有価証券報告書-第159期(2023/04/01-2024/03/31)
対処すべき課題
ヤマトグループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在においてヤマトグループが判断したものであります。
(1)経営方針
ヤマトグループは、社会的インフラとしての宅急便ネットワークの高度化、より便利で快適な生活関連サービスの創造、革新的な物流システムの開発を通じて、豊かな社会の実現に貢献することを経営理念に掲げ、生活利便性の向上に役立つ商品・サービスを開発してまいりました。
今後も、社会の一員として社会の課題に正面から向き合い、お客様、社会のニーズに応える「新たな物流のエコシステム」を創出することで、豊かな社会の創造に持続的に貢献してまいります。また、テクノロジーを起点に次世代の営業・幹線輸送・ラストマイルオペレーションを構築し、収益力の強化に努めることで、安定した経営を目指してまいります。
(2)経営環境、経営戦略及び経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、2027年3月期を最終年度とするヤマトグループ中期経営計画「サステナビリティ・トランスフォーメーション2030 ~1st Stage~」(「SX2030 ~1st Stage~」)を策定しました。
ヤマトグループは、経営理念に掲げる「豊かな社会の実現への貢献」を通じた持続的な企業価値の向上を実現するため、グループ各社の経営資源を結集したグループ経営体制の下、中期経営計画「Oneヤマト2023」に基づき、生活様式の変化と流通構造の変化に対応するサプライチェーンの変革に向けて、お客様や社会のニーズに対し総合的な価値提供に取り組んでまいりました。グループ経営構造改革により、経営資源を結集した「Oneヤマト体制」を2021年4月からスタートさせるとともに、「法人ビジネス領域の拡大」「ネットワーク・オペレーション構造改革」を柱とした事業構造改革を推進しました。
小売市場全体は伸び悩む一方、BtoC-EC市場(物販)においては市場規模およびEC化率は拡大傾向にあり、CtoCからBtoCへと物流が変化しつつある中、「ネットワーク・オペレーション構造改革」については、既存(宅急便)ネットワークの強靭化を進めるための土台として、都市部を中心に、増加するEC荷物専用の「EC物流ネットワーク」を構築し、運用を開始しました。
また、EC以外の荷物が伸び悩む中、既存(宅急便)ネットワークについては、セールスドライバーの集荷割合が低下するなど宅配便の顧客構成が変化していること、都市部を中心に小型のラストマイル集配拠点が密集していること、ターミナル拠点については、老朽化・狭隘化が進んでいること、都市部を中心に荷物の発送と到着のバランスが崩れていること、仕分け作業に関わる社員数が多く、単純作業の外注化が進んでいないなどの構造的な課題を抱えていることから、ラストマイル集配拠点の集約・大型化、ターミナル機能の見直しに加え、デジタルテクノロジーを駆使した人事戦略などの強靭化施策をスタートさせました。
一方、「法人ビジネス領域の拡大」においては、アカウントマネジメントを強化するとともに、サプライチェーンの「End to End」に対する提供価値の拡大に取り組み、越境ECや3温度帯(常温・冷蔵・冷凍)ロジスティクスへの対応、LLP(リード・ロジスティクス・パートナー)案件創出など、新たな領域における成果が出始めました。
このような「Oneヤマト2023」における取組みを確固たる成果に結びつけていくとともに、目指す姿として定めた「持続可能な未来の実現に貢献する価値創造企業」に向けて、今般策定した「SX2030 ~1st Stage~」では、2025年3月期~2027年3月期の3年間を「ヤマトグループにおけるサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を実現する期間」と位置付け、下記の主要施策に取り組んでいきます。
目指す姿

「SX2030 ~1st Stage~」主要施策
①基盤領域:宅急便ネットワークの強靭化と提供価値の拡大
「宅急便」「宅急便コンパクト」「EAZY」のカーボンニュートラリティ、サービスラインアップの拡充、顧客体験価値の向上、および外部コスト上昇などを踏まえたプライシング戦略の強化により、営業収益を拡大するとともに、ネットワーク・オペレーション構造改革を推進し、個当たりコストの改善と安定的に利益成長できる構造へ転換していきます。
②成長領域:法人ビジネス領域の拡大
宅急便ネットワークや貨物専用機(フレイター)での輸送を活用し、顧客のサプライチェーン改革に資するビジネスソリューションを推進するとともに、M&Aや提携による事業の拡大を推進します。
③新規領域:新たなビジネスモデルの事業化
持続可能な未来の実現に向けて、既存の経営資源を活用しつつ、多様なパートナーとともに、多様化する顧客や社会のニーズに応える新たなビジネスモデルの事業化を推進します。
④グループ経営基盤の強化
持続的な企業価値向上を実現するための基盤として、引き続き、人事戦略、デジタル戦略、サステナブル経営の強化、コーポレート・ガバナンスの強化に取り組みます。
⑤資本効率をより重視した経営の浸透
資本コストを上回る資本収益性の実現に取り組むため、ROICを新たな経営指標として設定し、資本効率をより重視した経営の浸透を図ります。
なお、当該中期経営計画の最終年度となる2027年3月期において、連結営業収益2兆~2兆4,000億円、連結営業利益1,200~1,600億円(連結営業利益率6%以上)、ROE12%以上、ROIC8%以上の達成を目標として設定し、事業ポートフォリオの変革を進めていきます。

(3)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
ヤマトグループを取り巻く事業環境は、世界的なインフレ傾向に落ち着きが見られるものの、国内においては、個人消費の低迷が続いているなど、依然として本格的な景気回復が見通しづらい状況にあります。また、2024年4月から、自動車運転業務における時間外労働の上限規制が適用(2024年問題)されるなど、外部環境の変化に伴うコスト上昇が見込まれます。さらに、中長期的には、EC化の進展や地政学リスクの増大、少子高齢化・過疎化の進展、労働力不足や気候変動のさらなる深刻化などを想定しています。このような中、ヤマトグループは、経営理念に掲げる「豊かな社会の実現への貢献」を通じた持続的な企業価値の向上を実現するため、「持続可能な未来の実現に貢献する価値創造企業」を2030年の目指す姿として定め、2027年3月期を最終年度として策定した中期経営計画「サステナビリティ・トランスフォーメーション2030 ~1st Stage~」に基づき、以下①~⑤の取組みを推進していきます。
① 宅急便ネットワークの強靭化と提供価値の拡大
EC化の進展や少子高齢化・過疎化の進展、労働力不足や気候変動のさらなる深刻化を踏まえ、社会的インフラとしての宅急便ネットワークをより効率的かつ持続的な形に強靭化すべく、引き続き、ネットワーク・オペレーションの構造改革を推進します。具体的には、業務量変動への柔軟な対応や拠点間輸送の効率化、荷待ち時間の短縮などを実現するため、小規模・多店舗展開してきたラストマイル集配拠点の集約・大型化やターミナル機能の再定義、デジタルテクノロジーを活用した「仕分け作業」や 「運び方」、「働き方」の変革に取り組みます。さらに、第一線の社員の管理間接業務やバックオフィス業務の標準化、電子化によるBPR(業務プロセス改革)にも継続して取り組むことにより、オペレーションの安全・品質および、社員・パートナーにとっての働きやすさや働きがいの維持・向上を図るとともに、オペレーティングコストの適正化を実現していきます。
また、輸送サービスのラインアップ拡充や個人向け会員サービス「クロネコメンバーズ」を通じた顧客体験価値の向上、宅配便3商品の「カーボンニュートラル配送」などにより、お客様への提供価値を拡大するとともに、外部環境の変化を踏まえた届出運賃の年次での見直し、および法人顧客との個別契約の見直しなど、適正な運賃・料金収受を推進していきます。
② 法人ビジネス領域の拡大
ヤマトグループは、世界の政治・経済とサプライチェーンのブロック化や環境問題などのリスク要因が増大する中、サプライチェーン全体に拡がるお客様の経営課題の解決を目指すソリューションビジネスを成長領域と位置付け、コントラクト・ロジスティクス事業とグローバル事業の拡大に注力します。
コントラクト・ロジスティクス事業においては、エクスプレス事業とのシナジーを重視し、宅配便を利用するお客様の課題解決や事業成長を支援するソリューションの提供を通じて、宅配便のさらなる利用拡大や提供価値に応じたプライシングの適正収受、新たなロジスティクス収入の獲得などの取組みを強化します。また、セールスドライバーがお客様との接点から得る気づきなどの情報を活用し、各地域に配置した法人営業担当者が最適な提案を行えるよう、営業サポート体制の整備や営業担当者のスキル向上などに取り組んでいきます。
グローバル事業においては、サプライチェーンの変化を好機と捉え、これまで宅配便で培った国内の膨大な顧客基盤を活かしつつ、オートモーティブやハイテク産業など、ヤマトグループが強みを発揮している領域のさらなる拡大に努めるとともに、日本、米国・メキシコ、インド、東南アジアを中心に営業力を強化します。また、注力市場を絞り込むことでフォワーディングの混載効率を向上させることや、拡大する越境ECへの提案強化、注力する地域における消費財などの内需拡大に伴う物流需要の取り込みなどに取り組んでいきます。
なお、成長領域の拡大を加速させるため、自律的な成長施策に加え、M&Aや戦略的業務提携を推進していきます。M&Aの検討においては、コントラクト・ロジスティクス事業やグローバル事業の成長戦略との適合性を重視するとともに、投資効果を測る定量基準の設定など、収益責任部門とM&A専門部署が一体となり、規律を持って推進していきます。
③ 新たなビジネスモデルの事業化
持続可能な未来の実現に向けて、既存の経営資源を活用しつつ、多様なパートナーとともに、多様化する顧客や社会のニーズに応える新たなビジネスモデルの事業化を推進します。
モビリティ事業においては、車両整備事業を基盤に、これまでにヤマトグループ内での環境投資や実証実験を通じて蓄積したEV、太陽光発電設備、エネルギーマネジメントなどのノウハウを活用した商用EV導入・運用支援など、脱炭素と経済性を両立する基盤・エコシステムを開発し、社会・物流業界全体のサステナビリティに貢献します。また、地域社会の多様なニーズに応えるため、荷物の発送・受取サービスに加えて、新たなサービス提供を目指す「ネコサポステーション」の展開や、IoT電球「HelloLight」を活用した「クロネコ見守りサービス ハローライト訪問プラン」の拡販など、新たな価値の創出に取り組みます。さらに、安定的なスピード輸送の提供による新たな需要の獲得と流通拡大による地域経済の活性化、輸送サービス品質の維持・向上を図るため、2024年4月より貨物専用機(フレイター)の運航を開始しました。今後、順次運航数を拡大するとともに、柔軟な運航区間・ダイヤの設定によりお客様の新たなニーズに対応していきます。
④ グループ経営基盤の強化
ヤマトグループは、持続的な企業価値向上を実現するための基盤として、引き続き、人事戦略、デジタル戦略、サステナブル経営の強化、コーポレート・ガバナンスの強化に取り組みます。
人事戦略については、事業構造改革と連動した人材の最適配置を優先課題として、組織・要員の適正化と評価・報酬制度の見直しに取り組みます。また、付加価値を創出する人材の育成に向けて、自主・自律的なキャリア形成を促進する人材マネジメント体系の整備・運用を推進します。そして、多様な社員の働きやすさと働きがいの向上に向けて、多様化する社員のライフプランに適合する福利厚生制度の構築や社員の健康管理・健康増進施策を推進するとともに、ダイバーシティの推進や人権デューデリジェンスの実施、女性活躍の推進に継続的に取り組みます。これらの取組みを通じて、社員一人ひとりの活躍と貢献を最大化し、より高い付加価値の創出を目指していきます。
デジタル戦略については、DX推進体制を強化し、デジタル基盤を活用したお客様への提供価値の拡大や「仕分け作業」や「運び方」、「働き方」の変革、バックオフィスの業務プロセス改革など、事業と一体となったDX推進に取り組みます。
サステナブル経営の強化については、中長期的な企業価値の向上と持続可能な社会の実現に向けた2つのビジョン「つなぐ、未来を届ける、グリーン物流」「共創による、フェアで、“誰一人取り残さない”社会の実現への貢献」に基づき、特定した各重要課題(マテリアリティ)に対する取組みを強化していきます。環境の領域については、「2050年温室効果ガス(GHG)排出実質ゼロ(自社排出)」および「2030年温室効果ガス(GHG)排出量48%削減(2021年3月期比)」の実現に向け、引き続き「EV23,500台の導入」「太陽光発電設備810基の導入」「再生可能エネルギー由来電力の使用率向上」などの施策を推進するとともに、サプライチェーン(Scope3)排出量の把握方法の策定などに取り組みます。また、社会の領域については、引き続き、人材の多様性を尊重し、社員が活躍できる職場環境を整備するとともに、社会の諸課題に向き合い、ビジネスパートナーとの定期的な協議の実施や課題の早期発見と解消のための体制・プロセス・仕組みの整備など、適切な関係構築を通じたサステナブル・サプライチェーンの構築を推進していきます。
コーポレート・ガバナンスの強化については、引き続き、経営の監督と執行の分離、経営の透明性の維持・強化などに取り組むとともに、株主・投資家との建設的な対話や情報開示の充実を通じて、持続的な企業価値向上に努めていきます。
⑤ 資本効率をより重視した経営の浸透
ヤマトグループは、上記の①~④の戦略施策を推進することに加え、資本効率をより重視した経営の浸透を図ることで、資本コストを上回る資本収益性の実現に取り組むため、営業利益率やROEに加えて、ROICを新たな経営指標として設定しました。本中期経営計画期間においては、オペレーションの効率化に資する拠点戦略やDX推進などへの成長投資を積極的に実施するとともに、お客様に対する環境負荷の少ない物流サービスの提供とオペレーションのエネルギー効率向上の両立を通じた低炭素社会の実現に向けて、EVや太陽光発電設備等への環境投資も実施します。なお、成長領域であるコントラクト・ロジスティクス事業およびグローバル事業では、自律的な成長施策に加え、M&Aや戦略的業務提携も活用していきます。
上記計画を財務面から支えるため、キャッシュの創出状況、保有現預金や自己資本比率等の状況、グループ資金の有効活用など、財務の健全性と効率性を意識しながら、必要に応じて金融機関からの借入および社債の発行を通じた資金調達を実施していきます。財務の健全性の観点から自己資本比率は45~50%程度、D/Eレシオは0.3~0.5倍程度を目安とし、格付け水準(R&I格付投資情報センター/AA-)の維持に努めます。株主還元については、親会社株主に帰属する当期純利益を基準とする配当性向40%以上、総還元性向50%以上を目標とし、自己株式の取得については、成長投資の進捗状況、キャッシュ・フローの動向、株価等の観点を踏まえ、柔軟に検討していきます。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在においてヤマトグループが判断したものであります。
(1)経営方針
ヤマトグループは、社会的インフラとしての宅急便ネットワークの高度化、より便利で快適な生活関連サービスの創造、革新的な物流システムの開発を通じて、豊かな社会の実現に貢献することを経営理念に掲げ、生活利便性の向上に役立つ商品・サービスを開発してまいりました。
今後も、社会の一員として社会の課題に正面から向き合い、お客様、社会のニーズに応える「新たな物流のエコシステム」を創出することで、豊かな社会の創造に持続的に貢献してまいります。また、テクノロジーを起点に次世代の営業・幹線輸送・ラストマイルオペレーションを構築し、収益力の強化に努めることで、安定した経営を目指してまいります。
(2)経営環境、経営戦略及び経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、2027年3月期を最終年度とするヤマトグループ中期経営計画「サステナビリティ・トランスフォーメーション2030 ~1st Stage~」(「SX2030 ~1st Stage~」)を策定しました。
ヤマトグループは、経営理念に掲げる「豊かな社会の実現への貢献」を通じた持続的な企業価値の向上を実現するため、グループ各社の経営資源を結集したグループ経営体制の下、中期経営計画「Oneヤマト2023」に基づき、生活様式の変化と流通構造の変化に対応するサプライチェーンの変革に向けて、お客様や社会のニーズに対し総合的な価値提供に取り組んでまいりました。グループ経営構造改革により、経営資源を結集した「Oneヤマト体制」を2021年4月からスタートさせるとともに、「法人ビジネス領域の拡大」「ネットワーク・オペレーション構造改革」を柱とした事業構造改革を推進しました。
小売市場全体は伸び悩む一方、BtoC-EC市場(物販)においては市場規模およびEC化率は拡大傾向にあり、CtoCからBtoCへと物流が変化しつつある中、「ネットワーク・オペレーション構造改革」については、既存(宅急便)ネットワークの強靭化を進めるための土台として、都市部を中心に、増加するEC荷物専用の「EC物流ネットワーク」を構築し、運用を開始しました。
また、EC以外の荷物が伸び悩む中、既存(宅急便)ネットワークについては、セールスドライバーの集荷割合が低下するなど宅配便の顧客構成が変化していること、都市部を中心に小型のラストマイル集配拠点が密集していること、ターミナル拠点については、老朽化・狭隘化が進んでいること、都市部を中心に荷物の発送と到着のバランスが崩れていること、仕分け作業に関わる社員数が多く、単純作業の外注化が進んでいないなどの構造的な課題を抱えていることから、ラストマイル集配拠点の集約・大型化、ターミナル機能の見直しに加え、デジタルテクノロジーを駆使した人事戦略などの強靭化施策をスタートさせました。
一方、「法人ビジネス領域の拡大」においては、アカウントマネジメントを強化するとともに、サプライチェーンの「End to End」に対する提供価値の拡大に取り組み、越境ECや3温度帯(常温・冷蔵・冷凍)ロジスティクスへの対応、LLP(リード・ロジスティクス・パートナー)案件創出など、新たな領域における成果が出始めました。
このような「Oneヤマト2023」における取組みを確固たる成果に結びつけていくとともに、目指す姿として定めた「持続可能な未来の実現に貢献する価値創造企業」に向けて、今般策定した「SX2030 ~1st Stage~」では、2025年3月期~2027年3月期の3年間を「ヤマトグループにおけるサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を実現する期間」と位置付け、下記の主要施策に取り組んでいきます。
目指す姿

「SX2030 ~1st Stage~」主要施策
①基盤領域:宅急便ネットワークの強靭化と提供価値の拡大
「宅急便」「宅急便コンパクト」「EAZY」のカーボンニュートラリティ、サービスラインアップの拡充、顧客体験価値の向上、および外部コスト上昇などを踏まえたプライシング戦略の強化により、営業収益を拡大するとともに、ネットワーク・オペレーション構造改革を推進し、個当たりコストの改善と安定的に利益成長できる構造へ転換していきます。
②成長領域:法人ビジネス領域の拡大
宅急便ネットワークや貨物専用機(フレイター)での輸送を活用し、顧客のサプライチェーン改革に資するビジネスソリューションを推進するとともに、M&Aや提携による事業の拡大を推進します。
③新規領域:新たなビジネスモデルの事業化
持続可能な未来の実現に向けて、既存の経営資源を活用しつつ、多様なパートナーとともに、多様化する顧客や社会のニーズに応える新たなビジネスモデルの事業化を推進します。
④グループ経営基盤の強化
持続的な企業価値向上を実現するための基盤として、引き続き、人事戦略、デジタル戦略、サステナブル経営の強化、コーポレート・ガバナンスの強化に取り組みます。
⑤資本効率をより重視した経営の浸透
資本コストを上回る資本収益性の実現に取り組むため、ROICを新たな経営指標として設定し、資本効率をより重視した経営の浸透を図ります。
なお、当該中期経営計画の最終年度となる2027年3月期において、連結営業収益2兆~2兆4,000億円、連結営業利益1,200~1,600億円(連結営業利益率6%以上)、ROE12%以上、ROIC8%以上の達成を目標として設定し、事業ポートフォリオの変革を進めていきます。

(3)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
ヤマトグループを取り巻く事業環境は、世界的なインフレ傾向に落ち着きが見られるものの、国内においては、個人消費の低迷が続いているなど、依然として本格的な景気回復が見通しづらい状況にあります。また、2024年4月から、自動車運転業務における時間外労働の上限規制が適用(2024年問題)されるなど、外部環境の変化に伴うコスト上昇が見込まれます。さらに、中長期的には、EC化の進展や地政学リスクの増大、少子高齢化・過疎化の進展、労働力不足や気候変動のさらなる深刻化などを想定しています。このような中、ヤマトグループは、経営理念に掲げる「豊かな社会の実現への貢献」を通じた持続的な企業価値の向上を実現するため、「持続可能な未来の実現に貢献する価値創造企業」を2030年の目指す姿として定め、2027年3月期を最終年度として策定した中期経営計画「サステナビリティ・トランスフォーメーション2030 ~1st Stage~」に基づき、以下①~⑤の取組みを推進していきます。
① 宅急便ネットワークの強靭化と提供価値の拡大
EC化の進展や少子高齢化・過疎化の進展、労働力不足や気候変動のさらなる深刻化を踏まえ、社会的インフラとしての宅急便ネットワークをより効率的かつ持続的な形に強靭化すべく、引き続き、ネットワーク・オペレーションの構造改革を推進します。具体的には、業務量変動への柔軟な対応や拠点間輸送の効率化、荷待ち時間の短縮などを実現するため、小規模・多店舗展開してきたラストマイル集配拠点の集約・大型化やターミナル機能の再定義、デジタルテクノロジーを活用した「仕分け作業」や 「運び方」、「働き方」の変革に取り組みます。さらに、第一線の社員の管理間接業務やバックオフィス業務の標準化、電子化によるBPR(業務プロセス改革)にも継続して取り組むことにより、オペレーションの安全・品質および、社員・パートナーにとっての働きやすさや働きがいの維持・向上を図るとともに、オペレーティングコストの適正化を実現していきます。
また、輸送サービスのラインアップ拡充や個人向け会員サービス「クロネコメンバーズ」を通じた顧客体験価値の向上、宅配便3商品の「カーボンニュートラル配送」などにより、お客様への提供価値を拡大するとともに、外部環境の変化を踏まえた届出運賃の年次での見直し、および法人顧客との個別契約の見直しなど、適正な運賃・料金収受を推進していきます。
② 法人ビジネス領域の拡大
ヤマトグループは、世界の政治・経済とサプライチェーンのブロック化や環境問題などのリスク要因が増大する中、サプライチェーン全体に拡がるお客様の経営課題の解決を目指すソリューションビジネスを成長領域と位置付け、コントラクト・ロジスティクス事業とグローバル事業の拡大に注力します。
コントラクト・ロジスティクス事業においては、エクスプレス事業とのシナジーを重視し、宅配便を利用するお客様の課題解決や事業成長を支援するソリューションの提供を通じて、宅配便のさらなる利用拡大や提供価値に応じたプライシングの適正収受、新たなロジスティクス収入の獲得などの取組みを強化します。また、セールスドライバーがお客様との接点から得る気づきなどの情報を活用し、各地域に配置した法人営業担当者が最適な提案を行えるよう、営業サポート体制の整備や営業担当者のスキル向上などに取り組んでいきます。
グローバル事業においては、サプライチェーンの変化を好機と捉え、これまで宅配便で培った国内の膨大な顧客基盤を活かしつつ、オートモーティブやハイテク産業など、ヤマトグループが強みを発揮している領域のさらなる拡大に努めるとともに、日本、米国・メキシコ、インド、東南アジアを中心に営業力を強化します。また、注力市場を絞り込むことでフォワーディングの混載効率を向上させることや、拡大する越境ECへの提案強化、注力する地域における消費財などの内需拡大に伴う物流需要の取り込みなどに取り組んでいきます。
なお、成長領域の拡大を加速させるため、自律的な成長施策に加え、M&Aや戦略的業務提携を推進していきます。M&Aの検討においては、コントラクト・ロジスティクス事業やグローバル事業の成長戦略との適合性を重視するとともに、投資効果を測る定量基準の設定など、収益責任部門とM&A専門部署が一体となり、規律を持って推進していきます。
③ 新たなビジネスモデルの事業化
持続可能な未来の実現に向けて、既存の経営資源を活用しつつ、多様なパートナーとともに、多様化する顧客や社会のニーズに応える新たなビジネスモデルの事業化を推進します。
モビリティ事業においては、車両整備事業を基盤に、これまでにヤマトグループ内での環境投資や実証実験を通じて蓄積したEV、太陽光発電設備、エネルギーマネジメントなどのノウハウを活用した商用EV導入・運用支援など、脱炭素と経済性を両立する基盤・エコシステムを開発し、社会・物流業界全体のサステナビリティに貢献します。また、地域社会の多様なニーズに応えるため、荷物の発送・受取サービスに加えて、新たなサービス提供を目指す「ネコサポステーション」の展開や、IoT電球「HelloLight」を活用した「クロネコ見守りサービス ハローライト訪問プラン」の拡販など、新たな価値の創出に取り組みます。さらに、安定的なスピード輸送の提供による新たな需要の獲得と流通拡大による地域経済の活性化、輸送サービス品質の維持・向上を図るため、2024年4月より貨物専用機(フレイター)の運航を開始しました。今後、順次運航数を拡大するとともに、柔軟な運航区間・ダイヤの設定によりお客様の新たなニーズに対応していきます。
④ グループ経営基盤の強化
ヤマトグループは、持続的な企業価値向上を実現するための基盤として、引き続き、人事戦略、デジタル戦略、サステナブル経営の強化、コーポレート・ガバナンスの強化に取り組みます。
人事戦略については、事業構造改革と連動した人材の最適配置を優先課題として、組織・要員の適正化と評価・報酬制度の見直しに取り組みます。また、付加価値を創出する人材の育成に向けて、自主・自律的なキャリア形成を促進する人材マネジメント体系の整備・運用を推進します。そして、多様な社員の働きやすさと働きがいの向上に向けて、多様化する社員のライフプランに適合する福利厚生制度の構築や社員の健康管理・健康増進施策を推進するとともに、ダイバーシティの推進や人権デューデリジェンスの実施、女性活躍の推進に継続的に取り組みます。これらの取組みを通じて、社員一人ひとりの活躍と貢献を最大化し、より高い付加価値の創出を目指していきます。
デジタル戦略については、DX推進体制を強化し、デジタル基盤を活用したお客様への提供価値の拡大や「仕分け作業」や「運び方」、「働き方」の変革、バックオフィスの業務プロセス改革など、事業と一体となったDX推進に取り組みます。
サステナブル経営の強化については、中長期的な企業価値の向上と持続可能な社会の実現に向けた2つのビジョン「つなぐ、未来を届ける、グリーン物流」「共創による、フェアで、“誰一人取り残さない”社会の実現への貢献」に基づき、特定した各重要課題(マテリアリティ)に対する取組みを強化していきます。環境の領域については、「2050年温室効果ガス(GHG)排出実質ゼロ(自社排出)」および「2030年温室効果ガス(GHG)排出量48%削減(2021年3月期比)」の実現に向け、引き続き「EV23,500台の導入」「太陽光発電設備810基の導入」「再生可能エネルギー由来電力の使用率向上」などの施策を推進するとともに、サプライチェーン(Scope3)排出量の把握方法の策定などに取り組みます。また、社会の領域については、引き続き、人材の多様性を尊重し、社員が活躍できる職場環境を整備するとともに、社会の諸課題に向き合い、ビジネスパートナーとの定期的な協議の実施や課題の早期発見と解消のための体制・プロセス・仕組みの整備など、適切な関係構築を通じたサステナブル・サプライチェーンの構築を推進していきます。
コーポレート・ガバナンスの強化については、引き続き、経営の監督と執行の分離、経営の透明性の維持・強化などに取り組むとともに、株主・投資家との建設的な対話や情報開示の充実を通じて、持続的な企業価値向上に努めていきます。
⑤ 資本効率をより重視した経営の浸透
ヤマトグループは、上記の①~④の戦略施策を推進することに加え、資本効率をより重視した経営の浸透を図ることで、資本コストを上回る資本収益性の実現に取り組むため、営業利益率やROEに加えて、ROICを新たな経営指標として設定しました。本中期経営計画期間においては、オペレーションの効率化に資する拠点戦略やDX推進などへの成長投資を積極的に実施するとともに、お客様に対する環境負荷の少ない物流サービスの提供とオペレーションのエネルギー効率向上の両立を通じた低炭素社会の実現に向けて、EVや太陽光発電設備等への環境投資も実施します。なお、成長領域であるコントラクト・ロジスティクス事業およびグローバル事業では、自律的な成長施策に加え、M&Aや戦略的業務提携も活用していきます。
上記計画を財務面から支えるため、キャッシュの創出状況、保有現預金や自己資本比率等の状況、グループ資金の有効活用など、財務の健全性と効率性を意識しながら、必要に応じて金融機関からの借入および社債の発行を通じた資金調達を実施していきます。財務の健全性の観点から自己資本比率は45~50%程度、D/Eレシオは0.3~0.5倍程度を目安とし、格付け水準(R&I格付投資情報センター/AA-)の維持に努めます。株主還元については、親会社株主に帰属する当期純利益を基準とする配当性向40%以上、総還元性向50%以上を目標とし、自己株式の取得については、成長投資の進捗状況、キャッシュ・フローの動向、株価等の観点を踏まえ、柔軟に検討していきます。