有価証券報告書-第94期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/25 15:48
【資料】
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【項目】
83項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(1) 会社の経営の基本方針
当社は、様々なステークホルダーに対する責任と対話を重視し、以下のとおり経営理念・経営ビジョン・経営方針を策定しています。
経営理念
誠と和と意欲をもって、“オリジナル&ハイレベル”な商品とサービスを提供し、安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献する
経営ビジョン
衆知を集めたイノベーションで社会のサステナビリティに貢献し、“利益ある持続的成長”を実現する
経営方針
1. 衆知を集めた全員経営でハツラツとした組織へ
2. イノベーションで成長ドライバーの獲得
3. グローバル市場でマーケット・リーダーになる
4. 良き企業市民として人と地球にやさしい社会づくりに貢献
(2) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、企業価値の最大化を目指してキャッシュ・フロー(CF)を重視した経営を展開しております。また、投下資本が生み出した付加価値を評価する当社独自の指標「ACE」を各事業部門の業績評価の指標としております。投下資本の効率性の指標として「ROE」の目標も設定しております。
(注)ACE (Anritsu Capital-cost Evaluation): 税引後営業利益-資本コスト(5%)
なお、現在運用している取締役(社外取締役及び監査等委員であるものを除く。)、執行役員及び理事を対象とした業績連動型株式報酬制度(株式交付信託)においては、その評価指標として、本制度の対象期間における各事業年度の期初に定める営業利益及び中期経営計画「GLP2020」に掲げる営業利益を採用しています。また、金銭の業績連動型報酬(年次役員賞与)の評価には、売上高、営業利益、営業CF及び資本効率(「ROE」、「ACE」、「ROIC」)の達成度、対前年比等の指標を用いています。
(3) 中長期的な経営戦略、経営環境及び対処すべき課題等
今後の見通しにつきましては、新型コロナウイルス感染症の拡大や米中貿易摩擦の長期化など、今後の世界経済の動向は予断を許さない状況が続いています。今後の新型コロナウイルス感染症の拡大の経過によっては、サプライチェーンの寸断や様々な事業活動の制限などにより、長期間にわたり円滑な企業活動が妨げられる可能性があります。当社グループは、事業への影響を最小限に抑えるべく、テレワークの推進、ITツールの活用及び調達の多様化等の対策に取り組みます。一方、情報通信分野においては、世界各国で5Gサービスが開始され、今後も5G関連の需要は拡大していくことが見込まれます。
このような環境の中、当社グループは、中長期経営戦略及び「2020 VISION」のもと、中期経営計画「GLP2020」(計画期間: 2018~2020年度)の達成に取り組み、世界各国の5G商用化計画に的確に対応したソリューションをタイムリーに提供することで、モバイル市場での競争力優位を確立し、5G/IoT社会を支えるリーディングカンパニーを目指すとともに、企業価値の向上を図ってまいります。
① 中長期的な経営戦略
当社グループは、主力の計測事業を軸に、ICT(Information and Communication Technology)サービスに関わるビジネスを展開しております。ICT分野における成長ドライバーは、「世界的なモバイル・ブロードバンド・サービスとIoTによる新たな社会価値の創造」です。そのプラットフォームとなるものが、中長期にわたるユーザー・エクスペリエンスの向上を目指すコミュニケーションシステムのイノベーションです。このイノベーションを実現するために、広帯域化を支えるLTE、LTE-Advanced/Pro、更に5Gへと続くモバイル通信技術の継続的開発や超高速広帯域な接続性の向上を支える通信ネットワークの再構築が進められています。幅広いモバイル・ブロードバンド・サービスのインフラとなることが期待される5GのNSA-NR、SA-NRの規格の標準化が完了し、これを受けて世界的に5Gの商用化に向けた開発が本格化しています。そして、2030年頃の提供を目指し、5Gを高度化させた6Gの検討が、米国、中国、韓国及び日本で始まりました。基本的な社会インフラからIoTによる新たな価値創造に至るまで、持続可能な社会の実現には「いつでも、どこでも、安全・安心、快適につながる」ネットワークが不可欠です。アンリツは、無線・有線の両方をカバーする先進の計測カンパニーとして、社会とお客様のネットワーク課題を解決してまいります。
PQA事業の成長ドライバーは、「食品・医薬品市場における品質保証市場に拡大」です。食品、医薬品関連市場を中心に、長期的には海外売上比率を50%まで引き上げることにより事業拡大を目指してまいります。北米・アジア市場を中心に事業展開を加速するため、海外の経営資源の拡充に努めます。
2020年4月に当社の未来を支える基礎技術の獲得を目指し、先端技術研究所を新設しました。当社のコアコンピテンシーである“はかる”技術を拡張する課題に果敢に挑戦し、オープンかつイノベーティブな研究活動を通じて次世代リーダーを生み出し、10-20年後の当社ビジネスの競争力の源泉となる技術力を培っていきます。
「2020 VISION」は、その経営の基本方針に沿って2020年を目途とする時間軸として取り組んできたものです。
「2020 VISION」及び「2020 VISION」のもと各事業部門が掲げるビジョンは、次のとおりです。
2020 VISION
1. アンリツらしい価値を創造し、ワールドクラスの強靭な利益体質を持つグローバルマーケットリーダーになる
2. 新しい分野でアンリツの先進性を発揮して事業創発をする
計測事業 : 5G/IoT社会を支えるリーディングカンパニーになる
PQA事業 : ワールドクラスの品質保証ソリューションパートナーになる
更に、当社グループは、2020年以降を見据えた持続的な成長の実現に向けた取組み「Beyond 2020」を始動させました。「Beyond 2020」では、「5G通信」、「食品安全」の一層の強化に加え、「5G利活用 自動車」、「医薬品安全」、そして「非通信計測事業」の領域の開拓にも挑み、これら5つの柱で社会課題の解決を図り、高収益企業を目指します。
② 中期経営計画
当社は、中長期事業戦略上の経営目標の一里塚として、2018年度を初年度とする3カ年の中期経営計画「GLP2020」を策定し、事業活動を展開しています。「GLP2020」が目指すものは、「収益力を回復する」ことと、「GLP2017」からの継続課題の「“利益ある持続的成長”のための経営基盤を確立する」ことです。その経営目標を確実に遂行するために、(1)成長ドライバーの確実な獲得、(2)強靭な利益体質の構築、(3)次世代の事業の柱づくり、に全力で取り組みます。なお、計画初年度にあたる2018年度以後、経営方針に「新経営ビジョンとサステナビリティ方針のもと、アンリツグループの企業価値の向上に取り組もう」を掲げ、アンリツグループを挙げて目標達成に邁進しております。
「GLP2020」の主な経営数値目標及び2019年度の実績は、下表のとおりです。「GLP2020」における2021年3月期の経営数値目標は、5G関連のモバイル市場向け開発用計測器需要を確実に捉えた結果、連結及び計測事業では1年前倒しで達成することができました。引き続き、株主資本コスト7%を上回るリターンを生み出す成長投資(含むM&A)と資本効率の改善で、企業価値KPI(ACE及びROE)の向上を目指します。
2019年3月期
(実績)
2020年3月期
(実績)
2021年3月期
(業績見通し)
2021年3月期
(GLP目標)
売上収益(億円)9961,0701,1001,050
営業利益(億円)112174175145
当期利益(億円)89133135110
計測
事業
売上収益(億円)681751770700
営業利益(億円)94151155100
PQA
事業
売上収益(億円)230225240260
営業利益(億円)16121830
ACE(億円)39847550
ROE(%)10.914.91412

③ コーポレート・ガバナンスの充実
当社は、経営環境の変化に柔軟かつスピーディに対応し、グローバル企業としての競争力を高め、継続的に企業価値を向上させていくことを経営の最重要課題としております。その目標を実現するために、コーポレート・ガバナンスが有効に機能する仕組みを構築することに努めております。執行役員制度導入による意思決定と業務執行の分離の促進、「監査等委員会設置会社」への移行、独立社外取締役が委員長を務める指名委員会・報酬委員会・独立委員会の設置、取締役会の実効性評価の実施などにより、取締役会の監査・監督機能を強化し、コーポレート・ガバナンス体制を一層充実させることで、グローバルな視点でより透明性の高い経営の実現を目指してまいります。
当社グループのコーポレート・ガバナンスに関する事項は、後記第4「提出会社の状況」の4「コーポレート・ガバナンスの状況等」をご参照ください。
④ サステナビリティ推進活動、ダイバーシティ推進等
国際社会のサステナビリティ課題は、2015年9月、国連総会において全会一致で「持続可能な開発目標(SDGs)」として定められました。当社は、温室効果ガスの排出削減計画をSBT(Science Based Target)イニシアチブに提出し、2019年12月には、この計画に掲げた目標が気候変動に関する政府間パネルIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change )の気候科学に基づく削減シナリオに整合しているとして、この計画を承認いただきました。これには再生可能エネルギー(以下、「再エネ」といいます。)電力証書の購入も計画しておりましたが、当社グループの事業遂行に必要な電力を自前でも発電していく取組みがSDGsの目指す姿に適うものと考え、再エネ自家発電(PGRE:Private Generation of Renewable Energy)を重視することにしました。そこで、2020年4月に「Anritsu Climate Change Action PGRE 30(以下、「PGRE 30」といいます。)」を策定し、温室効果ガス削減に向けて果敢に挑むこととしました。PGRE 30は、一部の子会社を除いた2018年度の当社グループの電力使用量を基準に、再エネの一つである太陽光自家発電比率を、現在の約1%から2030年頃を目途に30%程度にまで高めていく野心的な目標となります。主要拠点である神奈川県厚木市、福島県郡山市、米国カリフォルニア州Morgan Hillの3地区に自社消費用の太陽光発電設備を導入・増設し、PGRE 30に取り組むことで、SDGsの目標7のターゲット7.2に掲げる「2030年までに、世界のエネルギーミックスにおける再エネの割合を大幅に拡大させる」という目標達成に貢献してまいります。
当社グループは、誠実な企業活動を通じてグローバルな社会の要請に対応し、社会的課題解決に貢献してこそ企業価値の向上が実現されると考えており、従来のCSR達成像を発展させた「サステナビリティ方針」を掲げております。当社グループは、「サステナビリティ方針」に掲げる「安全・安心で快適な社会構築への貢献」、「グローバル経済社会との調和の実践」、「地球環境保護への貢献」、「すべてのステークホルダーとの強固なパートナーシップの構築」を目標に据え、「誠と和と意欲」をもってグローバル社会のサステナビリティ及び世界共通目標SDGsに貢献することを通じて、企業価値の向上を目指してまいります。
当社グループにおける従業員の採用においては、技術職、事務職を問わず、外国籍人財のほかジェンダー平等に配慮した人財の採用を進めており、国内においては女性の積極採用、教育研修プログラムの改善等により女性社員の比率、女性幹部職の人数が徐々に高まっています。仕事と育児等の両立支援については、出産の前後や育児における休暇・休業・職場復帰制度、時短勤務制度等の諸制度を設けるなど、働きやすい職場環境の整備に積極的に取り組んでいます。加えて、従業員向けの自己啓発プログラムについては、自らの価値観・強み・ライフスタイルに基づき、「学びたいとき、学べるときに、学びやすい方法で、自ら学ぶ」をコンセプトに、自らが学ぶテーマを内発的に設定し、自己向上を図ることを目指すものとして刷新されています。諸制度の利用を希望する者が、性の別を問わず、共に安心して仕事と育児等の両立が図れるように、ダイバーシティ推進を総合的に所管する部門が中心となって、すべての従業員に対し、関連する情報の提供・周知、意識啓発等を行い、理解促進に努めています。また、当社は、働き方の改革・“ライフワークバランス”の推進に向け、就業時間管理の徹底、会議の時間短縮・効率化の推進等を通じた長時間労働の削減にも努めており、これは従業員の健康を守るとともに、育児、介護等を行いやすくすること、ひいては生産性を向上させてイノベーションを起こし、企業価値の向上につながるものと考えております。
なお、当連結会計年度末時点におけるグローバルにみた女性の活躍状況は以下のとおりです。
日本米州EMEAアジア他全社計
全従業員に占める女性従業員の比率
<女性従業員数/全従業員数>
15%30%19%28%20%
男性の幹部職登用率を100とした女性の幹部職登用率
(女性幹部職数/女性従業員数)/(男性幹部職数/男性従業員数)
10%54%118%79%46%

(注)EMEA(Europe, Middle East and Africa): 欧州・中近東・アフリカ地域
当社グループは、120年企業の証とも言える「先進と信頼の企業ブランド」を、ブランド・ステートメント「envision:ensure」に込め発信しています。その思いは、「お客様と夢を共有しビジョンを創りあげるとともに、それをイノベーションによりお客様の期待を超える確かなかたちあるものへと創りあげる」というものであり、お客様のビジョン実現を通じ社会のサステナビリティに貢献したいという姿勢を示しています。今後とも経営資源を最大限に活かして安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献し、企業価値の向上に努めてまいります。