有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2020/11/11 15:00
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140項目

研究開発活動

当社グループの研究開発活動は、グループ全体で利用可能な基礎的要素技術の先行開発と、製品カテゴリーに特化した技術開発の二つに分けられます。基礎的要素技術の先行開発については、当社の基礎技術部、応用技術部にて行っています。また、製品カテゴリーに特化した技術開発については、当社の機構技術部、システム開発部、デザイン部及び製品開発部門にて行っています。
なお、当社及び連結子会社の事業は、電子楽器の製造販売であり、区分すべき事業セグメントが存在しないため単一セグメントとなっており、セグメント情報に関連付けては記載していません。
技術部門で行っている研究開発の具体的なテーマとしては、楽音合成、モデリング、音響効果、音響解析、高効率符号化等のデジタル信号処理アルゴリズムの開発、USBやイーサネット、Bluetooth等の通信規格を利用したオーディオやMIDI(Musical Instrument Digital Interface)の伝送を行う通信技術や、楽器の音色を合成(シンセサイズ)したり、オリジナルの音声に付加効果(エフェクト)をかけたりするオリジナルのシステムLSIの開発を行っています。
2018年からは新規テーマとして、当社のネットワークサービスであるRoland Cloudのワールドワイドのプラットフォームの開発も進めています。共通顧客データベース、Webサービスに加え、コンテンツ/ソフトウェアの販売、更にはグローバル・カスタマー・サービスの基盤として充実させていきます。
一方で、製品カテゴリーに特化した技術としては、鍵盤、パーカッションや管楽器などの演奏のためのセンサー技術、ギター関連事業製品のサウンドエフェクト技術、ビデオ映像機器用映像処理技術の開発などがあります。
具体的な内容は次の通りです。
第48期連結会計年度(自 2019年1月1日 至 2019年12月31日)
(a)BMC共通プラットフォーム(注1)
当社は自社電子楽器の心臓部である音源とエフェクター用オリジナル・システムLSIの開発に取り組んできました。これらの独自システムLSIは、当社の差別化要因となるコア技術として進化を続け、最新LSIであるBMC(Behavior Modeling Core)では、様々なジャンルの楽器を生み出すことのできる共通プラットフォームを構築しました。この共通プラットフォームにより、高品質、高機能製品の早期開発や、競争力のある価格が可能となりました。
2019年は、BMCの派生モデルとして、そのDSP(Digital Signal Processor:デジタル信号処理に特化した機能を持つマイクロプロセッサの一種)の規模を限定し、より安価で省電力なエフェクト用LSIの開発に取り組みました。
(注1)従来ピアノ、シンセ、ドラム等楽器の種類毎に音源をつくっていたものを、各機器で利用できる音源として必要な機能を一つのチップに実装し共通基盤としたものをいいます。
(b)新世代音源「ZEN-Core」(注2)の展開
2019年においては、シンセサイザー向け新世代音源技術(ZEN-Core)を開発し、音源メモリの拡大による楽器の表現力、解像度を上げたコントロールによる滑らかな演奏表現、製品間のコンテンツ互換を実現しました。更に、モデリング技術により、デジタル音源でありながらアナログシンセサイザーのような深みやダイナミクスを持つ出音を可能にしています。このZEN-Coreを搭載した製品であるFantomシリーズ、Jupiter-Xm、MCシリーズが同年度内に発売され、従来から一新された表現力、演奏性能により好評を博しています。
更にドラム用音源も一新しました。ドラムヘッドの打点の位置と強度に従って、スムーズに音色を変化させることで従来以上のダイナミックな演奏表現力を実現することができました。更にドラムが設置されている場所の音響を仮想的にシミュレーションするピュアアコースティック・アンビエンスにより、音場までもコントロールが可能になりました。これら技術を実装したドラム音源TD-27は2020年1月NAMMショー(アメリカで開催される世界最大規模の楽器ショー)にて発表され、今後、当社の電子ドラムの新たなスタンダードとして展開していきます。
(注2)BMC上で動作する拡張およびカスタマイズ可能なシンセサイザー音源をいいます。
(c)デジタル信号処理技術
当社は音源技術と並び、音声を音楽的な表現に処理する高精度、高品位のデジタル信号処理技術も培ってきました。たとえば、楽器が置かれている室内やホールの残響効果をシミュレートして楽器音だけでなく音場までも再現する技術や、ギターの弦振動を32bit/96kHz浮動小数点の高精度で演算するギター・マルチ・エフェクターの開発、また歌声を素材としてハーモニーを付加したり、声質の性別を変えたりすることができるボイスエフェクターの開発なども行っています。 ここでもBMCなどオリジナル・システムLSIが使用されています。
2019年はZEN-Core搭載製品のマルチ・エフェクトに応用され、音源の音に音場効果を付加したり、わざと歪ませて目立つ音にしたりしています。また、音声のエンベロープや周波数特性を抽出しシンセサイザーの音にかけ合わせることで、音に音声的表情をつけるボコーダー効果も搭載されました。
(d)BOSS技術の開発
BOSSブランドの製品においては、32bit浮動小数点演算による業界最高クラスの超高音質信号処理技術を最新LSIであるBMC(Behavior Modeling Core)上に応用し、新たなギター・シンセサイザーとモデリング・プロセスを開発、ギター・シンセサイザーSY-1000として2020年2月に発売しています。これまでで最も豊富なサウンド・バリエーションとフレキシブルなセッティングにより、かつてない音と表現力をギタリストにもたらしています。
また音の遅れや音質劣化の心配なく、高品質で安定した信号伝送を実現したギタリスト向けの独自のワイヤレス音声伝送技術について、2019年はレシーバーをコンパクトペダルサイズに組み込み、トランスミッターをボディパック型にまとめたWL-60/60Tを6月に発売しました。更にヘッドホンに本ワイヤレスシステム、ギター・エフェクト、立体音響システムを統合したWireless Personal Guitar Amplification Systemを開発、WAZA-AIRとして12月に製品化しました。セットアップの手間なしに、自宅で手軽にステージ演奏の臨場感が得られるシステムとして好評を博しています。
(e)ビデオ信号処理技術
当社は放送やイベントといったプロの映像制作、映像演出の現場でも通用する映像機器を開発しています。2019年6月に発売したビデオミキサーV-600UHDでは、4K解像度やHDR(High Dynamic Rangeの略、従来に比べてより広い明暗の幅を表現できる表示技術)といった最新のニーズに応えつつ、従来フォーマットの映像信号にも対応し両者間をシームレスに変換/出力できる独自の「ULTRA SCALER機能」を搭載し、多様化するプロの映像現場で柔軟な運用を可能にしています。
一方で、中小規模のイベントやライブ配信を演出するオールインワン型のAVミキサー(注3)も開発しています。2019年9月発売のAVミキサー VR-50HD MKIIは、映像と音声を一台で扱える利便性で定評を得たこれまでのシリーズ製品を更に進化させました。楽器開発で培った高品質オーディオミキシング回路に加え、LANを利用した最大6台のリモートカメラ制御など、他社に先駆けて現場のニーズを具現化しています。
(注3)映像スイッチャー、デジタル・オーディオ・ミキサー、タッチパネルのマルチビュー・モニター、USB3.0経由での高画質のライブ配信の機能を1台に集約したAVミキサー製品をいいます。
(f)Roland Cloud
楽器やビデオ機器などのハードウェア製品の進化の一方で、ソフトウェア販売/アップデート、コンテンツの供給などネットワーク上のサービスを展開するプラットフォーム技術も開発しています。2019年は、各地域で個別に持っていた顧客情報やWebコンテンツ管理を当社グループで一元化したことで、顧客への情報やサービスの提供が迅速かつスムーズにできるようになりました。
以上のような研究開発活動の成果により、「世界中の人々をワクワクさせる」ビジョンを実現する製品やサービスを継続的に市場に供給していきます。
なお、当連結会計年度の研究開発費は、4,170百万円です。
第49期第3四半期連結累計期間(自 2020年1月1日 至 2020年9月30日)
(a)BMC共通プラットフォーム
2020年は、BMCの更なる機能追加の可能性を評価・検討し、その実現に向けて取り組みました。 音源の進化とともにコンテンツへの需要も増大し、PCM波形メモリ容量の増加が必要となってきました。また、Roland Cloudによるコンテンツ供給により、ユーザーが製品購買後にコンテンツを入れ替えるケースも増えてきています。これら新たな需要に対応すべく、BMCのメモリを拡張し、かつダイナミックに内容を書き換えられるようにするデバイスの開発に取り組みました。当年度中に設計を終え、量産は来期になる予定です。
(b)新世代音源「ZEN-Core」の展開
引き続きZEN-Coreのソフトウェア化(ZENOLOGY)に取り組み、2020年5月にはハードウェアとソフトウェア間での音色互換が可能となり、制作からライブまでの一貫したワークフローを実現しました。更に9月には自社音楽制作ソフトZenbeats2.0にもZEN-Coreベースの内蔵シンセZC-1を組み込みました。上記2019年発売のハードウェア製品もアップデートし、互換性を更に高めています。
(c)デジタル信号処理技術
2020年は上記マルチ・エフェクトをソフトウェア化し、ZENOLOGYにも移植しました。使用されるPC毎に異なる環境下で同じサウンドを再現することができる音色の互換性を維持することは、サウンドプロセスについての高い技術があってこそ可能でした 。
以上のような研究開発活動の成果により、「世界中の人々をワクワクさせる」ビジョンを実現する製品やサービスを継続的に市場に供給していきます。
なお、当第3四半期連結累計期間の研究開発費は、2,883百万円です。