有価証券報告書-第92期(平成26年1月1日-平成26年12月31日)

【提出】
2015/03/13 15:08
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128項目

対処すべき課題

当社グループは、2013-2015年中期経営計画で掲げた、「グローバル・スペシャリティファーマへの挑戦」をテーマに、「カテゴリー戦略による国内競争力の更なる強化」、「グローバル・スペシャリティファーマを目指した欧米/アジアでの事業基盤拡充」、「バイオケミカル事業の収益基盤の強化」の3つの最重要課題の達成に取り組んでいます。
当該計画においては、最終年度(2015年12月期)の経営目標修正ガイダンスを、売上高3,550億円、営業利益550億円としておりましたが、想定していた技術収入の未達や開発品の進捗に伴う研究開発費の増加等で、2015年12月期の目標値については、売上高3,540億円、営業利益415億円としております。
国内外共に新薬創出の成功確率の低下や承認審査の厳格化、医療費抑制策の進展など、医薬品産業を取り巻く環境は、大きく、そして急速に変化しており、一段と厳しい状況が続いております。特に国内においては、後発医薬品の使用促進策により、長期収載品が想定を超えるスピードで後発医薬品に置き換えられています。国内における医薬品市場の伸びが鈍化するなかで後発医薬品のシェアは着実に増加しており、研究開発志向型の製薬企業は、その収益の源泉を、従来の長期収載品依存から新薬へ、国内依存からグローバルへ、転換を進めなければなりません。
このような環境下、当社は「カテゴリー戦略」を推進し、国内競争力の一層の強化を図り、グローバル展開や持続的な成長を支えていきます。腎、がん、免疫・アレルギー、中枢神経の4つのカテゴリーで、研究開発から製造・販売まで一貫した各機能の連携を強化し、豊富なパイプラインからの新薬の着実な上市に加え、高い専門性を活かした効果的な営業体制を構築し、売上の最大化、医療現場での信頼獲得を目指します。
新製品上市のハードルがますます高くなるなか、国内において9月にはレオ ファーマ社から導入した尋常性乾癬治療剤「ドボベット」、11月には持続型G-CSF製剤「ジーラスタ」を新発売しました。また、すでに発売している製品の価値最大化を目指し、1月には、よりきめ細かな腎性貧血治療が可能になることが期待される「ネスプ注射液5μgプラシリンジ」を、5月には、小児や高齢者など錠剤を飲みにくいてんかん患者さんに対しても服用しやすく、服薬アドヒアランス(注1)向上が期待される抗てんかん剤「トピナ細粒10%」を発売しました。当社では、今後とも、カテゴリー戦略を基軸に医療現場のアンメット医療ニーズを適確に把握し、新薬開発や育薬に努めてまいります。
4月1日に研究本部及び開発本部を統合、再編し、研究から開発までを一貫して担当する研究開発本部を設置しました。カテゴリー別の研究開発部門を設置し、カテゴリーの創薬研究、臨床開発、育薬研究に一貫した体制で取り組みます。この組織改革により、研究開発のスピードアップや成功確率の向上、さらには、医療現場のニーズをとらえた新薬の創出、育薬による製品価値最大化が加速されると考えております。
当社が強みのある抗体医薬品では、国内外における臨床開発の進展や提携による価値最大化を着実に進めております。また、当社の保有する知識や技術と外部との融合、いわゆるオープンイノベーションによる創薬の強化には引き続き注力し、アンメット医療ニーズに応えていきます。
海外では、「グローバル・スペシャリティファーマを目指した欧米/アジアでの事業基盤拡充」に取り組んでいます。8月にはProStrakan社を通じて、疼痛・がん・クリティカルケア(注2)領域に強みのあるArchimedes社を買収し、欧州事業をさらに強化しました。ProStrakan社のビジネスモデルである後期開発品や上市品の導入を引き続き積極的に推進するとともに、今後は、当社初の抗体医薬品「ポテリジオ」をはじめとしたグローバル開発品の上市にあわせて、米国における販売体制を構築してまいります。
アジアでは、中国における将来の安定的な成長へ向けた事業基盤の再構築を進めることを最重要の課題と位置付けます。また、韓国、台湾、シンガポール、タイなど経済成長の続く各国・地域の現地法人がそれぞれの国情・情勢に応じた事業戦略を進めています。
富士フイルム㈱との合弁事業であるバイオシミラー事業は、市場環境の変化にも注意を払いつつ、高信頼性・高品質でコスト競争力にも優れた医薬品の世界市場への展開を目指し、鋭意、開発を進めております。
診断薬事業は、協和メデックス㈱を通じて、各種疾患の治療に必要な先進の診断薬/診断機器を提供し、国内事業の強化とともに、中国市場での基盤作りを進めております。診断薬事業は、個別化医療や予防医療が進展していくなかで、今後ますますその重要性が大きくなると考えており、医薬事業とのシナジーを発揮したコンパニオン診断薬の開発などを通じて事業価値最大化を目指します。
バイオケミカル事業は、発酵と合成の両技術を兼ね備えたバイオテクノロジー企業として、医薬・医療・ヘルスケア領域における持続的な成長を目指し、革新的な技術開発を通じた新たな価値創造と収益基盤の強化への取り組みを進めます。
コスト競争力の更なる向上、為替の影響を受けにくい事業構造の構築、世界的なアミノ酸類の需要増に対する生産能力の増強に向けて、山口事業所や第一ファインケミカル㈱、米国のBioKyowa Inc.などのグループ国内外の生産拠点の増強、再編・整備が着実に進展しております。なかでもタイの新生産拠点は2015年後半の商業運転開始に向け、建設が順調に進んでおります。
2015年4月より科学的根拠をもとに健康食品等の機能性を表示できる新たな制度が始まります。国内ヘルスケア事業においては、この新制度に対応すべく、機能性と安全性を備えた素材の開発を推進してまいります。また、キリングループ内の他社とも協力しながら、お客様にとって分かりやすい表示方法を工夫してまいります。「オルニチン」に代表される通信販売においては、今後とも効果的な広告宣伝活動を通じ、製品認知度の向上を図りつつ、安心してお使いいただける独自の素材を提供してまいります。
当社がグローバル・スペシャリティファーマを目指すうえで、コンプライアンスや品質保証など、企業の社会的責任を誠実に全うするための組織・風土の醸成は必要不可欠です。5月に公表しました当社社員による医師主導臨床研究への不適切な関与の問題については、外部専門家で構成された社外調査委員会からの再発防止に関する提言を受け、「臨床研究に関するポリシー」を制定し、寄附金及び臨床研究に関する審査体制の再構築や、臨床研究へのサポートを規律する社内ルールを明確化するとともに、プロモーション活動及び資材に関する社内審査組織の独立性を高めるなど様々な見直しを行いました。今後とも透明性推進を図るとともに、コンプライアンスを徹底してまいります。
当社グループは、研究開発型企業として技術力が高く評価されています。医薬事業においては、日本発の次世代抗体技術とその応用及び産学連携の成功事例として、「新規成人T細胞白血病リンパ腫治療薬モガムリズマブ(高ADCC活性POTELLIGENT技術を応用したヒト化抗CCR4抗体)の研究開発」が、日本薬学会創薬科学賞を受賞しました。また、バイオケミカル事業においても、農芸化学分野における注目すべき技術的業績として「ジペプチド発酵技術の開発と工業化」が、農芸化学技術賞を受賞しました。
当社グループは、「ライフサイエンスとテクノロジーの進歩を追求し、新しい価値の創造により、世界の人々の健康と豊かさに貢献します。」というグループ経営理念のもと、新薬事業を中核に、バイオシミラー、診断薬、バイオケミカルの各事業を総合したユニークな医薬事業モデルを追求し、「グローバル・スペシャリティファーマへの挑戦」を進めてまいります。
注1.「服薬アドヒアランス」は、医師が処方した薬を患者さんが自発的に用法・用量を守り服用することを指します。
注2.「クリティカルケア」は、重篤な疾患などにより生命の危機に陥っている患者さんに対して行われる集中治療です。