有価証券報告書-第50期(令和3年1月1日-令和3年12月31日)

【提出】
2022/03/09 15:54
【資料】
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【項目】
139項目

研究開発活動

当社グループの研究開発活動は、グループ全体で利用可能な基礎的要素技術の先行開発と、製品カテゴリーに特化した技術開発の二つに分けられます。基礎的要素技術の先行開発については、当社の基礎技術部、応用技術部にて行っています。また、製品カテゴリーに特化した技術開発については、当社の機構技術部、システム開発部、デザイン部及び製品開発部門にて行っています。
なお、当社及び連結子会社の事業は、電子楽器の製造販売であり、区分すべき事業セグメントが存在しないため単一セグメントとなっており、セグメント情報に関連付けては記載していません。
技術部門で行っている研究開発の具体的なテーマとしては、楽音合成、モデリング、音響効果、音響解析、高効率符号化等のデジタル信号処理アルゴリズムの開発、USBやBluetooth、Wireless LAN等の通信規格を利用したオーディオやMIDI(Musical Instrument Digital Interface)の伝送を行う通信技術及び楽器の音色を合成(シンセサイズ)したり、オリジナルの音声に付加効果(エフェクト)をかけたりするオリジナルのシステムLSIの開発を行っています。上記に加えて、当社のネットワークサービスであるRoland Cloudのワールドワイドのプラットフォームの開発も進めています。共通顧客データベース、Webサービスに加え、コンテンツ/ソフトウエアの販売、更にはグローバル・カスタマー・サービスの基盤として充実させていきます。
一方で、製品カテゴリーに特化した技術としては、鍵盤、パーカッションや管楽器などの演奏のためのセンサー技術、ギター関連事業製品のサウンドエフェクト技術、ビデオ映像機器用の映像処理技術の開発などがあります。
具体的な内容は次のとおりです。
(a)BMC共通プラットフォーム(注1)
当社は自社電子楽器の心臓部である音源とエフェクター用オリジナル・システムLSIの開発に取り組んできました。これらの独自システムLSIは、当社の差別化要因となるコア技術として進化を続け、最新LSIであるBMC(Behavior Modeling Core)では、様々なジャンルの楽器を生み出すことのできる共通プラットフォームを構築しました。この共通プラットフォームにより、高品質、高機能製品の早期開発や、競争力のある価格が可能となっています。
2021年は、電子ピアノFP-Xシリーズ、電子ドラムTD-07シリーズのようなボリューム・ゾーン製品へ展開し、上位モデルで達成した高品質の音源を広く普及させました。
(注1)従来ピアノ、シンセ、ドラム等楽器の種類毎に音源をつくっていたものを、各機器で利用できる音源として必要な機能を一つのチップに実装し共通基盤としたものをいいます。
(b)新世代音源「ZEN-Core」(注2)の展開
2019年に開発したシンセサイザー向け新世代音源技術(ZEN-Core)は、音源メモリの拡大による楽器の表現力豊かなサウンド、解像度を上げたコントロールによる滑らかな演奏表現、製品間のコンテンツ互換性を実現し、更にモデリング技術により、デジタル音源でありながらアナログシンセサイザーのような深みやダイナミクスを持つ出音を可能にしています。
2021年はこのZEN-Coreをテーブルトップの音楽制作機器MV-1に展開し、パターンやステップ・シーケンサーといったなじみやすい方法で曲作成を可能にするツールとしてまとめ上げました。既に昨年、BMC上でのみ動作していたZEN-Coreをコンピューター上のソフトウエア音源にも移植し、ZENOLOGYとしてリリースしましたが、2021年はZENOLOGY内蔵のエフェクト・ユニットを単独でソフト化し、90種類以上のエフェクト機能をユーザー自身のオーディオ・トラック作成のために開放しました。ここにも音源だけにとどまらないZENOLOGY技術の奥深さが表れています。また、ローランドのデジタル・シンセサイザーのレジェンドであるJD-800を、ZENOLOGY及び一部対応するZEN-Coreハードウエアで使用可能なModel Expansionとしてリリースしました。
(注2)BMC、コンピューター上で動作する拡張及びカスタマイズ可能なシンセサイザー音源をいいます。
(c)デジタル信号処理技術
当社は音源技術と並び、音声を音楽的な表現に処理する高精度、高品位のデジタル信号処理技術も培ってきました。例えば、楽器が置かれている室内やホールの残響効果をシミュレートして楽器音だけでなく音場までも再現する技術や、ギターの弦振動を32bit/96kHz浮動小数点の高精度で演算するギター・マルチ・エフェクターの開発、また歌声を素材としてハーモニーを付加したり、低く太い声やその反対の声質に変えたりすることができるボイスエフェクターの開発なども行っています。ここでもBMCなどオリジナル・システムLSIが使用されています。
2021年はボコーダー技術(人間の声を入力として、そこから抽出した周波数成分や強弱をシンセサイザーのコントロールに使う技術)を刷新し、Vocal Designer Model ExpansionとしてJUPITER-XやJUPITER-Xmに実装しました。これによりZEN-Coreの出音に人間の声ならではの表現力や暖かさを与えるだけでなく、より深いカスタマイズを行うことで唯一無二の印象的なトーンを作成することが可能となりました。
(d)BOSS技術の開発
BOSSブランドの製品においては、技術の総合力が発揮される年となりました。長年にわたるエフェクト/アンプ開発で培ってきたBOSSの知識と経験を、32bit浮動小数点演算による業界最高クラスの超高音質信号処理技術としてBMCなどの自社DSPに実装し、ギタリストにとっての最高の音の表現力を追求してきました。また1980年代から培ってきた、弦振動から正確な演奏情報を抽出し、低レイテンシで音源を発音させるギター・シンセサイザー技術があります。これらに現代のBluetooth MIDIを使ってスマートフォンでサウンドをカスタマイズする技術を加え、2021年7月にエレクトロニック・ギターEURUS GS-1に融合させました。GS-1は創造力を掻き立てるサウンドと、極限まで高められた演奏性により、ギタリストに新たなパフォーマンスの可能性を提供しています。
アンプ・カテゴリにおいても技術の総合力はいかんなく発揮されています。従来から得意としてきた、バッテリー駆動でありながらあらゆる環境において高品位かつパワフルなサウンドを出力する技術と2001年から取り組んできた重ね録りによるフレーズ作成技術(ルーパー機能)を融合し、2021年6月にモバイル・アンプCUBE STREET IIとしてリリースしました。また同時に、アンプ本体に装着してスマートフォンやタブレットとのワイヤレス接続を可能にするBluetooth Audio MIDI Dual Adaptor(BT-DUAL)もリリースしました。電池駆動、高音質の基本性能に加え、BT-DUALによるワイヤレス機能の拡張を可能にし、ライブ・パフォーマンスの新たなソリューションとして好評を得ています。
(e)ビデオ信号処理技術
当社はこれまでも4K解像度やHDR(High Dynamic Rangeの略、従来に比べてより広い明暗の幅を表現できる表示技術)といった最新のニーズに応えつつ、従来フォーマットの映像信号にも対応し両者間をシームレスに変換/出力できる独自の「ULTRA SCALER機能」を開発し、それらを実装した製品群で多様化するプロの映像現場で柔軟な運用を可能にしてきました。
昨今のコロナウイルス対策による活動制限で、多人数の参加者を伴う大規模イベントに代わり、ネットワーク上で映像を配信するイベントやライブ・コマース活動が増えています。これらの映像作成にはより小型で小回りの利く映像機器が求められ、当社もAVミキサーVRシリーズやビデオミキサーVシリーズでその需要に応えてきました。
近年では、収録機器としてスマートフォンのカメラが使われるケースも増えてきましたが、従来の当社映像機器にはこれに対応する入出力端子がなく、簡単にシステムに組み入れることができるソリューションが求められてきました。これに応えるため2021年9月にiPad用アプリケーション・ソフト「AeroCaster Switcher」をリリースしました。このソフトをインストールしたiPadは、最大4台のスマートフォンからの映像をワイヤレス接続で受信し、自由にそれらをスイッチ/ミックスすることが可能で、さらに合成した映像はそのままiPadのHDMIアダプタ経由で対応するVRシリーズ、Vシリーズ当社製品に送り、他のカメラ映像とさらにスイッチ/ミックスすることが可能です。「AeroCaster Switcher」はスマートフォン、アプリケーション・ソフト、ビデオミキサー/スイッチャー製品をひとつのパッケージとして提案する革新的なソリューションです。
(f)Roland Cloud
音楽・メディア制作者向けのクラウドを利用したソフトウエア音源のサブスクリプション(月額・年額の定額会費制)サービスであるRoland Cloudにおいては、ネットワーク上のプラットフォームの整備を継続して行っています。またハードウエアとなる電子楽器側のコンテンツ・プロテクトの仕組み構築、Roland Cloud Manager(Roland Cloudのアカウントの作成や管理、プランの選択、購入、すべてのインストゥルメンツとサウンドをシンプルに管理することができるアプリ)のユーザー認証機能の充実と併せて三位一体で開発を進め、2020年5月には新たなサブスクリプション・プランのサービスの提供を開始しました。
さらに上述したZENOLOGYをサービスに加えることで、コンテンツ/プラグインソフトの購入、PC上での音源・各種設定の管理、ZEN-Core対応ハードウエア製品への保存・活用までをトータルでサポートすることが可能となり、音楽制作からライブ演奏まで一貫した、スムーズで迅速なワークフローを実現しています。
また、電子楽器のIoTを進める技術を開発し、2021年11月にはRoland Cloud Connectをリリースしました。楽器本体のUSB端子に装着することでWireless LAN接続機能を付加するワイヤレス・アダプターWC-1と専用アプリケーション・ソフトとの連携で、電子楽器によるサブスクリプション・サービスを可能にしました。Roland Cloudの豊富なコンテンツを電子楽器に直接ダウンロードできるだけではなく、ユーザー・アカウント管理、コンテンツ保護、セキュリティなどの機能も含んでいます。この仕組みによって、今後はよりきめ細かいサービスや、コンテンツビジネスを展開していきます。
以上のような研究開発活動の成果により、「世界中の人々をワクワクさせる」ビジョンを実現する製品やサービスを継続的に市場に供給していきます。
なお、当連結会計年度の研究開発費は、4,145百万円です。