有価証券報告書-第18期(2022/04/01-2023/03/31)

【提出】
2023/06/23 15:39
【資料】
PDFをみる
【項目】
151項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在(2023年6月23日)において当社グループが判断したものであります。
(1)経営の基本方針
当社グループは経営理念として「医薬品開発のあらゆる場面で常にプロフェッショナルとしての質を提供し、ステークホルダーである製薬会社、医療機関、患者ならびに株主、従業員の幸せを追求する。」を掲げています。これを実現するため、アンメット・メディカル・ニーズが高く、治験難易度の高いがん、中枢神経系、免疫疾患などの特定疾患領域に注力し、大手製薬会社と対等の立場で医薬品開発を実行・支援できる知識・技術・経験を有する、日本発のグローバルCROを目指しています。
(2)経営環境および中期経営ビジョン
世界の医薬品市場は欧米を中心に拡大が続いており、これに伴いグローバルのCRO市場も拡大が見込まれています。当社グループの主要顧客である国内外の製薬会社は、新薬開発における投資効率を最大化するために、実質的な特許期間、すなわち後発品出現までの期間を最大化するため、国際共同治験を活用し、主要市場国における早期・同時発売を図っています。また、その生命線である新薬の創出のため、自社の研究所以外に大学等との共同研究による創薬研究や、グローバルでの企業統合または買収等により、開発候補品の充実を目指しています。この背景として、これまで主流であった低分子医薬品から抗体医薬、核酸医薬、遺伝子治療、細胞治療へと治療手段であるモダリティが多様化しており、新興バイオ医薬品企業が創薬主体として台頭しています。さらに、新薬のみならずデバイスやアプリなどによる新たな治療方法の開発を行うベンチャー企業も増加しています。
このような環境を踏まえ、当社グループでは、日本を含むアジア、米国及び欧州で国際共同治験を実施できる体制を整え、海外拠点を拡充することで国内同業他社との差別化を図り、CRO事業の拡大に努めています。また、医薬品が承認された後、製造販売後の臨床研究・調査の受託やマーケティング活動を支援する育薬事業と、創薬段階から薬事・開発戦略策定などのコンサルティング支援を行う創薬支援事業を立ち上げ、創薬段階から臨床開発、製造販売後まで一気通貫で医薬品のライフサイクルマネジメントを支援できる体制を整えています。医師・アカデミアが主導する臨床研究や、これから日本や海外に進出しようとする新興バイオテック企業に対しきめ細かいサービスを提供することで、すでに大口顧客を抱えリソースに制限のある大手グローバルCROとの差別化を図っています。今後さらなる成長を目指し、2022年に設定した中期経営ビジョンにおいて「日本発のグローバルCROとして、クライアントの戦略的パートナーに」なることを掲げ、以下の重点戦略領域に取り組んでいます。
① Business Focus
・臨床試験に関わる様々なサービスをグローバル・ワンストップで提供
・臨床試験計画段階と臨床試験のすべてのフェーズを対象とする
・がん・中枢神経系など開発難易度の高い疾患や新たな創薬モダリティを活用した新薬・治療法にも対応し高品質・スピーディーなサービスを提供
② Client Focus
・大手製薬企業から欧米の有望なバイオテックカンパニーまで幅広いクライアントと長期的かつ戦略的なパートナー関係を構築
・医療機関との良好な関係をベースに、臨床データの品質にコミットするとともに、スピード感・柔軟性をもって提案型のサービスを提供し、クライアント満足を追求する
③ Global Coverage
・医薬品の主要マーケット(日本、米国、欧州)を中心に、迅速な臨床データ収集のために幅広い国と地域をカバー
・あらゆる疾患の臨床データを、季節や地域性を問わず迅速に収集するために、南半球を含め戦略的にサービス提供エリアを拡大し、グローバルでのプレゼンスを高めていく
(3)経営指標
当社グループは、中長期的な事業成長と安定的な利益還元のバランスを図り、持続的に企業価値を向上させることを目指し、1株当たり当期純利益(注)を経営指標にしております。
(注)1株当たり当期純利益は、親会社株主に帰属する当期純利益を発行済株式数で除した数値であり、株主価値を形成する重要な指標です。株式の評価指標の一つであるPER(株価収益率)の計算根拠の一つでもあり、株価収益率が一定水準に収束すると、1株当たり当期純利益の向上は株価水準の向上に結び付き、結果として株主価値の向上に寄与するものとなります。
(4)事業上及び財務上の対処すべき課題
当社グループにおきましては、2025年3月期までをさらなるグローバルでの成長への基礎固めのフェーズと位置づけ、収益力の強化を最優先課題として取り組み、それを支えるコーポ―レートガバナンスの強化を進めてまいります。収益力の強化については、継続的な増収と利益率向上を目指し、以下を重点施策として取り組んでまいります。
① ターゲットとする顧客層の拡大
近年、バイオテクノロジーの進化は目覚ましく、新たな技術を有する欧米のバイオスタートアップ企業に端を発した開発品が増加しており、伝統的な製薬企業を規模において上回る新興バイオ医薬品企業が続々と誕生しています。
当社グループでは従来、日系大手製薬会社からリピート受注を獲得し事業を拡大してまいりましたが、各地域の拠点が連携してグローバルでの情報収集・営業活動を強化することで欧米の製薬企業からの受託も増えつつあります。さらに、有望な開発パイプラインを持つ、欧米のバイオスタートアップ企業にフォーカスし、ニーズにマッチしたきめ細かい提案を行うことで、大手グローバルCROとの差別化を図り、顧客基盤の拡大を進めます。
② ターゲットとする疾患領域の拡大
未実現の治療ニーズを持つ疾患に対する新薬を開発するために、多くの新薬が誕生している抗体医薬品以外にも、再生医療、細胞医薬、核酸医薬、治療アプリ、タンパク質分解誘導薬などの新しい創薬モダリティが誕生しています。また、様々な新薬の誕生により治療できない疾患が減少する一方、高齢化社会において健康寿命を延ばすために新たな新薬が必要とされる疾患はまだ多数存在しています。こうした中、製薬会社の注力領域は、当社がすでに多数の実績を有するがん、中枢神経、免疫などの領域以外にも、眼科、皮膚科、希少疾患などへ拡大しています。
当社グループでは、こうした新たなモダリティや疾患領域でも顧客ニーズにマッチした提案を行い短期間で高品質な臨床開発を遂行すべく、難易度の高い領域で蓄積してきた臨床開発のノウハウに加え、外部専門家や医療機関との連携強化と積極的な情報収集に努めてまいります。
③ サービス領域の拡充
新薬開発のグローバル化と顧客層の多様化に伴い、臨床開発における各種業務をワンストップで委託するニーズが高まっています。バイオスタートアップ企業や中小規模の製薬企業は、グローバルでの医薬品開発・販売に必要な機能を自社で保有していないことも多く、CROに対し高い専門性とコンサルティング能力が求められます。
当社グループでは、日系大手製薬企業を中心に提供してきた治験モニタリング業務とデータマネジメント・解析業務に加え、日本への進出を検討している国内外のバイオスタートアップ企業に対し、創薬支援業務として医薬品市場分析と開発戦略立案、規制当局に対する届出・相談、治験実施計画書や申請関連書類の作成、規制当局への承認申請、共同開発や導出などパートナリング支援等を行っております。また、医薬品発売後において、競合品との差別化や医薬品の適正使用に資する臨床医療データを収集する臨床研究等の企画から論文作成までを行い、新薬臨床開発の上流・下流工程においてもサービス提供を拡大しております。
こうした各工程のサービス提供には高度な知識・経験が求められるため、当社グループでは専門人材を育成するための教育研修に注力していますが、さらに日本をはじめ海外拠点において優秀な人材を育成するとともに、協業関係の強化による外部リソースの活用なども行い、多様化する顧客ニーズに柔軟に対応してまいります。
④ 海外事業のさらなる成長
世界最大の医薬品市場である米国とそれに次ぐ欧州において、当社グループは、大手製薬会社に加えバイオスタートアップ企業との信頼関係を構築し順調に事業を拡大しています。さらに欧州ではスカンジナビア半島での開発体制構築を進めているほか、今後欧米子会社の営業機能を強化し受注獲得能力の拡充を図ってまいります。また、当社が拠点を有する中国、韓国、台湾などの製薬・バイオスタートアップ企業も、自国内での開発に加え、欧米、日本への進出を検討しており、当社のグループネットワークを活用することでこうしたニーズにも対応してまいります。
加えて、季節性・地域性のある疾患に対するワクチン・治療薬等の開発ニーズにも対応するために、現在多数の拠点を有する北半球だけでなく、南半球においても開発を遂行できる体制を構築してまいります。すでに米国子会社が南米・豪州のCROと提携して試験を受託していますが、バイオスタートアップ企業への優遇税制を整え治験誘致に積極的な豪州については顧客企業からの引き合いも増加しており自社拠点確立を目指します。
⑤ 分散型臨床試験などデジタル技術を活用した開発効率化ニーズへの対応
近年、新薬開発の難易度上昇や競争激化に伴い、開発プロセスの効率化による迅速化やコスト抑制ニーズが高まっており、分散型臨床試験(DCT)など、デジタル技術を活用し、効率的に臨床試験を実施するニーズが高まっています。こうした状況下において、当社グループでは、自社で保有しない機能はグローバルでパートナリングを拡大し、ニーズに応じて内製化することにより、多様化する治験効率化ニーズにも対応してまいります。
⑥ 財務基盤の強化
海外拠点拡充などの中期的成長戦略を迅速・柔軟に実現するためには、当座比率、自己資本比率を高め、調達コストを意識した機動的な資金調達を可能にする必要があります。
当社グループは、前出の戦略による増収と、高稼働率の維持、コスト管理の徹底により、1株当たり当期純利益の持続的な成長を目指すとともに、株主還元と成長資金の確保の両立に努めてまいります。
(5)次期の見通し
① 概要
当社グループの展開地域における下記の状況に基づき、次期の連結業績見通しにつきましては、売上高は13,300百万円 (前期比6.3%増)、営業利益1,400百万円(前期比11.4%増)、経常利益1,400百万円(前期比9.1%増)を見込んでおります。また、親会社株主に帰属する当期純利益は、当期において特別利益に計上した受取保険金115百万円等が発生しないことから、1,008百万円(前期比0.4%増)を見込んでおります。
地域別の状況は下記のとおりです。
日本・アジア地域におきましては、その主要地域である日本において、日系大手製薬企業による日本発のグローバル試験実施ニーズが窺える状況もあり、当社グループのグローバルワンストップサービス体制を訴求したグローバル試験を含む新規案件の獲得を目指します。また、欧米事業のシナジー拡大により、日本・アジアを含む欧米発のグローバル試験獲得も増加していくものと想定しております。このような状況から、日本では次期において順調に業績が推移するものと見込んでおります。
米国におきましては、米国市場の新薬開発は旺盛で、大型案件を含む新規案件の引き合いも増加しており、積極的な営業活動により新規受注を積み上げてまいります。米国市場は、当社ビジネスの最重要地域であり、引き続き受注獲得力の強化に加え、欧州事業との連携による営業面でのグローバル・シナジーを一層強化することにより米国市場の深耕を加速し、持続的な成長を図ります。このような状況から、米国においては次期において順調に業績が推移するものと見込んでおります。
欧州におきましては、大型案件を含む新規案件の引き合いは増加しており、欧州市場においても新薬の開発需要は旺盛な状況です。米国事業との連携をより一層推し進め、営業面でグローバル・シナジーをさらに強化することで、新規受注の獲得につなげてまいります。このような状況を反映し、欧州においては次期において順調に業績が推移するものと見込んでおります。
② 受注残高の推移
当社グループのCRO事業において受託する治験業務では、1年から3年程度の治験実施期間において、症例数や対象疾患に起因する治験の難易度などにより受託総額が決定します。この実施期間についてクライアントと委受託契約を締結し、契約に従い毎月売上が発生します。育薬事業においても、同程度の期間についてクライアントと委受託契約を締結し、契約に従い毎月売上が発生します。
受注残高は、既に契約を締結済みの受託業務の受注金額の残高であります。これは、今後1年から5年程度の期間で発生する売上高を示しており、当社グループの今後の業績予想の根拠となる指標であります。
各地域の受注状況につきましては、以下のとおりです。
日本・アジア地域においては、日本国内大手製薬会社からの新規案件の受注獲得に加え、日欧協力により獲得した欧州製薬企業の日本での治験案件の獲得など複数の新規案件の獲得や契約変更がありましたが、既存案件で試験の期間短縮による契約変更が発生したこと等により、前期末と比して受注残が減少しました。しかしながら、足元で複数の新規案件の打診を受けるなど案件の引き合いは増加傾向にあり、受注獲得に向けた営業活動を活発化しております。
米国においては、米国バイオテック企業から複数の大型の新規案件を獲得し、受注残高が大きく増加しております。米国市場の新薬開発は旺盛で、大型案件を含む新規案件の打診も増加しており、受注残高の積み上げに向け積極的な営業活動を継続しております。また、その他にも複数の案件で契約期間延長など契約変更が交渉中で、これらは今後の受注残の増加要因となります。
欧州地域においては、新規案件や期間延長等の契約変更により来期以降の売上に貢献する受注を獲得しましたが、売上計上による受注残の消化や契約終了等もあり、前期末と比して受注残が減少しました。しかしながら、複数の大型案件を含む新規案件の打診を受けており、受注残高の積み上げに向け積極的な営業活動を継続しております。
以上の受注環境のもと、2023年3月期末時点の受注残高は2022年3月期末と比較して7.0%減の209億円となりましたが、受注残高は引き続き200億円を超える水準を維持しております。
表.受注残高の推移
(単位:百万円)
2021年
3月期末
2022年
3月期末
(A)
2023年
3月期末
(B)
増減率%
(B-A)/A
受注残高19,19622,51420,933△7.0
地域別日本10,6029,7918,195△16.3
アメリカ3,0893,7315,79855.4
ヨーロッパ3,2196,8375,252△23.2
アジア2,2872,1561,686△21.8