有価証券報告書-第147期(2023/04/01-2024/03/31)

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2024/06/26 16:01
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事業戦略
当社は、私たちの企業理念に基づいて、持続的な経営および成長を実現します。バイオ医薬品企業としての強みと能力を活かして、患者さん、株主の皆様、および社会のための長期的な価値を創造すると同時に、従業員、地域社会、および環境に良い影響をもたらし続けることで、当社の存在意義を果たしていきます。
当社は、「存在意義(パーパス)」を「目指す未来(ビジョン)」および「価値観(バリュー)」と融合させることで、不変の価値観に基づく持続的成長を目指しています。当社は、パーパスとビジョンを達成するためにどこに注力をするべきか(事業戦略)を「私たちの約束」および「優先事項」で定めています。私たちの約束は、「Patient すべての患者さんのために」、「People ともに働く仲間のために」、および「Planet いのちを育む地球のために」の大きく3つの柱に分けられており、データやデジタル、テクノロジーを活用しながら実行されています。これには、当社およびステークホルダーにとって戦略的重要性が高い非財務関連課題の評価(マテリアリティ・アセスメント)の結果が反映されています。
Patient すべての患者さんのために
当社は、科学的根拠に基づき、治療の選択肢が限られている患者さんをはじめ、すべての人々の暮らしを豊かにする医薬品の創出に取り組んでいます。これは、当社の存在意義(パーパス)の根幹となるものです。当社の研究開発(R&D)は、主要な疾患領域に焦点を当て、高度に差別化されています。私たちは、研究所の専門的な研究開発能力、社外とのパートナーシップ、患者団体との連携、健康の公平性への取り組み、およびデータ、デジタル、テクノロジーの活用などを通じて、当社製品を患者さんに提供しています。
私たちは、患者さんに高品質な医薬品を途絶えることなく供給する責任があることを理解しています。この責任を果たすために、堅ろうなグローバルサプライチェーンシステムを構築しています。戦略上、重要な製品および原薬については複数の調達先から購入し、調達方針についても地政学的リスクを考慮した戦略を有しています。
治療を最も必要とする患者さんに我々の医薬品を十分にお届けできなければ、科学的なイノベーションは大きな意味を成しません。高度な技術と意欲を持つ医療従事者やインフラの整備に加え、健全な医療財政、保険医療制度、そして科学的根拠に基づく政策によって支えられた最新の医薬品と医療技術の提供がなされなければ、患者さんに医薬品をお届けすることはできません。そのため、当社では次のことを実施しております。
・患者さんの医薬品アクセスを促進するために包括的な戦略を実施し、医療の価値(バリューベース・ヘルスケア)を促進するグローバルな政策やプログラムを支援しています。私たちは、最先端の治療がもたらす医学的・経済的な価値が十分に反映されながらも、患者さんがそれらの革新的な治療を公平かつ持続的にうけることができるエコシステムの構築に賛同しています。
・革新的な新製品を患者さんにお届けできるように、グローバルな製品(成長製品・新製品)を上市するにあたっては、国の経済レベルや医療制度の成熟度に応じて、国ごとに異なる価格帯を設定しています(ティアード・プライシング)。また、治療費を支払うことができない患者さんにも必要な医療を提供するために、医薬品アクセスプログラムを含む患者支援プログラムを提供しています。
・グローバルCSRプログラムを通じて、グローバル団体やNGO、NPOと連携して、低・中所得国の保健システム強化を支援しています。
私たちの医薬品はグローバルに上市されていますが、各エリアや国ごとに、状況に応じた最適な戦略を検討しています。私たちの価値観(バリュー)はグローバルで行う事業活動全体で浸透しているため、一刻を争う場合であっても、各地域の従業員は、患者さんに最も近いところで価値観(バリュー)に沿った意思決定を行い、私たちの医薬品をタイムリーに提供することができています。
当社の患者さんに対する取り組みの詳細は、2024年7月に当社ウェブサイトに掲載を予定している2024年統合報告書「PATINET すべての患者さんのために」をご参照ください。
People ともに働く仲間のために
当社は、科学技術がどれほど進歩しても、重要な変化は常に「人」によってもたらされることを認識しています。私たちの従業員はイノベーションの源泉であり、患者さん、株主、社会のために長期的な価値を創造することを可能にしています。当社は、すべての人々の暮らしを豊かにする医薬品を患者さんにお届けするため、多様性、公平性、包括性(DE&I)を受容する組織作り、従業員の学びや能力およびキャリアの成長を促す企業文化の醸成、また従業員の心身の健康と安心の向上に取り組むとともに、従業員のエンゲージメントを高める活動に注力しています。
人材の多様性、公平性、包括性(DE&I)
当社には、80を超える国と地域でさまざまな経歴や経験を持つ人々が集まっています。当社では、多様性を受け入れるとともに、患者さんや従業員がそれぞれの可能性を最大限に発揮できる機会に公平にアクセスできるように努めています。私たちのDE&Iに関する取り組みは、「患者さんを支える」、「インクルーシブな職場環境をつくる」、「人材の多様性を尊重する」、「社外へのインパクトを生み出す」を4つの柱として、価値観に基づくアプローチを取っています。当社は、DE&Iへの投資を拡大しており、その一例として、グローバルDE&Iカウンシルを、戦略的な方向性の策定、関係構築、またグローバル規模での健康格差や不平等さを認識し、それに対処するための取り組み支援に重点をおいたものへと発展させています。
グローバルレベルではジェンダーダイバーシティに取り組んでおり、2024年3月31日時点で、グローバル全体における管理職に占める女性の割合は43%となっています。また、2024年4月1日時点で、当社のTETメンバー17名のうち、女性が9名(53%)を占めています。当社の各事業部門や拠点では、グローバルDE&Iの目標やロードマップに沿ってそれぞれ独自のDE&I目標や戦略、プログラムを設定して事業運営に反映させています。当社は、今後も、性別、国籍、年齢および経歴の観点から人材の多様性の促進に努めてまいります。
人材の育成と企業文化の醸成
生涯学習およびキャリア成長への取り組みは、従業員の職務経験、モチベーションおよび専門性を高め、新しい発想につながり、結果的に患者さんへの価値創造につながります。当社では、従業員に対して、学習ツールや最新のテクノロジー、コンテンツ、サポートを提供することで、必要な知識や学びたい知識を、必要な時に最適な形で習得できるよう、学びをカスタマイズできるようにしています。従業員の学びをサポートする形態の一つは、実際の体験を通じて学びを得るよう支援することであり、例えば、職場での研修プログラムにおいて、シニアメンバーが主導するプロジェクトに参加、貢献していく過程で貴重なスキルを身につけられるよう支援しています。当社では、従業員自らがキャリア成長を定義し、主体的に行動することを促しており、その過程でリーダー、同僚、メンターの支援を受けられるようにしています。2024年1月には、全従業員がタケダの中で自身の成長機会を見出し、キャリアを伸ばすことができるよう、AIを活用したプラットフォーム 「Career Navigator」 を導入しました。「Career Navigator」は、従業員が入力した自身のキャリア目標や関心のある分野に基づいて、社内でのキャリア機会を提案したり、足りないスキルを得るための学習機会を特定したり、また成長を促すためにメンターを紹介します。
当社では、現在の製薬業界に影響をもたらしている急速な技術発展を活用するため、そして未来のヘルスケアに対応できる組織にするため、従業員のデジタルスキルの強化に努めており、自動化プログラムや、コンテンツの作成および収集、生成AIなど従業員がデジタル技術のスキルを向上することができるよう、事業部門や機能全体でスキル向上の機会を提供しています。さらに、当社では、デジタルに精通した人材を育成するため、複数のイノベーション能力センターを立ち上げています。これらは、データとデジタルに関する能力を有した人材を社内で調達できるようにするためであり、タケダの事業全体を対象に、デジタルソリューションの構築および管理を行っています。これにより、社外への依存度を減らしつつ、医療従事者や患者さんとのコミュニケーション方法を改善するとともに、医療従事者や患者さんがタケダの製品やサービスをより簡単に利用できるようにしています。
当社は、革新的な医薬品を創出し患者さんにお届けするという価値観に基づき、デジタルスキルを含め、生涯学習およびキャリア成長を促進する企業文化を醸成することに取り組んでいます。
社内環境整備方針
「世界中の人々の健康と、輝かしい未来に貢献する」という当社の存在意義(パーパス)は従業員が心身ともに健康であることを前提に実現されるものです。当社は、精神面、身体面、経済面、社会面の4つの分野から従業員の心身の健康に焦点を当てています。これらの分野をサポートする中で、従業員からのフィードバックを取り入れ、当社では長期的かつグローバルなウェルビーイングの戦略的取り組みとして、「ライフ・ワーク・アライメントの更なる推進」、「グローバルに展開しているプログラムおよび福利厚生への公平なアクセス」を設定しました。ライフ・ワーク・アライメントは従業員が新しいよりフレキシブルな勤務形態に適応する上で最も考慮すべき点であり、顔を合わせて行う協働と在宅勤務を両方取り入れるなど、従業員の能力を最大限に引き出すために多様な働き方を尊重しています。具体的な勤務形態はチームによって異なりますが、オフィスの空間デザインにも工夫を凝らし、従業員のウェルビーイング(心身の健康)とパフォーマンスを向上させ、柔軟性があり、対面でのコミュニケーションの価値を実感できるような環境づくりを行うなど、働き方改革を加速させています。また、レジリエンス(回復力)のスキルを強化するための学習プログラムを活用し、メンタルヘルスについて話すためのツールをマネージャーに提供しています。
当社の人材、DE&I、人材育成と企業文化の醸成、および社内環境整備にかかる方針のさらなる詳細は、2024年7月に当社ウェブサイトに掲載を予定している2024年統合報告書「PEOPLE ともに働く仲間のために」をご参照ください。
Planet いのちを育む地球のために
当社は、気候変動や生物多様性の喪失が患者さんや人々の健康に影響を及ぼすことを理解し、環境の分野において積極的に取り組んでいます。当社は、事業活動およびバリューチェーン全体における温室効果ガス排出量の最小化、自然および生物多様性の保全、ならびに持続可能性に配慮した製品設計および生産に重点を置いて、環境サステナビリティ活動に取り組んでいます。「Planet」に係る取り組みは、現在、EHS(環境、健康・衛生、安全)のチームが管理する、環境サステナビリティの様々な側面に専念した3つのプログラムで構成されています。
•気候変動対策プログラム
2035年までに自社の事業活動に起因する温室効果ガス排出量(スコープ1および2)を、2040年までにバリューチェーン全体における温室効果ガス排出量(スコープ3)をネットゼロにします。
•環境配慮設計プログラム
製品の設計やパッケージのデザイン、開発において、ライフサイクルのあらゆる側面で持続可能性に配慮した意思決定を取り入れることによって、バリューチェーン全体で環境負荷を最小限に抑えることを目指します。
・天然資源保全プログラム
水の保全、責任ある廃棄物処理、生物多様性保全活動などを通じて、事業の環境負荷の低減を目指します。
当社は、気候変動に関連したリスクに対するレジリエンスの強化および機会の特定に積極的に取り組んでいます。気候変動による物理的リスクおよび移行リスクの評価と管理は、EHSチームが主導し、組織全体のリスク管理フレームワークに組み込んでいます。事業場に固有の気候変動による業務運営リスクは、事業所や施設レベルのリスク評価からボトムアップのアプローチにより特定しています。また、サプライチェーンにおけるリスクは、第三者リスク管理プログラム(TPRM)を利用したサプライヤーのスクリーニングを通じて特定しています。深刻な物理的リスクの上昇を軽減する取り組みとして、エネルギーの保全、また、可能な場合には再生可能エネルギーに移行することを通じて、温室効果ガスによる環境負荷を抑える活動を推進しています。また、サプライチェーンにおける物理的リスクに対しては、サプライチェーンにおける許容できないリスクの発生を防ぐために、主要サプライヤーの気候変動関連リスクを評価しています。
当社は、2021年に、気候変動のリスクと機会についてシナリオ分析を実施しました。当シナリオ分析は、一定の直接的な事業活動のみを対象とし、2030年までの時間軸と2050年までの時間軸について、気候変動に対する世界の対応レベルの違いによって異なる3つの気候変動シナリオ(すなわち、「気候変動追加対策なし(No Action)」「対応中(Middle of the Road)」「積極的緩和策(Aggressive Mitigation)」)を設定しています。結果として、当社が事業を展開している様々な地域における気候変動の傾向予測や気候変動に起因する特定の災害の発生予測について知見を得ることができましたが、個別の事業場に特有の具体的な条件は一部考慮しませんでした。
このプロセスを通じて、当社に適用され得る幾つかの気候変動のリスクと機会を特定することができました。モデル化されたシナリオに基づく当社の直接的な事業活動に係る潜在的なリスクと影響は下表のとおりです。
リスクの種類リスクの
内容
積極的緩和策ありのシナリオ下での潜在的な影響気候変動追加対策なしのシナリオ下での潜在的な影響
物理的
リスク(急性)
極端な雨天主に極端な雨天による事業運営費や生産性に対する影響は限定的。特定のヨーロッパ諸国は高リスクにとどまる見込み(年間10.2%以上、極端な雨天の日数が増加)。事業活動中断のエクスポージャーの高まり(事業運営費や生産性の損失)。
ヨーロッパとアメリカは、極端な雨天の日数が年間10.2%以上増加し高リスクにあり、エクスポージャーの最も大きな割合を占める。また、ヨーロッパとブラジルは、山火事による損失も予測され、厳しい山火事発生の日数により高リスク(年間10日以上増加)。
事業活動中断や施設の損害、保険費用の増加を予想。沿岸地域にある事業場は台風やその他の極端な天候事象の影響を受ける特有のリスクの可能性。
山火事

リスクの種類リスクの
内容
積極的緩和策ありのシナリオ下での潜在的な影響気候変動追加対策なしのシナリオ下での潜在的な影響
物理的
リスク(慢性)
猛暑事業運営費や生産性に対する影響は限定的(海面上昇と水ストレスはモデル化されていない)。特定のヨーロッパ諸国、日本、アメリカ、ブラジルは中程度のリスクにあると予測(年間11日から27日の厳しい熱波日数の増加)。主に猛暑による事業活動中断のエクスポージャーの高まり(事業運営費や生産性の損失)。特定のヨーロッパ諸国、日本、アメリカ、ブラジルは、猛暑の高リスク(年間27日以上の厳しい熱波日数の増加)。
さらに、特定のヨーロッパ諸国、日本、ブラジルは、海面が上昇(0.29メートル以上)すると予測。既存の高い水ストレス地域(アメリカ、ドイツ、ブラジル)は継続し、中国、ベルギー、アイルランドも水ストレスレベルの上昇を予測。
水ストレスは、水処理/節水のアップグレードに適応し実施するため、投資や事業運営費の増加をもたらす可能性。
海面上昇
水ストレス
移行
リスク
炭素税/規制/政策炭素価格制度によるコスト上昇の影響を受ける可能性。炭素価格は経時的に大幅に上昇することが予測されるも脱炭素化の取り組みにより影響を軽減できる見込み。炭素価格制度によるコスト上昇の影響は最小限に抑えられると予測し、炭素価格は全体的にほぼ横ばいの見込み。
エネルギー市場エネルギー価格は全体的にほぼ横ばいを予測。全体的にエネルギーコストの増加に直面し得るも、エネルギー需要削減の取り組みにより影響を軽減できる可能性。

上述のモデル化されたリスクと影響に加えて、2021年の評価の一環として、当社と第三者の情報を組み合わせた気候変動によるリスクと影響の定性的分析も実施しました。この分析により、地球温暖化による疾病の増加が、従業員や血漿のドナーへの影響を含め、当社の事業活動のリスクになり得ることが特定されました。また、特に「気候変動追加対策なし」のシナリオにおいて、当社のデング熱ワクチンであるQDENGAの市場を拡大する可能性も特定されました。さらに、当社の気候変動対策の目標達成の成否によって、従業員、健康保険事業の運営主体(保険者)およびその他のパートナーを含むステークホルダーとの関係に影響を与える可能性のある社会的信頼に係るリスクと機会も特定されました。
当社は、これらのリスクを軽減するために取り得る追加の手段を特定するとともに、潜在的な気候変動のリスクに対する理解を深めるため、継続的に前提条件を見直し、分析を更新し、リスク評価の範囲を拡大していく方針です。
  • 有価証券報告書-第147期(2023/04/01-2024/03/31)