有価証券報告書-第93期(平成30年4月1日-平成31年3月31日)

【提出】
2019/06/26 16:01
【資料】
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【項目】
83項目

研究開発活動

当連結会計年度の研究開発投資(無形資産に計上された開発費を含む)の内訳は、次のとおりであります。
当連結会計年度売上収益比率
計測事業9,086百万円13.3%
PQA事業2,174百万円9.4%
その他の事業526百万円6.3%
基礎研究開発220百万円-
合 計12,008百万円12.0%

また、セグメント別の主な研究開発成果は次のとおりです。
(1) 計測事業
計測事業は、当社、Anritsu Company(米国)、Azimuth Systems, Inc.(米国)、Anritsu Ltd.(英国)、Anritsu A/S(デンマーク)等において、保有する技術を相互補完することによりシナジー効果を上げるべく協調して開発を進めております。
1) 5G NRのRF試験とプロトコル試験に対応したMT8000Aの開発
MT8000Aは、第5世代通信システム5G NR(New Radio)のRF試験とプロトコル試験に対応した、モバイル端末、チップセット及びデバイス開発用テストプラットフォームとして2018年4月に販売を開始しました。2018年度は引き続いて、Sub-6GHzにおけるデータ通信を高速化する4x4 MIMOや、ミリ波の広帯域化を実現する8CCなどの最新技術への対応、ミリ波の28GHz帯に加え39GHz帯への対応を行いました。さらに、プロトコル試験で必要なテストケースの編集、実行、解析を統合的にサポートするRapid Test Designer(RTD)の開発、そしてOTA(Over The Air)環境でのRF試験とプロトコル試験に使用するOTAチャンバとして、RF Chamber MA8171A及びCATR Anechoic Chamber MA8172Aの開発にも取り組みました。これによりミリ波のビーム特性評価とビーム検証試験が可能となります。
2) 5G NR モバイルデバイステストプラットフォームME7834NRの開発
5G NR対応のモバイル端末のプロトコルコンフォーマンス試験と通信事業者受入試験に対応する自動試験システムとして、5G NRモバイルデバイステストプラットフォームME7834NRを開発しました。
OTAチャンバとRFコンバータを組み合わせることで、Sub-6GHz及びミリ波を含む3GPPで規定される5G周波数帯域をカバーします。2018年8月には、モバイル端末の認証試験基準を定めているGCF(Global Certification Forum)及びPTCRB(PCS Type Certification Review Board)により、5G NRモバイル端末用テストプラットフォームとして登録されました。その後、2019年1月に開催されたGCFミーティングにおいて、複数のミリ波の周波数帯で認証を得ました。今後もGCF及びPTCRBのプロトコルコンフォーマンステストの認証カバー率を増やしていきます。
3) 5G NR RF コンフォーマンステストシステムME7873NRの開発
5G NR対応のモバイル端末のRF試験に対応する自動試験システムとして、5G NR RFコンフォーマンステストシステムME7873NRを開発しました。
3GPPで規定されるRF試験の他、基地局と携帯端末間の無線リソース制御、例えば隣接基地局間のハンドオーバなどが正しく動作しているかを確認するための試験であるRRM(Radio Resource Management)試験にも対応しています。OTAチャンバとRFコンバータを組み合わせることで、Sub-6GHz及びミリ波を含む3GPPで規定される5G周波数帯域をカバーします。2019年1月からSub-6GHzノンスタンドアローンモード(NSA)でGCFによる認証取得を開始し、3月にはGCFでもスプリアス試験の認証を取得しました。今後、Sub-6GHz スタンドアローンモード(SA)やミリ波の周波数帯でも認証を取得していく予定です。
4) 5G波形生成ソフトウェアMX370113A、MX269913Aの開発
5Gでは、28GHz、39GHzを使用するミリ波に加え、6GHz以下を使用するSub-6GHzの周波数帯も利用します。4G LTEに近い周波数帯であることから、Sub-6GHzに対応した5Gシステムの送信/受信特性評価においては、LTE、LTE-Advancedなど従来の通信システムで使用している信号発生器を活用したいというニーズが高まっています。
そこで、各種通信方式に対応してきたベクトル信号発生器MG3710A、シグナルアナライザMS2690A/MS2691A/MS2692Aを機能強化し、5G NR信号の出力を可能とするソフトウェアを開発しました。アップリンク信号とダウンリンク信号をサポートし、コンポーネントキャリア(最大100MHz)、サブキャリア間隔、変調方式などのパラメータを設定することで、3GPPで規定される5G NR信号の波形ファイルを生成できます。
5) MT8870A 5G NR Sub-6GHzソフトウェアの開発
Sub-6GHzは、モビリティやワイドエリアカバレッジなど、4G LTEに近い周波数特性の中でサービスを提供できるというメリットがあり、2020年ころまでには5Gシステムの主役になることが予測されています。このため、スマートフォンなど5Gデバイスベンダにとって、Sub-6GHzに対応することが最初のステップになることから、今後量産用測定器として生産性向上のニーズが高まることが見込まれています。
そこで、ユニバーサルワイヤレステストセット MT8870Aのソフトウェアを拡充し、Sub-6GHz対応モバイル端末の評価を可能とするソフトウェアを開発しました。MT8870Aは上限6GHzのシームレスな周波数バンドと160 MHz帯域幅を標準搭載しており、ハードウェアをアップグレードすることなく、3GPP 5G NR Sub-6GHzで定義される試験が行えます。また、次世代のモバイルデバイスで一般的なデザインになる4G + 5G + IEEE 802.11ax + Bluetooth 5を共通のプラットフォームで試験可能となり、試験コストを削減できます。
6) 5Gネットワークを支える光ファイバ建設・保守用MT9085シリーズOTDRの開発
5Gの実用化に向け、モバイルネットワークそしてメトロ・コアネットワークの大容量化が急ピッチで進んでいます。これらのネットワークを支えるのが光ファイバであり、その建設・保守作業でOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)が利用されます。しかし、建設・保守作業の増加とともに光ファイバ測定に不慣れな作業者が増え、使いやすくかつ分かりやすいOTDRが求められています。
そこで、新たにMT9085シリーズOTDRを開発しました。MT9085は、ロータリノブ、ハードキーなど従来の使い勝手の良さを継承しつつ、8インチワイドの大画面にタッチスクリーン操作を追加することで、今までOTDRを操作したことのない作業者にも直感的に操作できるようにしました。また、測定結果が一目でわかるFiber Visualizer機能を追加しました。これにより、熟練した作業者だけでなく初めての作業者まで光ファイバ建設・保守現場作業が容易に行えるようになりました。さらに、WLANやBluetoothなどを利用し、測定結果の一元管理も簡単に行えます。
7) 5Gネットワークの建設・保守に貢献するハンドヘルドスペクトラムアナライザ MS2090Aの開発
5Gネットワーク建設・保守用測定器として求められる機能や性能を有し、各種無線通信ネットワークの品質向上に最適なフィールドマスタ プロ MS2090Aを開発しました。
MS2090Aは、9kHzから9/14/20/26.5/32/44GHz及び54GHzまでの周波数範囲をカバーします。表示平均ノイズレベル(DANL)-160dBm未満、3次相互変調歪(TOI)+20dBm(代表値)など、最高クラスの性能を備え、高精度でスペクトラムクリアリング(周波数の空き状況)、アンテナアライメント、高調波及び歪み測定が可能です。また、変調解析帯域幅は100MHz、位相ノイズは100kHzオフセットで‒110dBc/Hz(@1GHz、代表値)と最高クラスを実現しており、デジタル無線システムにおける高精度な変調測定が行えます。さらに、±0.5dB(代表値)の振幅確度により、送信機パワー及びスプリアス測定において、信頼性の高い結果が得られます。
さらに、5G帯域(Sub-6GHz及びミリ波)における変調解析をサポートしています。コンプライアンステスト、そして高調波やスプリアスのテストにも使用できます。最大100MHzのリアルタイムスペクトラム解析スパンで、セルラ帯域や無線LAN帯域での干渉をモニタリングできます。
8) 5Gモバイルネットワークの開通・保守機能を強化したMT1000Aの開発
MT1000Aは、10Mbpsから100Gbpsまでの通信速度で運用される各種ネットワークの伝送品質を評価できるポータブル測定器です。ネットワーク評価の標準試験であるRFC2544試験やY.1564試験に加え、OTNやSDH/SONET、モバイルネットワークで使用されるCPRIやOBSAIも試験できます。
今後5G基地局インターフェースであるCPRIは、EthernetをベースとしたeCPRI/RoEに拡張されます。Ethernetはベストエフォート通信のため、5Gでの運用においてはネットワークの遅延時間を厳しく管理する必要があります。5Gではミリ波など飛距離の短い高周波数帯の電波を使用するため、数多くの基地局が必要になります。これらの基地局の時刻同期を行うためにPTPが用いられます。このため、eCPRI/RoEや時刻同期を評価できる測定器のニーズが高まっていました。
そこで、eCPRI/RoEや時刻同期を評価できる機能を開発しました。MT1000Aはマスター機とスレーブ機として連携させ、マスター機からスレーブ機をリモート動作させることができます。これによりマスター機でアップリンク(端末からサーバーへのデータ転送)の通信速度を、スレーブ機でダウンリンクの通信速度を同時かつ正確に測定できるようにしました。また、オプションの高精度GPS同期発振器 MU100090Aと組み合わせることにより、GPSから得られた時刻情報を元にした時刻同期試験や遠く離れた2台のMT1000A間の片方向遅延の高精度な測定が行えます。
9) MP1900A用400GbE PAM4 BER測定モジュールの開発
次世代5Gモバイル通信やクラウド通信サービスのインフラとなるデータセンタでは、高速化に加え、PAM4やマルチレーンを用いた伝送容量の拡張が検討されています。400GbEは、26.5625 Gbaud PAM4 x 8レーン、53.125 Gbaud PAM4 x 4レーンの伝送方式によって実現されます。4値の振幅レベルで情報を表すPAM4方式では、NRZ方式に対して信号レベル間の差が1/3となり、高baudレート化にともない1シンボルの単位時間は短くなるため、高速伝送を実現する上でテスト信号の品質の重要度が増しています。また、マルチレーン化や集積設計によりクロストークやノイズなどに起因する信号品質の劣化が避けられなくなっており、劣化要因のストレスを加えたテスト信号による最小受信感度評価の要求が高まっています。
そこで、高信号品質を実現した64 Gbaud PAM4 PPGと、高感度性能の32 Gbaud PAM4 EDを開発しました。64 Gbaud PAM4 PPGモジュールは、高品質信号性能の要求へ応え、Tr/Tf(20-80%)時間8.5 ps(代表値)、低残留ジッタ170 fs(代表値)を実現しました。4chまで拡張可能なマルチチャネル機能、伝送路損失による信号劣化を補償するためのエンファシス機能も備えています。32 Gbaud PAM4 EDモジュールは、23 mV(代表値)の高感度性能を実現しているとともに、受信感度評価で必須となるクロックリカバリ機能を内蔵し、PAM4シンボルエラー測定に対応しました。マルチチャネル機能により、測定器導入計画に合わせた拡張を可能にするとともに、複数レーン同時測定による測定時間短縮に貢献します。
10) BERTWave™ MP2110A用4チャネルのサンプリングオシロスコープオプションの開発
光通信ネットワークを構成する光モジュールは、チャネル数、波長、伝送方式(NRZ/PAM4)などによりさまざまな種類が存在しますが、一方でコスト要求は厳しさを増しています。そのため、評価系構築にあたってはさまざまな方式に対応し、かつコストパフォーマンスの高いシステム構成が求められています。
そこで、光モジュールの評価用測定器として提供している、オシロスコープとBERTを一体化したBERTWave™ MP2110Aの機能を強化し、4チャネルのサンプリングオシロスコープオプションを開発しました。100GbEや400GbEなど光モジュール評価で必要とされるアイパターン解析、アイマスク試験、TDECQ(Transmitter and Dispersion Eye Closure Quaternary)測定が行えます。また、従来の2チャネルモデルに比べ、チャネル単価が約1/2に低減されています。さらに、多チャネル同時測定と、各チャネルの個別測定の両方が可能です。これにより、多チャネルモジュールだけでなく単チャネルモジュールを複数同時に測定することが可能であり、測定システムを柔軟に構築できます。
11) 標準化活動
計測事業における研究開発活動の重要な取り組みのひとつとして、国内外の標準化活動へ積極的に参画しています。情報通信産業における最先端の知識・技術を常に製品へ反映し、競争力に優れたソリューションをタイムリーに提供するために、主要な標準団体として現在3GPP、ITU-T、IEEE等へ参加し、4G/5G、データセンタ、IoT/M2M、コネクテッドカーといった有線・無線通信事業の戦略立案や情報収集に役立てています。
特に移動通信システムの規格を策定する3GPPにおいては、基地局と携帯端末の通信手順試験を可能とするコンフォーマンステスト(端末認証試験)仕様策定に際し、LTE/LTE-Advanced(4G)/New Radio(5G)の規格策定段階から数多くの寄書を行っています。2018年度は国内外の通信オペレータ、チップセットベンダ、端末ベンダとも協力しつつ、5G移動通信システム関連規格を含むリリース16の策定に参加しました。
この他、5Gモバイルフロントホール構築に必要な規格開発に参画し、「IEEE 1914.3-2018(注)」の公開に貢献しました。本規格は、5Gの無線信号と有線インターフェースの親和性を高め、モバイルフロントホールを効率化するための規格であり、2018年10月にIEEEにより新規に公開されました。
(注)IEEE 1914.3-2018
RoEを使用したイーサネットフレーム上での転送のための無線プロトコルのカプセル化とマッピングを定義。IEEE 1914.3™の採用により、ルーティングされたイーサネットネットワークで、デジタル化された無線データ、CPRI™、I/Qデータ、コントロールチャネルフレームを利用できるようになる。イーサネットをIEEE 1914.3フレームでトランスポート層として利用すると、より優れたリンク能力や転送効率など、フロントホールネットワーク性能が改善することに加え、必要なネットワーク遅延保証を維持することができる。
(2) PQA事業
PQA事業は、アンリツインフィビス㈱が研究開発を行っております。
持続可能社会の実現に貢献する品質保証ソリューションの開発
世界各国で、SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)の実現に向けた機運が高まっています。PQA事業の主な市場である食品産業においても、「安全・安心な食品の安定供給」に加えて、食品の廃棄ロスを減らして「持続可能な生産と消費のスタイル」を構築することが課題として注目されています。
お客様の品質保証活動の高度化や生産性の向上などの便益をご提供するPQA事業の品質保証ソリューションは、家庭から食品工場へと食品加工の集約化を促します。高度に品質管理された生産ラインで食品を長期に保存可能な状態に加工することで、不良品の回収、消費期限切れ、家庭での調理などによる廃棄ロスを減少させる効果が期待できます。
当社は、このような品質保証ソリューションが持つ社会的価値に以前から注目し、品質検査に有効なセンシング技術の研究と品質保証の高度化に貢献するソリューションの開発に取り組んでおります。
当期におきましては、新開発のデュアルエナジ―センサと画像処理アルゴリズムを採用した「デュアルエナジ―センサ搭載XR75シリーズX線検査機」を開発し販売を開始いたしました。この新製品は、肥育された鶏肉に残った微小な骨を検出するなど、従来機では検出が困難であった異物の排除に威力を発揮します。また、併せて開発した総合品質管理・制御システム「QUICCA3」は、品質検査機が出力する大量の品質データを分析し、生産状況や品質状況の見える化を通じて、出荷品質と生産性の向上に貢献します。また、最新のIoT技術を取り入れてお客様の工場で導入が進むMES(Manufacturing Execution System、製造実行システム)などとの連携性を向上しています。
PQA事業は、オリジナルでハイレベルな品質保証ソリューションのご提供を通じて、「持続可能な社会」の実現に貢献しています。