有価証券報告書-第145期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

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2021/06/25 14:31
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146項目

研究開発活動

パワーエレクトロニクス技術やパワー半導体技術のシナジーを生かした強いコンポーネントとシステム並びに要素技術を複合して顧客価値を創出するソリューションを生み出す研究開発に注力しています。
メーカーとしてリアルの技術を磨くとともに、最新のデジタル技術を深化させ、アナリティクス・AIの応用拡大を加速しています。クリーンな創エネルギーからエネルギーの安定供給、需要家サイドに至る自動化、省エネ・省力化などに貢献します。
当連結会計年度における富士電機の研究開発費は33,562百万円であり、各部門の研究成果及び研究開発費は次のとおりです。
また、当連結会計年度末において富士電機が保有する国内外の産業財産権の総数は13,398件です。
■パワエレシステム エネルギー部門
電力流通分野では、経済産業省の「需要家側エネルギーリソースを活用したバーチャルパワープラント(VPP)構築実証事業」の関西電力グループに参加しています。今年度は従来の機能に加え、1分予測値の算出機能追加による予測/実績誤差低減、サイバーセキュリティガイドラインV2.0対応などの機能を増強し、実証事業参加各社との実証において、目標機能、性能が得られることを確認しました。
施設・電源システム分野では、大型データセンター向けに、大容量無停電電源装置(UPS)「7500WX」を開発し発売しました。モジュール型構造を採用しており、600kVAのUPSユニットを4台組み合わせて単機容量で最大2,400kVAまで対応します。さらに、業界最小レベルの設置面積により、サーバなどのIT機器の設置面積を最大化します。また、UPS各機の負荷率をもとに自動で給電調整する最適負荷運転モードによりシステム全体の効率が向上し、データセンターの省エネに貢献します。
器具分野では、スプリング端子機器「F-QuiQ」シリーズとして「AR22・DR22、AR30・DR30押しボタンスイッチ」に続き「AM22・DM22、AG28・DG28押しボタンスイッチ」と「AR22/AR30非常停止押しボタンスイッチ」を開発し発売しました。端子ねじを使わずに、より線の先端に取り付けた棒状のフェルール端子を差し込むだけで固定できる「プッシュイン方式」を採用しているので、配線用の工具を使わずに誰でも簡単にばらつきなく確実に配線できます。振動や長期使用によって緩むおそれがある固定ねじがないので、信頼性が向上します。配線工数の削減と作業品質の安定化により、装置や制御盤などの生産効率の向上に大きく貢献します。
当連結会計年度における当部門の研究開発費は6,812百万円です。
■パワエレシステム インダストリー部門
低圧インバータ分野では、汎用インバータ「FRENIC-MEGA(G2)シリーズ」を開発し発売しました。業界最高クラスとなる電流応答1,000Hzと速度応答200Hz(当社従来比約2倍)の実現により、工作機械などの加工品質や速度の向上に貢献します。内蔵するIGBTモジュールの異常兆候をとらえて警報を出す寿命予測機能と、冷却能力の低下兆候を検知する冷却能力低下警報機能を追加しました。装置の停止を未然に防ぐことが可能です。
制動エネルギーを電源側に回生するPWMコンバータ「FRENIC-RHCシリーズ」を開発し発売しました。様々な通信プロトコルに対応したオプションカードを揃えています。標準装備したトレースバック機能によりアラーム発生時に保持したデータを使って容易に故障解析ができます。また、最大4台まで並列接続することにより2,800kWまで容量を拡大できます。プラント設備や大容量クレーン、サーボプレスなどの省エネルギー化に貢献します。
小容量電源分野では、制御盤用のAC/DC電源を開発しています。AC100V~240Vの入力電圧に対応し、出力電圧24Vで出力電流10A、20A、40Aの3タイプに対してそれぞれ標準モデルとメンテナンスフリーモデルをラインアップしました。ラックマウントや低背構造、コネクタ接続により制御盤内の電源や配線を従来よりも最大50%省スペース化したことで、より多くの制御機器が設置できます。また、電源の信頼性が要求されるシステムに対応できるよう二重化機能を内蔵しています。2台の電源を並列接続するだけで簡単に冗長運転が可能になり、1台の電源が故障しても制御盤の稼働が継続できます。
伸長する半導体製造装置向けに3相入出力の常時商用型UPSを開発しました。出力容量は200V、7.9kVAで、IP22に準拠した筐体により半導体製造装置内で発生する水の飛散に対して追加の対策なしで設置できます。装置寿命は10年で交換が必要な部品はバッテリーだけであるためメンテナンスの手間を低減します。また、ログ機能や停電発生時の入力電源の波形記録機能などに加え、強化した通信機能によりUPSの状態を監視できます。
FAコンポーネント分野では、高速・高精度な制御が求められる包装機や印刷機、半導体製造装置などのモーションコントロールシステム向けに、多軸同期制御を実現するプログラマブルコントローラ「MICREX-SXシリーズ」の新CPUモジュール「SPH5000M」を開発し発売しました。マルチコアアーキテクチャを採用し、演算処理能力を高めることにより、同一制御周期で同期できる軸(サーボモータ)数を当社従来機種に対して倍増させました。お客様の設備の性能向上に貢献します。さらに、お客様の基幹システムやサーバなどと接続するEthernetポートの伝送速度を1Gbpsに高めることで設備のIoT化を支援し、設備の稼働データ分析や、遠隔地からのリモート監視・制御などを実現します。近年の生産設備におけるエッジコンピューティングに対する強いニーズに応えることができる新しいプログラマブル表示器「MONITOUCH X Series」を開発し発売しました。Windowsを搭載することにより、プログラマブル表示器の機能に加えて、情報処理端末で行っていた多くの作業をこのプログラマブル表示器1台で行えます。また、日本国内ならびに欧州、中国、東南アジアなどの生産現場で使用されている通信規格に幅広く対応しています。
FAシステム分野では、組立加工装置向けのデータ収集システム「OnePackEdge」の追加機能を開発しリリースしました。収集したデータを基にして、装置の異常兆候を検知するための検出モデルを自動的に作成する機能によって、装置の運転パターンが変更されても随時異常兆候を検知できるようになりました。生産ラインの安定稼働に貢献します。
高圧インバータやパワーコンディショナ(PCS)分野では、既存製品の部分更新用高圧インバータ「FRENIC4600FM4RF」を開発し発売しました。既存機種「FRENIC4600FM4」のインバータユニットや制御装置などの一部電気部品の部分更新が可能なため、設備の停止期間が短縮できます。
大容量(2,500kVA)太陽光発電用PCS「PVI1500CJ-3/2500」を開発し発売しました。日照の少ない時間帯でも発電量を確保するため、PCSの出力容量を超えた太陽光パネルを設置する過積載が一般的になってきています。PCSの定格出力容量に対して設置する太陽光パネル容量の比として定義される過積載率の限度を従来の150%から200%に増やし、さらに低出力時の変換効率を最大3.5ポイント改善することで、さらなる発電量の向上に貢献します。
ストリング形太陽光発電用PCS(21kVA)「PIS-21/210-J」を開発し発売しました。従来品は出力電圧が500Vであるため、新たに設けた変圧器を介して高圧系統に接続する必要がありましたが、本製品の出力電圧は200Vであるため、構内の200V電源系統に直接接続できます。また、BCP対策として、自立運転機能(3kVA―AC105V出力)を追加しました。
駆動制御システム分野では、鉄鋼プラントをはじめとする素材産業向けに、高い安全性を規定した新JISに準拠し、保護機能や運転時の監視機能を充実させた低圧インバータ「FRENIC4000VM6」を開発し発売しました。本機種と従来機種「FRENIC4000VM5R」のユニットに互換性を持たせたため、従来機種の部分更新が可能です。高速大容量の専用通信「E-SXバス」を新たに搭載したことで、コントローラと接続できるインバータの台数が従来の8倍に増加し、大規模プラントのシステム構築を容易にします。さらに、「XCS3000TypeE」コントローラと組み合わせることで、ループバック制御により通信線の1か所が断線しても運転継続ができるため、設備の信頼性が向上し、安定稼働を実現します。
計測制御システム分野では、産業プラント向け監視制御システムの構成機器であるI/O装置(高信頼I/O)を開発し発売しました。高信頼I/Oは、高密度実装により盤1面あたりのI/Oモジュールの最大搭載数を従来より56%増やしました。これにより、盤の設置面数が3面必要な場合には2面に削減(33%削減)でき、盤の省スペース化に貢献します。また、二重化の対象となるペアのI/Oモジュールを別々のベースボード(ノード)に実装するノード単位二重化を行いました。この構成にすると、I/Oモジュールが故障した場合はノードの電源を切断してI/Oモジュールを交換できるので、システム運用の安全性と保守性が向上します。
鉄道車両分野では、2020年7月に営業運転を開始した東海旅客鉄道株式会社のN700S系新幹線電車向けに、主回路システムとフルアクティブダンパ駆動装置を開発し納入しています。主回路システムは、当社製SiCパワー半導体モジュールを搭載した主変換装置、主電動機と主変圧器からなり、小型・軽量化により“さまざまな編成構成に対応できる標準車両”の実現と省エネに貢献しています。また、フルアクティブダンパ駆動装置は、インバータと小型モータからなり、フルアクティブ制振制御システムに組み込まれて乗り心地の向上に貢献しています。
船舶交通システム分野では、排ガス浄化システム(EGCS)のサービス向上のため衛星通信を利用した「船舶IoTシステム」を開発し発売しました。稼働データ(計測値、状態・アラーム情報)を24時間365日、30分周期で自動収集し、クラウドサーバーに蓄積することで、常時監視・情報共有ができます。また、アラームが発生するとガイダンスを自動配信してEGCSに関する経験・知識が少ない船員によるトラブルシューティングに貢献します。
放射線機器・システム分野では、海外の原子力関連施設における個人線量管理に用いる電子式個人線量計として、従来のγ線測定用のNRF50に中性子線測定機能を加えたNRF51とβ線測定機能を加えたNRF54を開発し発売しました。大型ドットディスプレイにより視認性が向上しました。標準装備の無線モジュールと汎用通信モジュールにより900MHz無線やWi‐Fi、赤外線通信、USB、Bluetoothなどの多くの通信手段が利用できます。
当連結会計年度における当部門の研究開発費は8,941百万円です。
■電子デバイス部門
半導体デバイス分野の産業用モジュールでは、低損失で高温動作を保証した最新の第7世代IGBT技術を適用した製品の系列を拡大しています。電鉄向けに大容量IGBTモジュール1,700V/1,000Aの「HPnC」を開発し量産を開始しました。内部構造を最適化することで、高速スイッチングの妨げとなる内部インダクタンスを低減した新たなパッケージを開発し、さらなる低損失化と小型・軽量化を実現しました。これにより、車両機器のエネルギー消費量の低減と小型・軽量化に貢献します。
FA、工作機械、空調機器向けに第7世代「Xシリーズ」素子を搭載した650V/20A~250A、1,200V/10A~150Aの「XシリーズIGBT-IPM」を開発し、量産を開始しました。第7世代チップとパッケージ技術に加え、制御回路の改良により、さらなる低損失化と小型化を実現しました。また、従来の保護機能に加え、インバータをはじめとする電力変換装置がIPMの過熱異常により突然停止する前に、出力を抑制するなどの対応ができるようにアラーム信号を出力する予防保全機能を世界で初めて搭載しました。これらの技術や機能により、電力変換装置の小型化や高効率化、高信頼性化を可能にします。
さらに、Si(シリコン)に代わる半導体材料として注目されているSiC(炭化ケイ素)を使ったSiCモジュール製品の系列化を進めています。電鉄向けに低損失のSiC-SBDと第7世代IGBTチップを組み合わせた3,300V/1,800Aハイブリットモジュールを開発し量産を開始しました。また、医療用電源などの高周波用途向けに高速スイッチング特性を持つSi-IGBTを組み合わせた1,200V/300A、450A高速ハイブリッドモジュールを開発しました。SiCにより、電力変換装置の更なる電力効率の向上や小型化に貢献します。
車載モジュールでは、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)の2020年モデル向けに、第4世代直接水冷技術などを採用し、従来よりも電力密度を高めた直接水冷型パワーモジュールを開発し量産を開始しました。さらに、小型モータ駆動用の小容量IPM、DC/DCコンバータ用モジュールなど小容量モジュールの系列を拡大しました。これらの製品を通じて、EVやHEVシステム全体の小型軽量化や高効率化に貢献します。
ディスクリート製品では、最新の低損失設計となる第7世代IGBT技術をディスクリート用に最適化した1,200Vの低損失ディスクリートIGBT「XSシリーズ」の75A品を開発し系列に加えました。オン電圧とスイッチング損失を同時に低減したことで、小型UPSや太陽光発電用PCS、サーバ、EV充電器など各種機器の損失低減、高効率化に貢献します。
IC製品では、LED照明や液晶テレビなどの電源向けに高周波バースト制御、共振電流位相比制御などの機能を備えたLLC電流共振ICを開発しました。スイッチング周波数に下限を設けた高周波バースト制御の採用により、LLC電源の実際の使用において大半を占める軽負荷領域の変換効率が向上したので電源の省エネが図れます。また、出力電圧のリップルが抑制されるため、負荷の誤動作を防止します。さらに、新たに共振電流位相比制御機能を内蔵したことにより、安定動作のために従来必要であった位相補償用の外付け回路が不要になり、電源部品点数が削減できます。
感光体製品では、A0図面に対応できる大判ワイドフォーマット有機感光体を開発し発売しました。周辺部材との表面摩擦力を低減する潤滑性樹脂の採用や機能材比率の最適化により、長期にわたり安定した印字濃度を実現しました。
ディスク媒体分野では、データセンターなどで活用されているニアライン用ハードディスクドライブ18TB機種向け磁気記録媒体(3.5インチ、ガラス基板、2TB/枚)を開発し量産を開始しました。磁性設計およびHDI(ヘッドディスクインタフェース)に新規技術を採用することで、高記録密度と高信頼性を確保しました。これらによりビット単価低減に貢献します。
当連結会計年度における当部門の研究開発費は10,625百万円です。
■食品流通部門
自販機分野では、新型コロナウイルス感染症の拡大により店舗の時短営業が常態化し、営業時間外における商品販売のニーズが高まる中、設置面積を従来比で2割削減し、多様な形状の商品を自在にディスプレイできる汎用物品自販機「マルチ君」を開発し発売しました。気密・断熱性に優れる飲料自販機の筐体を適用し、温度管理が難しい加工食品やチルドなどを販売する自販機としては、業界で初めて屋外に設置できるようにしました。小規模店舗でも設置しやすく、営業時間外でも食品や飲料、衛生用品などを冷蔵または常温で販売できます。
新型コロナウイルス感染症が拡大する中、マスクなどの衛生用品が手軽に入手できる自動販売機として「マスク自販機」も開発し販売しました。手が触れる部分に抗菌処理を施し衛生面に配慮しています。加えて、非接触で手指を消毒できる大容量自動手指消毒機を開発し発売しました。一回の消毒液の補充で手指の消毒が約2,000回可能です。
東南アジア向けに、キャッシュレス決済サービスに対応し、スマートフォンによるQRコード決済ができる缶・ペットボトル自販機および大型グラスフロント自販機を開発し発売しました。大型グラスフロント自販機は、商品の収容数を15%増やしながら、消費電力量を20%削減しています。
店舗流通分野では、ショーケースの系列を拡大し量産を開始しました。また、冷蔵ユニットを内蔵したドリンクケースを開発し発売しました。いずれも省エネ性を向上させるとともに地球温暖化係数が低いグリーン冷媒を採用し環境負荷を低減します。
通貨機器分野では、小型店舗の省力化をサポートする小型釣銭機を開発しています。現行の釣銭機と比べて約1/5の占有面積で設置できます。参考出品した展示会では、好評を得ました。
当連結会計年度における当部門の研究開発費は4,150百万円です。
■発電プラント部門
火力・地熱などの発電プラント分野では、発電設備のメンテナンスサービスにおける診断技術の高度化と多様化、地熱発電向け蒸気タービンにおけるスケール抑制や腐食対策技術、高効率化の技術などを開発しています。
再生可能エネルギー分野では、風力発電の系統連系でも安定した電力供給ができる高効率な出力安定化装置、太陽光パネルの出力が変動しても安定した電力供給ができるコンパクトな蓄電池併用PCSを開発しています。
当連結会計年度における当部門の研究開発費は3,007百万円です。
■新技術・基盤技術部門
電力系統の安定化技術では、系統の周波数を維持する機能を開発しています。今後のCO2削減目標を達成するためには太陽光をはじめとする再生可能エネルギーの導入拡大が必須です。火力発電などで従来から用いられている発電機は、電力の需給バランスが崩れても回転体のもつ慣性の作用により系統周波数の変動を緩和する機能を持っています。しかし、そのような機能がない太陽光発電設備が大量導入されると周波数の維持が困難になります。そこで、太陽光発電用PCSの制御を工夫し、周波数を維持する機能を開発しています。周波数維持機能(疑似慣性制御)を太陽光発電用PCSに実装して正常に動作することを検証しました。
アナリティクス・AIの技術では、製造現場のデジタル化を進めるIoTプラットフォームの拡充に取り組んでいます。独自の構造化Deep Learningなどに注力して、説明できるAIを実現する技術を開発しています。AIに学習させる重要データを膨大なデータから選び出すことで、AIが最適なデータを学習していることを説明する技術や、外観検査用の画像AIにおいて画像の中で注目した箇所を可視化して異常の判断根拠を説明する技術を開発しました。生産現場の画像検査装置で検証を開始しました。また、エッジ機器へ搭載可能なアナリティクス・AIを開発し、実機による性能検証を開始しました。
計算科学技術では、文部科学省の「スーパーコンピュータ「富岳」成果創出加速プログラム」に参加しています。SiCデバイスの特性を劣化させる欠陥がデバイスの製造工程でどのように発生するかを解析するために、酸化工程を模擬した大規模な分子動力学計算や富岳を用いた大規模な第一原理計算に取組んでいます。
■その他部門
当連結会計年度における当部門の研究開発費は24百万円です。