有価証券報告書-第88期(平成25年4月1日-平成26年3月31日)

【提出】
2014/06/26 16:14
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【項目】
59項目

研究開発活動

当社グループは、安全・安心で豊かなグローバル社会の実現に貢献するため、日本、アメリカ、ヨーロッパに有する開発拠点でグローバルに“オリジナル&ハイレベル”な商品とサービスの研究開発を行っております。
計測事業は、当社、Anritsu Company(米国)、Anritsu Ltd.(英国)、Anritsu A/S(デンマーク)、及びAnritsu Solutions S.r.l.(イタリア)において、保有する技術を相互補完することによりシナジー効果を上げるべく協調して開発を進めております。
産業機械事業はアンリツ産機システム㈱が研究開発を行っております。
国際会計基準(IFRS)の適用に伴い、当社グループでは開発投資の一部について資産化を行い、無形資産に計上しております。無形資産に計上された開発費を含む当連結会計年度の研究開発投資の内訳は次のとおりであります。
当連結会計年度売上収益比率
計測事業9,669百万円12.7 %
産業機械事業1,374百万円8.1 %
その他の事業506百万円5.6 %
基礎研究開発937百万円-
合 計12,488百万円12.3 %

また、セグメント別の主な研究開発成果は次のとおりです。
(1)計測事業
1)ML8780/81A エリアテスタ 700MHz対応LTE測定ソリューション開発
スマートフォンによるデータ通信トラフィックが急増しているなか、国内の通信事業者は、LTEサービス・エリアの拡充に注力しています。この作業では、基地局がカバーするエリアの無線信号品質を評価し最適化を図っており、当社は従来から、エリアの無線品質を測定する計測器として、エリアテスタML8780/81Aシリーズを提供しています。さらに近年のLTEデータ通信量の増大を背景に、新たに700MHz帯及び900MHz帯が割り当てられサービスが開始されることになりました。そこで当社は新周波数帯に対応した、ML8780/81A用フルバンド対応測定ユニットを開発しました。新ユニットでは、低消費電力設計により、歩行測定時のバッテリ駆動時間を拡大し、サービス・エリアの評価効率を更に改善します。
2)MP1800A シグナルクオリティアナライザ 32Gbps 高感度誤り検出器及びPAM4/PAM8コンバータの開発
LTEなどに代表されるモバイル・アクセスのブロードバンド化、スマートフォンの普及によるモバイル・データの爆発的増加とリッチ・コンテンツをサーバから配信するサービス高度化により、トラフィック量は増加の一途を辿っています。このため、トラフィックを効率的かつ高密度に伝送させるためのネットワーク高速化、並びに超高速処理能力を持つコンピュータ・サーバーの開発・生産が本格化しています。
当社は、これまで培ってきた超高速BER測定(注1)技術を活用し、MP1800Aシグナルクオリティアナライザに32Gbps 高感度誤り検出器とPAM4/PAM8コンバータをラインアップしました。
32Gbps高感度誤り検出器は、ハイ・パフォーマンス・コンピュータやサーバで使用される超高速インタコネクトの課題である電気信号の伝送劣化後のBER測定を可能とすることで正確な伝送評価が可能となります。
また、PAM4/PAM8コンバータは、標準化活動を開始した次世代規格400GbE(注2)(IEEE802.3bs)で使用可能性を検討しております。いずれのソリューションも通信の大容量・高速化に向けた研究・開発・製造に貢献できるラインアップとなっています。
(注1)BER測定:Bit Error Rate測定
信号に含まれるビットエラーの割合を測定し、伝送品質を検証すること。
(注2)GbE:Gigabit Ethernet
IEEE(米国電気電子学会)によって標準化されているイーサネット規格。40GbEは1秒間に40ギガビット (4*1010=40,000,000,000)、100GbE は1秒間に100ギガビット(1011=100,000,000,000)の信号を伝送できるイーサネット。
3)MT8820C ラジオコミュニケーションアナライザの機能拡張開発
MT8820C ラジオコミュニケーションアナライザは2010年の発売以来、携帯端末の無線送受信試験のスタンダードとして広く活用され、移動通信市場の発展に大きく貢献してまいりました。移動体通信はLTEからLTE-Advancedへと更なる高度化と高速化を目指して発展を続けており、2014年末には3つのLTEキャリア(周波数チャンネル)を使用したCA(Carrier Aggregation)による高速データ通信サービスが計画されています。また、2013年末に中国でサービスが開始されたLTE-TDD(TD-LTE)(注1)もLTE-Advancedによるデータ通信速度の向上が計画されています。当社はこれらのLTE-Advanced技術への対応を中心に継続してMT8820Cラジオコミュニケーションアナライザの機能拡張を図り、より快適なモバイル・コミュニケーション環境の実現に向けた取り組みを行っております。
(注1)LTE-TDD(TD-LTE)
LTEはFDD方式とTDD方式が規格化されている。FDD方式は、使用する周波数帯域を送信用と受信用に分割し、同時に送受信する方式。TDD方式は、送信信号と受信信号を同じ周波数で短い時間間隔で分割し、交互に伝送する方式。
4)MD8430A シグナリングテスタの機能拡張開発
定額制のデータ通信サービスやクラウド・コンピューティングの普及に伴い、スマートフォンやタブレット、USBカードタイプのデータ通信端末など、各種モバイル端末のLTE対応が加速しています。映像や動画などリッチ・コンテンツの利用拡大により、モバイル回線の更なる高速大容量化が必須となっています。この対応策として、キャリア・アグリゲーション機能によりLTEを更に高速化するLTE-Advancedの開発が本格化しています。MD8430Aは、キャリア・アグリゲーション試験機能を拡充し、FDD方式に加えTDD方式のLTE-Advanced技術、データ通信速度の高速化(300Mbps)対応等、最先端技術の評価環境を提供し、実用化を早め、これからのモバイル通信の進化・成長に貢献いたします。
5)ME7873/ME7834 LTE RF/プロトコルコンフォーマンス試験(注1)・CAT(注2)システムの機能拡充
世界各国の主要通信事業者はLTEを導入することでモバイル・ブロードバンドを実現し、更なる通信の高速化、高度化を目指してLTE-Advancedへの発展を進めています。また、通信事業者は通信サービスの品質を保つため世界的な評価基準であるコンフォーマンス試験に加え、独自の端末品質評価体系の整備・運用が始まっています。
本開発により、これまでのLTE用コンフォーマンス試験に加えて、LTE-Advanced向けコンフォーマンス試験に対応、また音声サービスに求められるVoLTE(注3)試験などに対応したコンフォーマンス試験機能を拡充いたしました。
RF/プロトコルコンフォーマンス試験システムでは、LTE-AdvancedにおいてもGCF(注4)/PTCRB(注5)においてテストケース認証を業界で初めて取得するなど、市場・顧客ニーズに合致したソリューションを提供しています。
ME7873/ME7834は、最先端機能であるLTE-AdvancedまでのRF/プロトコル・コンフォーマンス試験から通信事業者独自の端末品質評価試験までをワン・ストップ・ソリューションで提供することで、LTE/LTE-Advanced端末の効率的な開発、品質維持に貢献し快適な通信環境の実現に貢献していきます。
(注1)RF/プロトコル・コンフォーマンス試験
携帯端末の送受信特性等の無線機性能及び携帯端末と基地局間の通信手順が、標準規格に適合していること
を確認するための試験。
(注2)CAT: Carrier Acceptance Test
RF/プロトコル・コンフォーマンス試験とは別に各通信事業者が独自に設けている端末受入試験。
(注3)VoLTE:Voice over LTE
LTE上での音声通話を実現する技術
(注4)GCF:Global Certification Forum
携帯端末のグローバルな相互接続性(Inter-operability)を保証するため、ネットワークでの運用基準や携
帯端末の認証試験基準を定めている団体。
(注5)PTCRB:PCS Type Certification Review Board
GCFと同目的の団体であるが、北米の周波数バンドのみを対象とする。
(2)産業機械事業
用途別品質検査機器の開発
食品流通の発達に伴い「食の安全と安心」に関する消費者の意識が世界的に高まっており、その潮流は市場をリードするトップ層の企業から中堅企業層へ、先進国市場から新興国市場へと拡大を続けております。グローバルに事業を展開する食品企業にとって、各国の多様な食文化に適応し、世界中何処でも変わらない「安全と安心」を保証することが重要な課題になっています。
産業機械事業では、このようなお客様の課題に注目し、更なる品質検査技術の追求と用途に応じた製品ラインナップの充実に取り組んでおります。異物検出機につきましては、原材料工程での検査ニーズに注目し大袋状態での異物検査を実現した「KD7447FWE Ⅹ線異物検出機」や、従来の異物検査機能に、噛み込みなどの包装不良を同時に検査する機能を付加した製品を開発いたしました。
重量選別機につきましては、独自の電磁平衡式秤を大幅に薄型化してスティック包装機などの多連充填包装ラインへの組み込みを実現した「KWS9006多連計量システム」を開発したほか、主力の「SSⅤシリーズ重量選別機」に、世界で最も厳しい計量器基準であるMID(注)「Class XII/e=0.05g」の型式認定を取得したモデルを追加して欧州市場への適応を図りました。
これらの品質検査機器は、食品・薬品企業の多様な生産ラインにおいて、品質保証の高度化と生産性の向上に貢献いたします。
(注)MID:Measuring Instruments Directive(欧州計量器規制)
(3)その他の事業
1)情報通信事業 遠隔監視制御装置 NHシリーズの開発
遠方監視制御システムは、水道設備や環境監視、鉄道会社や電力会社などの設備監視システムで導入され、安全・安心な社会づくりのインフラとなっています。情報通信事業では、この分野で30年以上にわたりビジネスを展開しており、多数の自治体の水道システムで遠隔監視制御装置をご利用いただいております。
当年度においては、基本ユニットNH3001Aに接続して通話を行うNH1201A連絡用通話装置を開発、リリースするとともに、NHシリーズの新型機として入出力信号にバリエーションを加えた、NH3005A、NH2505Aを開発、リリースしました。
通話装置をラインナップすることにより、かねてから要望の高かった現場と中央指令室とのコミュニケーションが容易にできるようになりました。また、入出力信号のバリエーションを加えたシリーズ展開により小規模案件において、設置スペースの対応など、より適切な対応が可能となりました。
今後も遠隔監視装置の機能強化を行い、安全・安心な社会づくりに貢献してまいります。
2)情報通信事業 情報閲覧装置 NC5200シリーズ(登録商標 SightVisor)の開発
主要道路や河川では、監視カメラの整備が進み、各地で発生する事故や災害の状況を映像で把握することができるようになりました。また、気象情報や河川の状況を提供するWEBサーバなどから、刻々と変化する最新情報がリアルタイムで配信されています。これらの情報を一元的に集約、表示して監視業務の効率化を支援するため、SightVisorを開発しました。
SightVisorは,監視カメラからのH.264,MPEG2エンコード信号をネットワークから受信し、1つの画面に最大で6つの映像を同時に表示できる1080p、マルチ・デコード、マルチ表示対応装置です。付属のリモコンによる制御に加えて、外部サーバからの制御にも対応しております。これらの制御機能の充実により、人の直観的な操作、制御だけでなく、中央指令室のサーバからの遠隔、プログラム制御も可能であり、監視業務の効率化に貢献しております。
今後、他製品との組合せによる映像ソリューションの充実を図り、安全・安心な社会づくりに貢献してまいります。