長が見込まれる核酸医薬原薬の製造において、GMP(Good Manufacturing Practice)体制のより一層の整備を進めるとともに、長鎖オリゴ核酸の製造を中心に、競争力のある要素技術の獲得、独自技術の拡張を目的とした研究開発を推進しております。
なお、健康・農業関連事業部門における当連結会計年度の研究開発費は293億円であります。
医薬品分野では、精神神経領域、がん領域および再生・細胞医薬分野を研究重点領域とし、また、感染症領域にも取り組み、グローバルヘルスへの貢献を目指し、大日本住友製薬株式会社および日本メジフィジックス株式会社が有する自社技術を活かした研究開発に加え、技術ライセンス、ベンチャー企業やアカデミアとの共同研究などによる最先端の外部技術の導入にも取り組み、優れた医薬品の継続的な創製を目指しております。
当連結会計年度においては、精神神経領域で次の進展がありました。①ルラシドン塩酸塩(開発コード:SM-13496)について、2019年1月、中国において統合失調症を対象とした承認を取得しました。②「トレリーフ」(一般名:ゾニサミド)について、2018年7月、日本においてレビー小体型認知症(DLB)に伴うパーキンソニズムの効能・効果を追加する一部変更承認を取得しました。③「ロナセン」(一般名:ブロナンセリン)について、日東電工株式会社と共同開発中のテープ製剤の承認申請を、2018年7月、日本において統合失調症を対象に行いました。④dasotraline(開発コード:SEP-225289)について、米国において成人および小児の注意欠如・多動症(ADHD)を対象とした承認申請をしておりましたが、2018年8月に米国食品医薬品局(FDA)から受領した審査結果通知において、FDAは、現時点では本剤をADHDの適応症として承認できないと判断し、本剤の有効性および忍容性をさらに評価するために追加の臨床データが必要であることを示しました。現在、開発方針を検討中です。また、米国において、過食性障害(BED)を対象としたフェーズ3試験に関して、主要評価項目を達成するとともに、良好な忍容性を示す結果を得ました。⑤アポモルヒネ塩酸塩水和物(開発コード:APL-130277)について、米国において、パーキンソン病に伴うオフ症状を対象とした承認申請をしておりましたが、2019年1月にFDAから受領した審査結果通知において、FDAは、現時点では本剤を承認できないと判断し、本剤の追加の情報および解析を要求しましたが、新たな臨床試験は求められておりません。2019年度に再申請を行う予定です。⑥SEP-363856について、米国において、統合失調症を対象としたフェーズ2試験に関して、主要評価項目を達成するとともに、良好な忍容性を示す結果を得ました。
がん領域では、ナパブカシンについて結腸直腸がんおよび膵がんを対象とした併用での国際共同フェーズ3試験を引き続き推進しました。また、造血幹細胞移植前治療薬「リサイオ」(一般名:チオテパ)について、2019年3月、日本において小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療(単剤)を対象とした承認を取得し、さらに同月、日本において悪性リンパ腫における自家造血幹細胞移植の前治療(単剤)を対象とした承認申請を行いました。
再生・細胞医薬分野では、引き続き、産学の連携先と、加齢黄斑変性、パーキンソン病、網膜色素変性、脊髄損傷などを対象に、他家iPS細胞を用いた再生・細胞医薬事業を推進します。当連結会計年度の進捗は以下の通りです。①SB623について、米国における慢性期脳梗塞を対象として実施したフェーズ2b試験において、主要評価項目を達成できませんでした。現在、本試験の詳細解析を実施しており、その結果を踏まえてサンバイオ社とともに今後の開発方針を決定する予定です。②他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞について、日本において京都大学医学部附属病院および京都大学iPS細胞研究所(CiRA)がiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病を対象とした医師主導治験を開始しました。大日本住友製薬株式会社では、本試験結果を用いて承認申請を行う予定です。
感染症領域では、アカデミアなどとの共同研究により、薬剤耐性菌感染症治療薬ならびに大日本住友製薬株式会社のワクチンアジュバントを基盤としたマラリアワクチンおよび万能インフルエンザワクチンの創薬研究を展開しています。
放射性医薬品については、前連結会計年度において、日本医療研究開発機構(AMED)による「医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)」の研究開発課題として採択されたセラノスティクス(治療と診断の融合)薬剤開発プロジェクト「CRADLE(Consortium for Radiolabeled Drug Leadership)」を日本メジフィジックス株式会社が中心となって推進しています。2018年10月には、本プロジェクトの開発拠点となる設備の建設を開始しました。初期段階の研究については、高性能コンピュータを駆使したインシリコ創薬技術、iPS細胞などの最先端のサイエンスを取り入れた創薬に取り組んでいます。また、国内外の大学を含む研究機関等との研究提携も積極的に推進しております。さらに、医薬品以外のヘルスケア領域において、社会課題解決のための新たなソリューションを提供することを目的として、フロンティア事業の立ち上げを目指し、その一環として2018年10月に株式会社メルティンとの間で共同研究開発契約を、2019年2月には株式会社Aikomiとの間で共同研究契約を締結しました。
なお、医薬品部門における当連結会計年度の研究開発費は851億円であります。
全社共通およびその他の研究分野においては、上記5事業分野の事業領域を外縁部へ積極拡大するための研究およびマテリアルズ・インフォマティクス等の計算機科学をはじめとする共通基盤技術開発とともに、既存事業の枠に属さない新規事業分野への展開を図るべく、環境・エネルギー、ICT、ライフサイエンスの各分野において研究開発に取り組んでおります。当連結会計年度においては、次の進展がありました。ICT分野では、高分子有機EL材料の性能向上のための開発を継続した結果、パネルで発現される性能が実用的なレベルに達し、印刷法による中型パネル製造への材料提供を開始しました。また、有機フォトダイオード(OPD)材料を用いた指紋認証デバイスの共同開発が大きく進展しました。環境・エネルギー分野では、高分子有機EL照明において、フレキシブル基板ベースの一般照明パネルの開発、および生産プロセスの検討を継続して実施しました。ライフサイエンス分野においては、培養細胞を用いた、生体を使わない化学品安全性評価システムの構築に取り組んでおります。さらに上記3分野のうち、複数の分野の技術を融合させた研究開発も進めております。例えば、3分野にまたがった研究開発としては、プリンテッド・エレクトロニクス技術の応用展開に注力し、開発を加速しております。
なお、全社共通部門における当連結会計年度の研究開発費は162億円であります。
このように、事業拡大および競争力強化を図るべく、新製品・新技術の研究開発および既存製品の高機能化・既存技術の一層の向上に取り組み、各事業分野におきまして着実に成果を挙げつつあります。