有価証券報告書-第12期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/25 14:03
【資料】
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【項目】
171項目

事業等のリスク


(1) 当社グループのリスク管理
① リスク管理基本方針
当社では、リスク管理を経営の最重要課題と位置づけ、「MS&ADインシュアランス グループ リスク管理基本方針」を定め、グループ内で共有された基本的な考え方のもとでリスク管理を実行しております。
「MS&ADインシュアランス グループ リスク管理基本方針」には、リスク管理の基本プロセスと体制、保険グループとして認識すべきリスクの定義や管理の考え方等が定められております。
グループ国内保険会社では、この基本方針に沿って各社の実態に合わせた「リスク管理方針」を制定し、主体的にリスク管理を行っております。
② リスク管理体制
当社では、取締役会の課題別委員会として、リスク管理に係るモニタリングと協議・調整を行うリスク管理委員会を設置し、重要事項についてはリスク管理委員会の協議を踏まえてグループ経営会議、および取締役会に報告を行う体制としております。
グループ国内保険会社は、国内外の子会社も含め各社それぞれのリスク管理を実行します。リスク管理部は、グループ全体のリスクおよび各社のリスク管理の状況をモニタリングし、グループ全体の統合リスク管理を行い、リスク管理委員会へその結果を報告しております。
0102010_001.png③ ERMをベースにしたグループ経営
ERM(Enterprise Risk Management)は、保険会社の経営において重要な収益(リターン)、リスク、資本という3つの経営指標をバランスよく管理していく機能を担っております。MS&ADインシュアランス グループでは、ERMを前中期経営計画「Next Challenge 2017」の推進ドライバーに捉えて、グループ経営の基盤として確立させております。
現中期経営計画「Vision 2021」においても、ERMサイクルをグループ経営のベースにおき、健全性の確保を前提に、収益力と資本効率の向上のための取組みを強化しております。
a. ERMの機能と役割
ERMでは、リスクを取って収益を求める際、ROR(後述b.(b))の高いものや高まる取り方を考え、資本の健全性(ESR※1)を維持しつつ、目標とする資本効率性(ROE)の達成を図ります。これら3者の関係は下図のようになります。
※1 ESR:エコノミック・ソルベンシー・レシオ(経済価値ベースのソルベンシー・レシオ)=「時価純資産」÷「統合リスク量」
0102010_002.png
b. ERMで注視する指標
0102010_003.png※2 グループ修正ROE=グループ修正利益÷[修正純資産(連結純資産÷異常危険準備金等-のれん・その他無形固定資産)の期初・期末平均]
※3 グループ修正ROEを算出する修正純資産とは、連結純資産に、異常危険準備金等を加え、のれん・その他無形固定資産を除いたものの期初・期末平均。
※4 統合リスク量は、200年に一度の確率で当社グループ全体が被る損失の予想額。時価で評価している。
※5 時価純資産とは、経営のバッファとしての純資産管理を徹底するために使用している指標で、修正純資産に保険負債の含み損益、その他資本性負債等を加えたもの。
(a) ESR(Economic Solvency Ratio)とは
リスク量に対する資本の充実度を示す指標です。リスク量は、事業や資産に係る損失や価値変動のリスクを統計的に数値化したものであり、統合リスク量は当社グループ全体のリスクの総額となります。また、当社グループでは、予想最大損失の再現期間として200年を用いております(つまり、200年のうち199年はその額を超えないという意味です)。
(b) ROR (Return on Risk)とは
リスクを引き受けるためには、それに見合う資本の確保が必要になります。したがって、RORが高い(すなわち、引き受けたリスクに対して得られる利益が大きい)事業は、必要な資本に対して、得られる利益がより大きい事業ということが言えます。
(c) VA (Value Added)とは
リスクを引き受けることによって、どれだけの付加価値が得られるかを示す指標です。
RORがリスクに対するリターンを割合で示すのに対し、VAは得られる付加価値を実額で評価します。
④ ERMとリスク管理
当社グループでは、リスク選好方針に沿って経営計画を策定し、ERMサイクルをベースに、健全性の確保と、収益力と資本効率の向上を図っております。ERMサイクルに沿って、リスクに見合った資本の配賦を行い、引き受けたリスクに対するリターン(ROR)※のモニタリングを通じて、リスクコントロールやアンダーライティングの強化等を行っております。
※ROR=グループ修正利益÷統合リスク量
a.ERMサイクル
ERMは、企画・執行・モニタリングのサイクルを通じて実践しております。
0102010_004.pngb.ROR向上に向けた取組み
引き受けたリスクに対しどれだけの利益が得られるかを示すRORの推移は、当社グループのリスクポートフォリオの収益力の状況を表しております。当社グループでは、ERMサイクルをベースにRORの向上に取り組んでおります。
c.ストレステストの実施
当社グループは自然災害の発生、資産価値の下落など、様々な事象の発現による影響を分析して、資本の十分性、期間損益への影響、ポートフォリオの脆弱性の確認を行うためにストレステストを実施しております。また、事象発現時の状況を分析し、資本を毀損する因子の洗い出しを行い、リスク耐性向上に有効な対策の検討にも活用しております。
(2) 当社グループの主要なリスク
当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは以下のとおりであります。
なお、本項に記載した将来に関する事項は有価証券報告書提出日現在において判断したものであります。
① グループ重要リスク
経営が管理すべきリスクとして捉え、管理取組計画の策定を行い、各リスクの状況を定期的にモニタリングしております。
a.国内外における大規模自然災害の発生
台風や地震等の自然災害による損害は時に巨額になることがあり、また、気候変動等の影響により世界的に自然災害が増加・大型化し、予測を超える巨大な自然災害による損害が発生する可能性があります。また、自然災害による支払保険金の増加等により、当社グループの資金繰りが悪化し、資金の確保に通常よりも著しく不利な条件での取引を余儀なくされる可能性があります。当社グループは、再保険の利用や異常危険準備金の積立によって自然災害による損害に対する保険金の支払いに備えておりますが、これらの保険金の支払いが多額に及ぶことにより当社グループの業績に影響が生じるリスクがあります。
b.国内外における金融マーケットの大幅な変動
当社グループは、有価証券や貸付金、不動産等の様々な運用資産(オフバランス資産を含む)を保有しておりますが、経済環境や金融市場の悪化等により資産又は負債の価値が変化することで当社グループの業績に影響が生じるリスクを内包しており、主に以下のようなリスクがあります。
(a)株価下落リスク
取引先との中長期的な関係維持の観点等から大量の株式を保有しておりますが、株式相場が下落した場合に、資産価値の減少や評価損、売却損が発生する可能性があります。
(b)金利変動リスク
保有している債券や貸付金等の資産及び積立保険や長期の第三分野商品、生命保険等の契約者に対して将来お支払いする保険負債については、金利変動の影響によりこれらの価値が変化する可能性があります。
(c)為替変動リスク
米ドル等の外貨建て資産及び負債を保有しておりますが、為替変動の影響によりこれらの価値が変化する可能性があります。
c.信用リスクの大幅な増加
保有している株式や社債、貸付金等の資産や、販売している信用・保証保険契約等については、株式・社債の発行者もしくは貸付先等の信用力の低下もしくは破綻又は信用市場の混乱によって、資産価値の減少や元本・利息の回収不能等が生じる可能性があります。当社グループは、保険契約によって引き受けた保険責任を分散し、収益を安定させる目的で再保険を利用しておりますが、再保険会社の破綻等により再保険金の回収ができなくなる可能性があります。これらにより、当社グループの業績に影響が生じるリスクがあります。
d.グループの企業価値の著しい毀損につながる行為の発生・社会的信用の失墜
社会的信用の失墜につながる行為とは、グループ事業に関連する法令等違反行為、重大な労務問題(長時間労働・ハラスメント等)、データガバナンスの不備(個人情報や機密情報の大量漏えい・不正利用の多発等)などに加え、顧客本位の視点の欠如・不徹底等(コンダクトリスク)に起因するものをいいます。
このような行為の発生により、当社グループの業績に影響が生じるリスクがあります。
e.サイバー攻撃による大規模・重大な業務の停滞・情報漏えい・保険金支払の発生
当社グループには、サイバー攻撃による不正アクセス又は情報システムの不備等により、情報システムの停止、誤作動若しくは不正使用又は情報漏えい等が発生するシステムリスクが存在します。当社グループは、システムリスク管理態勢の整備に努めておりますが、大規模な情報システムの停止、誤作動若しくは不正使用、情報漏えいが発生する可能性があります。また、サイバーリスクを補償する保険契約の引受により、保険金支払が発生する可能性があります。これらにより、当社グループの業績に影響が生じるリスクがあります。
f.システム障害の多発や重大なシステム障害の発生、大規模システムの開発計画の進捗遅延・未達・予算超過・期待効果未実現
事業収益性の更なる向上を実現するための大規模システム開発においては、予期せぬ事故等により開発作業の進捗遅延や開発予算の超過等が発生するリスクが存在します。当社グループは、システムリスク管理態勢の整備に努めておりますが、大規模システム開発の進捗遅延・開発予算超過等が発生した場合には、当社グループの業績に影響が生じるリスクがあります。
g.新型インフルエンザ等(新型コロナウイルスを含む)の感染症の大流行
主に以下のような事象により、当社グループの業績に影響が生じるリスクがあります。
(a)当社グループは、新型インフルエンザ等の感染症の大流行等の不測の事故や事態に備え、事業継続計画の策定や危機管理態勢の整備により、事業中断期間を一定程度に抑え、事業を継続的に運営できる体制を整えておりますが、こうした危機管理にもかかわらず、当社グループの事業継続が阻害されたり、想定を超える影響を受ける可能性があります。
(b)新型インフルエンザ等の感染症の大流行による経済の減速、または、その懸念の高まりにより、国内外における金融マーケットの大幅な変動(前述b.)、信用リスクの大幅な増加(前述c.)が発生する可能性があります。
(c)新規契約の提案のためのお客さま提案活動が抑制されること、企業の事業活動・物流量が減少することなどから保険料が減少となる可能性があります。また、新型インフルエンザ等の感染症に関わるリスクを補償する保険契約の引受により保険金支払が発生する可能性があります。
② グループエマージングリスク
中長期的な視点から当社グループ経営に影響を与える可能性のある事象や、現時点では当社グループ経営への影響の大きさ、発生時期の把握が難しいものの、経営が認識すべき事象を次のとおり「グループエマージングリスク」として特定し、定期的にモニタリングしております。
a. 少子高齢化の進展・医療技術の進歩
b. 資源の枯渇
c. 気候変動・環境災害
d. 経済や消費者行動に大きな変化を及ぼす新たな技術、仕組み(IoT、シェアリングエコノミーの普及等)の動向、デジタルプラットフォーマーの台頭等によるビジネスモデルの大きな変革
e. 国内外の法令・制度の新設・改廃
f. 国内労働需給の大きな変化
g. 国家統治・政治の大きな混乱、機能不全、崩壊、国家間紛争(経済紛争を含む)、日本の安全保障の危機