有価証券報告書-第35期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

【提出】
2021/06/23 15:00
【資料】
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【項目】
149項目

研究開発活動

当社グループは、通信を基盤とした様々なサービスの提供を目指し、AI、IoT、ロボット、6GやHAPSなどの先端技術の研究開発を実施しています。「情報革命で人々を幸せに」という経営理念を実現し、通信を介してヒト・モノ・コトをつなぎお客さまに新たな体験や価値を提供するため、より良い技術の実現を目指して日々研究開発に取り組んでいます。
なお、当社グループの研究開発は複数のセグメント間に共通した基礎技術に関するものがほとんどであるため、特定のセグメントに区分して記載していません。
(研究開発活動の目的)
お客さまに対して最先端技術の製品を安定的に供給していくこと、および当社グループ内での情報通信技術の中長期的なロードマップを策定していくことを目標に、情報通信技術に関わる最先端技術の動向の把握、対外的なデモンストレーションを含む研究開発および事業化検討を目的としています。
(研究成果)
当連結会計年度における研究開発活動の主な成果は以下の通りです。
リチウム空気電池の実用化に向けた共同研究開発
リチウム空気電池は、重量エネルギー密度が圧倒的に大きいことから、軽量性が重視されるドローンやIoT機器、さらには電気自動車や家庭用蓄電システムなど、幅広い分野への応用が期待されています。
2018年に国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)と共同でNIMS-SoftBank先端技術開発センターを設立し、携帯電話基地局やIoT、HAPSなどに向けたリチウム空気電池の実用を目指した開発研究を行ってきましたが、この度エネルギー密度の高いリチウム空気電池のサイクル寿命が、電解液量と面積容量の比に支配されていることを明らかにしました。反応に使われる酸素に加えて、副反応に伴って生成される物質の定量的な測定法を開発し、電池反応全体での反応物、生成物の収支を精密に評価できるようなったことで、サイクル寿命の主要因の決定に成功しました。今回の成果は、リチウム空気電池の実用化研究開発において重要な指針を与えるものです。
今後は、本研究で得られた知見をふまえ、リチウム空気電池内部の副反応抑制手法を確立することで、NIMS-SoftBank先端技術開発センターでのリチウム空気電池の早期実用化につなげます。
東京大学と当社による『Beyond AI 研究推進機構』、本格始動
世界最高レベルのAI(人工知能)研究機関として『Beyond AI 研究推進機構』を設立し、2020年7月30日に共同研究を開始しました。共同研究開始に当たり、AI自体の進化や他分野との融合など、最先端AIを追究する中長期の研究テーマ10件および研究リーダー10人を決定しました。
また、研究成果を基に10年間で10件の事業化と3件の新学術分野の創造を目指すなど具体的な数値目標を設定するとともに、当社が組成する50人規模の事業化推進チームとの連携により、初期段階から事業化を見据えた研究活動を行います。
本研究推進機構は、東京大学の学内および海外の有力大学の研究者による最先端のAI研究を行う中長期研究と、研究成果を基に事業化を目指すハイサイクル研究の二つの方向性で研究を行い、事業によって得たリターン(事業化益)をさらなる研究活動や次世代AI人材育成のための教育活動に充てることでエコシステムの構築を目指すことを特長としています。
当社、ソフトバンクグループ㈱およびYahoo! JAPANから10年間で最大200億円を拠出し、日本が世界をリードするための研究・事業活動を大胆に推進することで、AIを超える学術分野の開拓を目指していきます。
安全運転支援や自動運転技術に関わるユースケースに関する実証実験
㈱SUBARUと共同で、自動運転社会の実現に向けた5GおよびセルラーV2X通信システム(以下「C-V2X」)を活用した安全運転支援や自動運転制御に関わるユースケースの研究を2019年から進めていますが、このたび合流時車両支援の実地検証を行い、2020年8月に世界で初めて(注)成功しました。
一つ目のユースケースでは、高速道路などで自動運転車が合流路から本線車道へスムーズに合流することを目指して、検証を行いました。低遅延・高信頼な通信が求められるこのユースケースでは、5GネットワークとMECサーバーを活用することで、合流車両が制御情報をもとに、本線車道を走行する2台の車両間にスムーズに合流することに成功しました。
二つ目のユースケースでは、渋滞などによって本線車道を走行する車両の間に合流可能なスペースがない場合に、自動運転車がスムーズに合流することを目指して、検証を行いました。このユースケースでは、合流直前の限られた時間とスペースでのコミュニケーションという観点から、狭域での通信に有用性があるC-V2Xの車車間通信を活用し、合流車両と本線車両間の最適な位置関係を計算して、スムーズに合流することに成功しました。
今後も車両制御システムと5GおよびC-V2Xの連携を見据えたユースケース検証を行い、安全・安心なクルマ社会の実現に向けて研究開発を進めていきます。
(注)2020年11月24日現在。(両社調べ)5G、C-V2X使用による自動運転車を用いた実車ベースでの合流支援の検証および挙動確認として世界初。
Beyond 5G/6Gに向けたテラヘルツ無線通信用の超小型アンテナの開発
テラヘルツ無線は、5Gで利用されるミリ波帯と比べて、より広い周波数帯域が利用可能なため、超高速無線システムの候補として期待される一方で、スマートフォンなどへの実装を考えると、小型で利得の高いアンテナの開発が必要不可欠であり、サイズと利得の両立が課題とされていました。
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学、国立研究開発法人情報通信研究機構、National Research Tomsk State UniversityおよびTomsk Polytechnic Universityと共同研究において、300GHz帯テラヘルツ無線で動作する超小型アンテナを開発し、600mmという小区間で17.5Gbpsの通信実験に成功しました。
この距離は最初の一歩として、テラヘルツ帯がスマートフォンなどの近距離通信に使えることを示し、また現在開発が進められているテラヘルツ無線に対応するトランシーバーの出力と受信感度の性能が向上することで、より長距離の通信への可能性を示すものです。
今後もBeyond 5G/6G時代の超高速無線通信などの実用化に向けた研究開発を加速し、通信事業の発展に貢献していきます。
自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた実証実験
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」)の「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」に係る公募において、NEDOから事業実施者に選定されました。
東京都が実施する「スマート東京」の実現に向けたプロジェクトとして、最先端のテクノロジーを街全体で活用するスマートシティのモデルケースの構築に取り組んでいる竹芝エリアで、自動走行ロボットによる配送サービスを実現するための実証実験を実施しています。近年、物流業界では宅配便の取扱量の増加による人手不足が課題になっています。また、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から接触機会の削減が求められています。
以上の課題の解決に向けて、自動走行ロボットによる非対面・非接触での配送サービスの早期実現を目指していきます。
成層圏飛行中のLTE通信に成功
当社の子会社であるHAPSモバイル㈱と、米Alphabet Inc.の子会社であるLoon LLCは、2020年9月21日に米国ニューメキシコ州のSpaceport Americaで実施した、HAPSモバイルの成層圏通信プラットフォーム向け無人航空機「Sunglider」のテストフライトにおいて、共同で開発したペイロードと呼ばれる成層圏対応無線機の通信に成功しました。自律型航空式のHAPS(High Altitude Platform Station)によって、成層圏からLTEの通信に成功するのは、世界で初めてです。
今回のテストフライトでは、自律型航空式のHAPSにおいて、世界最大級および最重量の成層圏対応無線機(一式約30キログラム)を使用し、飛行中にMIMO技術を用いたLTE通信を約15時間(成層圏では5時間38分)実施し、LTEの実装を確認することができました。最大風速58ノット(秒速約30メートル)、最低気温マイナス73度という厳しい環境の中でも、成層圏対応無線機は問題を起こすことなくその性能を発揮しました。また通信試験では、成層圏対応無線機を通してインターネットに接続されたスマートフォンを用い、低遅延かつ高解像度なビデオ通話を実現しました。
今後は、HAPS機体および関連技術の改良を継続し、2027年頃の量産化・商用サービス本格化を見据えて標準化の推進や通信事業者への提案活動を行っていきます。
以上により、当連結会計年度における研究開発費は16,457百万円となりました。