有価証券報告書-第92期(平成29年4月1日-平成30年3月31日)

【提出】
2018/06/26 15:44
【資料】
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【項目】
57項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 会社の経営の基本方針
当社は、様々なステークホルダーに対する責任と対話を重視し、以下のとおり経営理念・経営ビジョン・経営方針を策定しています。
経営理念
誠と和と意欲をもって、“オリジナル&ハイレベル”な商品とサービスを提供し、安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献する
経営ビジョン
衆知を集めたイノベーションで社会のサステナビリティに貢献し、“利益ある持続的成長”を実現する
経営方針
1. 衆知を集めた全員経営でハツラツとした組織へ
2. イノベーションで成長ドライバーの獲得
3. グローバル市場でマーケット・リーダーになる
4. 良き企業市民として人と地球にやさしい社会づくりに貢献
(2) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、企業価値の最大化を目指してキャッシュ・フローを重視した経営を展開しております。また、投下資本が生み出した付加価値を評価する当社独自の指標「ACE」を各事業部門の業績評価の指標としております。投下資本の効率性の指標として「ROE」の目標も設定しております。
(注)ACE (Anritsu Capital-cost Evaluation): 税引後営業利益-資本コスト(5%)
なお、2015年6月25日開催の第89期定時株主総会の決議及び同年7月30日開催の取締役会の決議に基づき、2017年度までの4事業年度を対象期間として当社取締役(社外取締役及び監査等委員であるものを除く。)、執行役員及び理事向けに導入した業績連動型株式報酬制度(株式交付信託)においては、「ACE」等の資本効率を示す指標のほか、利益の状況を示す指標、売上高の状況を示す指標等を、役員株式交付規程に定める受益者に対して交付される当社株式の数の算定に用いました。業績連動型株式報酬制度につきましては、2018年6月26日開催の第92期定時株主総会において、株主の皆様よりご承認いただきましたので、その内容の一部を変更し継続することとなりました。
(3) 中長期的な経営戦略、経営環境及び対処すべき課題等
今後の見通しにつきましては、世界経済は回復傾向で推移すると思われますが、英国のEU離脱交渉の不確実性や、東アジアや中東における地政学的リスク、米中貿易摩擦による情報通信分野での知的財産紛争リスクなど、先行き不透明感も浮上しています。また、技術革新、市場環境や競争関係の変化、金融情勢や為替動向に常に的確に対応する必要があります。
このような環境の中、当社グループは、中長期経営戦略及び「2020 VISION」のもと、新たな中期経営計画である「GLP2020」(計画期間: 2018~2020年度)をスタートさせました。また、2018年4月に経営ビジョンを新しく見直しし、“持続可能な社会”への貢献を通じて“利益ある持続的成長”を実現することを明確にしました。
① 中長期的な経営戦略
当社グループは、主力の計測事業を軸に、ICT(Information and Communication Technology)サービスに関わるビジネスを展開しております。ICT分野における成長ドライバーは、「世界的なモバイル・ブロードバンド・サービスとIoT(Internet of Things)による新たな社会価値の創造」です。モバイル・ブロードバンド・サービスの拡大は、モバイル通信方式の2G、3G、4G、5Gとして進化してきました。それらの通信方式の進化は、計測市場の上昇、ピーク、下降の変動サイクルの波に見舞われた歴史でもありました。経営ビジョンに掲げる“利益ある持続的成長”が意味するものは、このような市場変動の波に耐え、次代の技術革新を獲得する先行投資を可能にするための強固な経営体質を構築することです。
「2020 VISION」は、その経営の基本方針に沿って2020年を目途とする時間軸として取り組んできたものであります。
「2020 VISION」及び「2020 VISION」のもと各事業部門が掲げるビジョンは、次のとおりです。
2020 VISION
1. アンリツらしい価値を創造し、ワールドクラスの強靭な利益体質を持つグローバルマーケットリーダーになる
2. 新しい分野でアンリツの先進性を発揮して事業創発をする
計測事業 : 5G/IoT社会を支えるリーディングカンパニーになる
PQA事業 : ワールドクラスの品質保証ソリューションパートナーになる
② 中期経営計画
当社は、このたび2018年度を初年度とする3ヶ年の中期経営計画「GLP2020」を策定いたしました。「GLP2020」が目指すものは、「収益力を回復する」ことと、「GLP2017」からの継続課題の「“利益ある持続的成長”のための経営基盤を確立する」ことです。その経営目標を確実に遂行するために、(1)成長ドライバーの確実な獲得、(2)強靭な利益体質の構築、(3)次世代の事業の柱づくり、に全力で取り組みます。なお、初年度にあたる2018年度の経営方針として、「新経営ビジョンとサステナビリティ方針のもと、アンリツグループの企業価値の向上に取り組もう」を掲げています。
「GLP2020」の主な経営数値目標は、下表のとおりです。株主資本コスト7%を上回るリターンを生み出す成長投資(含むM&A)と資本効率の改善で、企業価値KPI(ACE及びROE)の向上を目指します。
2017年3月期
(実績)
2018年3月期
(実績)
2019年3月期
(業績見通し)
2021年3月期
(GLP目標)
売上収益(億円)8768599201,050
営業利益(億円)424966145
当期利益(億円)272850110
計測
事業
売上収益(億円)593544600700
営業利益(億円)211835100
PQA
事業
売上収益(億円)195225235260
営業利益(億円)13192030
ACE(億円)△15△16150
ROE(%)3.53.7712

③ 事業部門別の具体的施策
計測事業では、モバイル市場において、5Gに関する標準・規格の進化とオペレータの商用化計画に的確に対応した最適なソリューションをタイムリーに市場投入することで、5G開発市場でリーディングカンパニーの地位を確実なものにします。同時に、LTE-Advanced/ Pro(Gigabit LTE)向けのソリューションは、コスト競争力も含めた一層の差別化策を実施し、収益基盤を確固たるものとします。一方、新たな成長分野として期待する5G/IoTを活用した産業分野での成長機会は、当面はオートモティブ市場での事業拡大を軸に、5Gの高信頼性や低遅延などの特徴を活かした用途での普及が期待される2021年以降をにらみ、M&A施策を含む事業創発活動を強化してまいります。ネットワーク・インフラ市場では、爆発的に増加するデータ・トラフィックやデータセンター需要で牽引される超高速大容量化のための技術革新を確実に取り込み、ネットワーク再構築のための需要を獲得します。
PQA事業の成長ドライバーは、「食品・医薬品市場における品質保証ニーズの拡大」です。その背景には、供給サイド、需要サイド双方でのニーズの変化があります。供給サイドは、異物検査や重量選別に加えて、包装された商品の品質管理の厳格化です。また、生産効率化や人手不足対策を目的とする生産ラインの自動化投資が拡大しています。需要サイドは、食の安全・安心意識の高まりに加えて、個装された調理済み食品(中食)の普及拡大などがあります。PQA事業は、このような市場要求に応えるソリューションで差別化を図るとともに、世界大手食品メーカーとの信頼関係構築に努めて事業拡大を図ってきました。PQA事業が高い成長率を維持し続けるためには、日本市場での競争優位を維持しつつ、海外市場でのプレゼンスを拡大する必要があります。「GLP2020」計画期間は、グローバル市場攻略に向けた経営資源の拡充整備に取り組み、海外売上比率50%以上を可能とする経営体制の構築に取り組みます。
④ コーポレートガバナンスの充実、サステナビリティ推進活動、ダイバーシティ推進等
当社は、経営環境の変化に柔軟かつスピーディに対応し、グローバル企業としての競争力を高め、継続的に企業価値を向上させていくことを経営の最重要課題としております。その目標を実現するために、コーポレートガバナンスが有効に機能する仕組みを構築することに努めております。執行役員制度導入による意思決定と業務執行の分離の促進、「監査等委員会設置会社」への移行、独立社外取締役が委員長を務める指名委員会・報酬委員会・独立委員会の設置、取締役会の実効性評価の実施などにより、取締役会の監査・監督機能を強化し、コーポレートガバナンス体制を一層充実させることで、グローバルな視点でより透明性の高い経営の実現を目指してまいります。
当社グループは、誠実な企業活動を通じてグローバルな社会の要請に対応し、社会的課題解決に貢献してこそ企業価値の向上が実現されると考えており、従来のCSR達成像を発展させ、「サステナビリティ方針」を新たに制定しました。国際社会のサステナビリティ課題は、2015年9月、国連総会において全会一致で「持続可能な開発目標(SDGs)」として定められました。当社グループは、「サステナビリティ方針」に掲げる「安全・安心で快適な社会構築への貢献」、「グローバル経済社会との調和の実践」、「地球環境保護への貢献」、「すべてのステークホルダーとの強固なパートナーシップの構築」を目標に据え、「誠と和と意欲」をもってグローバル社会のサステナビリティ及び世界共通目標SDGsに貢献することを通じて、企業価値の向上を目指してまいります。
従業員の採用においては、外国籍人財や女性の積極採用を進めており、また仕事と育児等の両立支援については、出産の前後や育児における休暇・休業・職場復帰制度、時短勤務制度等の諸制度を設けるなど、職場環境の整備に積極的に取り組んでいます。諸制度の利用を希望する者が、性の別を問わず、共に安心して仕事と育児等の両立が図れるように、ダイバーシティ推進を総合的に所管する部門が中心となって、すべての従業員に対し、関連する情報の提供・周知、意識啓発等を行い、理解促進に努めてまいります。また、当社は、働き方の変革・“ライフワークバランス”の推進に向け、長時間労働の削減にも努めており、これは従業員の健康を守るとともに、育児、介護等を行いやすくすること、ひいては生産性の向上にもつながるものと考えております。
なお、当連結会計年度末時点におけるグローバルにみた女性の活躍状況は以下のとおりです。
日本米州EMEAアジア他全社計
全社員に占める女性社員の比率
<女性社員数/全社員数>
14%31%19%27%19%
男性の幹部職登用率を100とした女性の幹部職登用率
(女性幹部職数/女性社員数)/(男性幹部職数/男性社員数)
6%66%118%73%47%

(注)EMEA(Europe, Middle East and Africa): 欧州・中近東・アフリカ地域
当社グループは、120年企業の証とも言える「先進と信頼の企業ブランド」を、ブランド・ステートメント「envision:ensure」に込め発信しています。その思いは、「お客様と夢を共有しビジョンを創りあげるとともに、それをイノベーションによりお客様の期待を超える確かなかたちあるものへと創りあげる」というものであり、お客様のビジョン実現を通じ社会のサステナビリティに貢献したいという姿勢を示しています。今後とも経営資源を最大限に活かして安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献し、企業価値の向上に努めてまいります。
(4) 株式会社の支配に関する基本方針について
当社は、2013年6月26日の第87期定時株主総会終結の時をもって、「当社株式の大規模買付行為に関する対応策(買収防衛策)」を継続しないことといたしました。これは、「2020 VISION」及び中期経営計画の実現、並びにコーポレート・ガバナンスの整備・強化によって企業価値の向上に継続して取り組むこと、加えて、株主の皆様への利益還元を充実させ、株主・投資家の皆様との対話の一層の充実を図ることが、当社が最優先で取り組むべき課題であると判断したためです。これに伴う、株式会社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針(会社法施行規則第118条第3号に掲げる事項)は次のとおりです。
① 基本方針の内容
当社は、公開企業として当社株式の自由な売買を認める以上、特定の者の大規模な買付行為に応じて当社株式の売却を行うか否か、ひいては会社を支配する者の在り方は、最終的には株主の皆様の意思に基づき決定すべきものと考えます。一方で、当社は、企業価値の源泉となり株主共同の利益を構築している経営資源の蓄積を最大限に活かし、当社グループのブランド価値を高めていくためには、中長期的観点からの安定的な経営及び蓄積された経営資源に関する十分な理解が不可欠であると考えています。したがって、当社の財務及び事業の方針の決定を支配する者に、これらに関する十分な理解なくしては、当社の企業価値及び株主共同の利益が毀損されるおそれがあると考えています。
そのため、当社の財務及び事業の方針の決定を支配する者として不適切な者による大規模買付行為に対しては、株主の皆様のご判断に資するよう、大規模買付者への情報提供要求など積極的な情報収集と適切な情報開示に努めるとともに、当社の企業価値及び株主共同の利益の確保・向上を図るため、必要に応じ、法令及び定款によって許容される限度において、適切な措置を講ずるものとします。
② 基本方針の実現のための取組みの概要
当社は、株主の皆様の負託に応えるためには、利益ある持続的な成長により企業価値を向上させることが最重要課題と認識しており、より長期的な視点で企業価値の向上に取り組むために、10年スパンの時間軸で取り組む「2020 VISION」及びそのマイルストーンとなる中期経営計画を策定し、その実現に向けてグループを挙げて取り組んでおります。また、当社は、コーポレート・ガバナンスの強化のため、執行役員制度の導入や複数の独立性のある社外取締役の選任による経営監督機能の強化、報酬委員会・指名委員会の設置による経営の透明性の確保に努めております。さらに、当社は、これらの取組みを進化させることを目的として、「監査等委員会設置会社」に移行するなど、コーポレート・ガバナンスの一層の強化に努めております。
このような企業価値向上を核とした経営を進めることは、当社の企業価値及び株主共同の利益を著しく損なう大規模買付者が現れる危険性を低減する方向に導くものとして、前記①の基本方針に沿うものと考えます。また、当社役員の地位の維持を目的とするものではないと考えております。
当社は、これらの活動を通じて、「2020 VISION」及び「GLP2020」に掲げる目標達成を目指すとともに、継続して企業価値の向上に取り組んでまいります。