有価証券報告書-第94期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/25 15:48
【資料】
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【項目】
83項目

研究開発活動

当連結会計年度の研究開発投資(無形資産に計上された開発費を含む)の内訳は、次のとおりです。
当連結会計年度売上収益比率
計測事業10,489百万円14.0%
PQA事業2,180百万円9.7%
その他の事業467百万円5.0%
基礎研究開発184百万円-
合 計13,321百万円12.4%

また、セグメント別の主な研究開発成果は次のとおりです。
(1) 計測事業
計測事業は、当社、Anritsu Company(米国)、Azimuth Systems, Inc.(米国)、Anritsu Ltd.(英国)、Anritsu A/S(デンマーク)等において、保有する技術を相互補完することによりシナジー効果を上げるため、協調して開発を進めております。
1) 5G NRのRF試験とプロトコル試験及び5G端末の機能・アプリケーション試験に対応したMT8000Aの開発
MT8000Aは、第5世代通信システム5G NR(New Radio)のRF試験とプロトコル試験に対応した、モバイル端末、チップセット及びデバイス開発用テストプラットフォームとして2018年4月に販売が開始されました。2019年度は引き続き、Sub-6GHzにおけるデータ通信を高速化する4x4M MIMO 2CCを対応するためのMulti RF Module MT8000A-031や、ミリ波の28GHz帯と39GHz帯の両方に対応するMultiband RF Converter MA80003Aの機能強化開発を行いました。また、既存5G機能の組合わせであるFDD + TDDやFR1 + FR2のキャリア・アグリゲーション機能や、4Gの周波数で5G通信を行うDSS(Dynamic Spectrum Sharing)機能に対応しました。さらに、GUI操作のみで5Gネットワークと端末の通信状況を再現するSmartStudio NR MX800070Aを2020年3月に販売開始しました。これにより5G端末の通信速度、消費電力、端末のアプリケーション動作、ソフトウェアリグレッション試験(*1)が可能になります。
(*1) ソフトウェアリグレッション試験:ソフトウェアをバージョンアップした際、その変更によって予想外の問題が現れていないかを確認する試験。
2) 5G NRモバイルデバイステストプラットフォームME7834NRの開発
ME7834NRは、3GPPで規定される5G NRのプロトコルコンフォーマンス試験と通信事業者受入試験に対応する自動試験システムです。5G NRのスタンドアローンモード(SA)/ノンスタンドアローンモード(NSA)双方での試験に対応します。また、OTAチャンバと組み合わせて、5Gで使用されるSub-6GHz帯、ミリ波帯の周波数帯域におけるOTA環境での試験に対応します。
ME7834NRは、モバイル端末の認証試験基準を定めているGCF(Global Certification Forum )及びPTCRB(PCS Type Certification Review Board)のプラットフォームとして認証されています。また、グローバルの大手通信事業者が独自受入試験を実施している各種プロトコル試験、データパフォーマンス試験に対応しています。今後もGCF・PTCRB、通信事業者受入試験でのプロトコル試験プラットフォームとして認証カバー率を増やしていきます。
3) 5G NR RFコンフォーマンステストシステムME7873NRの開発
ME7873NRは、3GPPで規定される5G NRのRF試験、基地局と携帯端末間の無線リソース制御、例えば隣接基地局間のハンドオーバなどが正しく動作しているかを確認するための試験であるRRM(Radio Resource Management)試験に対応する自動試験システムです。5G NRのスタンドアローンモード(SA)/ノンスタンドアローンモード(NSA)双方での試験に対応します。また、OTAチャンバと組み合わせて、5Gで使用されるSub-6GHz帯、ミリ波帯の周波数帯域におけるOTA環境での試験に対応します。
ME7873NRは、5G NR Sub-6GHz NSAのRFコンフォーマンス試験において、ネットワークでの運用基準や携帯端末の認証試験基準を定めているGCFが規定する5G端末の認証開始に必要なテストケース数のGCF認証を取得しました。対象の周波数バンドは、日本、韓国、中国で使用される予定のものです。今回認証開始基準を達成したRFコンフォーマンス試験は、端末のRFの送受信性能を測定する基本試験であり、5G対応端末を早期に市場投入するうえで重要な試験項目です。さらに、技術的難易度が高い5G NR ミリ波NSAにおいても、RFコンフォーマンス試験でGCF認証を取得しました。これらにより、端末ベンダは、ミリ波の5G端末についてもRFコンフォーマンス試験開始が可能となりました。
4) ワイヤレスコネクティビティテストセットMT8862Aの開発
IoTの普及に伴い、スマートフォンなどの携帯端末に加えて、プリンタやテレビなどの家電、車載機器、産業機器、センサー機器などでも急速にWLAN機能の搭載が進展しています。IEEE 802.11axは、既に5G搭載のスマートフォンやPC市場でも採用が始まっており、今後主要なWLAN規格となることが見込まれています。これに伴い、IEEE 802.11ax搭載機器の送受信性能を評価できる測定器の需要が急速に高まっています。
MT8862Aは、WLAN機能を搭載した通信機器のRF評価用測定器であり、IEEE 802.11a/b/g/n/acに対応しています。さらに今回IEEE 802.11axに対応したオプションを開発しました。本オプションを使用することにより、IEEE 802.11ax 搭載機器のRF評価を、ダイレクトモードによる短時間での評価に加え、ネットワークモードでは通信プロトコルを使用した実動作の状態で評価が行えます。また、WLANの信号品質はデータレートごとに特性が異なるため、データレートごとでの信号評価が非常に重要です。MT8862Aは、通信プロトコルを使用した実動作状態での測定モードにて、現在使用されている主要なWLAN規格のすべてのデータレートで信号品質評価が可能な業界初の測定器となりました。
5) 5Gエリアテスタの開発
2020年春から開始された5G本格サービスに向けて多数の基地局の配備が、今後必要となります。さらに、一般企業が限られたエリアで5Gを自営網として利用できるローカル5Gが制度化され、自営通信による5G基地局の整備も本格化します。オペレーター各社及びローカル5G事業者は、通信品質の安定や向上のために、基地局のカバーエリア内の電波伝搬特性の評価と、基地局の運用状態の確認を行います。これに伴い、評価用測定器のニーズが高まることが見込まれています。
そこで、携帯電話基地局サービスエリアの電波伝搬状況を評価するエリアテスタ™ ML8780A/ML8781Aの機能を強化し、5G NR(第5世代通信システム)測定用オプションを開発しました。新開発の5G NR測定用オプションは、5G NR基地局のエリア評価に必要な項目が測定できる「5G NR信号測定機能」、マルチパスの確認と改善に有効な「RS遅延プロファイル機能」、5G NR信号のフレームタイミングが許容範囲に収まっているかを確認できる「Frame Timing機能」などを標準搭載しています。ML8780A/ML8781Aは5G測定用オプションを搭載することにより、5G NR基地局から出力される5G信号の電波伝搬特性を高精度に評価し、カバーエリアを正確に検証することができます。
6) Automotive機能強化対応したMD8475Bの開発
基地局シミュレータ/シグナリングテスタ MD8475A/MD8475BとeCall Tester MX703330Eを組み合わせた自動車向け緊急通報システム eCall試験ソリューションを拡張し、NG112 LTE eCallオプションを開発しました。本オプションを使用することにより、次世代のeCall over LTE(NG-eCall)に対応した車載機器の評価が行えます。
eCallは、事故が発生した際に、緊急連絡センターに緊急呼接続を行い、事故情報を音声信号で送信するシステムです。EUでは、すべての新型車へのeCallシステム装備が2018年3月31日から義務化され、各国で導入が本格化しています。欧州の通信事業者は、2G及び3Gから4G LTE及び5Gインフラへの移行を進めています。eCallシステムもこの移行に従い、4G LTE及び5Gを使用した次世代緊急通報システム“NG-eCall”の開発が進展しています。
シグナリングテスタ MD8475A/MD8475Bは、eCallが運用されるモバイルネットワークを擬似的に構築できる基地局シミュレータです。eCall Tester MX703330Eは、eCall車載器と緊急連絡センター間の通信シーケンスをエミュレートできるソフトウェアです。MX703330Eに、今回開発したNG112 LTE eCallオプションを追加することにより、NG-eCall機能試験及びエンドツーエンドでの音声評価が、疑似的なLTEネットワークで行えます。ギガビットLTEのシミュレーション及びNG-eCall 車載器の評価をシグナリングテスタ MD8475B一台で実現し、テレマティクス総合試験の効率化と試験コストを低減しています。
7) 5Gネットワークを支える光ファイバー建設・保守機能を強化したMT1000A用OTDRモジュールの開発
SNSやインターネットビデオの普及により、スマートフォン、タブレットなどの通信容量が増大しています。さらに5Gサービスの本格普及に伴い、通信容量の急増が見込まれており、無線基地とアンテナ装置間/無線基地と交換局間の光ネットワーク化、メトロネットワークの波長分割多重化が更に進展しています。このため、ネットワークの建設や現用回線の保守作業が増大しています。光ファイバの建設・保守時には、光ファイバの品質試験だけでなく伝送品質試験も求められ、これらの評価を1台で可能とするマルチプラットフォームのニーズが高まっています。
今回開発したMU100023Aは、MT1000A用測定モジュールとして、1310/1550nmに加え、現用回線の保守で使用される1650nmの3波長で光ファイバー特性の測定を行えます。MU100023Aは、OTDR、安定化光源、光パワーメータを標準搭載していることに加え、オプションで可視光源機能、光ファイバスコープ機能を搭載できます。これにより、1台で各種光回線の通信品質の検証や現用回線を含む障害箇所の検知が行えます。さらに、MU100023Aと既存の10Gマルチレートモジュール MU100010Aや100Gマルチレートモジュール MU100011Aを同時に搭載することにより、光回線測定と伝送品質測定が1台のMT1000Aで実現できます。
8) MP1900A用400GbE PAM4 BER測定モジュールの開発
次世代5Gモバイル通信やクラウド通信サービスの普及により、データ通信トラフィックの更なる増大が予想されています。それに伴い、データセンタでは、53.125 Gbaud PAM4 x 4レーン方式を用いる400GbE通信規格や、さらに将来は8レーン化による800GbEへの高速化が検討されています。
4値の振幅レベルで情報を表すPAM4方式では、2値で表すNRZ方式に対して信号レベル間の差は1/3となるため、信号品質を評価する測定器には従来よりも高感度な入力性能が求められます。また、高速化に伴い伝送路損失による測定結果への影響が無視できなくなるため、クロックリカバリやイコライザなど、損失影響を補償するための機能を高度に統合したソリューションが求められています。
MP1900Aは、高度な信号発生と信号性能の解析をサポートし、400Gを超える通信速度に向けた、市場をリードするビットエラーレートテスタです。今回開発したPAM4 EDモジュールは、オリジナルInP半導体技術を用いた受信回路により、58 Gbaud PAM4入力に対応、Typ. 50mVの感度性能を実現しました。さらに、クロックリカバリ・イコライザ機能を内蔵し、動作上限・感度性能や、伝送路損失の影響によって、これまでできなかったBER測定結果の妥当性検証をサポートします。既に商品化されているMP1900AのPAM4パターン発生器と組み合わせて、より精度の高いPAM4信号のBER測定を行えます。
9) BERTWave™ MP2110Aサンプリングオシロスコープに内蔵可能な53Gbaudクロックリカバリの開発
5Gの本格普及によりデータ通信ネットワークの高速大容量化の需要はますます高まっています。この高速大容量ネットワークに使用される100G~400Gに対応した光モジュールでは、従来のデジタル信号伝送方式であるNRZ方式に代わりPAM4方式の光信号が出力されます。サンプリングオシロスコープではデータ信号に同期したトリガクロック信号が別途必要ですが、PAM4信号を出力する光モジュールではトリガ信号を用意できないケースが多くなってきています。クロックリカバリによりデータ信号からトリガ信号を生成することができますが、導入コストが高くなるという課題がありました。
そこで、BERTWave™ MP2110Aのサンプリングオシロスコープの機能を強化し、変調レート53GbaudのPAM4光信号からトリガクロックを生成することができるクロックリカバリユニットオプションを開発しました。このクロックリカバリオプションは内蔵タイプであるため、外付けタイプよりも低価格であり、操作性も優れています。本オプション追加により、現在IEEEで規格化が完了しているすべての種類のPAM4光モジュール評価を、外部のトリガクロックなしに1台で行うことが可能となりました。また、4チャネルオシロスコープを選択すると複数のチャネルを一括で測定できるため、製造のスループットを改善できます。現場で必要な試験系を、柔軟に、かつ最適なコストで構築できます。
10) 標準化活動
計測事業における研究開発活動の重要な取組のひとつとして、国内外の標準化活動へ積極的に参画しています。情報通信産業における最先端の知識・技術を常に製品へ反映し、競争力に優れたソリューションをタイムリーに提供するために、主要な標準団体として現在3GPP、ITU-T、IEEE等へ参加し、4G/5G、データセンタ、IoT/M2M、コネクテッドカーといった有線・無線通信事業の戦略立案や情報収集に役立てています。
特に移動通信システムの規格を策定する3GPPにおいては、基地局と携帯端末の通信手順試験を可能とするコンフォーマンステスト(端末認証試験)仕様策定に際し、LTE/LTE-Advanced(4G)/New Radio(5G)の規格策定段階から数多くの寄書を行っています。2019年度は国内外の通信オペレータ、チップセットベンダ、端末ベンダとも積極的にコラボレーション開発を実施し、そこで得た経験を活用し5G移動通信システム関連規格を含むリリース16の策定に参加しました。中でも5Gから採用されたミリ波通信周波数帯(注1)における測定方法の策定においては、従来用いられていなかったOTA(Over The Air)(注2)での測定方法検討、測定限界に関する情報の提供、また測定の不確かさの算出に貢献しました。これらの策定に当たっては3GPPに先行して進められていた国内法規策定にも配慮し、国内外の規格間での整合を取る活動にも貢献しています。
このほか、5Gモバイルフロントホール構築に必要な規格開発に参画し、「IEEE 1914.3-2018(注3)」の公開に貢献しました。本規格は、5Gの無線信号と有線インターフェースの親和性を高め、モバイルフロントホールを効率化するための規格であり、2018年10月にIEEEにより新規に公開されました。
(注1)ミリ波通信周波数帯
3GPPリリース15より採用された移動通信システム用通信周波数帯の一つ。新たに採用されている周波数としては24.25 GHz~29.5 GHz、37.0 GHz~40.0 GHzがある。その周波数帯では既存の6 GHz以下の周波数帯と比較し電波の空間伝送損失が非常に大きいため通信信号の品質劣化が大きい。そのため規格内で求められている端末性能を評価するために、物理的な測定限界付近での試験性能が求められる場合も有る。
(注2)OTA (Over The Air)
物理的にケーブル接続を行い通信するのに対し、無線での通信、電波の測定を行うこと。5Gのミリ波帯通信信号の携帯端末・基地局内における品質劣化を防ぐために回路の集積化が進められた結果、従来は携帯端末や基地局と測定器間は物理的にケーブルを用いて接続がなされていたのに対し、5Gのミリ波帯においては携帯端末・基地局のアンテナ端から送信される無線信号を測定器のアンテナで受信しその品質を評価する形となった。
(注3)IEEE 1914.3-2018
RoEを使用したイーサネットフレーム上での転送のための無線プロトコルのカプセル化とマッピングを定義。IEEE 1914.3™の採用により、ルーティングされたイーサネットネットワークで、デジタル化された無線データ、CPRI™、I/Qデータ、コントロールチャネルフレームを利用できるようになる。イーサネットをIEEE 1914.3フレームでトランスポート層として利用すると、より優れたリンク能力や転送効率やネットワーク仮想化など、5Gサービスに適したフロントホールネットワークを構築することが可能となる。
(2) PQA事業
PQA事業は、アンリツインフィビス㈱が研究開発を行っております。
医薬品の「安全・安心」に貢献する品質保証ソリューションの開発
医療は、食品と並んで人々が健康で豊かな社会生活を営むための最も基本的な要素であり、医薬品の開発や製造に携わる企業は、「安全・安心」を約束する品質保証に日夜取り組んでいます。少量で身体に強い効能を発揮する医薬品には、精度が高い品質検査とその品質を保証する厳格な管理が欠かせません。
PQA事業では、錠剤やカプセル剤の検査用に「M6-hシリーズ金属検出機 KDS1004PSW」を開発し、販売を開始しました。この新製品は、新開発のセンサー構造と信号処理を搭載し、業界最高レベルの金属検出感度と安定性を実現したほか、装置内部の状態監視や自己診断、選別部の動作確認など高度なバリデーション機能を備え、医薬品の厳格な品質保証に貢献します。
また、併せて開発した医薬品向け総合品質管理・制御システム「QUICCA Pharma」は、医薬品製造ラインに設置された検査機をネットワークで接続し、判定結果や来歴などをリアルタイムに収集・分析します。アメリカ食品医薬品局の定める「電子的記録,電子署名に関する規則(FDA 21CFR Part11)」に準拠した品質データ管理を提供することでデータ不正のリスクを軽減し、品質保証の信頼性向上に貢献します。