有価証券報告書-第155期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/23 15:11
【資料】
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【項目】
149項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在においてヤマトグループが判断したものであります。
(1) 経営方針
ヤマトグループは、社会的インフラとしての宅急便ネットワークの高度化、より便利で快適な生活関連サービスの創造、革新的な物流システムの開発を通じて、豊かな社会の実現に貢献することを経営理念に掲げ、生活利便の向上に役立つ商品・サービスを開発してまいりました。
今後も、社会インフラの一員として社会の課題に正面から向き合い、お客様、社会のニーズに応える「新たな物流のエコシステム」を創出することで、豊かな社会の創造に持続的に貢献してまいります。また、生産性の向上を図るなど効率化を推進し、収益力の強化に努めることで、安定した経営を目指してまいります。
(2) 経営環境、経営戦略及び経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
今後の経済情勢については、世界的な新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い大幅に悪化しており、今後の感染拡大ペースや収束時期が不透明な中、内外経済環境の回復が見通せない状況にあります。
一方、物流業界においては、消費スタイルの急速な変化によりEC市場が拡大する中、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う世界的な製造業の生産活動や貿易の停滞、移動の制限によるインバウンド需要の急激な減少、サービス業を中心とした営業自粛など経済活動全般が縮小しており、今後の経営環境への影響が不透明な状況にあります。
このような状況下、ヤマトグループはお客様、社員の安全を最優先に、宅急便をはじめとする物流サービスの継続に取り組んでまいります。また、2020年1月、前中期経営計画「KAIKAKU 2019 for NEXT100」の成果と課題、外的環境の変化を踏まえ、今後のヤマトグループにおける中長期の経営のグランドデザインとして経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を策定しました。宅急便のデジタルトランスフォーメーション、ECエコシステムの確立、法人向け物流事業の強化に向けた3つの事業構造改革と、グループ経営体制の刷新、データ・ドリブン経営への転換、サステナビリティの取り組みの3つの基盤構造改革からなる当プランを着実に実行し、持続的な成長を目指してまいります。
2021年4月には、現在の機能単位から、リテール・地域法人・グローバル法人・ECの4事業本部と、4つの機能本部からなる経営体制へ移行し、中長期的(2024年3月期)に、営業収益2兆円、営業利益1,200億円以上、ROE10%以上をターゲットとします。なお、主要経営指標等を含む詳細な中期経営計画については、2022年3月期からの3か年計画として検討を進めてまいります。
①3つの事業構造改革
ⅰ.「宅急便」のデジタルトランスフォーメーション
デジタル化とロボティクスの導入で、「宅急便」を当社の安定的な収益基盤にするとともに、セールスドライバーがお客様との接点により多くの時間を費やせる環境を構築し、お客様との関係を強化します。
徹底したデータ分析とAIの活用で、需要と業務量予測の精度を向上し、予測に基づく人員配置・配車・配送ルートの改善など、輸配送工程とオペレーション全体の最適化、標準化によって、集配の生産性を向上します。
さらに、従来の仕分けプロセスを革新する独自のソーティング・システムの導入で、ネットワーク全体の仕分け生産性を4割向上させるなど、取扱個数の増減だけに影響されない、安定的な収益構造に改めます。
ⅱ.ECエコシステムの確立
今後も進展が予想される「産業のEC化」に特化した物流サービスの創出に取り組みます。
既に、2020年4月より、EC事業者、物流事業者と協業し、一部の地域でEC向け新配送サービスを開始しており、外部の配送リソースとヤマトの拠点やデジタル基盤を融合し、まとめ配達や配達距離の短縮化、オープンロッカーや取扱店受け取り、安心な指定場所配達などを通じて、EC事業者、購入者、運び手のそれぞれのニーズに応える、EC向けラストマイルサービスの最適解を導き出し、全国への展開を目指します。
また、あらゆる商取引のEC化に対応する統合受発注、輸配送、在庫管理、決済、返品などを一括管理できるオープンなデジタル・プラットフォームを構築し、2021年4月からの提供を目指します。
ⅲ.法人向け物流事業の強化
グループに点在する専門人材、流通機能やソーティング・システムなどの物流機能、物流拠点を結ぶ幹線ネットワークなど、法人向けの経営資源を結集し、お客様の立場に立ったアカウントマネジメントを推進します。
そのためのデータ基盤として「Yamato Digital Platform」(以下、YDP)を構築し、精度の高いリアルタイムの情報を軸とした法人向け物流ソリューションの提案力を強化し、製造業や流通業など、販売物流や静脈物流に課題を持つ法人企業の生産・調達から納品・検品、請求・支払に至るサプライチェーン全体を最適化するソリューションの開発に注力します。
ヤマトグループでは、すでにヘルスケア業界や農産品流通において、こうしたソリューションを提供していますが、さらに強みである多頻度小口配送とデータ基盤を統合し、各業界、業種に幅広く提供することで新たな成長を目指します。
②3つの基盤構造改革
ⅰ.グループ経営体制の刷新
現在の機能単位の部分最適を、顧客セグメント単位の全体最適な組織に変革し、経営のスピードをより速めるため、2021年4月、当社の100%子会社であるヤマト運輸株式会社が、グループ会社7社を吸収合併および吸収分割することにより、純粋持株会社の当社のもと、リテール・地域法人・グローバル法人・ECの4事業本部と、4つの機能本部を構築します。
輸送・プラットフォーム・ITの各機能本部は、ネットワーク・拠点・車両を含めた輸配送工程の全体最適化、YDP・クロネコメンバーズなどのプラットフォームの進化、ITの強化とIT人材の開発など、事業本部の競争優位の源泉となる各機能の開発と運営を担います。また、プロフェッショナルサービス機能本部は、再編で重複する業務の統廃合を受け、管理間接業務や調達業務を集約するとともに、徹底した業務の標準化、効率化を進めます。
ⅱ.データ・ドリブン経営への転換
今後4年間で約1,000億円をデジタル分野に投資するとともに、社内外のデジタル・IT人材を結集し、2021年4月には300人規模の新デジタル組織を立ち上げます。
新組織立ち上げに向け、2021年3月期は下記の5つのアクションを実行します。
[1]データ・ドリブン経営による予測に基づいた意思決定と施策の実施
[2]アカウントマネジメントの強化に向けた法人顧客データの統合
[3]流動のリアルタイム把握によるサービスレベルの向上
[4]稼働の見える化、原価の見える化によるリソース配置の最適化、高度化
[5]最先端のテクノロジーを取り入れたYDPの構築、および基幹システム刷新への着手
また、2020年4月1日に設立したCVCファンド(コーポレートベンチャーキャピタルファンド)である「KURONEKO Innovation Fund」等を活用し、オープンイノベーションを加速してまいります。
ⅲ.サステナビリティの取り組み ~環境と社会を組み込んだ経営~
ヤマトグループは、持続可能な未来を切り拓く将来の姿として「つなぐ、未来を届ける、グリーン物流」、「共創による、フェアで、“誰一人取り残さない”社会の実現への貢献」の2つのビジョンを掲げ、人や資源、情報を高度につなぎ、輸送をより効率化させることで、環境や生活、経済によりよい物流の実現を目指します。
そして、フェアな事業や多様なパートナーとの共創により、リーディングカンパニーとして社会課題を解決していきます。2050年CO2実質排出ゼロ(自社の排出:Scope1(直接排出)とScope2(電気等の使用に伴う間接排出))に挑戦し、低炭素車両の導入や再エネ利用等を進めていきます。また、持続可能な資源の利用、スマートモビリティ、働きやすい職場づくりを通じたディーセント・ワーク(働きがいのある、人間らしい仕事)達成への貢献、人権・ダイバーシティの尊重、健全でレジリエンス(強靭)なサプライチェーンマネジメントなどに注力していきます。
(3) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
ヤマトグループは、社会インフラの一員として社会の課題に正面から向き合い、お客様、社会のニーズに応える「新たな物流のエコシステム」を創出することで、豊かな社会の創造に持続的な貢献を果たしていくため、中長期の経営のグランドデザインである経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」に基づき、以下の課題に取り組んでまいります。
① 新型コロナウイルス感染症の拡大に対応し、お客様に安心して宅急便をご利用いただくため、社員の衛生管理に最大限留意するとともに、非対面での荷物のお届けへの対応や接客時の感染防止対策の実施、ホームページなどを活用した情報発信などに取り組んでおります。引き続き、お客様、社員の安全を最優先に、宅急便をはじめとする物流サービスの継続に努めてまいります。
② お客様、社会のニーズに正面から向き合う経営をさらに強化するため、2021年4月にグループ経営体制を刷新し、従来の機能単位の組織を、リテール・地域法人・グローバル法人・ECの4つの顧客セグメント単位の組織に再編するとともに、経営と事業の距離を縮め意思決定の迅速化を図ることで、お客様の立場で考えスピーディーに応える経営を目指してまいります。また、グループ経営の健全性を高めるため、引き続き、商品・サービスの審査および内部通報に関する運用状況のモニタリングや社員への倫理教育など、グループガバナンスの強化に取り組んでまいります。
③ 第一線の社員がお客様にしっかりと向き合う「全員経営」を推進するため、データ・ドリブン経営への転換に取り組んでまいります。宅急便をより安定的な収益基盤にするとともに、セールスドライバーがお客様へのサービス提供により多くの時間を費やすことができる環境を構築するため、宅急便のデジタルトランスフォーメーションを推進してまいります。データ分析とAIの活用により、需要と業務量予測の精度を向上し、輸配送工程とオペレーション全体を最適化、標準化し、集配および幹線輸送の生産性を向上させるとともに、デジタル化とロボティクスの導入により従来の仕分けプロセスを革新するソーティング・システムを導入し、物流ネットワーク全体の仕分け生産性の向上を目指してまいります。
④ 社会のニーズに応え、EC市場の高い成長力を取り込むECエコシステムの確立に向けて、「産業のEC化」に特化した物流サービスの創出に取り組んでまいります。EC事業者や物流事業者との共創により、外部の配送リソースとヤマトグループの拠点やデジタル基盤を融合し、EC事業者、購入者、運び手のそれぞれのニーズに応えるEC向け配送サービスを提供するとともに、受発注、輸配送、在庫管理、決済、返品などを一括管理するオープンなデジタル・プラットフォームを構築してまいります。
⑤ 新たな成長の実現に向けて法人向け物流事業を強化するため、グループ各社に点在する専門人材、流通機能や物流機能、物流拠点を結ぶ幹線ネットワークなど、法人向けの経営資源を結集し、お客様の立場に立ったアカウントマネジメントを推進するとともに、引き続き、グローバル関連事業のマネジメント強化に取り組んでまいります。また、データ基盤を構築し、精度の高いリアルタイムの情報を活用した法人向け物流ソリューションの提案力を強化し、法人顧客のサプライチェーン全体を最適化するソリューションの開発に取り組んでまいります。
⑥ 持続的な成長と持続可能な社会の発展を両立するため、サステナビリティの取組みを推進し、環境と社会を組み込んだ経営を実践してまいります。持続可能な未来を切り拓く将来の姿として掲げた「つなぐ、未来を届ける、グリーン物流」、「共創による、フェアで、“誰一人取り残さない”社会の実現への貢献」という2つのビジョンの下、人や資源、情報を高度につなぎ、輸送をより効率化させることで、環境や生活、経済によりよい物流の実現を目指してまいります。
⑦ 社員が働きやすさと働きがいを持ち、イキイキと働くことができる労働環境を実現し、社員満足を高めるとともに多様な人材から選ばれる会社となるため、引き続き、魅力ある人事制度の構築や、社員の自主・自律が評価され、イキイキと働くことができる評価制度の導入、教育体系の再構築などに取り組んでまいります。