有価証券報告書-第125期(2023/04/01-2024/03/31)
(1) サステナビリティの考え方
日産は長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」で、よりクリーンで安全、インクルーシブな誰もが共生できる社会の実現と、真に持続可能な企業となることを目指している。サステナビリティの取り組みがその長期ビジョンを具現化し、さらにはコーポレートパーパスの実現も可能にしていく。日産は企業のあらゆる側面で、サステナビリティを推進する。
a. ガバナンス
サステナビリティ戦略の目標設定や進捗確認など具体的な活動の社内横断的な管理については、チーフ サステナビリティ オフィサー(CSO:Chief Sustainability Officer)が議長を務めるグローバル・サステナビリティ・ステアリング・コミッティで議論し、PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを回すことで、サステナビリティパフォーマンスのさらなる向上を追求している。一方、環境課題についてはチーフ サステナビリティ オフィサーと取締役 代表執行役社長兼最高経営責任者が共同議長を務めるグローバル環境委員会(G-EMC:Global Environmental Management Committee)にて決議する。サステナビリティに関する取り組みは、戦略や重要案件に関する包括的な提案とともに、経営会議(Executive Committee)に報告される。これらの課題は、その重要性に応じて取締役会に報告される。また、2021年度より長期インセンティブ報酬の1つである業績連動型インセンティブ(金銭報酬)においてサステナビリティに関する評価指標を新たに追加し、経営によるコミットメントを明確にした。
b. 戦略
サステナビリティは事業運営の中核をなすものであり、ステークホルダーからの信頼を得るために必要不可欠である。日産は、ステークホルダーの皆さまの関心、環境と社会のグローバルアジェンダ並びに技術革新などの最新動向を踏まえながら、サステナビリティ戦略を策定し、活動を推進している。
サステナビリティ戦略強化に向けて、日産の優先課題をより明確にするため、リスクや機会分析を踏まえた会社全体として取り組むべきマテリアリティを特定した。
マトリックスという形で日産の取り組みの優先順位を定義し、2030年度に向けた会社の方向性をより詳細にステークホルダーにお伝えすることで、協働機会の拡大や信頼関係の向上を図り、さらなる取り組み推進につなげたいと考える。
マテリアリティ特定のプロセス
STEP1. 社会・環境課題の明確化
定期市場動向分析、ステークホルダー・投資家の皆さまとの対話より得られた社会からの期待値、グローバルスタンダード、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)、SDGs、世界経済フォーラム(WEF)発行のリスクレポートなどからグローバルなアジェンダを明確化。
STEP2. 自動車セクター及び日産の重要課題特定
コーポレート長期ビジョンにより実現する世界と、そこで果たすべき自動車セクターの役割という視点からリスクと機会を分析することで、日産にとっての課題を特定。
STEP3. マテリアリティの優先度整理
日産が社会・環境へ与える価値・インパクトと、社会・環境から日産へのインパクトの2側面からリスクと機会で優先度の整理を実施し、日産のつくりだす価値と今後さらに強化して取り組むべき課題をマトリックス型により整理。有識者レビューを行い、フィードバックを反映。
STEP4. 執行役員、取締役との合意
特定したマテリアリティは、各項目の設定理由や背景を含め執行役員、取締役へ報告し、合意を得て決定。
日産のマテリアリティマトリックス

マテリアリティの詳細は当社企業サイトに掲載しているESGデータブックもしくはサステナビリティデータブック(2024年7月末公開予定)を参照いただきたい。
また、マテリアリティの一つである生態系サービスと生物多様性について、2010年に日産は、国連大学と共に自社の活動がバリューチェーン全体の生態系に与える影響と依存を評価し、その研究成果を報告書「Ecosystem Services and the Automotive」として発表した。これは2001~2005年に国連が主導した「ミレニアム生態系評価」に基づく「企業のための生態系サービス評価」の手法を用いたものである。この評価を通じて、自動車メーカーが優先対応すべき3つの重点領域「エネルギーの調達」「材料資源の調達」「水資源の利用」を特定した。また2013年には水に関するインパクト評価を実施し、資源調達段階での水資源の利用が、日産の事業活動での水使用量の20倍以上に上ることが試算された。
これらの評価結果はマテリアリティの判断にも反映されており、「ニッサン・グリーンプログラム」の方針や戦略、具体的なアクションに落とし込まれている。
日産はTNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)の提言に賛同するとともにTNFDフォーラムに参画している。今後は、推奨される枠組みに沿った開示についてさらに検討を進めていく予定である。
日産は2023年度に、マテリアリティで特定された重要課題をもとに、第5次中期環境行動計画「ニッサン・グリーンプログラム2030(NGP2030)」、及び社会性の2030年度までの取り組みを包括的に推進する「ニッサン・ソーシャルプログラム2030(NSP2030)」を策定した。「NGP2030」は、技術やビジネスの進化によって環境負荷を低減し、社会と自然にポジティブな影響を与え、人々の生活が、持続可能で自然と調和できる社会創りを目指している。「NSP2030」は社会性に特化した初のプログラムであり、日産が従業員、サプライヤー、パートナー、社会と共に成長し、「人」を中心とした企業になることを目指し、従業員をはじめとするさまざまな「人」へ価値を提供していく。「NSP2030」の重点領域は、安全、品質、責任ある調達、知的財産、地域社会、従業員と定めており、領域毎に2030年度に向けたゴールを定義している。「NGP2030」と「NSP2030」はともに経営計画「The Arc」の土台を成し、「Nissan Ambition 2030」の実現に向けて重要な役割を果たす。
c. リスク管理
日産は「NGP2030」及び「NSP2030」の中で重要課題ごとに活動計画を策定し、先に述べたガバナンスを通じて進捗管理を行っている。また、定期的に市場動向分析を行い、投資家をはじめとするステークホルダーとの対話により得られた社会からの期待値や、グローバルスタンダード、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)、SDGs、世界経済フォーラム(WEF)発行のリスクレポートなどのトレンドも踏まえながら、グローバルなアジェンダを明確化している。さらに、「Nissan Ambition 2030」により実現する世界と、そこで果たすべき自動車セクターの役割という視点からリスクと機会を分析することで、日産にとっての課題を特定している。
具体的な活動計画、指標や目標については、当社企業サイト及び2024年7月末公開予定の「サステナビリティデータブック2024」を参照いただきたい。
なお、特定した重要課題に対応する日産の取り組みの中で、特にステークホルダーからの関心度が高い「気候変動」と「人的資本」について、以下に具体的な活動内容を記載する。
(2) 気候変動
a. ガバナンス
グローバル環境マネジメントのフレームワークとガバナンス
日産は多様化する環境課題に対応し、包括的な環境マネジメントを確実に推進する組織体制を構築している。
チーフ サステナビリティ オフィサーと取締役 代表執行役社長兼最高経営責任者が共同議長を務めるグローバル環境委員会(G-EMC:Global Environmental Management Committee)ではバリューチェーン全体に関わる各役員が出席し、全社的な方針や取締役会への報告内容の決議を行う。また、経営層は企業としてのリスクと機会を明確にし、各部門での具体的な取り組みを決定するとともに、PDCAに基づく進捗状況の効率的な管理・運用を担っている。
また、年次のレポートを発行し、幅広いステークホルダーにその状況を発信している。最新のサステナビリティデータブック等も参照いただきたい。


b. 戦略
中期環境行動計画「ニッサン・グリーンプログラム(NGP)」
日産は、環境理念である「人とクルマと自然の共生」を実現するため、中期環境行動計画「ニッサン・グリーンプログラム(NGP)」を2002年に発表し、環境への依存と影響を自然が吸収できる範囲に抑えるという究極のゴール達成に向けて取り組みを続けてきた。
2023年度には第五世代に当たる2030年度を見据えた「NGP2030」をスタートした。将来に向けた技術の進化と社会連携の方向性を明確にし、サプライチェーン、パートナーと目標を共有し、ともに環境対応と社会的価値の創出を目指していく。
NGP2030の取り組むべき重要課題とチャレンジ
日産は環境マテリアリティ評価に基づき、「気候変動」「資源への依存」「大気品質と水」を重要課題に設定した。また、ステークホルダーエンゲージメントを通じてそのニーズを把握し、環境課題にかかわる「事業基盤の強化」と新たな価値創出に努めている。
取り組みの指標や進捗は、クルマづくりに携わる開発・生産部門のほか、セールス・サービス部門を含む企業全体での、ビジネス基盤強化と社会価値の創出に取り組んだ成果としてサステナビリティデータブック等を通じて毎年開示している。また、後述の「d.指標と目標」においても気候変動に関連する主要項目について開示している。

CO2排出量の削減に向けた日産の取り組み
日産は、CO2排出量の削減や電動化技術の実用化の実績に加え、2050年までに事業活動を含むクルマのライフサイクル全体(*)におけるカーボンニュートラルを実現する新たな目標を2021年1月に発表した。企業活動では、自社及びクルマの原材料の調達、輸送にかかわるサプライヤーとともに省エネ活動やクリーンなエネルギーへの転換を進め、CO2削減に取り組む。
走行段階CO2削減に向けては、2030年代の早期には、主要市場に投入する新型車をすべて電動車とすることを目指し、電動化と生産技術のイノベーションを推進する。経営計画「The Arc」では電動化を戦略の中核に据え、2030年度までに投入する電動車のモデル数を34車種に増加、グローバルでの電動車モデルミックスは60%以上見込む。
* クルマのライフサイクルには、原材料の採掘から、生産、クルマの使用、使用済み自動車のリサイクルや再利用までを含む

カーボンニュートラルロードマップ(生産工場での事例)
日産では生産工場においてもカーボンニュートラルを目標とした活動を推進している。
達成に向けた取り組みを着実に推進するため、2021年10月、生産工場において2050年までにカーボンニュートラルを実現するロードマップを発表した。
~2030年:まず工場のエネルギーを削減しながら革新的な生産技術導入や電化を推進し、さらに再生可能エネルギーの導入や代替エネルギーの適用拡大を進める。
2030~2050年:2050年に向けては、ガスや蒸気などさまざまな動力形態で運営されている工場設備の全面電化を実施。同時に、使用電力については、再生可能エネルギーと代替燃料を用いた燃料電池で自家発電した電力を全面適用することで、生産工場におけるカーボンニュートラルを実現していく。

c. リスク管理
気候変動シナリオ分析を用いた2050年社会への戦略強化
NGPは中期目標の達成を通じて成果を収めてきたが、気候変動による異常気象の脅威は一段と高まっている。
そこで、国際エネルギー機関(IEA)の4℃と2℃シナリオ、及びIPCCの1.5℃特別報告書に基づき、2050年までの気候変動がもたらすさまざまな機会とリスクを検討した。
特に自動車セクターにおけるリスク要因を定義し、シナリオごとのリスク振れ幅を確認。また、世界170以上に及ぶ市場を前提とした。さらにお客さまや市場の受容性変化、自動車にかかわる規制の強化、クリーンエネルギーへの移行を因子として考慮し、日産の事業活動や商品、サービスについて、気候変動がもたらす機会とリスクに対する戦略のレジリエンス性を以下の4つのステップで検討した。
検討の4ステップ
・過去のマテリアリティの評価や、文献調査などで気候変動によって自動車セクターに決定的な影響を与え得るリスク要因を調査し、人口・経済・地政学、気候変動政策、技術などの区分でメインドライバーを定義
・メインドライバーは物理的リスクと移行リスクに分類され、それぞれがトレードオフの関係にあることを考慮し、地球の平均気温の上昇を1.5℃、2℃、4℃と3種類のシナリオで、そのリスク振れ幅を確認
・自動車セクターへの影響度合いとその時間軸をもとに、メインドライバーから影響力の高い項目をスクリーニング
・シナリオごとの変化、状態、影響を整理し、戦略強化に必要な要素を定性評価に基づいて導出
想定したシナリオと関連する機会とリスク
日産の電動化技術は、2℃以外のシナリオにおいても機会を創出するポテンシャルがあると考えられるが、取り組みのさらなる加速と、リスク対応のためのサプライチェーンとの連携が重要である。とくにゼロ・エミッション車の拡大は、脱炭素社会への移行だけでなく、電力や減災・防災における社会のレジリエンス性に貢献する。電気自動車の性能向上と、環境の持続可能性を確保するにはさらなる開発が伴うが、最終的には社会価値創造とビジネスの両立を可能にすると捉えている。
しかし、社会全体の気候変動対策が遅れた場合、さまざまな移行リスク、物理的リスク及び財務インパクトが生じる可能性がある。炭素税の影響評価を試みたところ、2030年時点のGHG排出量削減により、Scope1&2で炭素税の影響を約100億円抑えることができると試算された。
財務インパクト評価のシナリオ選定背景
二酸化炭素排出に対する価格付けが進み、炭素税を導入する国・地域が拡大している。国・地域により、課税の水準や対象となる業種も異なるが、企業に対する影響が大きいため、この分析では炭素税による財務インパクトを対象とする。
算定式と試算額の評価、前提条件
試算では、日産の炭素税予測の基礎としてIEAレポートなどを参照している。2030年時点のGHG排出量の炭素税を、次の条件で算出した。
①2018年時点の企業活動が継続された場合
②NGPによる環境課題への取り組みが促進され、単年度での炭素税の影響を抑えた場合

対応戦略
日産は、20年以上にわたり中期環境行動計画「ニッサン・グリーンプログラム」を実践している。また、脱炭素の推進にあたっては、バリューチェーンへの影響を把握し、負の影響を極力抑えた公平な移行(just transition)を考慮した活動を意識している。
このような戦略や、2030年度でのありたい姿を具体化し、投資家をはじめとするステークホルダーの皆さまにより分かりやすく的確に伝えることが重要だと考え、日産はTCFD(*)の提言を支持し、その推奨枠組みに沿った情報開示に努めていく。また、シナリオ分析手法の精度向上とリスク量の正確な把握についても継続して取り組む。
「ニッサン・グリーンプログラム2030(NGP2030)」の詳細や、気候変動以外の取り組みについては2024年7月末に当社企業サイトに掲載するサステナビリティデータブック2024で開示を予定している。
* TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures
d. 指標と目標
長期目標として掲げた、カーボンニュートラルの実現に向け、2030年度までの中期行動計画をまとめた「ニッサン・グリーンプログラム2030」では、各バリューチェーンでのKPIと目標を明確にし、その進捗を毎年報告している。
* 日本、米国、欧州、中国
上記の値は2023年度の到達状況の速報値であり、2024年7月末に当社企業サイトに掲載するサステナビリティデータブック2024にて、確定値と共に分析を公表する予定。
自動車のバリューチェーン全体を捉えた時に、クルマの使用時に排出されるCO2量が占める割合は、企業活動に伴う排出量に比較して著しく多く、全体の80%以上を占める。2023年度では、バリューチェーン全体(Scope 1、2、3の合計値)のCO2排出量118,525kton-CO2のうち、販売したクルマの使用時の排出量が99,276kton-CO2である一方で、企業活動に伴う排出量Scope 1、2はそれぞれ626kton-CO2、1,112kton-CO2(いずれも速報値)であった。これらはGHGプロトコルに基づいた測定結果である。
財務情報と連動したカーボンフットプリント開示の重要性を認識し、当事業年度にScope 1、2の対象範囲を下記のように定義した。それに伴い、過年度の排出量も再計算した。
・従来:日産自動車、連結子会社及び持分法適用関連会社の一部
・新スコープ:日産自動車及び連結子会社
(kton-CO2)
* 各スコープは「GHGプロトコル事業者排出量算定基準」によって以下の様に定められている。
Scope 1 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出
Scope 2 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope 3 企業のバリューチェーンで発生するScope2以外の間接排出
上記の2023年度の値は速報値であり、2024年7月末に当社企業サイトに掲載するサステナビリティデータブック2024にて、確定値と共に排出量の推移、第三者保証の詳細などを公表する予定。
(3) 人的資本 「人材育成方針」、「人材の多様性の確保」、「社内環境整備方針」
a. 戦略
コーポレートパーパスや長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」を実現すべく、コアビジネスを支えるエンジニアの採用強化を進めるとともに、「人材育成」、「人材の多様性の確保」、「社内環境整備」を包含した人財戦略として「HR Ambition 2030」を2022年に設定した。
この人財戦略は、「従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)の強化」、「スキル重視の人財マネジメント」、「リーダーシップの強化」、「企業文化の変革とイノベーションの促進」、「ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(多様性、公平性、包括性)」の5つの柱で構成される。
これらをマネジメントする仕組みとして、エクゼクティブコミッティのメンバーである最高人事責任者(Chief Human Resources Officer:CHRO)が議長を務めるグローバル人事会議にて、年2回その進捗を確認し実行を着実なものとしている。
なお、リスク管理については、前述の(1) サステナビリティの考え方 「c. リスク管理」に記載している。
b. 指標と目標
1.「Nissan Ambition 2030」では、研究開発部門における先進技術領域において3,000人以上の従業員を新規に採用する目標を掲げている。「Nissan Ambition 2030」を発表した2021年度以降2023年度末までに、新卒・中途を合わせて約1,400名を採用し予定どおり進捗している。今後も2026年度までに平均700名/年の採用を予定している。
2.女性管理職比率については、女性管理職比率と間接従業員に占める女性比率とのギャップを縮めていくことを目標とする。2024年3月末時点において、346人の女性管理職がさまざまな分野で活躍しており、全管理職に占める割合は10.7%となっている。将来的には、さらなる女性管理職比率の向上のため、女性社員の積極的な採用と育成を促進する。
3.さらに、「人材育成方針」、「人材の多様性の確保」、「社内環境整備方針」に関する総合的な指標として、グローバル従業員サーベイにおいて指標と目標を定めている。具体的には、エンゲージメントに加え、エネーブルメント、企業倫理、リーダーシップ、企業文化、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンといった全社的に優先度の高い5つの重点領域に対して、中長期的目標としてグローバルベンチマーキングスコアを上回る水準を目指し、前年度からの改善に必要な目標値を毎年設定している。2023年度の実績は目標値を上回った。
日産は長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」で、よりクリーンで安全、インクルーシブな誰もが共生できる社会の実現と、真に持続可能な企業となることを目指している。サステナビリティの取り組みがその長期ビジョンを具現化し、さらにはコーポレートパーパスの実現も可能にしていく。日産は企業のあらゆる側面で、サステナビリティを推進する。
a. ガバナンス
サステナビリティ戦略の目標設定や進捗確認など具体的な活動の社内横断的な管理については、チーフ サステナビリティ オフィサー(CSO:Chief Sustainability Officer)が議長を務めるグローバル・サステナビリティ・ステアリング・コミッティで議論し、PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを回すことで、サステナビリティパフォーマンスのさらなる向上を追求している。一方、環境課題についてはチーフ サステナビリティ オフィサーと取締役 代表執行役社長兼最高経営責任者が共同議長を務めるグローバル環境委員会(G-EMC:Global Environmental Management Committee)にて決議する。サステナビリティに関する取り組みは、戦略や重要案件に関する包括的な提案とともに、経営会議(Executive Committee)に報告される。これらの課題は、その重要性に応じて取締役会に報告される。また、2021年度より長期インセンティブ報酬の1つである業績連動型インセンティブ(金銭報酬)においてサステナビリティに関する評価指標を新たに追加し、経営によるコミットメントを明確にした。
b. 戦略
サステナビリティは事業運営の中核をなすものであり、ステークホルダーからの信頼を得るために必要不可欠である。日産は、ステークホルダーの皆さまの関心、環境と社会のグローバルアジェンダ並びに技術革新などの最新動向を踏まえながら、サステナビリティ戦略を策定し、活動を推進している。
サステナビリティ戦略強化に向けて、日産の優先課題をより明確にするため、リスクや機会分析を踏まえた会社全体として取り組むべきマテリアリティを特定した。
マトリックスという形で日産の取り組みの優先順位を定義し、2030年度に向けた会社の方向性をより詳細にステークホルダーにお伝えすることで、協働機会の拡大や信頼関係の向上を図り、さらなる取り組み推進につなげたいと考える。
マテリアリティ特定のプロセス
STEP1. 社会・環境課題の明確化
定期市場動向分析、ステークホルダー・投資家の皆さまとの対話より得られた社会からの期待値、グローバルスタンダード、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)、SDGs、世界経済フォーラム(WEF)発行のリスクレポートなどからグローバルなアジェンダを明確化。
STEP2. 自動車セクター及び日産の重要課題特定
コーポレート長期ビジョンにより実現する世界と、そこで果たすべき自動車セクターの役割という視点からリスクと機会を分析することで、日産にとっての課題を特定。
STEP3. マテリアリティの優先度整理
日産が社会・環境へ与える価値・インパクトと、社会・環境から日産へのインパクトの2側面からリスクと機会で優先度の整理を実施し、日産のつくりだす価値と今後さらに強化して取り組むべき課題をマトリックス型により整理。有識者レビューを行い、フィードバックを反映。
STEP4. 執行役員、取締役との合意
特定したマテリアリティは、各項目の設定理由や背景を含め執行役員、取締役へ報告し、合意を得て決定。
日産のマテリアリティマトリックス

マテリアリティ | 重要と考える理由 |
ガバナンス、法規制、 コンプライアンス | コーポレートパーパスや行動規範に基づき、透明性のあるフレームワークを用いた効果的なガバナンスを通じて最大限の誠実性を持って事業運営を行う。また法規制を遵守し人々と社会に対し敬意と誠実さを持ち行動する。 |
包括的なモビリティ ソリューション | 自動運転などの新しいモビリティ技術とサービスをより多くの人に提供し、誰もが安心で自由に移動できるインクルーシブな社会を実現する。 |
人権 | すべての従業員が個人の尊厳と人権を最大限に尊重する組織を醸成する。また国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」を参照した社内倫理基準に基づき行動する。 |
クルマの電動化 | 電動車ラインナップの拡充、バッテリーと車両の技術革新、クルマの多様な使い方を可能にするエコシステム構築により、カーボンニュートラル実現を目指す。 |
再生可能エネルギー | 国や自治体との協働や、さまざまな業界団体との連携を通して、CO2削減に向けた再生可能エネルギーや代替燃料の使用を推進する。EVバッテリーの循環利用などの4R(*)の取り組みやV2Xの活用を通し、エネルギーマネジメントで社会課題の解決を継続する。 * 4R:バッテリーの再利用、再製品化、再販売、リサイクル |
クルマの安全性 | 先進の運転支援技術をより多くのお客さまに提供することで、日産車のかかわる交通事故の死者数を実質ゼロにする「ゼロ・フェイタリティ」実現を目指す。 |
クリーンな排出ガス | 「大気並みにクリーンな排出ガス」を目指して、製品や拠点から排出されるのは、よりクリーンな排出ガス(Nox、PMなど含む)となるよう努める。 |
プライバシー& データ保護 | データ保護及びプライバシー権の保護に取り組み、適切なセキュリティ対策を講じてステークホルダーの個人情報を守り、新しい技術とセキュリティリスクを考慮したデータの安全な取り扱いに責任を持つ。 |
コミュニティの発展 | 災害時の復旧支援や人道支援に加え、「ブルー・スイッチ」のような社会変革への取り組みを通じてコミュニティの発展に貢献する。 |
製品品質 | デザイン、性能、化学物質管理及び車室内空質向上などの製品品質向上により、より安心・快適で使いやすいモビリティを提供する。 |
サプライチェーン マネジメント | サプライヤーCSRガイドラインに基づき人権・環境に配慮したサプライチェーンからの責任ある調達で、原材料の安定供給と地域共存を実現する。 |
サステナブル資源 マネジメント | 資源価格変動や調達リスクを回避し、資源依存を最小化するため、リペア/リユース/リビルト/リサイクルなどのサーキュラーエコノミーの効果的な循環利用による、最適なクルマ作りの仕組みを構築する。 |
マテリアリティの詳細は当社企業サイトに掲載しているESGデータブックもしくはサステナビリティデータブック(2024年7月末公開予定)を参照いただきたい。
また、マテリアリティの一つである生態系サービスと生物多様性について、2010年に日産は、国連大学と共に自社の活動がバリューチェーン全体の生態系に与える影響と依存を評価し、その研究成果を報告書「Ecosystem Services and the Automotive」として発表した。これは2001~2005年に国連が主導した「ミレニアム生態系評価」に基づく「企業のための生態系サービス評価」の手法を用いたものである。この評価を通じて、自動車メーカーが優先対応すべき3つの重点領域「エネルギーの調達」「材料資源の調達」「水資源の利用」を特定した。また2013年には水に関するインパクト評価を実施し、資源調達段階での水資源の利用が、日産の事業活動での水使用量の20倍以上に上ることが試算された。
これらの評価結果はマテリアリティの判断にも反映されており、「ニッサン・グリーンプログラム」の方針や戦略、具体的なアクションに落とし込まれている。
日産はTNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)の提言に賛同するとともにTNFDフォーラムに参画している。今後は、推奨される枠組みに沿った開示についてさらに検討を進めていく予定である。
日産は2023年度に、マテリアリティで特定された重要課題をもとに、第5次中期環境行動計画「ニッサン・グリーンプログラム2030(NGP2030)」、及び社会性の2030年度までの取り組みを包括的に推進する「ニッサン・ソーシャルプログラム2030(NSP2030)」を策定した。「NGP2030」は、技術やビジネスの進化によって環境負荷を低減し、社会と自然にポジティブな影響を与え、人々の生活が、持続可能で自然と調和できる社会創りを目指している。「NSP2030」は社会性に特化した初のプログラムであり、日産が従業員、サプライヤー、パートナー、社会と共に成長し、「人」を中心とした企業になることを目指し、従業員をはじめとするさまざまな「人」へ価値を提供していく。「NSP2030」の重点領域は、安全、品質、責任ある調達、知的財産、地域社会、従業員と定めており、領域毎に2030年度に向けたゴールを定義している。「NGP2030」と「NSP2030」はともに経営計画「The Arc」の土台を成し、「Nissan Ambition 2030」の実現に向けて重要な役割を果たす。
c. リスク管理
日産は「NGP2030」及び「NSP2030」の中で重要課題ごとに活動計画を策定し、先に述べたガバナンスを通じて進捗管理を行っている。また、定期的に市場動向分析を行い、投資家をはじめとするステークホルダーとの対話により得られた社会からの期待値や、グローバルスタンダード、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)、SDGs、世界経済フォーラム(WEF)発行のリスクレポートなどのトレンドも踏まえながら、グローバルなアジェンダを明確化している。さらに、「Nissan Ambition 2030」により実現する世界と、そこで果たすべき自動車セクターの役割という視点からリスクと機会を分析することで、日産にとっての課題を特定している。
具体的な活動計画、指標や目標については、当社企業サイト及び2024年7月末公開予定の「サステナビリティデータブック2024」を参照いただきたい。
なお、特定した重要課題に対応する日産の取り組みの中で、特にステークホルダーからの関心度が高い「気候変動」と「人的資本」について、以下に具体的な活動内容を記載する。
(2) 気候変動
a. ガバナンス
グローバル環境マネジメントのフレームワークとガバナンス
日産は多様化する環境課題に対応し、包括的な環境マネジメントを確実に推進する組織体制を構築している。
チーフ サステナビリティ オフィサーと取締役 代表執行役社長兼最高経営責任者が共同議長を務めるグローバル環境委員会(G-EMC:Global Environmental Management Committee)ではバリューチェーン全体に関わる各役員が出席し、全社的な方針や取締役会への報告内容の決議を行う。また、経営層は企業としてのリスクと機会を明確にし、各部門での具体的な取り組みを決定するとともに、PDCAに基づく進捗状況の効率的な管理・運用を担っている。
また、年次のレポートを発行し、幅広いステークホルダーにその状況を発信している。最新のサステナビリティデータブック等も参照いただきたい。


b. 戦略
中期環境行動計画「ニッサン・グリーンプログラム(NGP)」
日産は、環境理念である「人とクルマと自然の共生」を実現するため、中期環境行動計画「ニッサン・グリーンプログラム(NGP)」を2002年に発表し、環境への依存と影響を自然が吸収できる範囲に抑えるという究極のゴール達成に向けて取り組みを続けてきた。
2023年度には第五世代に当たる2030年度を見据えた「NGP2030」をスタートした。将来に向けた技術の進化と社会連携の方向性を明確にし、サプライチェーン、パートナーと目標を共有し、ともに環境対応と社会的価値の創出を目指していく。
NGP2030の取り組むべき重要課題とチャレンジ
日産は環境マテリアリティ評価に基づき、「気候変動」「資源への依存」「大気品質と水」を重要課題に設定した。また、ステークホルダーエンゲージメントを通じてそのニーズを把握し、環境課題にかかわる「事業基盤の強化」と新たな価値創出に努めている。
取り組みの指標や進捗は、クルマづくりに携わる開発・生産部門のほか、セールス・サービス部門を含む企業全体での、ビジネス基盤強化と社会価値の創出に取り組んだ成果としてサステナビリティデータブック等を通じて毎年開示している。また、後述の「d.指標と目標」においても気候変動に関連する主要項目について開示している。

CO2排出量の削減に向けた日産の取り組み
日産は、CO2排出量の削減や電動化技術の実用化の実績に加え、2050年までに事業活動を含むクルマのライフサイクル全体(*)におけるカーボンニュートラルを実現する新たな目標を2021年1月に発表した。企業活動では、自社及びクルマの原材料の調達、輸送にかかわるサプライヤーとともに省エネ活動やクリーンなエネルギーへの転換を進め、CO2削減に取り組む。
走行段階CO2削減に向けては、2030年代の早期には、主要市場に投入する新型車をすべて電動車とすることを目指し、電動化と生産技術のイノベーションを推進する。経営計画「The Arc」では電動化を戦略の中核に据え、2030年度までに投入する電動車のモデル数を34車種に増加、グローバルでの電動車モデルミックスは60%以上見込む。
* クルマのライフサイクルには、原材料の採掘から、生産、クルマの使用、使用済み自動車のリサイクルや再利用までを含む

カーボンニュートラルロードマップ(生産工場での事例)
日産では生産工場においてもカーボンニュートラルを目標とした活動を推進している。
達成に向けた取り組みを着実に推進するため、2021年10月、生産工場において2050年までにカーボンニュートラルを実現するロードマップを発表した。
~2030年:まず工場のエネルギーを削減しながら革新的な生産技術導入や電化を推進し、さらに再生可能エネルギーの導入や代替エネルギーの適用拡大を進める。
2030~2050年:2050年に向けては、ガスや蒸気などさまざまな動力形態で運営されている工場設備の全面電化を実施。同時に、使用電力については、再生可能エネルギーと代替燃料を用いた燃料電池で自家発電した電力を全面適用することで、生産工場におけるカーボンニュートラルを実現していく。

c. リスク管理
気候変動シナリオ分析を用いた2050年社会への戦略強化
NGPは中期目標の達成を通じて成果を収めてきたが、気候変動による異常気象の脅威は一段と高まっている。
そこで、国際エネルギー機関(IEA)の4℃と2℃シナリオ、及びIPCCの1.5℃特別報告書に基づき、2050年までの気候変動がもたらすさまざまな機会とリスクを検討した。
特に自動車セクターにおけるリスク要因を定義し、シナリオごとのリスク振れ幅を確認。また、世界170以上に及ぶ市場を前提とした。さらにお客さまや市場の受容性変化、自動車にかかわる規制の強化、クリーンエネルギーへの移行を因子として考慮し、日産の事業活動や商品、サービスについて、気候変動がもたらす機会とリスクに対する戦略のレジリエンス性を以下の4つのステップで検討した。
検討の4ステップ
・過去のマテリアリティの評価や、文献調査などで気候変動によって自動車セクターに決定的な影響を与え得るリスク要因を調査し、人口・経済・地政学、気候変動政策、技術などの区分でメインドライバーを定義
・メインドライバーは物理的リスクと移行リスクに分類され、それぞれがトレードオフの関係にあることを考慮し、地球の平均気温の上昇を1.5℃、2℃、4℃と3種類のシナリオで、そのリスク振れ幅を確認
・自動車セクターへの影響度合いとその時間軸をもとに、メインドライバーから影響力の高い項目をスクリーニング
・シナリオごとの変化、状態、影響を整理し、戦略強化に必要な要素を定性評価に基づいて導出
想定したシナリオと関連する機会とリスク
想定シナリオ | 影響領域 | 拡大する気候変動が事業活動に与える機会とリスク |
1.5℃ | 政策と法規制 | さらなるクルマの燃費や排出ガス規制の強化へ対応し、電動パワートレイン技術の開発や生産コストへ影響を与える可能性 |
炭素税の拡大によるエネルギーコストの負担増加と、対策としての省エネルギー設備への投資拡大 | ||
技術変化 | 車載電池などのEV関連技術や、自動運転技術の拡大など次世代自動車技術の採用によるコスト影響 | |
需要拡大により、車載電池材料である希少金属のサプライチェーン影響やその安定化のためのコスト増加 | ||
市場変化 | 消費者の意識変化による、公共交通機関や自転車の選択や、モビリティサービスへの移行による新車販売台数減少の可能性 | |
機会 | EVのエネルギー充放電力技術であるV2X(Vehicle to Everything)による電力マネジメント機会の提供拡大とEV価値の再認識(特にV2G(Vehicle to Grid)において) | |
4℃ | 異常気象 | 大雨、渇水など異常気象によるサプライチェーンへの影響と生産拠点の操業への影響と、損害保険料や空調エネルギーの費用の増加 |
機会 | 防災・減災対策として、EVバッテリーを使用した緊急電源確保のニーズが増大 |
日産の電動化技術は、2℃以外のシナリオにおいても機会を創出するポテンシャルがあると考えられるが、取り組みのさらなる加速と、リスク対応のためのサプライチェーンとの連携が重要である。とくにゼロ・エミッション車の拡大は、脱炭素社会への移行だけでなく、電力や減災・防災における社会のレジリエンス性に貢献する。電気自動車の性能向上と、環境の持続可能性を確保するにはさらなる開発が伴うが、最終的には社会価値創造とビジネスの両立を可能にすると捉えている。
しかし、社会全体の気候変動対策が遅れた場合、さまざまな移行リスク、物理的リスク及び財務インパクトが生じる可能性がある。炭素税の影響評価を試みたところ、2030年時点のGHG排出量削減により、Scope1&2で炭素税の影響を約100億円抑えることができると試算された。
財務インパクト評価のシナリオ選定背景
二酸化炭素排出に対する価格付けが進み、炭素税を導入する国・地域が拡大している。国・地域により、課税の水準や対象となる業種も異なるが、企業に対する影響が大きいため、この分析では炭素税による財務インパクトを対象とする。
算定式と試算額の評価、前提条件
試算では、日産の炭素税予測の基礎としてIEAレポートなどを参照している。2030年時点のGHG排出量の炭素税を、次の条件で算出した。
①2018年時点の企業活動が継続された場合
②NGPによる環境課題への取り組みが促進され、単年度での炭素税の影響を抑えた場合

対応戦略
日産は、20年以上にわたり中期環境行動計画「ニッサン・グリーンプログラム」を実践している。また、脱炭素の推進にあたっては、バリューチェーンへの影響を把握し、負の影響を極力抑えた公平な移行(just transition)を考慮した活動を意識している。
このような戦略や、2030年度でのありたい姿を具体化し、投資家をはじめとするステークホルダーの皆さまにより分かりやすく的確に伝えることが重要だと考え、日産はTCFD(*)の提言を支持し、その推奨枠組みに沿った情報開示に努めていく。また、シナリオ分析手法の精度向上とリスク量の正確な把握についても継続して取り組む。
「ニッサン・グリーンプログラム2030(NGP2030)」の詳細や、気候変動以外の取り組みについては2024年7月末に当社企業サイトに掲載するサステナビリティデータブック2024で開示を予定している。
* TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures
d. 指標と目標
長期目標として掲げた、カーボンニュートラルの実現に向け、2030年度までの中期行動計画をまとめた「ニッサン・グリーンプログラム2030」では、各バリューチェーンでのKPIと目標を明確にし、その進捗を毎年報告している。
2030年度目標値 | 2023年度実績 | 起点 | |
ライフサイクル (t-CO2/台数) | -30%(グローバル) | -11% | 2018年度 |
クルマ (g-CO2/km) | -32.5%(グローバル) -50%(4地域(*)) | -12%(グローバル) -15%(4地域(*)) | |
生産 (t-CO2/台数) | -52%(グローバル) | -1.4% |
* 日本、米国、欧州、中国
上記の値は2023年度の到達状況の速報値であり、2024年7月末に当社企業サイトに掲載するサステナビリティデータブック2024にて、確定値と共に分析を公表する予定。
自動車のバリューチェーン全体を捉えた時に、クルマの使用時に排出されるCO2量が占める割合は、企業活動に伴う排出量に比較して著しく多く、全体の80%以上を占める。2023年度では、バリューチェーン全体(Scope 1、2、3の合計値)のCO2排出量118,525kton-CO2のうち、販売したクルマの使用時の排出量が99,276kton-CO2である一方で、企業活動に伴う排出量Scope 1、2はそれぞれ626kton-CO2、1,112kton-CO2(いずれも速報値)であった。これらはGHGプロトコルに基づいた測定結果である。
財務情報と連動したカーボンフットプリント開示の重要性を認識し、当事業年度にScope 1、2の対象範囲を下記のように定義した。それに伴い、過年度の排出量も再計算した。
・従来:日産自動車、連結子会社及び持分法適用関連会社の一部
・新スコープ:日産自動車及び連結子会社
(kton-CO2)
Scope(*) | 2018(基準年) | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 |
Scope 1 | 725 | 550 | 588 | 585 | 626 |
Scope 2 | 1,689 | 1,167 | 1,207 | 1,209 | 1,112 |
Scope 3 | 204,976 | 136,422 | 128,332 | 119,677 | 116,786 |
合計 | 207,390 | 138,139 | 130,127 | 121,471 | 118,525 |
* 各スコープは「GHGプロトコル事業者排出量算定基準」によって以下の様に定められている。
Scope 1 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出
Scope 2 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope 3 企業のバリューチェーンで発生するScope2以外の間接排出
上記の2023年度の値は速報値であり、2024年7月末に当社企業サイトに掲載するサステナビリティデータブック2024にて、確定値と共に排出量の推移、第三者保証の詳細などを公表する予定。
(3) 人的資本 「人材育成方針」、「人材の多様性の確保」、「社内環境整備方針」
a. 戦略
コーポレートパーパスや長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」を実現すべく、コアビジネスを支えるエンジニアの採用強化を進めるとともに、「人材育成」、「人材の多様性の確保」、「社内環境整備」を包含した人財戦略として「HR Ambition 2030」を2022年に設定した。
この人財戦略は、「従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)の強化」、「スキル重視の人財マネジメント」、「リーダーシップの強化」、「企業文化の変革とイノベーションの促進」、「ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(多様性、公平性、包括性)」の5つの柱で構成される。
5 つ の 柱 | 1 | 従業員体験 (エンプロイーエクスペリエンス)の強化 | ⦅方針⦆ コアスキルを持つ多様な人財を惹きつけ、エンゲージメントを高めて組織への定着を図ることで、日産の持続的成長に貢献する。 ⦅2023年度の実績⦆ 会社が従業員に対して提供する価値である、エンプロイーバリュープロポジション、「OUR PROMISE」を策定し、「世の中に変化を生み出す」「充実した毎日で、人生を豊かに」、「ともに挑み、ともに成長する」、「互いを助け合うワンチーム」という4つのイニシアチブを提示した。 |
2 | スキル重視の人財マネジメント | ⦅方針⦆ 電動化、新たなモビリティーサービス、技術革新を支えるコア人財・コアスキルの獲得と育成に注力する。 ⦅2023年度の実績⦆ 「Nissan Ambition 2030」発表以降、先進技術領域において2023年度末までに約1,400名の採用を行った。また、将来的に重要なスキルの充足に向けて、各部門において3B(*)施策を推進している。 * Buy(採用)/Build(育成)/Borrow (社外人財の活用) | |
3 | リーダーシップの強化 | ⦅方針⦆ 協働力と共感力のあるリーダーの養成を通じて、「Nissan Ambition 2030」が求める人財強化を促進する。 ⦅2023年度の実績⦆ 上記のあるべき姿の具体例を示した「日産リーダーシップウェイ」を策定し、リーダー層へのトレーニング・コミュニケーションを開始。 | |
4 | 企業文化の変革とイノベーションの促進 | ⦅方針⦆ エネーブルメント(*)とエンゲージメントを高めることでイノベーションを加速させ、日産のDNA「他のやらぬことを、やる」を体現する。 * 社員の意欲をサポートする環境、能力を発揮するための働きやすさ ⦅2023年度の実績⦆ 企業文化改革については、「日産ウェイ」に加え、「日産リーダーシップウェイ」、「OUR PROMISE」の3つを中心とした企業文化改革キャンペーン「OUR NISSAN」を社内で推進。また、イノベーションについては、社内で新サービスや新ビジネスのアイデアを募集する「New Business Contest」や、新製品・技術・プロセスのアイデアを募集する「New Value Co-Creation」を実施している。 | |
5 | ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン (多様性、公平性、包括性) | ⦅方針⦆ 日産の強みであるダイバーシティに継続して取り組むとともに、職場におけるエクイティとインクルージョンの実現を加速する。 ⦅2023年度の実績⦆ 2022年度にDEIの長期戦略であるDEI Ambition 2030を策定し、「D&IからDEIへ」、「ERG(従業員リソースグループ)の推進」、「インクルーシブな職場環境の推進」、「関係会社等へのDEI施策展開の拡大」という4つを活動の柱として推進している。 |
これらをマネジメントする仕組みとして、エクゼクティブコミッティのメンバーである最高人事責任者(Chief Human Resources Officer:CHRO)が議長を務めるグローバル人事会議にて、年2回その進捗を確認し実行を着実なものとしている。
なお、リスク管理については、前述の(1) サステナビリティの考え方 「c. リスク管理」に記載している。
b. 指標と目標
1.「Nissan Ambition 2030」では、研究開発部門における先進技術領域において3,000人以上の従業員を新規に採用する目標を掲げている。「Nissan Ambition 2030」を発表した2021年度以降2023年度末までに、新卒・中途を合わせて約1,400名を採用し予定どおり進捗している。今後も2026年度までに平均700名/年の採用を予定している。
2.女性管理職比率については、女性管理職比率と間接従業員に占める女性比率とのギャップを縮めていくことを目標とする。2024年3月末時点において、346人の女性管理職がさまざまな分野で活躍しており、全管理職に占める割合は10.7%となっている。将来的には、さらなる女性管理職比率の向上のため、女性社員の積極的な採用と育成を促進する。
3.さらに、「人材育成方針」、「人材の多様性の確保」、「社内環境整備方針」に関する総合的な指標として、グローバル従業員サーベイにおいて指標と目標を定めている。具体的には、エンゲージメントに加え、エネーブルメント、企業倫理、リーダーシップ、企業文化、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンといった全社的に優先度の高い5つの重点領域に対して、中長期的目標としてグローバルベンチマーキングスコアを上回る水準を目指し、前年度からの改善に必要な目標値を毎年設定している。2023年度の実績は目標値を上回った。