有価証券報告書-第129期(2023/04/01-2024/03/31)
対処すべき課題
当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当社グループは『グループの総合力を最大限に高め、社会のニーズにタイムリーに応える事業活動を展開する。以て盤石な経営基盤を構築し社会的貢献を希求する』ことを経営理念としております。
当社の創業は、鉛含有の白粉(おしろい)による健康被害が問題視されていた中、無鉛白粉の原料である酸化亜鉛の製造法の開発に成功したことから始まります。以来、思いやりの心と技術革新で社会の快適と安心を支える素材(マテリアル)づくりにこだわってきました。
培った化学技術により生まれる素材(マテリアル)をベースとし、各ステークホルダーとともに持続可能なやさしい未来社会を実現する、この目的に向かって創造を続ける会社であることが私たちのミッションです。
このミッションを実現するために、社員が日々ワクワクして働いてこそ、価値ある創造が継続できるとの考えより、働く社員が能動的で躍動感に溢れる「わくわくカンパニー」を目指しています。
(2)経営環境
当社グループは、国内連結子会社8社、国内非連結子会社1社、海外連結子会社8社、海外非連結子会社1社からなります。うち医療セグメントに分類される子会社は1社、その他は全て化学セグメントに属します。また、堺商事および堺商事傘下の海外子会社6社以外は製造子会社です。堺化学および各製造子会社は、特徴のある製品・技術ノウハウを保有し、そのビジネスモデル・ビジネス領域も多種多様です。各社の特徴を伸ばしていくとともにグループガバナンスの強化を行い、グループ間シナジーの発現、業務の効率化など最大のパフォーマンスが発揮できるよう努めています。
化学事業は、原燃料価格の高止まり、中国の景気減退等の影響を受けました。成長事業である電子材料は、PC、スマートフォンといった民生品の需要回復が低調に推移し、在庫調整はある程度進んだものの、誘電体、誘電体材料の販売は緩やかな回復にとどまりました。また、他のセグメントにおいても、景気低迷の影響で販売数量が伸びず、製造コストの上昇をもたらしました。
一方の、UVケアおよびメイク関連向けの化粧品材料は、国内向けは回復基調にあるものの、欧米での在庫調整や中国の景気減退の影響を受けました。
また、医薬品原薬・中間体、プラスチックレンズ向け製品などの有機化学品は、景気後退の影響を受けにくく、引き続き堅調に推移しました。
医療事業については、昨年度に続き、新型コロナ感染拡大による行動制限の影響が長引いたことに加え薬価改定の影響も受け、昨年同様の厳しい業績となりました。
当社グループ全体では、下半期からの景気回復による販売数量の増加を見込んでおりましたが、事業環境が低調に推移したことにより、前期比、当初見込み比ともに利益を大きく引き下げました。
(3)中期的な経営戦略と目標とする経営指標
当社グループは上記経営環境を認識し、2019年にスタートさせた中期経営計『SAKAINNOVATION 2023』の数値目標達成と持続的成長を目指して取り組んでまいりましたが、最終年度の数値目標は達成することができませんでした。当社グループは2024年にスタートさせたグループ中期経営計画『変革・BEYOND2030』において変革を通じて弊社のミッションである「化学でやさしい未来づくり」 をこれまで以上に体現すべく、強い決意を以て取り組んでまいります。
『変革・BEYOND2030』で重点的に取り組む項目は以下のとおりとし、中長期的には「Smart Material®で社会に貢献できるエクセレントカンパニー」を目指します。
①高付加価値品シフトを企図した事業ポートフォリオ入替え
顔料級酸化チタンの事業終了を皮切りに、他製品の安定・成長事業化も進め、「変革・BEYOND2030」において効率化を検討する事業はなくします。
1.顔料級酸化チタン事業終了と構造改革
・顔料級酸化チタンは設備投資効率が低く、生産工程における環境負荷も高い事業のため、2026年3月期に事業を終了します
・顔料級酸化チタンの事業終了に向けて、構造改革(固定費削減、価格是正など)を進めます
2.成長事業へのリソース集中、M&Aによる事業拡大
・電子材料、化粧品材料に加えて、有機化学品を新たな成長ドライバーと位置づけ、既存事業の成長投資とM&A活用で、更なる利益成長を目指します
電子材料は、収益性の高いハイエンド品の更なる拡販と収益拡大が見込めるミドルエンド品のシェア取り込みで市場成長を超えた成長を実現していきます。
化粧品材料は、サンスクリーン剤の増産投資は一巡したことから、超微粒子酸化亜鉛で海外(特に欧州化粧品メーカー)の需要を取り込み、利益成長を目指します。さらに将来における収益貢献に向けたメイク用途材料の先行投資を実施します。
有機化学品は、市場内でも特に高い成長率が見込まれる高屈折タイプのメガネレンズ材料に対し、トップシェアポジションの強化に向けたリソース投入を行います。また、医薬品原薬・中間体は、増設による既存受託品の更なる拡販で、利益成長を目指します。
3.ベストオーナーの見極め、将来への種蒔き
グループ会社を含め、各事業のベストオーナーが当社であるかを見極めます。また、将来に向けた種蒔きのため、R&D活動を積極的に進めます。
医療事業は、品質問題を受け、GQP・GMP体制の立て直し、組織文化の変革を目指します。また、薬価改定の影響を受けない新規事業の育成、推進を進めます。
4.研究開発活動
当社グループではSmart Material®認定製品・サービスを2030年度までに5件上市することを目標としています。「自然を守る」、「高度情報化社会の発展を支える」、「人々の健康を支える」ために、環境・エネルギー、エレクトロニクス、ライフサイエンス・ヘルスケア分野において、Smart Material®認定製品・サービスで社会に貢献することを目指します。そのために、継続的な研究開発への投資を行っていきます。
②資本コストを上回るROEの達成・PBR改善
2027年3月期のROE目標8%の達成に向けて、事業ポートフォリオ変革による高付加価値品へのシフト、資産の圧縮、資本効率の向上を進め、PBRの改善へつなげます。
1.事業ポートフォリオ変革により高付加価値品へのシフト
成長事業への展開を加速し、顔料級酸化チタンの事業を2026年3月期に終了します。
2.資産の圧縮(キャッシュ・フロー改善)
キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)の改善をすることで、中期経営計画期間(3年間)で運転資金70億円の圧縮を実現します。また、有効活用されていない固定資産の売却を実施します。
3.資本効率の向上
成長事業へのM&Aを含む積極投資を行います。また、DOE3%を目安として、安定的、継続的な配当を行うとともに、機動的な自己株買いを実施します。
③マテリアリティ推進・非財務面の取り組み加速
1.品質・安全問題の再発防止策の徹底
子会社のカイゲンファーマにおける薬機法違反、湯本工場の爆発火災事故、小名浜事業所の火災等、重大な品質・安全問題が発生した事を重く受け止め、現在グループ全体で再発防止に向けた取り組みを進めております。
2. 人的資本経営の取り組みの推進
2024年4月にサスティナビリティ委員会の傘下に人的資本部会を設置しました。当社は、社員が個人・組織課題の解決に向けて主体的に動くことで、社員一人ひとりが自分・仲間を信頼し、持続的に成長できる強い企業になることを目指します。
④キャピタル・アロケーション

⑤主要なKPI一覧

(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループは2027年3月期を最終年度とする新中期経営計画「変革・BEYOND2030」をスタートさせました。当計画は、2030年から更にその先の将来に向けた「変革」のステージの3年間と位置づけております。今後は、収益性、投資効率が高い事業へ設備投資や人的資源を集中的に投下し、事業ポートフォリオを組み換え、高収益な企業へ変革するための構造改革を実施します。
また、成長事業として位置づけております化粧品材料事業につきましては、海外、特に欧州を中心に化粧品トップメーカーに対し販売を強化するとともに、UVケア商材だけではなくメイクアップ商材への先行投資を行ってまいります。また電子材料事業につきましては誘電体のハイエンド品やミドルエンド品のシェアアップによって、電子材料市場の市場成長を超える成長を目指します。
なお、2024年3月期末時点においても十分な自己資本を維持しております。加えて、長期借入やコミットメントライン等、金融機関から十分な支援を受けられていることから、当連結会計年度以降の営業キャッシュ・フローを含め、当面の資金繰りについても盤石な体制を維持できると考えております。経営環境の激変に備え全社的なコスト削減、棚卸資産の圧縮、キャッシュ・マネジメント・システムによるグループ資金の運用効率化等の対策を打ち、財務の健全性確保に努めると同時に、今後のビジネス環境の変化を注意深く見極め、適切に対応してまいります。
有機化学品や衛生材料は堅調を維持するものと見ておりますが、中国における景気減退、ロシアのウクライナ侵攻によるサプライチェーンの混乱とそれに伴う景気の停滞が継続しております。現状は、幅広い用途に使用されている酸化チタンやバリウム製品等がこれらの影響を大きく受けております。加えて、原燃料高騰と円安がもたらす製造コストの上昇は、主要な原料鉱石を輸入している当社にとって免れ得ないものと認識しており、適正な販売価格の設定、収率の改善、製造設備の集約等、更なる製造コスト削減により業績の維持向上に努めてまいります。
(化学事業)
電子材料(成長事業)
中国経済の景気低迷の長期化、それに伴うサプライチェーンの各所での積層セラミックコンデンサ(MLCC)の在庫調整の影響により、誘電体材料(高純度炭酸バリウム)と誘電体(チタン酸バリウム)の販売が当初計画より大幅に減少しました。2023年度下期以降、市場は徐々に回復していますが、完全回復には時間を要するものと見込まれます。市況を正しく判断し、機会を逃すことなく事業拡大してまいります。
また、誘電体材料は価格改定を進め採算是正に取り組み、誘電体は新製品によるハイエンド・ミドルエンド市場のシェア拡大を図ってまいります。
化粧品材料(成長事業)
中国のトラベルリテールの減速及び景気軟化の影響を受け、化粧品市場は低迷し、当社の主力であるUVケア化粧品材料で使用される超微粒子酸化亜鉛・酸化チタンもその影響を受けました。UVケア化粧品材料については、当社の表面処理技術ならびに処方提案力を訴求し、海外化粧品メーカーへの拡販に努めてまいります。また、UVケア化粧品材料のみならず、メイクアップ、スキンケア化粧品材料全般に、機能性、意匠性等に優れた無機材料を提供すべく、引き続き材料、処方開発に取り組むとともに、戦略的な設備投資も行ってまいります。
酸化チタン・亜鉛製品(効率化検討事業)
酸化チタンは、原燃料の高騰に一服感が出たものの、国内への海外安価品の流入があり、販売量が減少しました。それに伴い生産量を減少させたため製造原価の固定費が上昇し、採算性が悪化しました。設備投資効率が低く、生産工程における環境負荷の高い顔料級酸化チタン製品は、2026年3月期に事業を終了する予定です。これに伴い発生する余剰人員については事業所内で再配置を行い、成長事業に設備投資や人的資源を一層集中いたします。
樹脂添加剤(効率化検討事業)
塩ビ安定剤は、環境に優しい非鉛系安定剤の積極的な展開を図ると同時に、国内の鉛系安定剤からの撤退、併せて原材料高騰に合わせた適正価格への値上げを推進し、収益性の改善を継続的に行ってまいります。
また、塩ビ需要の拡大が期待できる海外(特に東南アジア地域)へは、当社の非鉛系安定剤の配合技術を駆使し、ベトナム、タイの現地法人と協力して、グローバルに新規採用、シェア拡大に努め、事業の海外シフト化を進めることで安定事業への移行を図ります。
衛生材料(安定事業)
紙おむつ、生理用ナプキン、ペットシート等の材料について、世界中の信頼できる供給元との関係を一層強化し、グローバルに販売活動を展開しております。
また、子会社であり、通気性フィルムを生産するPT.S&S HYGIENE SOLUTION(インドネシア)は、品質、コスト競争力の更なる向上に取り組んでおり、生産活動も行う商社として、お客様の信頼を高めてまいります。
有機化学品(安定事業)
有機イオウ製品およびリン製品は、高品質と安定供給に努めるとともに、伸長が予想されるメガネレンズ市場の中でも高屈折タイプ製品への積極的な展開を図ってまいります。
医薬品原薬・中間体の生産受託は、受託品目、受託数量増加を視野に入れ、生産要員確保、品質管理等の体制整備を進めました。また、将来の新規案件獲得に向け、CDMO化に向けた研究設備の拡充、製造ラインの増強ならびに製品倉庫の拡充を進めており、2025年3月期中に稼働する予定です。
これら技術・品質を強みとしたニッチトップ戦略の推進により、無機化学と共に両翼を担う事業への成長を目指します。
触 媒(効率化検討事業)
衛生材料向け部材等の分野で水添石油樹脂の需要拡大が期待されています。ニッケル触媒はその製造工程で使用されており、顧客の品質要求に応えるべく、性能の改良や生産効率の向上により、他社との差別化を図ってまいります。
脱硝触媒は、環境対策としてごみ焼却炉施設の普及が進む東南アジア地域や中国等への営業活動を進めてまいります。
その他、低炭素化社会実現のためのカーボンニュートラルに関連した企業との協業で、新規触媒の開発と拡販にも注力してまいります。併せて、生産拠点整理・価格是正により安定事業への移行を図ります。
受託加工(安定事業)
受託加工事業に対する顧客からのニーズは、近年多種多様でより高度なものになり、それらニーズに対して迅速かつ確実に対応できるよう、保有設備の拡充、生産管理の高度化、人材育成等を図り、より信頼される受託体制を構築しています。また、昨今の原燃料や物流費の高騰等による採算悪化に対しては、製販一体となり在庫圧縮、原材料見直し、生産効率化等の取り組みを継続し改善に努めてまいります。
(医療事業)
当社子会社のカイゲンファーマ株式会社における品質不正に対する再発防止に向けた取り組みについて、全社組織の改編と仕組みの整備、リソース管理とジョブローテーションの推進、役職員に対する教育の強化、法令遵守管理体制の整備を進めております。当社からは医薬品のGMP管理の知見がある取締役を派遣し、改善の実施状況をモニタリングしております。
上記に取り組むとともに、医療用医薬品、医療機器、一般用医薬品、機能性食品ならびに美容医療向け製品等、これまで培った販路・商流を活用できる商品ラインアップの拡充に注力します。また、産学連携の枠組みを活用した大学との共同研究を積極的に推進するほか、新素材、新技術、新プラットフォームを有するスタートアップ企業を探索し、業務・資本提携を含めたビジネス協業関係の構築を図ります。
医療用医薬品
バリウム造影剤は、需要が漸減する国内市場においては顧客ニーズへの対応力を強化する一方、輸出については韓国、台湾等への拡販に努め、国内外の販売合計で事業規模の維持を図っております。新型コロナウイルスの影響を受け集団検診の延期または受診控えにより販売量が減少しました。検診自体は、がんの早期発見の観点からもその必要性は変わりありませんが、コロナ禍前の状態には完全に戻らず、1割程度の減少が見られるほか、品質問題の影響で他社品への移行が見られました。業務改善により信頼回復に努めてシェアの回復を図ると共に、薬価加算を受けての価格転嫁により収益性の改善を目指します。
医療機器
内視鏡洗浄消毒器は、耳鼻咽喉科領域でのエビデンスを取得し、新たな領域として展開を進めております。消耗品の原材料高騰による影響は製品価格に転嫁することができ、収益性が改善しました。
2019年6月に上市した内視鏡用の粘膜下注入材「リフタルK」は、大学病院、官公立病院からクリニックまで営業強化を図った結果、目標とした30%のシェアに近づいてきており、更に拡販に注力してまいります。
また、胸部X線診断支援AIシステムと胸部CT診断支援AIシステム、下部消化管内視鏡診断支援AIシステムに加え、新たに開業医市場に適した胸部X線診断支援AIシステムの取扱いも予定しております。
緑内障検査装置「アイモscan」は健診施設向けに販売を行っております。学会等でも高評価で、緑内障等による視野異常の早期発見に貢献します。
一般用医薬品・その他
一般用医薬品の収益力強化と事業改革のため、販売ルートおよび商品ラインアップの整理、新商品と新商流の開拓などの活動を積極的に展開します。またかぜ薬「改源」が2024年に発売100周年を迎えることを記念して、生薬を配合した揉み出しタイプの入浴剤「改源の湯」(医薬部外品)を発売し、好評を博しています。
新事業領域として取り組んできた美容医療向け事業は、新型コロナウイルスの影響下にあっても紫外線対策サプリ「ソルプロ」シリーズを中心に順調に売上を伸ばしており、今後も新製品を投入し拡大を図ります。
また、エルゴチオネイン配合の認知症予防サプリメント「メモエル」は、自社ECサイトでの販売に加えて開始したB to Bビジネスの展開を進め、拡販に注力してまいります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当社グループは『グループの総合力を最大限に高め、社会のニーズにタイムリーに応える事業活動を展開する。以て盤石な経営基盤を構築し社会的貢献を希求する』ことを経営理念としております。
当社の創業は、鉛含有の白粉(おしろい)による健康被害が問題視されていた中、無鉛白粉の原料である酸化亜鉛の製造法の開発に成功したことから始まります。以来、思いやりの心と技術革新で社会の快適と安心を支える素材(マテリアル)づくりにこだわってきました。
培った化学技術により生まれる素材(マテリアル)をベースとし、各ステークホルダーとともに持続可能なやさしい未来社会を実現する、この目的に向かって創造を続ける会社であることが私たちのミッションです。
このミッションを実現するために、社員が日々ワクワクして働いてこそ、価値ある創造が継続できるとの考えより、働く社員が能動的で躍動感に溢れる「わくわくカンパニー」を目指しています。
(2)経営環境
当社グループは、国内連結子会社8社、国内非連結子会社1社、海外連結子会社8社、海外非連結子会社1社からなります。うち医療セグメントに分類される子会社は1社、その他は全て化学セグメントに属します。また、堺商事および堺商事傘下の海外子会社6社以外は製造子会社です。堺化学および各製造子会社は、特徴のある製品・技術ノウハウを保有し、そのビジネスモデル・ビジネス領域も多種多様です。各社の特徴を伸ばしていくとともにグループガバナンスの強化を行い、グループ間シナジーの発現、業務の効率化など最大のパフォーマンスが発揮できるよう努めています。
化学事業は、原燃料価格の高止まり、中国の景気減退等の影響を受けました。成長事業である電子材料は、PC、スマートフォンといった民生品の需要回復が低調に推移し、在庫調整はある程度進んだものの、誘電体、誘電体材料の販売は緩やかな回復にとどまりました。また、他のセグメントにおいても、景気低迷の影響で販売数量が伸びず、製造コストの上昇をもたらしました。
一方の、UVケアおよびメイク関連向けの化粧品材料は、国内向けは回復基調にあるものの、欧米での在庫調整や中国の景気減退の影響を受けました。
また、医薬品原薬・中間体、プラスチックレンズ向け製品などの有機化学品は、景気後退の影響を受けにくく、引き続き堅調に推移しました。
医療事業については、昨年度に続き、新型コロナ感染拡大による行動制限の影響が長引いたことに加え薬価改定の影響も受け、昨年同様の厳しい業績となりました。
当社グループ全体では、下半期からの景気回復による販売数量の増加を見込んでおりましたが、事業環境が低調に推移したことにより、前期比、当初見込み比ともに利益を大きく引き下げました。
(3)中期的な経営戦略と目標とする経営指標
当社グループは上記経営環境を認識し、2019年にスタートさせた中期経営計『SAKAINNOVATION 2023』の数値目標達成と持続的成長を目指して取り組んでまいりましたが、最終年度の数値目標は達成することができませんでした。当社グループは2024年にスタートさせたグループ中期経営計画『変革・BEYOND2030』において変革を通じて弊社のミッションである「化学でやさしい未来づくり」 をこれまで以上に体現すべく、強い決意を以て取り組んでまいります。
『変革・BEYOND2030』で重点的に取り組む項目は以下のとおりとし、中長期的には「Smart Material®で社会に貢献できるエクセレントカンパニー」を目指します。
①高付加価値品シフトを企図した事業ポートフォリオ入替え
顔料級酸化チタンの事業終了を皮切りに、他製品の安定・成長事業化も進め、「変革・BEYOND2030」において効率化を検討する事業はなくします。
1.顔料級酸化チタン事業終了と構造改革
・顔料級酸化チタンは設備投資効率が低く、生産工程における環境負荷も高い事業のため、2026年3月期に事業を終了します
・顔料級酸化チタンの事業終了に向けて、構造改革(固定費削減、価格是正など)を進めます
2.成長事業へのリソース集中、M&Aによる事業拡大
・電子材料、化粧品材料に加えて、有機化学品を新たな成長ドライバーと位置づけ、既存事業の成長投資とM&A活用で、更なる利益成長を目指します
電子材料は、収益性の高いハイエンド品の更なる拡販と収益拡大が見込めるミドルエンド品のシェア取り込みで市場成長を超えた成長を実現していきます。
化粧品材料は、サンスクリーン剤の増産投資は一巡したことから、超微粒子酸化亜鉛で海外(特に欧州化粧品メーカー)の需要を取り込み、利益成長を目指します。さらに将来における収益貢献に向けたメイク用途材料の先行投資を実施します。
有機化学品は、市場内でも特に高い成長率が見込まれる高屈折タイプのメガネレンズ材料に対し、トップシェアポジションの強化に向けたリソース投入を行います。また、医薬品原薬・中間体は、増設による既存受託品の更なる拡販で、利益成長を目指します。
3.ベストオーナーの見極め、将来への種蒔き
グループ会社を含め、各事業のベストオーナーが当社であるかを見極めます。また、将来に向けた種蒔きのため、R&D活動を積極的に進めます。
医療事業は、品質問題を受け、GQP・GMP体制の立て直し、組織文化の変革を目指します。また、薬価改定の影響を受けない新規事業の育成、推進を進めます。
4.研究開発活動
当社グループではSmart Material®認定製品・サービスを2030年度までに5件上市することを目標としています。「自然を守る」、「高度情報化社会の発展を支える」、「人々の健康を支える」ために、環境・エネルギー、エレクトロニクス、ライフサイエンス・ヘルスケア分野において、Smart Material®認定製品・サービスで社会に貢献することを目指します。そのために、継続的な研究開発への投資を行っていきます。
②資本コストを上回るROEの達成・PBR改善
2027年3月期のROE目標8%の達成に向けて、事業ポートフォリオ変革による高付加価値品へのシフト、資産の圧縮、資本効率の向上を進め、PBRの改善へつなげます。
1.事業ポートフォリオ変革により高付加価値品へのシフト
成長事業への展開を加速し、顔料級酸化チタンの事業を2026年3月期に終了します。
2.資産の圧縮(キャッシュ・フロー改善)
キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)の改善をすることで、中期経営計画期間(3年間)で運転資金70億円の圧縮を実現します。また、有効活用されていない固定資産の売却を実施します。
3.資本効率の向上
成長事業へのM&Aを含む積極投資を行います。また、DOE3%を目安として、安定的、継続的な配当を行うとともに、機動的な自己株買いを実施します。
③マテリアリティ推進・非財務面の取り組み加速
1.品質・安全問題の再発防止策の徹底
子会社のカイゲンファーマにおける薬機法違反、湯本工場の爆発火災事故、小名浜事業所の火災等、重大な品質・安全問題が発生した事を重く受け止め、現在グループ全体で再発防止に向けた取り組みを進めております。
2. 人的資本経営の取り組みの推進
2024年4月にサスティナビリティ委員会の傘下に人的資本部会を設置しました。当社は、社員が個人・組織課題の解決に向けて主体的に動くことで、社員一人ひとりが自分・仲間を信頼し、持続的に成長できる強い企業になることを目指します。
④キャピタル・アロケーション

⑤主要なKPI一覧

(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループは2027年3月期を最終年度とする新中期経営計画「変革・BEYOND2030」をスタートさせました。当計画は、2030年から更にその先の将来に向けた「変革」のステージの3年間と位置づけております。今後は、収益性、投資効率が高い事業へ設備投資や人的資源を集中的に投下し、事業ポートフォリオを組み換え、高収益な企業へ変革するための構造改革を実施します。
また、成長事業として位置づけております化粧品材料事業につきましては、海外、特に欧州を中心に化粧品トップメーカーに対し販売を強化するとともに、UVケア商材だけではなくメイクアップ商材への先行投資を行ってまいります。また電子材料事業につきましては誘電体のハイエンド品やミドルエンド品のシェアアップによって、電子材料市場の市場成長を超える成長を目指します。
なお、2024年3月期末時点においても十分な自己資本を維持しております。加えて、長期借入やコミットメントライン等、金融機関から十分な支援を受けられていることから、当連結会計年度以降の営業キャッシュ・フローを含め、当面の資金繰りについても盤石な体制を維持できると考えております。経営環境の激変に備え全社的なコスト削減、棚卸資産の圧縮、キャッシュ・マネジメント・システムによるグループ資金の運用効率化等の対策を打ち、財務の健全性確保に努めると同時に、今後のビジネス環境の変化を注意深く見極め、適切に対応してまいります。
有機化学品や衛生材料は堅調を維持するものと見ておりますが、中国における景気減退、ロシアのウクライナ侵攻によるサプライチェーンの混乱とそれに伴う景気の停滞が継続しております。現状は、幅広い用途に使用されている酸化チタンやバリウム製品等がこれらの影響を大きく受けております。加えて、原燃料高騰と円安がもたらす製造コストの上昇は、主要な原料鉱石を輸入している当社にとって免れ得ないものと認識しており、適正な販売価格の設定、収率の改善、製造設備の集約等、更なる製造コスト削減により業績の維持向上に努めてまいります。
(化学事業)
電子材料(成長事業)
中国経済の景気低迷の長期化、それに伴うサプライチェーンの各所での積層セラミックコンデンサ(MLCC)の在庫調整の影響により、誘電体材料(高純度炭酸バリウム)と誘電体(チタン酸バリウム)の販売が当初計画より大幅に減少しました。2023年度下期以降、市場は徐々に回復していますが、完全回復には時間を要するものと見込まれます。市況を正しく判断し、機会を逃すことなく事業拡大してまいります。
また、誘電体材料は価格改定を進め採算是正に取り組み、誘電体は新製品によるハイエンド・ミドルエンド市場のシェア拡大を図ってまいります。
化粧品材料(成長事業)
中国のトラベルリテールの減速及び景気軟化の影響を受け、化粧品市場は低迷し、当社の主力であるUVケア化粧品材料で使用される超微粒子酸化亜鉛・酸化チタンもその影響を受けました。UVケア化粧品材料については、当社の表面処理技術ならびに処方提案力を訴求し、海外化粧品メーカーへの拡販に努めてまいります。また、UVケア化粧品材料のみならず、メイクアップ、スキンケア化粧品材料全般に、機能性、意匠性等に優れた無機材料を提供すべく、引き続き材料、処方開発に取り組むとともに、戦略的な設備投資も行ってまいります。
酸化チタン・亜鉛製品(効率化検討事業)
酸化チタンは、原燃料の高騰に一服感が出たものの、国内への海外安価品の流入があり、販売量が減少しました。それに伴い生産量を減少させたため製造原価の固定費が上昇し、採算性が悪化しました。設備投資効率が低く、生産工程における環境負荷の高い顔料級酸化チタン製品は、2026年3月期に事業を終了する予定です。これに伴い発生する余剰人員については事業所内で再配置を行い、成長事業に設備投資や人的資源を一層集中いたします。
樹脂添加剤(効率化検討事業)
塩ビ安定剤は、環境に優しい非鉛系安定剤の積極的な展開を図ると同時に、国内の鉛系安定剤からの撤退、併せて原材料高騰に合わせた適正価格への値上げを推進し、収益性の改善を継続的に行ってまいります。
また、塩ビ需要の拡大が期待できる海外(特に東南アジア地域)へは、当社の非鉛系安定剤の配合技術を駆使し、ベトナム、タイの現地法人と協力して、グローバルに新規採用、シェア拡大に努め、事業の海外シフト化を進めることで安定事業への移行を図ります。
衛生材料(安定事業)
紙おむつ、生理用ナプキン、ペットシート等の材料について、世界中の信頼できる供給元との関係を一層強化し、グローバルに販売活動を展開しております。
また、子会社であり、通気性フィルムを生産するPT.S&S HYGIENE SOLUTION(インドネシア)は、品質、コスト競争力の更なる向上に取り組んでおり、生産活動も行う商社として、お客様の信頼を高めてまいります。
有機化学品(安定事業)
有機イオウ製品およびリン製品は、高品質と安定供給に努めるとともに、伸長が予想されるメガネレンズ市場の中でも高屈折タイプ製品への積極的な展開を図ってまいります。
医薬品原薬・中間体の生産受託は、受託品目、受託数量増加を視野に入れ、生産要員確保、品質管理等の体制整備を進めました。また、将来の新規案件獲得に向け、CDMO化に向けた研究設備の拡充、製造ラインの増強ならびに製品倉庫の拡充を進めており、2025年3月期中に稼働する予定です。
これら技術・品質を強みとしたニッチトップ戦略の推進により、無機化学と共に両翼を担う事業への成長を目指します。
触 媒(効率化検討事業)
衛生材料向け部材等の分野で水添石油樹脂の需要拡大が期待されています。ニッケル触媒はその製造工程で使用されており、顧客の品質要求に応えるべく、性能の改良や生産効率の向上により、他社との差別化を図ってまいります。
脱硝触媒は、環境対策としてごみ焼却炉施設の普及が進む東南アジア地域や中国等への営業活動を進めてまいります。
その他、低炭素化社会実現のためのカーボンニュートラルに関連した企業との協業で、新規触媒の開発と拡販にも注力してまいります。併せて、生産拠点整理・価格是正により安定事業への移行を図ります。
受託加工(安定事業)
受託加工事業に対する顧客からのニーズは、近年多種多様でより高度なものになり、それらニーズに対して迅速かつ確実に対応できるよう、保有設備の拡充、生産管理の高度化、人材育成等を図り、より信頼される受託体制を構築しています。また、昨今の原燃料や物流費の高騰等による採算悪化に対しては、製販一体となり在庫圧縮、原材料見直し、生産効率化等の取り組みを継続し改善に努めてまいります。
(医療事業)
当社子会社のカイゲンファーマ株式会社における品質不正に対する再発防止に向けた取り組みについて、全社組織の改編と仕組みの整備、リソース管理とジョブローテーションの推進、役職員に対する教育の強化、法令遵守管理体制の整備を進めております。当社からは医薬品のGMP管理の知見がある取締役を派遣し、改善の実施状況をモニタリングしております。
上記に取り組むとともに、医療用医薬品、医療機器、一般用医薬品、機能性食品ならびに美容医療向け製品等、これまで培った販路・商流を活用できる商品ラインアップの拡充に注力します。また、産学連携の枠組みを活用した大学との共同研究を積極的に推進するほか、新素材、新技術、新プラットフォームを有するスタートアップ企業を探索し、業務・資本提携を含めたビジネス協業関係の構築を図ります。
医療用医薬品
バリウム造影剤は、需要が漸減する国内市場においては顧客ニーズへの対応力を強化する一方、輸出については韓国、台湾等への拡販に努め、国内外の販売合計で事業規模の維持を図っております。新型コロナウイルスの影響を受け集団検診の延期または受診控えにより販売量が減少しました。検診自体は、がんの早期発見の観点からもその必要性は変わりありませんが、コロナ禍前の状態には完全に戻らず、1割程度の減少が見られるほか、品質問題の影響で他社品への移行が見られました。業務改善により信頼回復に努めてシェアの回復を図ると共に、薬価加算を受けての価格転嫁により収益性の改善を目指します。
医療機器
内視鏡洗浄消毒器は、耳鼻咽喉科領域でのエビデンスを取得し、新たな領域として展開を進めております。消耗品の原材料高騰による影響は製品価格に転嫁することができ、収益性が改善しました。
2019年6月に上市した内視鏡用の粘膜下注入材「リフタルK」は、大学病院、官公立病院からクリニックまで営業強化を図った結果、目標とした30%のシェアに近づいてきており、更に拡販に注力してまいります。
また、胸部X線診断支援AIシステムと胸部CT診断支援AIシステム、下部消化管内視鏡診断支援AIシステムに加え、新たに開業医市場に適した胸部X線診断支援AIシステムの取扱いも予定しております。
緑内障検査装置「アイモscan」は健診施設向けに販売を行っております。学会等でも高評価で、緑内障等による視野異常の早期発見に貢献します。
一般用医薬品・その他
一般用医薬品の収益力強化と事業改革のため、販売ルートおよび商品ラインアップの整理、新商品と新商流の開拓などの活動を積極的に展開します。またかぜ薬「改源」が2024年に発売100周年を迎えることを記念して、生薬を配合した揉み出しタイプの入浴剤「改源の湯」(医薬部外品)を発売し、好評を博しています。
新事業領域として取り組んできた美容医療向け事業は、新型コロナウイルスの影響下にあっても紫外線対策サプリ「ソルプロ」シリーズを中心に順調に売上を伸ばしており、今後も新製品を投入し拡大を図ります。
また、エルゴチオネイン配合の認知症予防サプリメント「メモエル」は、自社ECサイトでの販売に加えて開始したB to Bビジネスの展開を進め、拡販に注力してまいります。