有価証券報告書-第127期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

【提出】
2021/06/30 16:58
【資料】
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【項目】
150項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)が判断したものであります。
(1) 経営方針
①経営理念・経営信条
当社の創業者 早川徳次の言葉の一つに「他社がまねするような商品をつくれ」があります。この言葉には、次の時代のニーズをいち早くかたちにした“モノづくり”により、社会に貢献し、信頼される企業を目指すという当社グループの経営の考え方が凝縮されています。
当社グループは、1973年に、この創業の精神を「経営理念」「経営信条」として明文化しました。さらに、2016年には、早川創業者の「誠意と創意」の精神を、これからも変わらない当社グループの“原点”として受け継ぎ、オリジナリティ溢れる新たな価値を提供し続けることを世界中のお客様と約束する言葉として、新コーポレート宣言“Be Original.”を制定しました。
当社グループは、今後も引き続き、「経営理念」「経営信条」を体現し続けることで、社会の発展に貢献していきたいと考えています。
0102010_001.png②目指す方向性
当社グループは現在、「8K+5GとAIoTで世界を変える」を事業ビジョンに掲げ、8Kや5G、AI、IoT、ロボット等の先端技術を核に、様々な企業とも連携し、「Smart Home」「Smart Office」「Health」「Entertainment」「Education」「Industry」「Security」「Mobility」の8つの重点事業分野を中心に、革新的なサービスやソリューションの創出を進めています。
こうした取り組みを通じて、with/afterコロナ時代のニューノーマルの確立、多様なライフスタイルの実現、医療や介護問題の解決、労働力不足の解消、脱炭素社会の実現等、現代社会が直面する様々な社会課題の解決に貢献することで、人や社会に寄り添い、常に新たな価値を提供し続ける「強いブランド企業“SHARP”」の確立を目指しています。
0102010_002.png(2) 経営環境、経営戦略、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
2020年度の世界経済は、新型コロナウイルス感染症の影響によって非常に厳しいスタートとなりましたが、第2四半期以降、各国で経済活動が順次再開され、徐々に回復が進みました。足元では、ワクチン接種も進展しつつあり、回復スピードのさらなる加速が期待されています。しかしながら、その進度は依然として不透明であることに加え、米中貿易摩擦の長期化や半導体不足など、世界経済は未だ予断を許さない状況です。さらに、今回のコロナ禍を契機に、人々の価値観や暮らし、働き方など、多くのものが様変わりしており、新たな日常、“ニューノーマル”が求められています。このように、当社グループを取り巻く経営環境は、今後も目まぐるしく変化していく見通しにあり、不確実性の高い状況が続くものと考えています。
こうした中、当社グループは、2017年度から3年間に亘って、「事業」「市場」「オペレーション」の3つのトランスフォーメーションを推進し、早期の業績回復を実現するとともに、将来に向けた確かな基盤の構築に取り組んできました。さらに、2020年度は、次々と起こる環境変化に機敏に対応することで、さらなる業績改善やフリー・キャッシュ・フローの黒字化を果たすとともに、デバイス事業の分社化やM&A等、成長の加速に向けた布石を着実に打ってきました。
2021年度からは、こうした成果を土台に、「強いブランド企業“SHARP”」の早期確立に向け、「ブランド事業を主軸とした事業構造の構築」、「事業ビジョンの具現化」、「社債市場への復帰」の3つの取り組みを重点的に推進していきます。
①ブランド事業を主軸とした事業構造の構築
当社グループは、コアとなる“スマートライフ”、“8Kエコシステム”、“ICT”の3つの「ブランド事業」と、それらを支える“ディスプレイデバイス”、“エレクトロニックデバイス”の2つの「デバイス事業」が、One SHARPとなって事業を推進しています。
ブランド事業では、2020年11月に、B2Bディスプレイ事業のグローバル拡大や新規事業の創出、コスト競争力強化等を狙いに、同事業で欧米市場に強みを持つシャープNECディスプレイソリューションズ㈱を子会社化しました。また、AIoT戦略のさらなる高度化を狙いに、AIoTプラットフォーム事業を担う㈱AIoTクラウドを、パソコンを主力にIT事業を展開する「Dynabook㈱」の100%子会社とし、ICTグループ内の連携強化を進めています。ブランド事業においては、今後も引き続き、M&Aや協業を積極的に展開するとともに事業間連携をより一層強化することで、特長的な機器やサービス、ソリューションの創出を加速し、グローバルに事業を拡大していく方針です。
一方、デバイス事業では、2019年4月の電子デバイス事業に続き、2020年10月にディスプレイデバイス事業を、2021年4月にカメラモジュール事業を分社化し、全てのデバイス事業の分社化を完了しました。また、次世代ディスプレイの展開加速も視野に、2020年10月に、㈱ジャパンディスプレイの白山工場を取得し、2021年2月より、まずは液晶パネル生産ラインの稼働を開始しました。デバイス事業においては、今後は他社との協業を梃子に、競争力をより一層強化し、ブランド事業の優位性を支える革新的デバイスの創出に取り組みます。
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②事業ビジョンの具現化
当社グループは、事業ビジョンの具現化に向け、8K+5GやAIoT等の先端技術を搭載した“特長機器”を創出し、グローバルに販売を拡大するとともに、こうした機器とソフトウェアやサービスを融合した“システム”の創出、さらには、それぞれのシステムを連携させた当社グループならではのプラットフォームを構築し、様々な分野で独自の“ソリューション”の提供を目指しています。
当社グループはこれまで、8Kテレビ、8Kカメラ、8K PC、8K+5Gスマートフォン等の様々な8K+5G機器や、累計11カテゴリー/545機種(2021年3月31日時点)ものAIoT機器を創出し、日本を中心に販売を拡大してきました。一方、海外では、将来の8K+5G及びAIoTビジネスの展開を見据え、ASEANにおいて、商品カテゴリー・ラインアップの拡充による事業拡大に取り組むとともに、欧州、米州、中国において、販売体制の見直しやブランドビジネスの再構築を進めてきました。
今後、日本では、これまで構築してきた事業基盤を有効に活用し、「Smart Home」「Smart Office」「Entertainment」の分野を中心に、新たなサービスやソリューションを本格展開するとともに、健康・医療・介護分野における新規事業の創出や工場の自動化ソリューションの展開、GIGAスクールを契機とした教育向けビジネスの拡大など、新たな分野においても事業を着実に立ち上げていきます。一方、海外においては、欧米や台湾、ASEANなどを中心に、8K+5G機器やAIoT機器のグローバル拡大をより一層強化し、将来に向けた基盤構築を加速します。
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③社債市場への復帰
当社グループが今後も持続的に成長していくためには、より強固な財務基盤を構築することが不可欠であり、現在、「“量から質へ”の徹底」、「運転資金の圧縮」により営業キャッシュ・フロー(CF)の最大化を図るとともに、安定した収益が見込める「ブランド事業への投資拡大」、「デバイス事業における外部資金の獲得」など、投資効率の向上に向けた取り組みを加速しています。今後はこのような取り組みを通じて、毎期、安定的にフリー・キャッシュ・フロー(FCF)を創出し、適切な株主還元を行うとともに、有利子負債の削減など、財務体質の改善を進めていきます。そして、将来的には、社債市場への復帰を目指します。
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こうした取り組みに加え、当社グループは、ESGについても引き続き強化し、事業活動を通じて国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の各目標の達成に貢献するとともに、グローバルブランドが担うべき企業の社会的責任を着実に果たしていく考えです。
環境(Environment)の面では、2019年2月に、長期環境ビジョン「SHARP Eco Vision 2050」を策定し、持続可能な地球環境の実現に向け、「気候変動」「資源循環」「安全・安心」 の3つの分野それぞれで2050年の長期目標を設定しました。昨今、世界各国で取り組みが加速している「気候変動」の分野では、2050年までに自社活動のCO2排出量ネットゼロを実現するとともに、サプライチェーン全体で消費するエネルギーを上回るクリーンエネルギーを創出するという目標の下、エネルギーソリューション事業の拡大や、製品の省エネ性能の向上、事業活動における燃料や電力使用のさらなる効率化に取り組んでいきます。
社会(Social)の面では、前述の8つの重点事業分野を中心とした事業活動により、社会課題の解決に取り組んでいきます。また、日本が深刻なマスク不足となった2020年2月、当社グループは日本政府からの要請を受け、社会貢献として、翌3月より三重工場でマスクの生産を開始し、その後1年余りで累計2億枚を超えるマスクを出荷してきました。加えて、「光触媒スプレー」や「高性能フェイスシールド」、ワクチン輸送にも活用されている「適温蓄冷材」など、様々な健康関連商品の展開も積極的に行っています。当社グループは、今後もこのような、人々の健康や社会の安心・安全の確保に向けた取り組みを通じて、より一層社会に貢献していきたいと考えています。また、サプライチェーンにおける人権問題をはじめとした社会課題についても、未然防止ならびにその実効的な解決に向けた取り組みを強化していきます。
ガバナンス(Governance)の面では、「企業価値向上を実現するコーポレートガバナンスの構築」に向け、取締役会の機能向上を図るとともに、情報開示の拡充やステークホルダーとの継続的な対話を行っていきます。また、当社の連結子会社であるカンタツ㈱及びその子会社において不適切な会計処理の存在が発覚したことを受け、当社グループは、2020年12月に外部の弁護士・公認会計士を含む調査委員会を設置し、2021年3月に同委員会から調査報告書を受領しました。当社グループは、グループ内部統制が有効に機能していなかった今回の事態を重く受け止め、当報告書の内容に沿って、コンプライアンスの再徹底や業務プロセスの見直し、グループガバナンスの強化等、具体的な再発防止策を講じています。
(3) セグメント別重点取り組み
2021年度第1四半期以降、当社グループは以下のセグメントでの業績開示を行います。
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①スマートライフ
既存領域では、引き続き、独自特長家電やスタイリッシュデザイン家電等の創出を進め、さらなる収益力強化を図るとともに、住宅用の新型蓄電池や太陽光パネルの販売拡大に取り組みます。
新規領域では、日本国内におけるAIoT機器のさらなる販売拡大やサービス・ソリューションの立上げを図るとともに、海外におけるAIoTビジネスの事業基盤構築を加速すべく、カテゴリーやラインアップの拡充に取り組みます。加えて、PCI搭載機器のグローバル拡大や、ヘルスケアビジネスの強化、新興国向けを中心とした海外EPC/IPPビジネスの拡大にも取り組んでいきます。
②8Kエコシステム
既存領域では、回復が見込まれるMFP需要を確実に取り込むべく、オフィス向けサービス・ソリューション商材とMFPとのセット商談を推進するとともに、グローバルにおけるテレビの販売拡大をより一層加速していきます。
新規領域では、スマートオフィスサービス「COCORO OFFICE」の対応機器やサービスの拡充、欧州及び米州におけるITベンダーの買収等、スマートオフィスビジネスの拡大に取り組むとともに、シャープNECディスプレイソリューションズ㈱との連携をより一層強化し、業務用ディスプレイのグローバル拡大を加速します。加えて、COCOROメンバーへのECビジネスやソリューション提案も強化していきます。
③ICT
既存領域では、スマートフォンのさらなるコスト競争力強化及び需要が拡大しているミドルレンジモデルの強化を進め、シェアアップを図るとともに、海外を中心に、パソコンの販売拡大に取り組みます。
新規領域では、テレワークソリューションや教育向けソリューション等、クラウドを活用した新たなビジネス展開を加速するとともに、デジタルヘルスケア分野への参入等、新規事業の創出にも積極的に取り組んでいきます。
④ディスプレイデバイス
引き続き需要が旺盛なPC・タブレット向けパネルや、需要の回復が進む車載向けパネルの販売拡大に取り組み、中型ディスプレイの売上構成比の拡大を図ります。加えて、白山工場も活用した生産体制の最適化や、プロセス革新による生産効率の向上にも取り組みます。
⑤エレクトロニックデバイス
スマートフォンカメラの高機能化など、市場のトレンドに適切に対応し、カメラモジュールビジネスのシェアアップ及び新規顧客の開拓を加速していきます。加えて、プロジェクターやヘッド・マウント・ディスプレイ向けレーザーモジュールの開発加速及びコスト競争力強化を図るとともに、センサー事業の販売拡大にも取り組みます。
(4) 目標とする経営指標
今後の事業計画の前提となる環境変化の想定は極めて難しい状況が続く見通しにありますが、当社グループは、既存事業を着実に維持・強化する一方で、成長が期待できる新規事業領域への積極展開や柔軟かつ強靭なサプライチェーンの構築など、変化への対応力を高めることで、業績目標を確実に達成していきたいと考えています。2021年度は、売上高2兆5,500億円、営業利益1,010億円、営業利益率4%を目指します。セグメント別構成比では、ブランド事業が売上の過半を、営業利益では約4分の3を占める見通しです。また、当面の目標としては、収益性向上の観点では「ブランド事業の営業利益率7%以上」を、財務基盤強化の観点では「NET DER(純有利子負債/自己資本)1倍未満」、「自己資本比率25%以上」を目指します。
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